17 クララさんの告白
「あの、アダルトビデオに出演したという話は本当ですか」
「あっ、ちょっと待って。いま何時。10時39分ね。「警官が帰る」。あなたも手帳にメモしておいたら」
「ああ、そうだね。来た時間を教えてよ」
「9時17分よ。ところで、何の話だっけ」
「きみがビデオに出たかどうかということだよ」
「あれ本当よ。あなたのフェイクと絡んでいる一本だけだけどね。あとは全部ディープフェイク」
「一本だけ。軽く言うね。以前は全部ディープフェイクって言ってたじゃないですか」
「そうでも言わないと、こうして一緒に住んでくれなかったでしょ」
「どうしてわたしの名前や働いているところがわかったのですか」
「ああ、今さっきのミツオに教えてもらったの」
「えっ、よくわからないな。あの警官もクララって気安く呼んでたよね。知り合いなんですか」
「ああ、ミツオとは中学校の同級生なの」
「もうさっぱりわからなくなってきました。それでどうして中学校の同級生にわたしのことを教えてもらったんですか」
「わたし調査のためにアダルトビデオに出たでしょう。ちなみに、調査の内容は国家機密に触れることだから言えないけどね。するとあの相方のオカベがその後もストーカーのようにしつこかったのよ。それをミツオに相談したの」
「そんなに親しいの」
「中学校からの友達よ。ミツオが、オカベの顔をディープフェイクによってあなたの顔に入れ替えて、自分自身の顔もディープフェイクだと主張すればいいって教えてくれたの。ミツオにそんな頭があると思わなかったわ。だてに警察に就職していないわね。わたし勉強してディープフェイクの方法を学んだのよ。最近は誰でもディープフェイクを作成することができる簡単なアプリがあるのよ。「フェイク仮面装着アプリ」っていったかな。正確な名前忘れちゃった」
「ミツオがあなたの動画をたくさん持っていたから、加工は簡単だったわね」
「あの警官、ぼくの個人情報を流出させたんだ。懲戒免職だな」
「そう怒らないでよ。かれのおかげでわたしたち一緒に住めるようになったんじゃない」
「もしかして、ネットに溢れているぼくのフェイク動画はすべてきみが作成したんじゃないだろうね」
「わたししてないわよ。あの一本だけよ。あれ以後、いろいろな人が興味を持って、ゲーム感覚であなたのフェイク動画を作ってばらまいているのよ。どれも罪のない動画じゃない」
「まあそうだけど。それで車の売り上げが伸びているけどね。でも、きみに嘘をつかれたことが引っかかるな」
「そのことは謝るわよ。言いそびれただけなの。でも、さっきだって、二人でアリバイを証明できたじゃない。もし一人だったら、しょっ引かれていたんじゃない」
「うん、そうだね。あの警察官、中学生の頃からああいう性格だったの」
「どういう性格よ」
「妄想癖があるというか、粘着気質というか」
「そうね。かれによると推理力だそうだけどね。でも、勝手な妄想よね。良い奴なんだけどね」
「どこがいい奴なんだよ」
「でも、相談に乗ってくれたんだから。あなたと会う機会を作ってくれたのもかれなんだから。ミツオ、フルタさんはいい人だって言ってたんだから。二人の生活を応援してくれているんだから」
「あれで、応援しているの。あれが応援している態度なの。そうには見えないけどね。どう見ても我々を犯人にしようとたくらんでいると思うけどね」
「かれも寂しいのよ。あの性格でしょ。警察署の中でも浮いていると思うのよね。だから時々我々のところに遊びに来るのよ」
「あれが遊びの態度か。そうは思えないね」
「あなた、大げさに考え過ぎよ。それじゃあ、このディープフェイクの世の中には生きていけないわよ。もっとおおらかになりなさいよ。まだ、夕食食べていなかったわね。ミツオに邪魔されたものね。腹が減っているからイライラするのよ。わたしが作ってあげる。餃子にしましょう。すぐ焼くからテレビでも見て待っててね」
つづく




