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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

風花の物語

妖狐の転生

作者: ほろ苦

読んで頂きありがとうございます!

先に謝っておきます…読みにくいかと…凹

転生……それは生まれ変わること。


深い森の中、一番古く大きな木の根元にぽっかり大きな穴が空いており、その中は大きな空洞となっている。

その奥に作られた小さな部屋は壁一面本棚で埋め尽くされ、小さなテーブルと寝床が置いてあった。

そこに住む妖梟は黒いローブを頭から被り、丸い瞳が印象的な人型をした妖怪だ。

小さな蝋燭の灯を頼りに黒く古ぼけた書物を開きジッと読んで大きくため息をついた。


「コレをどこで手に入れた?」


妖梟は視線を上げて部屋の入り口あたりで正座をして真剣な顔をしている妖狐を見た。

少し擦り切れた古い浴衣を身に着け、茶色の伸びたボサボサ髪から黄色の耳が出ている妖狐も人の姿に化けた妖怪だ。


「京の都にある古寺で見つけた。これなら、人間になれるかもしれない」


妖狐はどうしても人間になりたかった。

人間の女を好きになり、どうすればずっと彼女のそばにいれるのか考えていた。

他の男に憑りつけばそれも叶うかもしれない……でも、それは自分じゃない。

人間に変化して過ごせればいいが、それをし続ける妖力もないし、ずっと彼女のそばにはいられない。

妖狐は大切な彼女のそばで同じ時を過ごしたかったのだ。

そのために、数年書物を読みあさり調べあげて京の都にある黒い書物にたどり着いた。


『人間転生』


妖怪の長い歴史の中で人間に生まれ変わりたい妖怪が少なからずいたらしく、その方法が書かれている。

内容に信憑性があるかは定かではないが、妖狐はコレを試してみたいと妖梟に相談しに来たのだ。


「……止めておけ。これはお前の死を意味する。そんな事、あいつ(人間の女)は望んでいない」


妖梟は本をパタンと閉じて妖狐の前に本を投げ捨てた。

妖狐は哀しい瞳をしてその本を眺め、そっと右手で拾い上げる。


「俺は、風花のためなら命なんていらないと思っている。このまま長く生きても心は死んだままだ」


「……人間なんて儚く愚かな生き物だ」


「それでも…俺は風花と一緒にいたい」


妖狐の切れ長で黄色い瞳が鋭く妖梟を見つめた。

そして、床につくぐらい深々と頭を下げ妖梟に頼み込む。


「なんでもします。お願いです協力して下さい。」


転生をするために妖梟の協力は絶対必要だった。

妖怪が死ぬ時は妖力がすべて無くなり消滅する時。

それまで何千年と生きる事が出来るし、妖力さえ維持できれば死ぬこともない

転生方法は死んだ直後、魂を人間の魂のエリアに飛ばす事が必要だった。

その方法は死んだ妖怪の魂をある程度の妖力を持った者が捕え、輪廻の河と呼ばれる所に流す事。


妖梟には容易い事だが、妖狐に情が移り、彼を失う事をためらった。


「少し……考えさせて欲しい。今日はもう帰れ」


「妖梟……」


妖狐は顔を上げ落ち込み立ち上がると部屋を出て行った。


ザワザワと竹が風に揺られ、シンとした竹林の中にある祠にたどり着くと日が沈み暗くなる。

妖狐は近くにある大きな石の上に腰を下ろ俯いていた。

自分が座っている石に少し落書きの跡があり、そこを手で軽く撫でて小さく微笑むと寝そべり目を閉じた。


