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そこにフルタはいません (上)  作者: 美祢林太郎
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7 コンビニに聞き取りに行きました

 フルタは仕事が終わって、帰宅する途中、あのコンビニに寄った。これまで利用したこともないコンビニだった。かれはペットボトルのお茶を手にしてカウンターに行った。店内にはかれ以外誰も客がいなかった。

 「つかぬことをお伺いしますが、わたしの顔を見たことがありますか?」

 尋ねられた店員は一瞬狐につままれた表情をしたが、すぐに接客用の顔に戻り「申し訳ありませんが、初めてお目にかかるのではないかと思います」と答えた。その店員はもう一人の店員を呼び「この方にお会いしたことある?」と聞いた。呼ばれた店員は首をひねり、「申し訳ありませんが、覚えていません」と答えた。そこでフルタは「9月7日の深夜2時頃に買い物したと思うんだけど。その時にいた店員さんはどちら?」と尋ねた。最初の店員がカウンター内のノートを捲り、「その時間は店長が一人でいました」と丁寧に教えてくれた。「その店長さんはいつ店にいらっしゃいますか?」とフルタが聞くと、「今日は夜の9時から出勤することになっています」と答えた。フルタは「ありがとう」と礼を言って店を出た。

 その夜10時を過ぎた頃にフルタは再びコンビニに行き、カップラーメンを2個買ってカウンターに行った。中年の男が愛想よく「いらっしゃいませ」と言った。

 「つかぬことを伺いますが、わたしとお会いしたことを覚えていらっしゃるでしょうか?」

 「申し訳ありません。歳をとっているもので、記憶力が悪いんです。ちょっと覚えていません。今度他の店員に聞いてみてくださいませんか」

 「すでに夕方に他の店員さんに伺いました。9月7日の午前2時頃、わたしはここに来ましたか?」

 「9月7日、ああ、あの強盗事件のあった日ですね。あとから警察の方がいらして、事情聴取されていかれましたが、あの時間帯は誰もお客様はいらっしゃいませんでした。いえ、わたしが覚えているわけではなくて、レジのレシートの記録でわかるんです。何時何分に何を買われたかまでね。そう言えば、お客さん、店の前の防犯カメラに写っていた方ではありませんか」

 「いえ、似ているだけで、その人とは違うんです。間違われて困っているんです。それで、そのカメラに写っていた人は、店に来たんですか」

 「来店されてはいませんが、警察の方に何度もカメラの映像を見せられたもので覚えてしまったんです。あれはあなたではないんですか。そっくりだと思うんですけどね」

 「わたし、あの時間には自分の部屋でぐっすりと寝ていたんです。深夜の2時ですからね。あのカメラの男とは赤の他人です。ですが、その人は、これまでこの店に来たことはないのですか?」

 「警察の方にも尋ねられたのですが、来店されたことは一度もありません。他の店員もそう証言しています」

 「じゃあ、あの日以外に防犯カメラには写っていないのですね」

 「事件の前の映像は、警察で調べられたそうなんですが、あの時一回だけだそうです」

 「じゃあ、事件後は?」

 「事件でもない限り、我々も防犯カメラの映像を見ることはないのでわかりません」

 「わたしに見せてもらうというわけにはいきませんか」

 「そういうことは最近うるさいもので、お見せすることはできません」

 「そうですよね。いや、どうもありがとうございました」

 「おそらく、私が考えるところ、その人はご近所の人じゃないと思いますよ。わたしこの町内に住んでいますが、知らない人ですものね。それに頻繁に店の前の掃除をしていますが、見かけたことがありませんもの。あなたとも今日初めてお会いしますものね」

 「そうですね。ありがとうございました。あっ、歯ブラシも買っていこうかな」

 「ありがとうございます」


 わたしによく似た人は近所に住んでいるんじゃないんだ。どうしてあんな遅い時間にあんなところを歩いていたんだろう。わたし一人の力であの人が誰かをつきとめることはできないだろうな。かれをつきとめることができるとしたら、それは警察だ。もしあの時、真犯人が捕まらなかったら、警察はビデオの人を見つけてくれたのだろうか? そして、その人が犯人にされてしまったのだろうか。まあ、カメラに写った人も犯人ではないわけだから、その人が冤罪にならなくてよかった。その人には何の罪もないんだから。わたし一人が迷惑をこうむっただけで良しとするか。かれに会って文句を言っても、それは八つ当たりというものだ。かれの追跡はここまでにしておこう。


                      つづく

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