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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢に転生したようなので、徹底して悪役として生きることにしました

作者: 笹 塔五郎

「うちの領地で『薬』を売っている奴がいる。探し出して連れてこい」


《ファルミシア領》の領主――ミラ・ヴァレンスはそう言い放った。

 金色の長い髪。赤色のコートに身を包んだミラは底冷えするような視線を、目の前の男に向ける。

 ミラの前に立つのは、顔に大きな傷のある、屈強な身体つきの男。

 男の名はガレイ・ディード。元はファルミシア領のある《ベルタ王国》に属していた《騎士》であったが、『とある事件』の後に牢獄へ繋がれることとなった。

 そんな彼を救い出し、部下にしたのもミラである。

 ――ミラという少女が前世の記憶を取り戻したのは、七年前のことだ。

 まだ幼い少女であったミラは事故に遭い、大きな怪我を負った。

 その事故の責任を押し付けられた男こそ、ミラの目の前にいるガレイという男である。……全ては、いずれ騎士団長となるガレイを陥れるための策略。

 だが、これらは全て『話の本筋』に関わるまでの、ほんの一部の話に過ぎない。

 ……ミラ・ヴァレンスは《恋愛ゲーム》の登場人物であり、その中で《悪役令嬢》としてその人生を全うする存在であった。

 ミラの取り戻した記憶の大半は、そのゲームに関する記憶ばかりだ。

 前世については至って普通の少女であったのだが……彼女はその前世に引っ張られることはなく、新たなミラ・ヴァレンスとして覚醒する。

 悪役令嬢として生きるのに、ただ『魔法学園』に通って、ヒロインに嫌がらせをする? そんな小さなことをするために、ミラという少女は存在しているのか。

 否――そんなことはあってはならない。……故に、ミラは決意した。

 事故を偽装した両親を自らの手で殺害し、ミラは自ら領主となることを宣言する。

 その事故で罪を擦り付けられたガレイを、ミラが裏で手を回して引き取り、自らの駒とした。

 だが、領主を始めて間もないミラは、まだ周囲から舐められている。

 領地内では、通称『魔造薬』と呼ばれる薬が出回り、落ちこぼれと呼ばれて才能のない子でも魔法の才能に目覚める……そんな薬が売られるようになっていた。

 当然、そんな夢のような薬があるはずもない。

 大きな副作用の伴う薬は定期的に摂取しなければ、死に至るか廃人になる可能性まである。

 そのような危険な薬を、事もあろうにミラが領主を務める地でやろうとしているのだ。

 許されざる暴挙であると、ミラは静かな怒りを見せる。


「すでに目星は付けてあります。では、こちらに連れてきましょう」


 ガレイが淡々と、そう答えた。

 いずれは騎士団長を目された男だけあって、その仕事ぶりはどこまでも優秀だ。

 ミラはガレイの言葉を聞いて、少しだけ沈黙する。

 そして、静かに口を開いた。


「……いや、目星を付けているのならいい。私が直接行こう」


 ミラはそう言って、窓の外に視線を向ける。

 薬の売人の所在が分かっているのならば――ミラのやることはすでに決まっていた。


    ***


《ヴァステル》の町は冬になると、雪が降り積もる。

 その時期は特に、外から人がやってくることが少なかった。

 倉庫街にも、人の出入りが少なくなる――そんな場所をアジトとして、『魔造薬』を密売する組織があった。


「冬が終わるまでまだ時間があるぜ……このまま美味い商売を続けさせてもらうとするか」

「へへっ、そうだな」

「おい、あまり調子に乗るなよ」


 男達を咎めるように、ヴァン・フェルスは口を開いた。

 この組織を束ねるリーダーであり、薬の製造元とも強いパイプを持つ。

 いずれは王都でも薬をばら撒いて、大金を得よう――そんな計画まで立て始めていた頃だ。


「大丈夫だって。王都で売るならもっと警戒する必要があるかもしれねえが、ここの領主はまだ十五歳の小娘だって聞いたぜ? まだ薬がばら撒かれ始めてることにも気付いてねえんじゃねえのか?」

「はははっ、むしろ気付かずに薬を買って使っちまおうかもな」

「……そこまで馬鹿ならいいんだがな」

「――なるほど、私は随分と舐められていたようだ」

「!?」


 ヴァン達の会話に割って入ったのは、少女の声。可憐な声と裏腹に、その口調はどこまでも冷静だった。

 純白のコートに身を包んだ少女が、倉庫の入り口付近に佇んでいる。


「なんでぇ、小娘じゃねえか」

「何の用だい。嬢ちゃん?」

「お前達が、私の領地で薬を無断で売っている馬鹿共か」

「『私の領地』? はははっ、何言ってんだ、こいつ?」

「……まさか」


 少女の言葉を聞いて笑う男を尻目に、ヴァンは眉を顰める。

 少女の只ならぬ風格に――ヴァンは長年の経験から『何か』を感じていた。

 それは、底知れぬ恐怖に似た感覚。


(小娘ごときに、この俺が――!)


 ズシャリという音が、ヴァンの耳に届き、その思考を遮った。

 音の方向に視線を向けると、そこに立っていたのは大柄な一人の男。

 仲間の一人を大剣で斬り殺し、もう一人の首を素手で掴んで持ち上げている。

 ヴァンには、目の前の光景が信じられなかった。


「……なっ!?」

「お前達のミスは実に単純なものだ。一つは私の許可なく、この領地で薬を売り払ったこと。私の許可を得れば……別にどうでもよかったのだがな。だがもう一つ――私のことを侮ったのが、お前達の最大のミスだ」


 少女がそう言って、ヴァンの下へと歩み寄ってくる。

 後方には仲間を殺した屈強な男――ヴァンが選ぶ道は、少女を突破することだった。


「う、おおおおっ!」


 ヴァンは駆け出す。

 懐から短刀を取り出し、迷うことなく少女に刃を突き立てようとする。

 だが、次にヴァンが見た光景は――『倒れ伏す自分の身体』であった。

 しゅるりと、鮮血に濡れる『糸』が目に入る。


「――先ほども言っただろう。『私を侮るな』と」


 それが、ヴァンの耳に届いた最後の言葉であった。


   ***


 首のなくなった死体の返り血を浴びて、白色のコートは鮮血に染まっていた。

 ミラはそんなことを気にする様子もなく、倉庫内にある荷物を確認し始める。


「お嬢様?」

「まだ相当数、薬が残っているようだな」

「いずれは王都で売り捌くつもりだったものでしょう。それで、これをどうするつもりで?」

「無論、私の財産とする。『ミスティエ商会』に連絡して管理させろ。そうだな……売り捌くなら、丁度『戦争で兵士を欲している国』にでも、ばら撒いてやれ」

「承知しました」


 ガレイをその場に残して、ミラは倉庫街を後にする。

 雪で視界が白に染まる中でも、赤く染まったミラの服は十分に目立つ色をしていた。


「……今度から、出かける時は赤色の服を着るとするか」


 ポツリとそんな声を漏らして、ミラは町を歩く。悪役令嬢は――ただ悪役として生きる道を選んだのだった。

悪役令嬢物を試しに短編で書いてみました。

そういうのじゃないって言われそうな気がします。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャーステキ!って思いました。 そうそう、悪なら極めてもらわないと! このまま周囲をドン引かせる悪に成り上がって欲しい。 そんで、ガレイとの、恋愛なんぞ足元にも及ばない絆とか深めていって欲し…
[良い点] カッコいい。 [一言] 続きを御願いします。
[一言] 眼帯の似合いそうな主人公。
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