一時してガサガサと草むらが揺れ一匹の黒い犬がひょっこり顔を出し妖狐に近づく。

妖狐はその気配ですぐに妖犬だと気が付き薄ら目を開けた。

犬は妖狐の目の前で人型に変化して妖狐を見下ろす。

黒い髪から出ている少し下がった耳、尻尾も下がっており、悲しい目をしている妖狐は妖犬が何を言いに来たのは想像がついていた。


「妖梟から聞いた……」


「ああ……」


妖犬は妖狐の唯一の友達だ。

自分が転生するために死のうとしている事を悲しんでくれているのだと察して、妖狐は多く語らない。

妖狐はまた目を閉じて眠ろうとすると妖犬との距離は一気に縮まり、唇に柔らかい感触が伝わる。

驚き起き上がる妖狐に妖犬は飛びかかるように抱きつく。


「……っ、死ぬなよぉ……なんで俺じゃダメなんだ……」


弱弱しく小さな声でおそらく泣いているであろう妖犬に妖狐は申し訳なく思い何も言えなかった。


「なんで……」


「……ごめん」


妖犬は少し震えながら妖狐をギュッと強く抱きしめ俯いたまま少し離れた。

ボロボロと涙を流し鼻水が出て来るのでそれをすすり自分の腕でぬぐって妖犬は顔を上げる。


「俺だって風花は好きだ……好きだけど……それよりもココ(妖狐)お前のことの方が好きなんだ。伴侶にしたいくらい好きなんだよぉ……」


長年友達として付き合って来た妖犬に思いを告げられ、妖狐は驚いていた。

いつも憎まれ口をたたいたり、からかったりしてくる妖犬がまさかそんな風に自分を思っていたとは知らなかったのだ。

顔をぐしゃぐしゃにして泣いている妖犬に妖狐は小さく微笑み少し困った顔をした


「妖犬…ごめん…俺は風花を忘れる事も諦める事も出来ない。ごめん……」


その言葉を聞いた妖犬は妖狐の胸倉を掴み睨みつける。


「っ…、死ぬんだぞ!わかってるのか!?」


「うん」


「消えてなくなるんだぞ!!人間になれるかどうかも分らないんだぞ!!」


「ああ」


「お前はそれでいいかもしれないけど、俺はどうなるんだ!!」


ぎりっと喰いしばり妖狐を睨みつけていた妖犬は力強く妖狐を押し倒した。

石の横の藪に落ちる形になり妖狐は妖犬に組み敷かれ、妖狐の顔に妖犬の涙がぽたぽたと落ちる。


「いっ……妖犬」


「ココ……俺を置いて逝くな……」


妖犬は強引に妖狐の唇を奪い、息が出来ない程深く濃厚な口づけをした。


「!!…っよ、……やめ」


妖狐が喋ろうとしても妖犬は強引にそれを自分の唇で塞ぎ、息もできず呼吸が上がっていく。

なんとか妖犬を止めようとジタバタと妖狐は暴れるが体の大きさは妖犬の方が大きく力も強いので思うように押し除けることが出来ない。

卑猥な音が響き酸欠で顔が赤くなり頭がボーとしてくる。

こうなったらと妖狐は妖犬の唇を噛んだ。


「っつ……」


妖犬は痛みでとっさに唇を離し、唇に真っ赤な液が滲み出る。

妖狐は呼吸を整えなから上半身を起こし、口元を拭いながら少し妖犬と距離をとった。


「ハァ、ハァ、妖犬、お前の気持ちには答えられない。俺は……死ぬんじゃない。生まれ変わるんだ……人間に。そして、風花の元に行く」


「風花はお前の事もう忘れているかもしれないぞ。他の人間の伴侶になっているかもしれないんだぞ!」


「それでも……俺は諦めきれない。」


「ーっバカだよ。お前は…ほんと…最低だよ…」


「ごめん……」


妖犬は泣き崩れ眼から流れる涙は止まらなかった。



