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第七話「伝説のシダ研」

 リョウマとノールドがモナの奴隷になったという噂が西区を駆け巡る数日前。3人の共同生活が始まった最初の日である。引越しの当日はリョウマが疲れ果ててすぐ眠ってしまった為、3人はシャラガのことは何も出来なかった。

「リョウマ、起きて、朝ご飯」

 モナの声である。

(ああ、そうだった。無理やり住み込まれることになったんだった・・・でも、朝ご飯作ってくれるなんてちゃんと優しい所もあるんだなあ・・・)

 リョウマはそう思いながらまどろんでいる目を擦り、床から起き上がった。結局昨晩は、リョウマは床で寝た。モナはリョウマに運ばせた寝具を唯一の空き部屋に設置して寝た。ノールドも持ち込んだ布団で寝たが、場所はリョウマと同じ部屋であった。

「リョウマおはよう」

「モナさんおはようございます」

「朝ご飯」

「はい、どこですか?」

「何言ってるの?あなたが作るのよ」

「へ?」

「早く買出しに行って作ってよ」

 モナはそう不機嫌そうに言った。

「ええええええええ!!!!!!??」

 リョウマはそう嫌そうに叫んだ。

「うるさいなあ!もう・・・・スピー」

 ノールドはそう五月蝿そうに言うと二度寝した。

(どうしてこうなった・・・)

 結局リョウマはスポンサーには逆らえず、仕方なく買い出しに言って朝食を作って彼らに供した。

「なかなか美味しくないじゃない」

「酷い言い方しますね・・・」

「おいリョウマ、不味いんだけど」

「お前は俺のことまで呼び捨てにしてんじゃねえ!」

 勝手気ままに文句を言う新人2人に対し、リョウマもさすがに怒りを抑え切れなくなってきた。

 リョウマがもう一言何か言ってやろうと思っていると、ノールドがモナの方を向いてこう言った。

「師匠!ご飯不味いから早くシャラガ教えてよ!」

(ふざけんなこのクソガキ!)

「それもそうね。でもね、師匠はその料理長よ」

 モナがそう言いながらリョウマの方を見ると、ノールドは驚いたように言った。

「へ!?冗談言ってないで教えてよ!」

 ノールドはリョウマを一瞥すると、再びモナの方を向いてそう言った。

「冗談なんて言ってないわよ。本当にその引越し屋さんが師匠なのよ、私達の」

 モナが冷静にそう言うと、ノールドがたいそうビックリした顔をして叫んだ。

「わ、わた・・・わたしたちぃ!!??」

「そうよ、私達はこの異世界から来た師匠のこの部屋に住み込みで教えてもらいに来た内弟子なのよ」

(内弟子って、じゃあなんで師匠が買出ししたり飯作ってんだよ!)

 とリョウマはツッコミたいのを抑えて、ノールドに向かって言った。

「あーノールド君。誤解していると困るから大事なことから順に説明しよう。まず、俺は料理長でも引越し屋さんでもない。そして、俺がシャラガの師匠として君達二人に教えるというのは本当だ。住み込みになるとは想像もしていなかったが」

 すると、ノールドが凄く不服そうな表情をして言った。

「二人して子供を騙そうとしてるの?」

「そうよ、私は嘘言ってないけど、この引越し屋さんは料理長なのに違うと嘘を付いたわ」

「モナさん!ややこしくなるからそういうのやめて下さい!」

「師匠のくせに弟子に敬語じゃん!やっぱり嘘だ!」

 ノールドが俺を指差してそう声を張った。

(何でいつの間にか俺が嘘つき扱いになってんだよ!)

