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9 フルタさん、パリのカフェにいたってよ

 会社の受付嬢が話しかけてきた。

 「フルタさん、パリのお土産をくださいよ」

 「えっ、パリ、それなんのこと」

 「しらばっくれて。パリのカフェでコーヒー飲んでいるのがばっちりと写っていましたよ」

 「何に写っていたんだよ」

 「この週刊誌ですよ。ほら、ここ」

 「えっ、これ、おれじゃないか」

 「そうでしょ、小さく写っているけど、すぐにフルタさんだとわかったんだから」

 「小さいけれどおれだよね。だけど、おれパリに行ってないよ。自慢じゃないけど、外国に行ったことないんだから。情けないことにパスポートを持っていないんだから」

 「えっ、そうなんですか。それじゃあ、これはフルタさんじゃないんですか」

 「他人の空似だね」

 「それにしてはよく似ているんじゃないですか。フルタさんの双子の兄弟じゃないんですか。それぐらい似てますよ。顔だけじゃなく、体形もですね。雰囲気もそうですかね。着ている服のセンスは、ちょっと違うかな」

 「うん、こっちの人の方がセンスいいね。パリのカフェに溶け込んでいるものね。でも、服を着ているから同じような体形かどうかまではわからないんじゃないかな」

 「パスポートを持っていないんですか。それならこれは間違いなくフルタさんじゃないんですね。残念だな。フルタさんの新しい一面を見たと思ったのにな。仕事がうまく行っている人は、私生活も充実するんだと思ったんですけどね」

 「おれとパリは似合わないでしょう」

 「そんなことは言ってませんよ。この写真なかなか生かすじゃないですか」

 「そう言われれば、そうだね。今度金を貯めて、パリに行って、ここのカフェで写真でも撮るか。服も同じものを着てね」

 「それはいいですね。この週刊誌差し上げますよ。それともここの写真を切り抜きます」

 「ああ、コピーでいいよ」

 「切り取って後で差し上げますね。いつかパリに行って、そこで写真を撮って、その写真を見せてくださいね。なかなかしゃれた話じゃないですか」


 ついにあいつはパリに行ったか。なかなか行動的な奴だな。ポルノ男優って儲かるのかな。サーフィンやって、大相撲を砂かぶりで見るなんて、なかなかいい生活しているじゃないか。ポルノ男優ってところが引っかかるけど、それも趣味でやってるのかもしれないな。いったいこいつは何者なんだよ。いつか会って話がしたいものだ。でも、向こうはおれに興味がないだろうな。ただのしがないサラリーマンだからな。でも、おれはこの地味な生活でいいけどな。あいつみたいに派手な生活をしていたら、くたびれちゃうよ。おれには合っていないな。


                      つづく

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