次の日の朝、祠は朝霧で白くなり妖狐は寝床の小さな洞穴で丸まって眠っているとバサバサっと羽根の音が聞こえた。

耳をぴくぴくさせ、うっすら眼を開けると黒いフードを被った妖梟の姿が見える。

妖梟が朝行動するのは珍しく、妖狐はなにかあったのかと飛び起き駆け寄った。


「妖梟!?」


「妖狐、マズい事になった。主に知られた、急げ時間がない!」


妖狐は顔色が悪くなり血の気が引く。

ここら一帯の森を収めている主様は白蛇の妖怪でとてつもない妖力を持ち、妖狐を伴侶にしようとした事があるほど妖狐を気に入っている。

そんな主様が人間に転生しようとしている妖狐を見逃すわけがない。

妖梟はとりあえず祠にいるのは危険と知らせに来てくれたのだ。

妖狐はどこか安全な所に逃げようと考えたが森は主様の領域。

どこも安全ではないことはすぐにわかった。


「……仕方ない、ついて来い!」


妖梟に案内され長い距離を走るとそこは東の森の主妖狼の屋敷だった。

一瞬中に入るのを躊躇していると妖梟は妖狐の背中をポンと押した。


「なんでもする覚悟があるのなら此処に入る事も出来るだろう?」


妖狼は主様が収める森の東側を任されている狼の妖怪である。

主様の様に長く生きていないので古妖怪ではないが、それでも数百歳で妖力が強く乱暴者で妖怪を喰らう噂が絶えない妖怪だ。

ちなみに妖犬の遠縁の親せきでもある。

妖狐は生唾を飲み込み覚悟をきめて屋敷に入ると妖兎がパタパタと小走りでやってきた。


「おやおや?珍しいお客様ですね。ん?あ、妖梟さま、お久しぶりです!」


「妖狼はいるか?」


「はい。でも、まだ寝てまして……起こしましょうか?」


「いや、いい。私が起こすからお邪魔するよ」


「どうぞどうぞ」


妖兎はさーさーと手を添えて妖梟を屋敷に招き入れると妖狐も妖梟の後について上がった。

妖兎に案内され屋敷の奥に通されて他の部屋の入り口とは全く違う豪華な入り口の前で足を止めた。

一言「妖狼さまー妖梟さまはお見えですよ」と声をかけ、妖兎は扉をあける。

妖梟はそのまま部屋の中に入ったので妖狐も後に続き入った。

薄暗い部屋の真ん中に大きな蚊帳がかかっており、その中で大の字になって眠っている妖狼は一向に起きる気配がない。

妖梟はお構いなしに蚊帳に入り問答無用で妖狼の腹部を踏みつけた。


ぐが!!


すやすや気持ちよく眠っていた妖狼から変な声が漏れ、キレて妖梟に襲い掛かる。

妖梟はそれを素早くかわし、襲って来た妖狼は後ろにいた妖狐にぶつかった。


「!!!」

「……んだ?お前はぁ?」


まだ目ぼけている妖狼は目をこすりながら妖狐を見て目を凝らす。


「眠っている場合ではないですよ。主様が襲ってきます」


「は?」


妖梟の声に妖狼は耳を疑う


「妖狼は時間稼ぎをして下さい。その間に転生の儀式を行います」


「なに言ってんだ?全然意味がわからんぞ?」


黄金色の頭をぼりぼりと掻いて首をひねる妖狼は背伸びをして大きな欠伸をした。

妖梟は妖狐に視線を向けて小さく微笑んだ。


「妖狐。わたしはお前に逢えて楽しかった。お前がいなくなるのは寂しいけど、それがお前の一番の望みなら……協力しよう」


「妖梟……ありがとう!」


「もう近くまで主様は来ている急がねば……」


そういうと妖狼の部屋で妖梟は大きな水晶みたいな玉をローブから取り出した。

妖狐にこれを持って座るよう妖梟に言われ腰を下ろすと大きな地響きが鳴り響く。


ゴゴゴーー!!


