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「あ、あとレイちゃん。いい加減、俺のこと、リーダーじゃなくてカトレアって呼んでって言ってるじゃん?」
リーダーはふふっと綺麗な笑みを口元に浮かべつつ、こちらに顔を寄せた。そう、このリーダーであるカトレア様は何故だが僕に好意を持っているらしく、時折こういった様な言葉を投げてくる為、毎回どう返そうかと悩みを増やしつつある。なかなか返さない僕に少し困ったような表情に変えるとレーイちゃん、と名前を呼んだ。
「・・・リーダー、毎回お伝えしていると思うのですが、上司を呼び捨てにする部下がいると思いますか?」
正論というか、自分の中での線引きをしっかりしたい為にその様に伝えた。すると、どうだろう。先ほどまでご機嫌だった雰囲気が一気に不機嫌の色に変わった。それと同時に繋がれていた手がギュっと強くなった。
「ジェイドはカランの事を呼び捨てにしてるけど?」
ニッコリ、という感じの笑みを浮かべながら言うリーダーから冷たい空気が流れてきたようだ。
ジェイドというのは師匠のことである、更にカランというのは師匠の上司であり、東塔のリーダーである。厳つい顔、コーラル様よりがっちりとした体格で密かに憧れている。
だが、コーラル様の様に厳しい方でもなく、リーダーの様にカリスマ性がある感じでもない。カラン様は3人のリーダーの中でもすごく優しくて新入りで別塔の僕の事も気にかけてくれるような人なのである。そんなカラン様に迷惑が掛かっているので師匠の迎えなんか、本当は行きたくないけれど、カラン様の為だと思ってやっているのである。
「・・・・・・分かりました。カトレアさん、が限界です。」
これ以上、リーダー・・・カトレアさんの不機嫌という面倒なものを重ねても良いことはない為、仕方なく名前で呼ぶことにした。
「カトレア。」
「・・・カトレアさん、で我慢してください。」
「カトレア。」
「・・・カトレアさん。」
カトレアさんは不満そうに何度かこのやり取りを繰り返していたものの、ちょうど僕の持ち場である中央塔のAエリアに着いた為、しょうがないな、と言ってさん付けで我慢してもらい、繋いでいた手を離した。
「レイちゃん、いつかは呼び捨てにしてくれることを待ってるから。」
カトレアさんはそう言いながら、じゃ、とくるりと方向を変えて自分の持ち場に行くのだろうかと思い、声を掛けてもらった時から思っていたことを口にして引き留めた。
「カトレアさん、今日は早めに帰った方がいいですよ。顔色悪いですし、本当は歩くのが辛いんじゃないですか?」
先ほどまで繋いでいた手を取ると、軽くこちらへ引くとバランスを崩しながらもこけるような失態をさらす事無く、びっくりすした、と軽く僕の言葉をかわした。さすがに無理をしている人が目の前にいたら、どうにかしてやりたいと誰でも思うだろう、と自分の今からの行動に理由をつけた。
引いていた手を更に引き寄せ、自分より少し背のあるカトレアさんを横抱きにした。