こんがりキツネ5
「月子月子!これうますぎ!チョーうまいじゃん!」
「あ、ありがと……」
興奮したようにいなり寿司を頬張るササラに月子と雷太は生ぬるい視線を送っていた。にこにことご機嫌にいなり寿司を頬張るギャル。しかも一昔前に流行ったような黒い肌にじゃらじゃらしたアクセサリー。なんだかとてもミスマッチだ。
でも。
彼女は派手な見た目をしているけれど挨拶を見る限り巫女としての修行も怠っていないようだ。根は真面目でいいこなのかも。なにより、こんなに美味しい美味しいって食べてくれるなんて。
月子ははぐはぐと嬉しそうに自分の料理を食べてくれるササラに一気に好感を持った。こぽこぽと新しいお茶をササラの湯呑みに注ぎながら月子はもう少し踏み込んだ話をしてみようと決心し、ササラに向き直る。
「ササラちゃんさ、狐たちのところからどうして逃げたりしたの?」
ササラのいなり寿司を口へと運ぶ手がぴたりと止まる。
「ササラちゃん、巫女になりたくないわけじゃないんでしょう?真面目に修行もしているようだし……」
雷太は無言で心配げな月子と難しい顔のササラを交互に見た。
ササラは見た目ではやる気がないように見えるが巫女としての霊力は高い。なにがあってこうなっているのだろう。
雷太もああだこうだといいながらササラのことが気になっているのだ。
「巫女になんてなりたくなかったの。マジ無理。つらいことばっかりやって我慢して天狐にいいように使われて。」
吐き捨てるササラの目に突然憎悪と怨嗟の火が渦巻いた。その暗い色に月子と雷太が息を飲む。
「わたしはわたしの好きなようにする。」
ササラはじっとキラキラごてごてとした自分の長い爪を見つめながら吐き捨てるようにつぶやいた。
月子はその眼差しにササラの苦しみが見える気がしてもうこれはほっとけないな、と心のなかで決意した。
「……とりあえず食べようぜ。月子の料理うまいぞ。」
明るく話を反らして、雷太はササラの皿にいなり寿司やサラダを次々とよそう。重たい空気がわずかに薄らいでササラがどこか泣きそうな顔でへにゃりと笑った。
その夜もふけ皆が寝静まった頃、ふいに起き上がった雷太は隣の部屋から細く聞こえたすすり泣きにしばらくの間そっと耳を傾けて、一人暗い部屋でたたずんでいた。