「不幸だわ」
「……不幸だわ」
私は、私にとっての定番の台詞をつい口にした。
当面の糊口をしのぐため、受けたギルドの依頼。
薬草の収集。
それは全く危険は無いはずで、だからこそ、生まれてこの方戦った事無い私でも、安い報酬ながらも何とかこなせる筈だった。
街から少しだけ離れた、森にも入らない河原沿い。
そこで私は。
オークに出会った。
オークと言えばあれだ。
女騎士とかがアレされて、アレになるアレだ。
そうは言うが、正直私も、実際見るのは初めてに近い。
だけど、明らかに人間とは違う、緑色の肌。丸太のような腕。牙の生えた口。禿げた頭。
伝え聞いたオークのその外観と、言い訳が出来ないほど完璧に一致する。
しかも、きったない鎧姿。手には分厚い山刀。完全武装でやる気満々。
それが目の前に居た。しかも結構近い上に、その凶悪っぽい目は完全に私を捉えている。
たまたま依頼に合った薬草の塊が見付かったところで、大喜びで採集に夢中になっていたら、これだ。
油断大敵。禍福糾える縄の如し。
それでも、私をただの小娘と見てなのか、全く警戒も、戦闘態勢もとっていないその姿に、『ひょっとしたらテンプレオークを逆手に取った紳士オークかもしれない』という望みをかけて、声をかけてみることにする。
もちろん、言葉が通じるかどうかもよくわからないが……
「あのう」
「何だ。小娘よ」
通じた!通じたよ!
とりあえず、言葉は通じる事が解った上に、一応返しまでくれたことに、内心小躍りしそうなほど喜びつつ、言葉を重ねてみる。
「見逃してくれませんか?」
「だめだ」
オークの渋いバリトンボイスが、無情に響く。
もうだめだ。
一瞬で心が折れそうになったけど、とりあえずそこはグッと堪えて持ち直し、更なる説得を試みる。
なにしろ、失敗したらアレだ。若しくはアレかもしれない。
「でも、オークといったら女騎士でしょう。私、言っておきますけど普通の町娘ですよ。どこにでもいる十把一絡げだし、『クッ殺せ』みたいな感じにもなりませんよ?がっかりですよ?女騎士さんなら、確か今街に王都からきた何某さんが居るはずなので、そっちとどうぞ」
私は何の躊躇も無く、実際来てるらしい名も知らぬ女騎士さんを人身御供へ差し出してみる。
鬼と罵られてもいい。
今は私が助かるかどうかのほうが遙かに大切だった。
オークは実際の女騎士だか、姫騎士だか、そんな人に任せたい。
そして確かに今、街には王都から姫騎士とか呼ばれちゃったりしてる人が来てたはず。
「問題ない。町娘も好物だ」
そんな必死な私の主張も、あっさりとオークにいなされてしまった。