第1話 意味のない手術と見えない目
「あんな、見える?」
母がそう言って、目の前で何かを行った。
残念ながら、何もわからない。
「………」
無言で首を振ると、母は黙り込んだ。
どんな顔をしているのだろう。
失望か、落胆か、手術をしてももう無理だと言う諦めか。
「大丈夫よ、あんな。安心して、大丈夫よ、大丈夫よ。」
呪いのように何度も『大丈夫』を連呼する母は、声が上ずっていた。
泣いているのか?
わたしは首をかしげるも、母の顔を見ることはできない。
手探りで母を探して、その手を握る。
母がはっと息を飲んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさいね、ごめんなさい………」
打って変わって、何度も謝る。
何度も、何度も。
わたしはいたたまれなくなって、目を伏せた。
枕に頭を置いて、唇をかむ。
♢
わたしはゆっくりと目を開けた。
もちろん視界には何も映らないが、色々見回して見る。
少し明るいとか暗いくらいならわからなくもないけど、それ以外はほとんどさっぱりだ。
ほんの少しだけ音を立てて、スムーズにスライドドアが開いた。
「あんなちゃーん、起きてる?」
と言う、女の人の声がした。
多分、看護師さんだろうと考えながら、
「はい。」
と返事をした。
声がする方に顔を向けると、看護師さんらしき人がこちらに歩いてきたのか、スリッパの音がした。
「朝ごはんを持ってきたわよ。」
「ありがとうございます。」
ベッドの上についているテーブルの上におかれる音がして、わたしは看護師さんがいると思える場所に向かって頭を下げた。
「あら、いいのよ。いつもいつも。」
看護師さんの照れたような声がする。
でも、わたしからしたらそうはいかない。
なぜなら………
「はい、アーン。」
「あー。」
わたしは目が見えないので、箸もつかめなければ、どこに何が置いてあるかもわからない。
そのため、いつも看護師さんに口に運んでもらわないと、食べることができないのだ。
毎度毎度そんなことをしてもらうのがいたたまれなくて、わたしは食事なんて取らなくて栄養分だけでいいと思っている。
いや、もう栄養分も何も摂らずに死んでしまえばいいのだ。
目を開けても閉じても変わらない世界に飽き飽きして、わたしは目をつぶって食事を食む。
「はい、これで最後ぉ〜。あ〜ん。」
看護師さんがそう言って、わたしは口を開けた。
最後のひと匙をゆっくりと食べる。
そして、ごくんと飲み込んだ。
「それじゃあわたしは、これを片付けてくるから。」
看護師さんは明るい声でそう言って、どこかへ行ってしまった。
わたしはため息をついて、天を仰いだ。
前髪が目にかかっている。
目を閉じて、ため息をつく。
ごめんなさい、か。
母の口癖を頭の中で繰り返してみる。
それを言うのは、わたしじゃなくちゃ。
母は、それを言う必要がないのに。
それを言う理由がないのに。
「ごめんなさい。」
わたしはそう呟いて、ベッドに寝転がった。
読んでくださってありがとうございます!!
アニメイト耳聴き1には、複数作品を投稿してもいいらしいので、これも、と思いまして。
ま、前回の『昼中の怪盗』と同じく、『人が読むと魅力が増す作品』の意味はさっぱりですけどね。
けど、この作品の主人公は盲目です。
あんなは言葉でしか人と意思疎通を測れませんから、人に読んでもらえると言うことは………ってな感じで。
それではこれからも、『この瞳にもう一度光を』をよろしくお願いします!!
(連載期間は短いでしょうけど。)
というわけで、次のお話でお会いしましょうっ。




