第3話 隠し味と照れ
それから、わたしたちは少しずつ打ち解けて、話すようになっていった。
「おはよう、ケイくん。」
「おはよう、あんなさん。」
初めて彼と出会った日の朝から、ゆっくりと、ゆっくりと。
最初の頃は、さすがに挨拶をしなくてはならないかもな、と思って、ぎこちなく、彼のほうを見ることができずに挨拶をした。
でもケイくんが、
「おはよう、あんなさん。」
と、先に声をかけてくれるようになると、わたしからも挨拶をするようになった。
「おはよう、あんなちゃん、ケイくん。」
看護師さんがワクワクしている様子で入ってくると、あのね、あのね、と嬉しそうな風だった。
「今日の朝のサンドイッチは、いつもと違うのよ。」
と楽しそうに言って、わたしと、きっとケイくんの前にも、お盆をおいた。
「そうなのよぉ。今日のは特別なの。なんてったってね………」
ケイくんにいつも食事を食べさせている看護師さんも、ワクワクした風に言った。
「ちょっとダメよ、あんなちゃんに当ててもらうんだから。あんなちゃん、何入ってるかわかる?」
わたしにいつも食べさせてくれている看護師さんが、ケイくんに食べさせている看護師さんを遮った。
「何か、隠し味か何かがあるんですか?」
わたしが聞くと、看護師さんは、
「うふふ。まぁ、そんなところよ。さ、食べてみて。はい、あ〜ん。」
と言った。
わたしは首を傾げて、目を閉じ、看護師さんが運んでくれたそれをゆっくりと噛んだ。
何か、シャキシャキしてて、甘いわ。
もしかして、これ………
「どう、あんなちゃん?もう一口、食べる?」
看護師さんが、きっと首を傾げて言った。
「ううん、もういいです。わたし、わかりました。」
「「え〜!?」」
看護師さんが二人で、驚いている。
「りんご、ですね?」
わたしは微笑んで見せる。
永らくにっこり笑顔になることがなかったわたしも、ケイくんと喋っているときは笑うこともあった。
それでわたしは表情筋をほぐすことができて、看護師さんにも微笑んで見せることができるようになったんだ。
「なんでわかったの、あんなちゃん。」
ケイくんの看護師さんが驚いている。
「だって、味とか、なんでも、そうなんです。食感は梨だけど、味がりんごなんです。」
わたしがそう言うと、二人の看護師さんが驚いたようなため息をついた。
「あんなちゃん、本当に味覚が鋭いんだね。結構細かく刻まれてるのに………」
ケイくんの看護師さんが、驚いたように言った。
「わたしの、自慢なんです。」
わたしはそう言って、また口を開けた。
看護師さんが、わたしの口にサンドイッチを運んだ。
もきゅもきゅと噛むと、りんごの甘みが口に広がる。
「あんなちゃん、嬉しそうだね。」
看護師さんに言われて、頷いて見せる。
「はい。美味しいんです。いつものサンドイッチも好きですが、これもとても好きです、美味しいです。」
「それは、イワキサン、喜ぶわ。」
イワキサンというのは、栄養士さんの名前だと、少し前に母が教えてくれた。
「それなら、イワキサンに、いつもバランスのいい食事をありがとうございますって、伝えてください。」
わたしが言うと、看護師さんは驚いたように、
「最近、あんなちゃん、よく喋るようになったよね、社交的に、さ。」
と言った。
それから、クスッと笑って、
「何か、いい原因でもあったのかしら?」
と意味ありげに言った。
看護師さんの視線はわからないけど、きっとケイくんのほうを見ているのだろう。
「違いますよ、違いますよ!」
わたしは恥ずかしくなって告げる。
「どうしたの、あんなさん。」
ケイくんは鈍感にわたしに聞く。
「なんでもないよ、ケイくん。早くサンドイッチ、食べようよ。イワキサンの考えたのだもん。美味しいよ。」
「………そうだね。」
ケイくんはそう答えた。
わたしたちが食べるのに夢中になったので、わたしたちはいつもより少し早く朝食を終えた。
食べやすい、サンドイッチというメニューだったせいもあるのかもしれない。
するとっ。
「でもほんとすごいですよね、あんなさんは。ぼくは味覚があまり鋭い方ではないので、羨ましいです。」
ケイくんが唐突にそう言った。
それが恥ずかしくて、わたしは布団を被り直した。
読んでくださってありがとうございます!!
りんごくらいなら誰でもわかりそうなもんですけどね。
わたしは味覚がアホなので無理かもしれませんけど。
え〜っと、字数大丈夫かな?
と心配になりながら書いています。
これからもよろしくお願いします!
それでは次のお話でお会いしましょう!