妖狼は目を細め耳を立て音の位置を確認する。


「……この貸はいつか返せよ。」


首を回し体操をしながら振り向かず、ピリピリとした雰囲気で妖狼はゆっくり部屋を出て行った。

妖梟は妖狼の後ろ姿を見送り妖狐に視線を戻す。


「その玉に全妖力を注げ。わかっていると思うが、すべての妖力がなくなれば……お前は死ぬ」


妖狐に最後の覚悟を確かめる妖梟は深く悲しい瞳をしていた。

そんな妖梟に感謝して頭を下げ、妖狐は両手で持っている玉に神経を集中する。すると玉の中で流れていく妖力が渦を巻いて光り出す。

遠くで聞こえていた地響き音がだんだんと近づき、妖狼の屋敷の屋根が強い衝撃を受け破壊され大きな穴が空いた。


もう少し……あと少しで全部の妖力を玉に注げる……


妖梟は妖力を使い妖狐と自分を囲む形で結界を張った。

大きな穴から禍々しい白い妖力を纏った白蛇の妖怪がゆっくりと降りて来る。

真っ白な肌に赤い瞳、絹の様に輝く長い髪が禍々しい妖力でゆっくり揺れる。


「愚かな……妖狐、お前は何もわかっていない……」


その表情は無表情で冷たく、見つめられるだけで妖力に押しつぶされようになる。

主様がふっと手を横に払うと妖梟が張った結界は一瞬にしてガラスが割れたように崩れた。

次の瞬間、妖梟は主様の妖力を当てられ体を吹き飛ばされた。


「無駄な事です。さあ妖狐……わたしの元に」


妖狐は主様を見つめ玉を持ったまま立ち上がり頭を下げる。


「主様……ありがとう……ございました……」


主様は急いで妖狐の持っていた玉を壊そうとしたがもう遅かった。

妖狐の妖力はすべて注がれ妖狐の体は光に変わりつつある。


「なんてことを……なんて……愚かな……」


手を差し伸べ妖狐の頬を触ると光が散乱する。

妖狐は一粒涙を流して主様に微笑んだ。


これが妖狐の最後の姿だった。


妖狐の姿が消え玉がゴトンと床に転がる。

妖梟は飛ばされて倒れていた体を起こし妖狐がいたあたりに集中すると一つの黄色い光の玉を感じ、それが妖狐の魂だと確信すると持っていた小壺に入れる為、妖力を使って魂を引き寄せた。

