インターナショナル(前編)
アメリカで生活していると感じるのが、実際に使われている英語は、日本の中学や高校で習ったものとは微妙に違う、ということ。
例えば、その一つに「外国人」という言葉がある。学校教育では「foreigner」と教わった覚えがあるのだが、職場――俺の場合は大学の研究室――の日常会話では「international」という単語ばかり聞こえてくる。学生も研究員も、アメリカ以外の国から来ている者は、皆「インターナショナル」と呼ばれるわけだ。
考えてみれば、日本でも外国人が通う学校を「インターナショナル・スクール」と呼んでいたはず。だから俺としても「外国人 = インターナショナル」というのは、違和感なく受け入れられる表現だった。
さて。
一月下旬の、ある日の午前中。
そんなインターナショナルの一人と、今日も大学の廊下ですれ違った。隣の研究室で働く、背の高い女性。南米系なので、そういう肌の色をしている。
「あけましておめでとう、ハル!」
そう呼びかけられて、一瞬とまどう俺。もう正月気分も抜けた今ごろ、何故こんな挨拶を……。
しかし、疑問解消のために長話をするつもりはなかった。俺は、超遠心機を――自分の研究室には置いていない高価な機器を――使わせてもらいに、別の研究室へ行く途中だったのだ。
「ああ。おめでとう、ジェニファー!」
意味がわからないながらも、適当に「きっと彼女の国では、今が正月に相当するタイミングなのだろう」と思いながら言葉を返して、そのまま互いに歩き去っていく。
少し経って。
超遠心機のスイッチを入れて、動き始めたサンプルの回転数が所定の数値に達したことをメーターで確認。これで二時間は放置できる、となった段階で、ふと思い出した。
そういえば、ちょうど日本でも旧正月が今ごろなのではないか。中国あたりから来た文化だと思っていたが、ひょっとしたら南米にも、同じような時期に正月を迎える国があるのかもしれない。