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転生令嬢と七人の元養い子たちー前世で拾った子どもが立派なイケメンになりましてー  作者: 浅名ゆうな


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いつもありがとうございます!

(^-^)


「騎士を引き離してよかったのか? ……それとも俺に殺されることを望み、わざと一人きりに?」

「馬鹿なことを言わないで。あなたと丸腰で向き合うと思っているの?」

 シルフィアは、この戦いのために限界まで軽量化されたドレスの裾を上げた。太もものベルトに差していた細身の短剣を、二本抜き放つ。

 まだまだ鍛練不足で、前世に愛用していたような長剣は扱えない。

 だが、短剣ならば。

 前々世、時に暗器を振るっていた経験から、軽さがしっくりと手に馴染む。

「あなたとの縁もここまでよ。ここで、断ち切る」

 両手の短剣を逆手に握り直し、シルフィアは低い姿勢で構えを取った。

 互いに初手を狙い、微動だにせず睨み合う。

 口火を切ったのは相手の方だった。

 疾風のごとき無音の足運び。想像以上に、速い。

 空を切り裂くように、横薙ぎの一閃が迫る。

 二本の剣を交差させ、シルフィアは真っ向から受けて立った。

 金属同士が派手な音を立ててぶつかり合い、力と力が拮抗する。

「クシェルが死んだのに諦めないなんて、ちょっとあなたしつこすぎるわよ!」

 八つ当たりぎみに叫んで、相手の長剣を弾く。

 そのままクルリと身を翻して突きを繰り出したけれど、高い跳躍で軽々回避される。

 悠然と間合いを取り、彼は静かに口を開いた。

「クシェルが火事で死んだ時、俺は絶望した。それゆえ、すぐに命を絶った。お前がいない世界で生きる意味などないからな」

「自死……なるほど。それで、その姿なのね」

 睨み付ける先で、黒いフードが風に舞った。

 こぼれ落ちたのは、長い真っ白な髪。

 光を映さぬ金色の瞳のーー少年。

「一連の事件、あなたの犯行にしては年齢的にも体力的にも無理があると思っていたわ。だからこそ、あらかじめ考えていたの。私と同じように、あなたが転生している可能性を」