もう少しで小壺に入る魂を主様が鷲掴む。


「主様!!」


「この魂はわたしが喰らう」


妖怪が妖怪の魂を食らうと、その魂は食らった妖怪の一部になる。

そうなっては人間に転生どころか、生まれ変わる事すら出来ない。


主様は妖狐の魂を口元に近づけると黒い物がその腕に飛びかかった。

よく見ればそれは妖犬の犬の姿で主様の腕にしがみつき唸り声をあげながら噛み付いている。

その腕から真っ赤な血が流れ主様は顔を歪めた。

主様は反対の手で妖犬を叩き落とすと妖犬の腹が引き裂かれ血を流し吹き飛んだ。

地面に打ち付けられ倒れた妖犬の周りはみるみると真っ赤に染まる。

それでも妖犬は震えながら立ち上がろうともがいていた。

主様はその様子を蔑む目で眺め、再び妖狐の魂を喰らおうとすると声が聞こえる。


「俺の甥ながら、よく頑張ったな」


ボロボロに傷つきフラフラしながら近づく声の主は妖狼だった。

妖狼は黒い禍々しい妖力を纏い、顔が笑っている。

その右手には白く輝く太刀を握りしめ異様な存在を放っていた。

まるで人間が作る武器の刀のような物に妖梟は目を丸くして固まる。


「そ、それは……妖殺刀……なんでそんなものが……それは陰陽師の武器ではないか」


その言葉に主様は眉間に皺をよせ、妖狼を睨む。


「東の主ともあろう者が人間ごとに現を抜かしおって……情けない」


「別に現抜かしてねーし。ただ、コレは貸してもらっている。もしもの時、コレを使って妖狐を殺せと頼まれていたが……」


妖狼は刀を一振りするとまるでかまいたちの様に空気の刃が主様めがけて放たれ、

主様は妖力で壁を作りその刃を防ぐが、その間に妖狼が一気に間合いを詰めて、妖狐の魂を持っていた腕を切り落とした。

多量の血しぶきと主様の絶叫が響きその場は騒然となった。

妖狼は魂を持った主様の手を拾い妖梟の元に投げる。


「行けぇ!!」


緊迫した表情で妖狼が叫ぶと妖梟は青ざめた顔でその腕を拾い梟に変化して空に羽ばたいた。

腕を切られた主様は人型から白い大蛇へと姿を変え真っ赤な目から真っ赤な涙を流し、怒り狂って暴れだす。

なりふり構わず妖力をまき散らし、木々をなぎ倒しながら妖狼を喰らおうと追い回し、妖狼は主様から逃げ回るだけで精一杯だった。


『許さぬ……許さぬぞ!!』


妖狼は行く手を阻まれ白い大蛇に巻き付かれ、手から妖殺刀を落としてしまい、体を締め付けられボキボキと鈍い音が響く。


「ぐは……」


口から血が流れ、妖狼はこのまま主様に喰われると死を覚悟した。

白い大蛇が大きな口を開けて妖狼を飲み込もうとした時、地面に転がっていた妖殺刀が青白く輝き、その刀は宙に浮いて一直線に主様の口に飛び込み突き刺さった。


ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーー


バリバリと稲妻が落ちる音と悲鳴が辺りを支配した。

主様の体は光輝き、光の粒は徐々に空に吸い込まれて行く。


『なんと悔しい……いつも私が望む者は手に入らぬ……』


主様の姿が薄れ、最後には消えてしまった。

これが何千年も生き森を収め続けた古妖怪白蛇の最後であった。


白蛇が消え妖狼はその場に崩れ倒れ込む。

体の骨が何本か折られ、妖力も残り少なくなっているので呼吸をするだけで精一杯で動く事も出来なかった。

そんな妖狼を心配して今まで穴を掘って隠れていた妖兎が駆け寄る。


「妖狼さま!妖狼さま!!大丈夫ですか!?しっかりしてください!」


涙目で妖狼を揺さぶる妖兎はどうしたらいいのかわからず困っていた。

このままでは妖狼は妖力が尽きて消えてしまう…

すると背後から近寄る足音が聞こえた。

妖兎を恐る恐る振り返るとそこには青白い輝きを全身に纏った妖犬の人型の姿だ。

さっき主様にやられ、死にかけていたはずの妖犬の腹からは血が止まり、その瞳は以前の茶色の瞳ではなく赤と白のマーブル色をして、ただならぬ妖力を纏い無表情で妖狼を見ている。

妖兎はいつもの妖犬でないと察し気味が悪くなり、妖犬から少し距離を開けた。

妖犬はそんな妖兎に構わず、妖狼の元にしゃがみ込み動かなくなった妖狼の額に手を添えた。

すると、その手が青白く光り妖犬の妖力が注がれる。

妖犬は主様に噛みついた時、主様の血を多量に飲んでしまったので、強制的に主様の力を獲られたのだ。

そのおかげで自分の命が助かり、妖狼を救う事が出来た。



妖梟は額に大粒の汗をかき、必死に空を飛び輪廻の河にたどり着く。

いつ主様が追いかけて来るかもしれないと怯え焦っていた。

主様の力に妖狼は敵わない。

おそらくこの先、自分や妖狼、妖犬も主様に喰われるだろう…

せめて…せめてこの妖狐の魂だけでも、望みを叶えてあげたい…

妖狐の魂から主様の腕はがし、青く透き通った河にその魂を浸し離す。

魂が抜けてから時間が少し経っているのが心配だが、妖梟は河の中の黄色い魂に妖力を込めた。


人間に…転生を…


河の穏やかな流れに乗って流れれは人間に転生できると黒い書物に書いてあった。

ところが黄色い魂は妖梟の願いとは別を動きを始める。

透き透った河の流れにのるのではなく、薄黒くくすんだたまり場に吸い寄せられる。


妖梟は顔を歪め、それを見送ることしか出来なかった。


「そ…んな…すまない…妖狐…」


薄黒くくすんだたまり場に黄色い魂は姿を消すと、妖梟は崩れるようにその場に座り込み、妖狐に謝罪をした。






☆☆☆☆ ~拓斗への転生~ ☆☆☆☆



暗い、何も見えない、何も聞こえない…

そんな空間にたった一つ、小さな光が見え、俺はそれに手を伸ばした。



「!!先生!!拓斗君が!」


薄ら目を開けると白衣の看護婦さんが笑顔で喜び先生という人に話していた。

見たことがない天井と病院独特の臭い

俺は……なにがあったんだ?

