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そこにフルタはいません (上)  作者: 美祢林太郎
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6 営業成績は伸びています

 別の日、店で客と話をしている。

 「フルタさん、最近仕事順調じゃないですか。かなり成績が伸びているって話だし」

 「おかげさまで。いろいろと話題ができ、お客様と話が弾むようになったんです」

 「強盗犯人に間違われて、警察に引っ張られたことですね」

 「そうですね。この話が受けるんですよ。パトカーに乗ったことのある人はそうはいませんからね。ましてや警察から取り調べを受けるなんて、普通ありえませんからね。いまでは警察に感謝ですよ」

 「いや、我々もあとでその話を聞いて、フルタさんに限って強盗なんかするはずはないと思って、誤認逮捕もいいところですよね」

 「いえ、逮捕されたわけじゃありませんから。みんな逮捕と思っていますが、任意の取り調べですから。素人にはそこのところの区別が難しいようですけど。犯人になったわけではないんですから、そこのところをお間違いなく」

 「失敬、失敬。いくら刑事ドラマを見ていても、素人は逮捕と任意の取り調べの区別がつきませんからね。でも、今はこうして笑って話していられますが、すんでのところで犯人にされるところだったんでしょう」

 「そうなんですよ。真犯人が捕まったからよかったものの、あのままだったら間違いなく犯人にされていましたね」

 「世の中恐ろしいものですね。こうして冤罪が生まれるんですね」

 「そうですよ。真犯人が捕まらなかったら、犯人にさせられるところでした。たとえ嫌疑不十分で警察から釈放されても、職場で白い目で見られていたかもしれませんしね。そうなったら、会社をやめなくてはいけなかったかもしれません。お客さんともこうして楽しく話ができなかったもしれませんし」

 「いや、いや、どんな状況になろうと、わたしはフルタさんの味方だから。他の人たちが悪いことをしても、フルタさんが悪いことをするなんてことはありえませんからね。わたしはフルタさんを釈放するための署名集めだってしましたよ」

 「そう言っていただけるだけで、嬉しいです」

 「でも、どうして犯人扱いされたんですか?」

 「犯行時刻の頃、犯行現場の近くのコンビニの防犯カメラにわたしに似た人が写っていたんです。わたしも見ましたが、それはよく似ていました。あれはわたしが疑われても仕方がないと思えたくらいです」

 「そのカメラに写った奴が犯人だったんですか」

 「いえ、全然違う男だったんです。チビデブのおっさんが犯人でした。わたしと似た人がたまたま犯行の行われた夜中の2時にコンビニの前を通過したのが、わたしの不幸の始まりだったんですね」

 「それなら、フルタさんに似たそいつを取り調べるべきだったんじゃないですか。それで、そのフルタさんに似ている人はみつかったんですか」

 「そう言われれば、そうですね。それは思いつきませんでした。必死でしたからね。あれ以後、警察からもあのカメラに写った男のことは、何も聞いていません。警察は真犯人を捕まえたので、もはやカメラに写った男なんかどうでもいいんですね。興味がないんですよ」

 「まあ、そうでしょうね。でも、フルタさん本人が自分と瓜二つのようだというんだから、フルタさんもその人と会ってみたくありませんか」

 「そうですね。一度、会ってみたいですね。深夜に普段着で歩いていたんですから、この近くに住んでいるはずですね。あのコンビニにちょくちょく来ているかもしれませんね。今度コンビニに行って聞いてみます。ああ、わたしのことばかりお話しして申し訳ありませんでした。それで、今回はタイヤ交換でしたね。いま、キャンペーン期間中ですから、タイヤがお安くなっています」

 「おお、そうだ。キャンペーンなの。それなら買っておこうかな。どれがおすすめ」

 「これなんかどうでしょう。持ちがいいので、コストパフォーマンスがいいんですよ」

 「フルタさんがそう言うなら、これで。いま交換できるの?」

 「ちょっと待ってくださいね。・・・・・大丈夫です。30分お待ちいただけますか?」

 「ああ、待つよ。フルタさん、他にお客さまが待っているんじゃないの。わたしは週刊誌でも読んでいるから、わたしに構わないでいいよ」

 「どうも、すみません。それじゃ、失礼します」


                 つづく

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