 見知った相手であるのにわざわざトーカに確認させたのは、そのため。

 シルフィアよりやや年下だろう少年は、髪や瞳の色以外はこれといった特徴のない顔立ちだ。

 会場内にも上手く溶け込んでいたはずなのに、今や狂気を隠しきれていない。

 間違いなく、彼だった。

「どうして、私を殺したがるの?」

 せっかく生まれ変わったならば、平穏な幸せを求めることもできただろうに。

 再び出逢おうとさえしなければ、きっと一生道が交わることもなかった。

 なぜ、それほどまでに執着するのか。

 シルフィアにはどうしても分からなかった。

 少年は濁った瞳でこちらを見つめながら、呟く。

「お前の眼差しは、唯一無二だ。何度生まれ変わったって、その刃のような瞳は、少しも鈍らない」

 まるで、喉元に刃を突き付けられているような。

 一切の嘘や裏切りは許さないと、断じるような。

「救いなんだ。薄汚れた生の中で、もがき苦しむ俺に許された、唯一の光」

「意味が分からない……」

 シルフィアは戦闘中だというのに頭痛がした。

 許した記憶は微塵もないのだが、なぜそのような解釈になったのか教えてほしい。

 片やその眼差しに恐気を振るい、片や焦がれ追い求め続ける。

 全く、難儀な関係だ。

 もし一人で立ち向かっていたならば、きっと理不尽さに憎しみすら抱いていた。

 けれど今は違う。

 本当に危険と見なせば、どこかから戦況を見守っているシオンが加勢する手はずとなっているし、会場の警護はツバキとユウガオに任せている。

 エニシダはドレスや装飾品を取り寄せてくれた。おかげで、思う存分戦える。

 ユキノシタは危険を承知で手を貸してくれたし、今回除け者のクチナシも多少いじけたものの、事件解決のお祝いに張り切っていると聞いていた。

 そして、誰よりも心の支えとなっているのは。

 前世の秘密を知っているのに、いつも心配してくれる。普通の女の子のように扱ってくれるのは。

 ーーモクレン……。

 最後まで囮となることを反対し続けた彼のやるせない表情を思い出し、短剣を強く握り直した。

 シルフィアは、一人じゃない。

「よく分かったわ。あなたはここで、確実に仕留めなければならないと」

 彼がどのような人生を歩んできたか知らないが、実戦経験も豊富なようだ。

 力量差がある以上、躊躇しない。シルフィアは逆手に構えた短剣を、全力で振りかぶる。

 右、左と間断なく繰り出すものの、難なく受け止められてしまった。

 剣檄の合間に鋭く切り込まれ、紙一重で反らすのが精一杯だった。

「クッ……!」

 そこから、少年の猛攻が始まった。

 一撃、二撃と襲いかかる凶刃は驚異的な速度で、おまけに腕のしなりを利用しているためか軌道も読みづらい。

 かろうじて受け止めてかわすけれど、シルフィアは防戦一方だ。

 腕が徐々にしびれ始め、さりげなく庇う。その隙を突かれ、左の短剣が弾かれた。

 くるくると弧を描きながら地面に突き立った己の武器を横目に、シルフィアは顔を歪める。

 このまま戦いが長引けば、不利になるのは間違いなくこちらだろう。

 年下相手とはいえ、速さも技術も歯が立たない。決着は少しでも早い方がよかった。

 起死回生の一手ならば持っている。

 その一発さえ決まれば勝利は確定だ。

 この場合、何らかの方法で動揺させ隙を作るのが定石だろう。

 ーーこの男が、何より欲しているもの。また恐れているもの……。

 答えは一つ。

 ならば取るべき行動も一つだけだ。

 少年が、右肩を狙った一撃を繰り出す。

 シルフィアは残った短剣まで自棄になったように放り捨て、迫る刃に自ら突っ込んだ。ーー避けることさえせずに。

「な……!?」

 目を見張る少年が、咄嗟に軌道をずらした。

 シルフィアが狙っていたのはこれだ。

 前々世から執着し、追い求め続ける男の弱点。それは、シルフィア自身。

 どういったこだわりか定かじゃないが、クシェルが事故死したことすら許せないほどの強迫観念。

 かわすと見越していた剣でシルフィアが傷付く。

 それは彼にとって想定外。理想から大きく外れた死に様。ーー何よりの恐怖のはず。

 鈍く光を反射する長剣に肉薄する。

 いや、僅かにかすったかもしれない。頬がチリリと熱くなった。

 距離を取ろうとする少年の動揺を見逃さず、さらに詰め寄りながら髪をまとめる飾り櫛を引き抜く。

 月光の下、長い金髪が闇夜に踊る。

 夢のように美しい白蝶貝の飾り櫛は、エニシダが東方の連合諸国から取り寄せたもの。

 優美な見た目に反して歯の部分は鉄製で、即効性の麻痺薬が塗られていた。

 衣類で素肌は隠れているため、唯一露出している顔を狙って傷付ける。

 それは奇しくも、シルフィアの頬の傷と同じ位置だった。


   ドサッ……!


 少年が膝をつく。

 何とか堪えているようだが、もはや指一本まともに動かせないようだ。指先がかすかに震えている。

「まだ、武器を隠していたとは……」

 最後の力を振り絞るように、彼が呟きを落とす。

 シルフィアは極上の笑みを返した。

「知らないの? 切り札は、勝負がつく最後の一瞬まで隠しておくものよ」

 悔しげな表情を残して、少年は地面に崩れた。

 ようやく肩の力を抜くと、どこからともなくシオンが姿を現した。

 労いもなくおもむろに差し出されたのは、なぜか包帯が一巻き。

「使え」

「えぇと、お気持ちは嬉しいですけれど、かすり傷に備品を使うわけにはいきません。応急処置の道具は、国からの支給品でしょう?」

「傷付いた民に使うためのものでもある。つべこべ言わずに使え」

 何て横暴なと思いつつ、シルフィアは逆らわずに受け取った。これが彼なりの労いなのだろう。

 けれど受け取ったところで頭部をぐるぐる巻きにするくらいしか処置方法が思い浮かばないのだが、この場合どうすべきなのか。

 包帯を持ったまま考え込むシルフィアの耳に、シオンの呟きが届いた。

「あんたの、剣さばき……」

「え?」

「ーーいや、何でもない」

 彼はどこか沈んだ様子で黙り込んでしまった。

 こっそり包帯をしまっていると、遠くから走り寄る人影に気付いた。モクレンだ。

 無事決着が付いたことを報告しようと高く手を振り上げーーシルフィアの笑顔は凍り付く。

「あなたは、何でこんな無茶を……!」

 駆け付ける彼の目に、事件解決の喜びなど微塵もなかった。

 緑の瞳を染め上げるのは、無茶をしたことへの怒り。主に頬の傷に対して痛いほど視線を感じる。

「うげ……」

 シルフィアはこれから始まるお説教を予感し、間抜けなうめき声を漏らすのだった。






カクヨムにて連載を始めました、

『さくら書店の藍子さんー小さな書店のささやかな革命ー』も覗いてみてくださいませ!

(他サイトの宣伝すみません)


向こうが毎日連載なので、こちら滞りがちに

なるかもしれませんが…

第一章(?)は完結まで書き上げあとは推敲のみとなっておりますので、

引き続きよろしくお願いいたします!

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