先生と呼ばれる医者らしきオジサンが俺に話しかける。


「拓斗君!わかるかい?」


「……はぃ」


声が出にくい…体が重い…頭痛がしてきて吐き気もしてくる。

だんだんと自分の症状を自覚して苦しみ出すと看護婦さんが看病してくれた。


俺は水吉拓斗、14歳、ごく普通の中学生だ。

そんな俺が病院で目が覚め何があったのか思い出せないでいた。

意識を取り戻して数日が経ち、体調も落ち着いてきたある日、看護婦さんに聞いてみた。


「看護婦さん、俺なんでこうなってるの?」


「え?あ、記憶が混乱してるのね。お母さんから聞かれたら話していいって言われているから説明するね」


若い看護婦さんはニコリと微笑み説明してくれた。

俺は学校の帰り小さな子供を助けるために橋から河に落ちたらしい。

その時打ちどころが悪かったのか意識不明になって1週間。

まったく記憶がないので「へー」と他人事のように聞いていたが若い看護婦さんは俺を尊敬の眼差しで見ていた。

意識が戻って数日経って、やっと母親が見舞いにやって来た。

俺の家庭はちょっと複雑で、母子家庭だが母は仕事ともう一つの家で忙しい。

もう一つの家とは母の彼氏?の家で基本俺は放置されて暮らしている。

父は俺が気が付いた時にはいなかった……


「拓斗、大丈夫?」


「……」


別にこの人に心配してもらいたくない……

そういうオーラを放ち俺は窓の外を見ていた。

その後、助けてあげた?子供と親が見舞いに来たり、看護婦さんと楽しく話をしたりして、俺は順調に回復して意識を取り戻して2週間で退院できた。

退院する日も母は来なかったが俺は気にしない。

名残惜しそうに看護婦さんたちが見送ってくれたのでちょっと嬉しかった。


家に帰ると鍵をあけ、真っ暗な部屋に入る。

2LDKのアパートはシンとしており冷たい空気が漂っていた。

しばらく誰も使っていない部屋……母はここに帰ってない事がわかる。

冷蔵庫の中を見て、腐っていそうなモノをすべて処分すると買い物に行くことにした。

スーパーに着くと飲み物に簡単な食品など、必要最小限のものをカゴに入れレジに向かう。

支払いはいつもプリペイドカード払い。

このカードは母の彼氏が俺に渡したもので好きに使っていいと言われている。

中にいくら入っているのは知らないし興味もない。

次の日から学校に行くことになっており、久々に登校すると数名のクラスメートが心配してくれた。

俺は適当に返事をして何もなかったように退屈な授業を受けて家に帰った。


そうだ……俺はいつもこんな毎日を過ごしていたんだ……

必要とされてない自分と面白くない毎日

俺は少しずつ『自分』を思い出す。

何も興味が湧かず無気力に過ごしていた。

適当に毎日を過ごし、適当に生きている。

だから、あの時……子供を助けるとき……


自分は死んでもいいや……そう思ったのだ。


『モッタイナイー…』


トクン…

頭の中で自分の声が聞こえる。

自分が思っている事とは別に自分の声が聞こえた…ような気がした。

トクン…トクン…

胸がギュッと熱くなり、締め付けられる思いがする…

俺、なにかの病気!?

胸騒ぎというか、なんと言ったらいいのかわからない感情が中から溢れて来る。


なん…なんだ…これ?


『…サガセ…』


ハッキリとは聞こえない頭の中の声を聞いて、俺は周りを見回す。

探さないと…なにを?

自分がおかしくなったのかと思い、明日病院に行こうと思って風呂に入って寝る事にした。


その日の夢はとても切なく…苦しく…幸せな夢だった。


朝、目が覚めて顔を洗って鏡を見る。

探さないと…あの人に逢いたい…

俺はその瞬間、無気力に生きているのがとても勿体なく思え、何かしないといけない使命感を感じた。

逃げていては、ダメだ。



今から、俺は変わる…

あの人と逢うために…





最後まで読んで頂きありがとうございます!

妖狐(ココ)=水吉刑事が出せていますか?もっと壮大でロマンがある話にしたかったのに私の力量では無理でした…さらに言うならバトルシーンって難易度高すぎました…

ほんと、読みにくく「?」って所いっぱいだと思います。ごめんなさいごめんなさい凹

結果的に妖狐は転生できたというか、水吉刑事の魂に紛れた形になりました。

その事に風花が気が付く日は来るのでしょうか…?こうご期待(*^-^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 次回も早めによろしくお願いします。 過去に飛んで紛れたのかな〜。というか体手に入ったのにつきまとわなかったんだね
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