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プロローグ 近所のファ〇マに軍師が居た

「らっしゃーせー…ッ!」



 お馴染みのメロディと共に響く店員の声が上ずる。

 喧嘩明けで腫れ上がった顔を見てか、トレードマークの真っ赤な髪を見ての反応かは知らないがいつもの事だ。



(ガ〇ガ〇君とファ〇チキ買ってさっさと帰るか…ん?)



 アイスを買おうと店の奥へ目を向けると、雑誌コーナーに目が留まった。視線の先ではスーツ姿のオッサンがヤ〇ジャンを立ち読みしている。

 それ自体は珍しい事ではないのだが、だが…。



「むっほー、ワシも中華統一したかったのぉー!」



 オッサンの後ろから着物のような妙な服を着た幼女が雑誌をのぞき込んでいた。


 ―――宙に浮いた状態で。



(…あれは関わったら厄介なヤツだ、シカトしよう。)



 実は俺は実家が寺のせいかガキの頃から幽霊が見える。

 あの幼女にオッサンや店員は気づいていないようだから間違いない。桃色の髪に時代錯誤のテラテラした服、確定だ。


 まぁ街中に幽霊が居ることは皆知らないだけで結構珍しい事じゃない。


 だが、ああいう自我がハッキリした奴はヤバい。危害を受けるとかは無いんだけど、面倒くさいのだ経験として。



(見えてないフリ見えてないフリ…)



 俺が後ろを通るときも幽霊幼女はかじりつくようにして誌面をのぞき込んでいた。

 視界の端でとらえた雑誌の中では濃ゆい顔のオッサン達が矛を持って戦っていた。



(ア〇トークとかで芸人が激オシしてるあの漫画か。)



 良く知らないが相当にアツくて面白い歴史モノ漫画らしい。俺も漫画は読むけどあぁいう小難しそうなのは読み飛ばしがちだ。どっちかというとバ○とか魁○塾とかが好きだ。



「あ、ありあっしたー」

「…ざす。」



 俺にビビリ枯らした店員からおつりを受け取り、店を後にしようとしたとき事件は起こった。



「あああああああぁぁぁぁッ!!!!!!」

「ッ!!」



 突如として店内に響き渡った慟哭に思わず振り向く。声の元を探すと地面に崩れ落ちた幽霊幼女の姿があった。



「ワシ、まだ読んでる途中だったのに…。」



 見ればオッサンが電話に出るために立ち読みをやめてしまったようだ。

 誰も気付いていないと思って大声をあげるなんてはた迷惑な奴だと思い、思わず舌打ちをして顔を上げると


 …やっちまった。



「…。」



 ヤバい、めっちゃ見てる気がする。

 へたり込んだ幼女がこっちに顔を向けてじっとこっちを見ている気がする。



「…。(じぃ~~~)」

「…。」



 あ、ダメだこれ。各自に目が合ってるわ。

 冷や汗が滲む中、俺はゆっくりと目をそらし



「お、お客さん!品物ォ―――」



 ―――音を置き去りにして店から逃げ出した。



 ◇



 喧嘩明けの体にチャリの全力疾走は応える。

 身体が軋み顔に吹き付ける風ですら鈍い痛みを感じる。



「やっちまった、完全に見えてるってバレた…!」



 チャリを漕ぎながら全速力で寺への道を走る。

 寺までいけばオヤジが上げるお経で成仏させられるはずだ。



「何してくるか解らん霊なんて相手にしてられっか…!」



 ガキの頃にうっかり悪霊に話しかけて死ぬ直前までいってから迂闊なことはしなくなった。

 まぁその経験のお陰で誰にスゴまれても何も怖くなくなったんだが。


 そんな昔のことを思い出しながら必死にチャリを漕いでいると頭上から声がした。



「感心感心、相手の事を知らずに事を構えぬのは良き判断よ。」

「あったり前よ、まだ死にたくないんでな…あ?」



 顔を上げると俺の頭の上で幽霊幼女が小悪魔的な笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。



「ちょっとワシとお話なんぞいかがかの?」

「断る!」



 畜生、やっぱり付いて来てやがった。

 ペダルの回転を上げ幽霊を振り切ろうとするが、離れない。俺の行動が意外だったのか幽霊幼女は焦りながら俺の正面に回り込んだ。



「ちょ、ちょっと待っても良いではないか!」

「嫌だね、こちとら幽霊と不良は間に合ってんだ。」

「ワシがわざわざ声をかけてやってるというのに不敬な奴じゃのぉ!」

「知るか、さっさと成仏しやがれ。」

「む!実に不敬じゃの、ワシの名を聞いてもそう言っていられるかの?」



 そういうと幽霊幼女は懐からドヤ顔で古めかしい本を取り出し突き出した

 本の一角には著者と思しき名前が記されている。



「なんだよこれ?」

「ワシの書いた本じゃ!ほれここ!見たことないかの?」

「あ?孫…子…?まごこ?誰だ?」

「そーんーしー!孫子もとい孫武じゃ!知らんのか!?」

「知らん。っていうか前が見えねぇからどけろよ。」

「知 ら ん じ ゃ と !?」



 ゾンビだかソンブだか知らんがうるさい奴だ。

 喚く幽霊幼女をどけようと手を伸ばすが空を切る。


 くっそ、幽霊だから触れないんだった。

 目の前で体育座りをしてジメジメとした空気を醸し出していて鬱陶しい。それにぶつぶつと何かを呟いていて煩いし前が見えなくて凄く邪魔だ。



()()()()とやらにもワシの本が並んどったのに、このサルは…」

「あ?誰がサルだコラ。」

「びじねすまん必携と書いてある程有名な書物の著者であるワシを知らんとは未開の地のサル同然じゃろうて。」

「よし歯ぁ食いしばれ、往生させてやるよ。」

「どうせ触れんのじゃろ?やれるもんならやってみんか」

「おぉやってやんよ、成仏してから恨むんじゃねぇぞ。」



 基本的に俺は喧嘩は売らないが売られた喧嘩は誰であろうと買う。

 場所的にも前がよく見えないので定かでないが、この坂を下りきれば寺は目の前だ。このまま時間を稼げば勝てない喧嘩じゃない。


 頭の中で算段を立てつつ手放し運転のまま腕を捲った。

 その時



「こーちゃん!危ない!」



 甲高い女の悲鳴に似た声が聞こえた。

 ハッとなり目を凝らすとボールと共に子供が道路に飛び出していた。


(あぶねぇ!)


 咄嗟にブレーキを握り、身体を倒して車体を抑え込む。しかし重力のままに加速し続けた自転車はコントロールを失い対向車線に飛び出した。



「「あ。」」



 飛び出した先、俺の目の前にあったのはトラック

 そう理解するより先に俺の意識は闇に呑まれた。


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