「じゃあもういい!そんな事言うなら俺は何もしない!」

 とリョウマが怒ると、モナがノールドに言った。

「ほら、師匠が拗ねちゃったじゃない?ちゃんと謝って」

「はぁー?なんでぇ?ていうかリョウマが師匠ってのがピンと来ない」

(まあ、モナさんに騙されてここまで来てるわけだしな・・・何が本当なのか分からないだろうな・・・)

 リョウマは落ち着きを取り戻しつつ、モナに言った。

「ねえ、モナさん?ノールドにはしばらくモナさんが教え」

「嫌よ」

 彼女は間髪入れずに断った。そしてこう続けた。

「あのね、私とリョウマじゃ圧倒的にリョウマの方が強いんだし、ノールドの将来を考えればリョウマに教えてもらった方が絶対に彼の為なのよ。それに、私はあなたにあんな負け方をしたばかりだし、雑な知識ばかりだし、はっきり言って、自信無いわよ」

 すると、それを聞いたノールドが飛び上がりそうな勢いで驚いて見せた。

「ええええええ!!!!!?モナ・スミノが異世界人のリョウマに負けたぁあ!!??」

 そして、かれは興奮しながらこう続けた。

「ロ、ログ!対局ログを見せて!!」


 リョウマとモナはノールドの目の前で前日の対局を再現して見せた。そして、リョウマは自分が師匠であることを印象付ける為に、簡単な解説も付けた。

 2人が再現し終えると、ノールドは大興奮しながらこう言った。

「す、凄い!僕でも知ってる先手必勝パターンが実は結論の方が間違っていただなんて!」

 すると、モナがノールドの肩に手を置いて、彼を真面目に見つめつつ、こう忠告した。

「このログは、他言しないこと、いいわね?」

 ノールドはまたもやビックリした。

「なんで?こんな凄いのに!リョウマは大出世のチャンスじゃん!」

「いや、俺もモナさんと同じだ。これは言わないで欲しい。ここで俺が2人に教えているということも黙っていて欲しい」

 そして、モナがこれまでの顛末やこれを公開することの危うさをノールドに説明した。興奮気味だった彼も説明を聞いているうちに段々と落ち着いてきて、最後には話を理解したようだった。

「というわけで、この3人の秘密よ?約束出来る?」

 と、モナがノールドに確認した。

「うん!分かった!こんな凄い人に教えてもらえるなんて光栄です!リョウマ師匠!よろしくお願いします!」

 そしてリョウマによる昼夜問わないスパルタ教育が始まった。それはテンドリアの人にとってはあまりにも過酷なものであった。


 開始後、10時間ほどが経過した頃。

「はい、次の指導対局」

「し、ししょぉ~、休憩しましょうよぉ~・・・」

 ノールドが力無い声でそう言って、椅子の下にドサっと崩れ落ちた。一方、モナはテーブルに突っ伏したまま動かなくなっていた。

「ほら!2人とも!さっさと次の対局をするんだ!」

 リョウマは昔、誰かに本格的に教えるなら、まずは将棋体力を付けることから始めようと考えていたことがあった。そして、それを今実行中なのである。

「ただひたすら虐殺され続けるなんて思ってなかった・・・」

 ノールドがそう言うと、それにモナが突っ伏したまま続けた。

「ここまで実力差があるとは思ってなかったわ・・・」

 そう、かわいそうな弟子2名はこの10時間、ちょうど10局、ただただリョウマに負かされ続けたのである。モナはノーハンデ、ノールドは6個落ちで。

(まあ、このくらいにしておいてあげるか。この2人がどういう指し方をするのか?どんなクセがあるのか?とりあえずデータが欲しかったんだよね。モナさんは居飛車党で凄く効率性を求めているような指し方だけど、なぜか最序盤での角交換を拒否してくるんだよな。そしてノールドはまさかの無敵囲い・・・。これはかなりの問題児だぞ・・・。でも駒を前に前に進めようとする姿勢は見込みある。とりあえずこんな状態だし、ここからは話をする時間にしようかな)

「分かった、じゃ休憩がてら、この10局の感想なんかをお互いに話そう。夕飯も食べないといけないし」

 すると2人は急にリョウマを見て、目を血走らせながら合唱を始めた。

「ごーはーん!ごーはーん!ごーはーん!ごーはーん!」

「なんだ、元気じゃん。お腹が減ってたなら言えばよかったのに」

 リョウマは少しやり過ぎたかと思っていた為、案外元気な2人を見て内心ホっとした。

矛盾等御座いましたらご指摘頂けますと幸甚です。

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