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「まったく、師匠はどこで油を売っているんだか・・・。」
ブツブツとどうも師匠という人物へ文句を垂れている少年・・・というにはすでに年齢が食っているらしい。だが青年というにはまだ幼い感じを受ける者は辺りをきょろきょろと見ながら、目的の人物を探しているようであった。
彼のいる場所は物静かで、庭か何かだろうか、そこらじゅうに木が植えられている。だが、整えられている為、すごく落ち着く雰囲気、癒される空間になっている。
彼は小さく あ、と声を上げると、駆け足で真っ直ぐに駆けていった。彼の視線の先には木々に囲まれ、丁度、死角にあるベンチに気持ちよさげに一人の男性が寝転んでいた。彼は大きなため息を吐いては「ほら、師匠起きて下さい。」と言葉は丁寧だが、声を掛けながらベンチから落とそうとしているようで、強引に肩を掴んでは押した。
「!・・・ったく、人が気持ちよく昼寝してんのに何邪魔しやがる。」
男は落とされそうになりながらもギリギリのところで踏ん張り落ちずに済んだものの、不機嫌そうに眉間に皺をよせ、じろりと睨むように彼を見つめた。
「こんなところでサボってないで真面目に仕事してください。師匠がサボるのが僕にとっても図書館にとっても迷惑になっているので邪魔してるんです。」
そんな男の様子に彼は表情を変えることなく、淡々とした口調で言い放つとベンチに座ったままの師匠と呼ばれた男の腕を掴むとぐいっと強く引っ張り、立ち上がらせた。
「痛えよ、レイ。もうちょっと師匠を大事に扱えって。」
腕を掴む力が強かったせいか、師匠は不機嫌そうな表情を更に深めた。彼・・・レイは特にその言葉に気にした風な様子もなく、「ほら、行きますよ。」とだけ声を掛け、変わらず声にも表情を表すこともなく、物静かな場所の中心にある立派なお屋敷のような場所まで師匠を引きずった。
立派な建物は帝国図書館と呼ばれるところであった。レイと師匠はそこで働いているらしい。すると、レイは正面の扉から入っては先ほどまで引っ張っていた師匠の腕を離した。
「師匠、一応昼間も仕事しないといけないんですからね。あんまりリーダーと僕に迷惑かけない様に。」
僕、の部分を強調して言ってはそのまま奥へと姿を消した。そんな彼の姿を見ながら、煙草を取り出しては咥え、ボソリと少しの不満と小さな苦笑を零した。
「・・・前は冷たくなくて可愛げがあったのになぁ。」
彼の後姿を見送ると、自分の持ち場のある東の塔へ足を運んだ。