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12 同時多発犯罪なんか起こしていません

  フルタのアパートにハナヤ巡査が訪ねてきた。

 「またあなたですか。今度は何ですか。大間の犯人は見つかりましたか」

 「あれは時効になりました」

 「えっ、そんなに早く時効になるんですか」

 「大間の冬は厳しいですからね。ゆっくりと待つこともできないんですよ」

 「すると、今回は何のご用ですか」

 「あなた、日本中で犯罪を犯していますね」

 「わたしは毎日真面目に働いていますよ」

 「ちょっと待ってくださいね、手帳を見ますから。2月3日17時8分大分県別府市の日帰り温泉で客のポケットから2千円盗難、同日同時刻北海道稚内市で自転車を盗難、同じく同日同時刻沖縄県名護市の水族館のお土産売り場で貝のキーホルダーを盗難。これ全部防犯カメラで撮影されています」

 「もう、そんなの不可能でしょう。それぐらいあなたにもわかるでしょ」

 「不可能ですが、ここに何かからくりがあるかもしれないのです。事件は起こっているのですからね。大胆にも、我々警察を挑発しているのですか」

 「滅相もない。挑発なんかしていませんよ。多分、今言われた以外にも、わたしが起こしたとされる事件はいっぱいあるんでしょう」

 「よくおわかりですね。あなたはわかっているだけでも、全国で99件事件を起こしてします。多くは同時刻に離れた数か所で事件を起こしています。スーパーマンかマジシャンみたいな犯罪者です」

 「わたしのどこがマジシャンなんですか。手品なんて一つも知りませんよ。あっ、親指が離れる手品は知っていますけどね。これ手品とはいわないですか。そうですよね」

 「こんな事態に余裕がありますね。あなた、外国に行ったことがありますか?」

 「出ましたね。外国でも犯罪を犯しているんでしょう。それも同時刻に。なんてワールドワイドな活躍なんでしょう」

 「よくわかっていますね。警察をあまり混乱させるようなことはしないでくださいよ」

 「わたしがしているわけじゃありませんよ。わたしは一貫して被害者です」

 「こちらも仕事ですので、とりあえず別府で事件のあった2月3日のアリバイを確認したいのですが」

 「2月3日ですね。何時何分でしたっけ。ノートに細かくつけていますから」

 「17時8分です」

 「どうせ、防犯カメラに写った時間なんでしょ。もう防犯カメラなんかなくなればいいんですけどね。ああ、ありました。その時間はお客さんと会っていました。お客さんが車をぶつけたということで、事故現場に駆け付けたんです。車を売るためにはこうしたアフターケアーも必要なんですよ。具体的な対応は警察と保険屋さんがやるんですけどね」

 「そうですか。あとで裏を取らせていただきますね。お客さんの住所とお名前を教えていただけますか」

 「そりゃあ、困ります。お客さんに迷惑をかけるわけにはいきませんよ」

 「それじゃあ、あなたのアリバイは証明できませんよ」

 「その日は、朝出勤していますから、会社で確かめてくださいよ」

 「朝出勤しても、その足ですぐに別府に向かったかもしれませんからね」

 「温泉に入りにですか。たった2千円を盗みにですか。ばかげているでしょう」

 「我々が知りたいのは犯行時刻のアリバイだけなのです。温泉に行くのがばかげているかどうかは、わたしには興味ありません。もしかすると、出来心かもしれませんし、帰りの旅費が足らなくなったからかもしれないじゃないですか。どこかでお金を落としたのかもしれない。もう少し柔軟に物事を考えた方がいいですよ」

 「常識を言っているだけです」

 「常識で犯罪は起こりません。犯罪は常に非常識なのです」

 「そうなのかもしれませんが、犯罪にもそれ相応の常識というものがあるでしょう」

 「そんなものにとらわれていたら、冤罪を生むのです」

 「いや、あんたが冤罪を生みそうになっているでしょ。他人事のように言わないでよ」

 「とにかく、アリバイです」

 「じゃあ、お客さんに電話しておくから、お客さんに聞いてよ。あまりしつこくいろいろと聞かないでね。今度車買ってくれそうなんだから」

 「また明日にでもお邪魔します」

 「なんで来るのよ。おれだってそんなにひまじゃないんだから」

 「先ほどお話ししたように、あなたがかかわっている事件は他にもいっぱいあるんですからね。そのアリバイを聴かなければならないんですよ。あなたもどうしてこんなに警察を煩わすようなことをしているのですか。この際、公務執行妨害で検挙してもいいんですけどね」

 「それは無茶というものでしょう」

 「まとめて話を聞くために、警察にいらっしゃいますか? 任意同行ということでどうですか」

 「もうまっぴらごめんです。どうぞ、また来てください。逃げも隠れもしませんから」

 「あなたとは長期戦になりそうですね。わたしもあなただけを相手にするわけにはいかないんですけどね。そろそろ犯人を一人や二人逮捕しないと、出世できないんですけど」

 「どうぞ、わたしにお構いなく、他で犯人を捕まえてください。いっぱい犯人を検挙して出世してください。わたしのところに来るのは時間の無駄です」

 「そうも思うのですが、上司が行け行けとうるさいんですよ。友達だろうって言って」

 「友達じゃないでしょ。それははっきりと上司にお伝えくださいよ」

 「でも、同時刻に犯罪を起こしているでしょう。これは大きな山かもしれませんからね」

 「今日のところはお引き取りください。またにしましょう」

 「それではお元気で。アリバイはしっかり作っておいてくださいよ」

 「わかりました。大丈夫です」

 「わたしが諦めても、インターポールが登場しますよ。くれぐれもアリバイをお願いします、タローさん」

 「もしかして、あなたもご存じなのですか」

 「「タローを探せ」。わたしも参加しているんですよ。あなたは有名人ですよ。世界中のね。今度来たときは、色紙とマジックを持ってきますので、サインをお願いします」

 「はい、はい。さようなら」

 「アリバイ、よろしくお願いしますよ」


                      つづく

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