ショートショート011 アンケート
ノックの音がした。
ここは、あるアパートの一室。さえない会社に勤めている、さえない青年が住む部屋だった。
今日は日曜日で、会社は休み。だらだらとテレビを見ていた青年は、ノックに気づかなかった。
再びノックの音が響いて、ようやく青年は気がついた。なんだ、せっかくの休日に。荷物が届くような注文は、何もしていないはずだが。
そんなことをつぶやきながら、のろのろと立ち上がって玄関に向かい、ドアを開けた。
そこには、見知らぬ男が立っていた。
「こんにちは。わたくし、天国地獄選択サービス会社の者です。休日に突然おじゃましてしまい、申し訳ありません。ただいま、みなさまのもとを回っておりまして、アンケートをお願いしているのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
青年は、いぶかしげに男を見つめた。天国がなんだって。また、わけのわからない社名をつけたものだ。
男はきっちりとスーツを着こなし、ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべている。まともな見た目をしているが、アンケートと言いながら、どうせ最後にはなにか売りつけるに決まっている。それに、一見すると若そうな印象を受けるが、よく観察すると、どこか年寄りめいているようにも思えてくる。わけがわからない。これはきっと、怪しいやつに違いない。適当に言いわけをして帰ってもらったほうが良さそうだ。
「すみませんが、セールスならお断りですよ。ごらんの通り、僕はうだつのあがらない会社員です。不要なものにお支払いするようなお金は持ち合わせておりませんので」
青年はそう言うやいなや、男に返事をする暇も与えずに、ドアをバタンと閉じてしまった。
またしてもアンケートに失敗した男は、ドアの前でひとりごちた。
「まったく、どうなっているんだ。現代の下界のマナーに合わせて、それなりのかっこうをしてアンケートをして回っているというのに、誰ひとり答えてくれやしない。せっかく、自分の死後の世界を選択する機会を与えてやろうと思って訪ねているというのに。
昔はよかった。少しそれらしい衣服を着て、空中浮遊のひとつも見せてやれば、みな神だ仏だと敬い、礼節ある対応をとったものだ。そうして、これからの人生で努力しさえすれば、死後には誰もが天国に行けるのだと教えてやると、みな善い人生を送ろうと努力した。
しかし、今はどうだ。空を飛んでみせれば、どうせ手品か何かだろうと言う。死後の世界の話をすれば、うさんくさいと避けられる。ならばと思ってスーツを着て訪ねてみても、勧誘か押し売りかと誤解される。まったく相手にしてもらえない。ちゃんと話を聞き、アンケートで答えたとおりに努力すれば、みな天国に行けるようになっているというのに。
まあ、無回答なら、規則にしたがって、くじで決めるしかないか。人間どうし助け合うことを忘れ、知らない者をうさんくさいと決めつけて追い払う向こうが悪いんだ。少しかわいそうだが、自業自得だろう」
そうして男はくじを引き、青年の死後の進路を確認してから、白い翼を広げ、金色に光る輪を頭の上に浮かべて、天界へと帰っていった。