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――― 師匠はきちんと行っただろうか、最後まで連れていけば良かったと自分のみ正面へと入り、持ち場についた後にふと思ったのがこれだ。師匠は注意してもしょうがない、といった感じでサボり癖がひどい。リーダー達も最近では諦めており、なかなか持ち場へ戻らない際に僕に連れてくるようにお願いに来る。
まぁ、師匠は父親であり、兄弟でもあると思っている。長年一緒にいてこういう性格だと分かっているものの、唯一理解できないところであり、嫌いなところでもあった。
「おい、倅、ジェイドは連れ戻せたのか。」
後ろからカツカツと靴を鳴らしながら歩く足音、聞きながらもしかしてとは思ったが何もしてないはずなのにドッと疲れが肩にのしかかった。小さく息を吐きながら後ろを振り向くと、予想通りの人物がそこにいた。
「・・・はい。持ち場に戻っていると思います、コーラル様。」
何とも言えない威圧感のある顔、それにあった背丈。自分より30センチほどは大きいのではないかと思う。だが、自分はこのシオン=コーラルという男が嫌いにはなれなかった。見た目も個性的ながら中身を至極面倒な性格でもあった。
更に、この男は師匠の事をよく思っていないのであろう、今回の様に何かあれば棘のある言葉で突っかかって来るのである。
そして、師匠はコーラル様がこのように突っかかって来るのが面白いらしく、からかいながら相手をしている。この性格も合わさってか更にコーラル様は目の敵のように扱うのである。加えて、その弟子であり、義息である僕も合わせてよく思ってないらしかった。
「本当だろうな、公認司書殿はサボり癖があるからな。きちんと見ておけ、倅。」
更に棘のある言葉を重ねながら、またカツカツと足音を鳴らして横を通り過ぎて行った。
「あらら。またしーちゃん怒らせちゃったの?レイちゃん。」
コーラル様の鳴らす靴音に耳を傾けていたせいか、耳元で聞こえる声に少しびくりとしてしまった。ふぅ、と先程とは違う意味で息を吐いた。
「ちゃん付けはやめてくださいと言ったはずですよ、リーダー。それに怒らせたのは僕ではなく、師匠です。」
僕の言葉を聞いてはクスリと小さく綺麗な笑みを零す人、この人は僕の直属の上司でこの中央塔のリーダーである、カトレア=トリフェーン。自分も中性的な顔をしているのは自覚済みだが、この人も同じ系統。その上儚げな雰囲気を醸し出しているらしい。
だが、本性は人をおちょくるのが大好きで気まぐれな方、更に付け加えると何においても鋭い感性をお持ちの方だ。なぜだか、この人の言うことに間違いは無いだろうと思ってしまう。それほどまでにカリスマ性も持ち合わせており、僕は同じ地位にいる西塔のリーダーであるコーラル様よりこの人が一番怖い人なのでは無いだろうか、と最近感じていた。
僕の言葉にえーと口を尖らせたまま、不満げな表情を浮かべたリーダーはするすると僕の首に両腕を回し、抱き付くような体制になった。
「だって、レイちゃん可愛いんだもん。」
何だ、その理由は。心の中でつっこみを入れながら、中身のない理由を特に反応を示さずにいると、それに更に不満に感じたらしく、抱き付く力を更に強くした。
「・・・苦しいです、リーダー。」
素直に今の気持ちを声に出すと、クスクスと楽しげな笑みを零しているリーダーの腕を掴んだ。
「相変わらず、レイちゃんは表情が全くと言っていいほど出ないよね。」
僕の手を掴まれていない方の手で取り、何故か手を繋がれてしまった。先ほどまで不満たらたらな感じであったリーダーはご機嫌な様子へ変わり、そのまま持ち場へ足を進めた。