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第八話「ゴーレム」

 モナの提案で、3人は外食することにした。そして、彼女がたまに使うというカジュアルなレストランの屋外席のうち、1つだけ離れたところにあるテーブル席に行くことにした。そこなら誰かに話を聞かれることもないと彼女が教えてくれたのである。3人はそこでこの店名物の地野菜料理を中心にたらふく食べた。

「ねえノールド?外での注意点を伝えておくわ。外ではリョウマではなく、私が師匠であるように振舞って欲しいの。そして、リョウマに教えてもらっていることや、教えてもらった内容を絶対に誰にも言ってはいけない。分かった?」

「大丈夫、理解してるよ」

 モナの問いに、ノールドは落ちついてそう答えた。

「理解してくれていてよかったわ」

 モナはそう言ってリョウマに話を始めるよう、アイコンタクトをした。

「じゃ夕飯も食べ終えたし、俺からの2人の指し方の感想を伝えるね」

 リョウマは2人に彼らの指し方の良い所と問題点を出来るだけ端的に伝えた。すると、先に口を開いたのはノールドであった。

「あの構えはゴーレムって言うんだよ。ゴーレム戦法」

「ゴーレム?」

(無敵囲いのことをこの世界ではゴーレムというのか)


―無敵囲いとは将棋初心者がやりがちな形と考えられている「ぼくのかんがえたさいきょうのせんぽう」である。初形から飛車を玉の真上に移動し、右銀を左上に、左銀を右上に動かした3手で実現できる形のことである。つまり先手だとしたら、初形から5八飛、6八銀、4八銀と進めただけの形である。紙のように厚い囲いで、毛玉のように鋭い攻撃力を備えた戦法である。もしこの戦法でプロ棋士と渡り合えたなら、将棋の神様に匹敵する実力を有しているだろう。果たして戦法なのか囲いなのか?それすらも分からない究極の形である―


「そだよ。皆知ってるし、このジンヤ国では一番人気で凄く多くの人が指す戦法だよ。でも、ゴーレムが良くないなんて、思ってもみなかった。僕もゴーレムは騎士道精神に溢れてて大好きだし」

 それに続いてモナが補足した。

「シャラガは戦争の代わりという歴史は前に伝えたでしょ?ゴーレムは騎士道を最も継いだ戦法と思われているの。王を皆で囲うようにして陣を構える。6マスに収まるのがちょうど6部隊からなる陣形に見立てられているのよ。そしてその6部隊が少しずつ前進していき、先端が開かれるという、ね。でも私はゴーレムの有効性について懐疑的だったわ。だから私はやらないわ」

(へぇー、将棋では無敵囲いなんてバカにされた名称付いててダメ戦法のお手本みたいな扱いだし、実際そうなんだけど、考え方が変われば扱いもこんなに変わるものなんだな・・・)

 リョウマは異文化コミュニケーションの違いの難しさを身を持って体感した気分であった。

「凄く多くの人が指すってことは、先後両者ともゴーレム戦法をやったりするの?相ゴーレムとでも言うのかな」

「ダブルゴーレムはよくあると思うよ。昔セイクリッドワンの決勝で指されたこともあるし。シャラガを始めて日が浅い僕ですら何度かあるよ」

(ダブルゴーレムって言うんだ・・・)

「ゴーレムを指す人が多いから、それに対する、ゴーレム対策とでも言うべき戦法がたくさんあって、その対抗形になることが多いわよ」

 と、モナが再び補足した。

「えーっと、ゴーレムについては分かりました。ありがとう。その対策についても教えて下さい」

「たくさんあるわよ。一番有名なのがスターダストという戦法よ。先番専用で、簡単に言えば先番だけがゴーレムに出来て後番はゴーレムに出来なくさせてしまうものよ。昔活躍したトッププレイヤーが開発した戦法で、一時大流行したわよ。今でもそれなりに指されてるわ。他には例えばシャラガ場の今の席主が指すものは西区では有名よ」

 リョウマはあの大男を思い出した。

「バーデラさんのことですか?」

「そうよ。ボン・バーデラ。彼はゴーレムに対して真っ向から向かっていく金剛壁という戦法を得意にしているわ。この西区には彼以外にも見よう見まねで指す人もたまにいるわよ。頭にまで筋肉が詰まってそうな彼らしい形をしているわね」

(へぇ・・・)

「テンドリアではゴーレム戦法が中心となって様々な戦法が研究開発されてきたし、戦争や騎士道精神が前提にあるから、シャラガからは切り離せないものよ。私も指さないというだけで嫌いとかではないし、人気なのも分からないではないわよ」

「なるほど。ゴーレム以外の戦法も騎士道精神などが影響していたりするんですか?」

「そうね、そういう戦法もそれなりにあるわよ。でも、結局ゴーレムには劣ると思われてあまり普及しないのよ。戦法の有効性以前に、駒配置の見た目の印象でね」

「へぇー、面白いもんですね。確かに6部隊が並んでいるように見えなくもないしなあ。自分の世界には精神的なものを後付けすることはあっても、精神的なものを前提にして戦法が作られたことは多分無いなあ・・・。」

「リョウマもやってみたらいいのに」

 ノールドがそう提案して来た。

「いや、さすがに無敵囲いはやらないよ」

 リョウマは苦笑しながらそう答えた。

「ゴーレムかっこいいんだよ!ジリジリっと各部隊が前進していってさ、開戦は今か今かと緊張感が高まっていって、どちらから行くのかとか、真正面からなのか、奇襲なのか、そういう一触即発の雰囲気が醍醐味なんだよ!やってみたらきっとリョウマも気に入ると思うよ!」

(ただの無敵囲いなのに何か壮大なエンタメみたいだな・・・それでノールドのやる気が少しでも増すのであれば、それもいいか。たまには生き抜きの対局も必要かな)

「うーん・・・じゃ後で1回やってみるか?ダブルゴーレム」

「うん!やろうやろう!」

 ノールドは嬉々として返事した。

「じゃゴーレム戦法についてはよく分かりました。モナさん、飲み物を追加でもらってもいいですか?」

「いいわよ。ノールドも何か飲む?」

 3人は飲み物を追加オーダーすることにした。そして一時会話を休憩し、各人手洗いなどを済ませようとなった。

矛盾等御座いましたらご指摘頂けますと幸甚です。

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