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自転車に乗るわたし  作者: @naka-motoo
31/36

第31話 プロポーズ・・・っぽい?

「シズル、悪いな、嫌な思いさせて」

「ううん、平気だよ」

 ちょっと遠いけど、大都を出た後、川の土手まで歩いた。バス停二つ分くらい。ここはもう大分下流の方だけど、土手のサイクリングロードはわたしの家辺りからずっとここまで続いている。なんとなく、サイクリングロードを歩く。自転車じゃないと何か変な感じだ。まるで下着を着てないみたいにスースーする感じ。

「あいつらも辛いんだろうな。菊池のこと、勘弁してやってくれよな」

 コタローははっきり言わないけど、菊池って人は軽い情緒不安定で睡眠導入剤なんかも飲んでるみたい。残り3人がなだめながらわたしに謝っている時にちらっとそんなこと言ってた。

「うん・・・でも、コタローがわたしのこと‘賢い’って言ったから、ちょっとびっくりした」

「お前は賢いよ。あのばあちゃんの孫だからな」

「え・・・」

「お前の父さんも、母さんも、賢い人たちだ」

「えー、おばあちゃんとお母さんは分かるけど、お父さんはそうでもないよ」

「いや、シズルの父さんはとても賢い人だよ。ちゃんとものの道理をわきまえてる。あのばあちゃんの息子だからな」

「おばあちゃんの息子だから?」

「それに、お前の母さんも、あのばあちゃんの嫁だからな、賢くない訳がない」

「よく分かんないよ」

「みんな、ちゃんと、ばあちゃんの話をかみ砕いてるじゃないか。先祖と子孫を繋ぐって並大抵のことじゃないよ。菊池の言ってた志より、はるかにでっかい志だよ」

「そうかな・・・」

「菊池ほど極端じゃないけど、俺も菊池みたいなこと考えてたんだよ、前は。何か、志、っていうか、努力して苦しんでないと一人前じゃないみたいな。死についても哲学っぽく小難しそうに語ってたよ。でも、自分も死ぬって話になると‘俺は別だ’って思いたくなるんだよな。自分のことは棚上げして」

「・・・・」

「お前のばあちゃんは、見事なまでに自分を棚に上げてないだろ。眼には見えないから知らん、なんて言わないだろ。まず、自分こそ一番危うい、っていうほんとの現実を見てるだろ」

「う・・・コタロー、ちょっと難しくなってきたよ。やっぱ、コタローも頭いい人だったんだね。北星で3位だし、東大80%だし・・・」

「ご、ごめん、悪かった。そんなつもりじゃないんだよ」

 あ、珍しい。コタローがわたしに対して慌てた様子見せてる。

「ただ、適当な説明や比喩じゃ伝えられないから、誤魔化さずに言おうと思っただけなんだ」

「もうちょっと、別の言い方してよ」

「そうだな。シズルと俺が会うきっかけになったのって、自殺した多田って奴だよな、結局」

「うん、そうだね」

「俺は、多田の自殺だって寿命だと思ってるよ」

「え!?自殺だよ!?」

「天寿を全うした、ってすら思う」

「どうして?」

「多田は多分、潮時だったんだよ。この世での。理由なんか俺ごときには分かんないけど。だって、多田は自分の死をもって俺とシズルを引き会わせてくれたってことじゃないか。俺らが会えたのは、多田のお蔭なんだよ」

 ああ、どうしよう。言おうか。

「コタロー。コタローがそういう風に言うから話すけど、わたしを危ない奴だって思わないでね」

「何だ?大概もう、危ない奴だって知ってるから、今更気にすんなよ」

「・・・一応、真面目な話なんだけどさ・・・・」

「ああ、だから、気にせず続けろって言ってるだろ」

「・・・おばあちゃんが教えてくれたんだけどさ、コタローは多田くんの生まれ変わりかもしれないって」

「え!?」

「おばあちゃんのこの間の話ってさ、過去も未来も、先祖も子孫も同時進行、ってことだよね。同じように、現在も同時進行だって」

「うー・・・ん?」

「同い年のコタローが多田くんの生まれ変わりってこともあり得る、って。だから、いじめっ子が自分の生まれ変わりをいじめるなんて馬鹿なこともあるかもしれないし、自分の生まれ変わりに助けて貰ってることもあるかもしれないって」

「おお!」

「わたしはおばあちゃんの言ってることこそが現実だと思う。コタローが多田くんの生まれ変わりかどうかは、そりゃ、神様じゃないと分からないことだけど」

「すげー!やっぱりすげーよ。ばあちゃんもシズルも。感動だよ!」

「そ、そう?なんか、その言い方、軽く馬鹿にされてるような気もするけど」

「いやいや、俺は、真面目だよ。真面目な証拠に、俺も話すけど、笑うなよ」

「うん」

「俺とシズルが結婚する確率って、相当高くないか?」

「は?」

「いや、だから、俺とシズルが結婚する確率だよ」

「・・・それって、わたしを口説いてるの?まさか、プロポーズ!?」

「馬鹿、違うよ!あー、やっぱり言うんじゃなかった。お前、やっぱ、賢くないわ。帰る!」

「ちょ、ちょっと、‘結婚’なんて衝撃的な言葉言っといて、帰るって、何それ!?」

「シズルがもうちょっと賢くなってから話す!」

 あれ、何だろ、坂道を自転車ですーっと下った時のようなこの胸のあたりがくすぐったい感覚は。でも、もっとスピード出さなきゃ。コタローは自転車も歩くのも速いから。


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