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第2話 女狐はどっちだ

 翌日、太陽が直上に登る頃俺達は謁見の間に居た。

 国王との謁見、との事だったが…。



「まぁ、それでどうされたのですか?」

「うむ、王の妾の首を撥ねてやったら皆言う事を書くようになったわ!」

「まぁまぁ、それはなんと豪胆でいて合理的な!」



 俺の目の前にはソンソンの血生臭い話に目を輝かせる少女。その少女はあどけなさの残る姿に不似合いな冠を頭に乗せている。



(まさか本当にこの子が国王とはな…。)



 空色のドレスに身を包んだこの少女の名はリリアナ=マケパーナ、れっきとしたこの国の国王だと言う。


 バトラーから昨日話を聞いていたのだが、実際に目にすると想像とのギャップに驚かされるばかりだ。国王と言ったらでっぷり太鼓腹に縦巻きロール髪、というもんだと思っていたから尚更だ。


 そんな彼女の遍歴は中々に不運だ。

 元々は彼女の父親が国王だったが昨年病で亡くなり、男の後継が居なくて消去法で王様になったらしい。その直後に帝国からの侵略戦争ときているから同情を禁じ得ない。


 だがそんな経歴を持っているからだろうか、ソンソンの話を聞いて嫌な顔一つしないあたり肝が据わっている。



「リリアナ陛下、そのような野蛮なお話をわざわざ聞かずとも…。」



 そう苦言を呈するのはリリアナお付きの騎士。

 細工が施された鎧に身を包んだ映画俳優のようなイケメンだ。至極真っ当な感性の持ち主のようでソンソンが口を開くたびにこめかみがビクついている。



「いいえダスティン、これこそ私が学ばねばならない戦場の知恵というものなのよ。」



 この反応にはイケメン騎士もたまらず眉間に皺が寄っている…多分あんたの感性は間違ってないぞ。

 そんな常識人の胃に穴が空きそうな空気の中、ふと話の潮目が変わった。



「ふぅ、ソンソン様興味深いお話有難うございました。」

「礼には及びませぬよリリアナ陛下。」

「して、ソンソン様の知恵を見込んで伺いたいのですが…この戦、勝てるでしょうか?」



 先程までのほんわかした空気から一転、微かな圧を纏った空気が部屋に満ちた。語るリリアナの顔は少女ではなく執政者のそれだ。



「そうですな。勝てるものは勝ち、勝てぬものは勝てぬでしょうな。」

「つまり?」

「まだ分からぬ、と言うところですな。」



 そんなリリアナの変化を歯牙にも掛けず飄々とソンソンは言い放った。姫さんは顔色ひとつ変えないが騎士の方は眉を潜めている。



「では勝つために私は何をすれば宜しいでしょう?」

「そうですな…」



 ソンソンは腕を組みわざとらしく考えるふりをして、おもむろに俺を指差しこう言った。



「まず手始めに此奴(こやつ)に抱かれてもらえませぬかな?」




 ◇




「無礼が過ぎるぞ!!」



 ソンソンの口から飛び出した爆弾発言にダスティンが修羅のような表情で剣を抜きはなった。そりゃ自分の主君を愚弄されて黙ってらんないよな。



「控えなさいダスティン。」

「しかし…!」

「ソンソン様、私がテンマ様に抱かれればお二人にお力添え頂けるのですね。」

「はい、それでも勝てるかは解りませぬが。」

「貴様ぁっ!」



 頭から熱気が立ち上るダスティンとは対照的に当のリリアナは恐ろしいまでに冷静だ。今にも飛びかからんとするダスティンを手で制しながら会話を続ける。



「では、ソンソン様。」

「なんでしょう。」

「お力添え頂いた暁には我が国の民を救う為に最善を尽くすと約束頂けますか?」

「是非もなく。」



 一瞬の沈黙と一つ大きく息を吐いた後、リリアナは凛とした表情でこう言った。



「解りました。」

「リリアナ様ッ!」



 引き留めんとするダスティンを意にも介さずリリアナが壇上から俺の前に降りてきた。身長は俺の肩ほどしかなく華奢な身体だ。

 普通なら怯えたりするであろうその顔は真っ直ぐに俺を見つめ、覚悟を決めた眼差しをしていた。



「初めてですからね、優しくお願いしますよ。」



 執政者の顔を崩し、少しはにかむや否やリリアナがコルセットの紐を解き、肌が露わにならんとした。



「充分だ。」



 瞬間、俺は咄嗟にリリアナに上着を羽織らせていた。そんな俺の隣ではソンソンが満足げな顔でこちらを見ている。



「…おいソンソン、俺はノッたぞ。」

「そうじゃな、ワシもそう思った所じゃ。」




 ◇




 ワシとテンマの様な状況でもなければ初対面の人間を信用するのは難しい。だが、目前に戦が控えている以上無理にでも相手が信用に足るか早く知る必要があった。


 そこで打った手が先ほどの芝居だ。


 こと戦乱の世において貴族や王族の女の純潔というものは何にも勝る宝だ。政略結婚なぞをする時生娘かそうでないかで結論が覆る事は往々にしてある。


 その為、今のような国の危機的状況でもしリリアナが自分可愛さに保身に走るようなら信用に値せず、逆に誠意を見せるならこの国につく、という話だったが。


 まさかこの場で脱ぐとはな。



「え、えっとこれは…?」



 目をパチクリさせる姫さんの前でワシは跪いた。



「陛下、無礼を働き失礼致しました。不躾ながら陛下を試させて頂きました。」

「あらあらまぁまぁ、そう言うことでしたか。」



 普通ならば愚弄されたと怒り狂うところだが姫さんはコロコロと笑っている。本当に肝が据わっておるな。



「つまり私はお二人のお眼鏡にかなったのですね?」

「言葉を選ばぬのであればそうなります。」

「それは良かった、私も肌を晒した甲斐があるというものです。」



 姫さんは満面の笑みを浮かべて小躍りしている。ハナからワシらを味方につけることしか考えていなかったようだ。



「では改めてお二人にお願い致します。どうか我が国存続のためにも力をお貸しくださいませ。」

「わかった。」

「是非もなく。」



 さぁて、やると決まれば善は急げじゃ。もう村がいくつか落とされているというから急がねばなるまい、これから忙しくなるのう。

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