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悪魔の依頼

 退屈だ。

 非常に退屈だ。最近の血の池地獄は、現世からの観光客だらけですっかり毒気を抜かれた連中が増えた。針山地獄も同様だ。


「かんとくぅ。」

 助手のメフィストが退屈そうに私を呼んだ。

「だまれ、お前の言いたいことはわかる。俺だって題材に困ってるんだよ!」

「早くしないと、神様に愛されちゃいますよ」

 俺は唸った。まずい。あれは非常に厳しい。数週間浄化の涙が出てしまう。誤って天使にでもなってしまったらサタン様に顔向けできない。

「どうしたものか……」


 ここは地獄界。最近現世が世紀末の様相を呈してきたのもあり、大天使ウリエルが地獄の門を開けてしまった。そして現世と地獄界がつながってしまったのだ。それにより現世との国交を開いた。各界の代表がルールをきめ現世と地獄界の交流が始まった。

 俺の話をしよう。俺は生粋の悪魔で地獄界で映画監督をしている。いくつか映画を撮ったが全く成果が得られなかった。なので俺より弱い悪魔をいじめて、生命エネルギーを頂戴している毎日である。メフィストという助手がいるが、こいつは何かと使えるのでそばにおいている。

そしてなにを隠そう俺はあの現世でも有名なお方、『大悪魔 サタン』様の直属のぶかである。あの人はとても厳しく、私にも容赦がない。いい映画が取れないのでしばしばお叱りを受ける。まあ現世的に言えば、拷問と言えるかもしれない。それがまた痛気持ちいのである。非常に嬉しいのだか、なんとも嫌なのが神の愛である。あれを受けとるくらいなら死んだほうがマシである。あいつは『そのままでいいんですよ』と言う。『ありのままの貴方を愛しています』と言う。カーペッ。むしずが走ってたんも吐きたくなる。

 まあそんなこんなで次回作を構想中である。


 現世との交流でいくつかの価値観や技術、サービス等が地獄界にも取り入れられた。

 ここ『JIGOKU NET』もそのひとつで、ネットカフェと言われるものである。

 私はパソコンでポルノを観賞しているとメフィストがまたうるさいことを言う。

「かんとくぅ。それって題材探しですか?」

「いや、俺の趣味だ」

「現世の女優ですか?」

「まあな。なかなかいいぞ」

 画面の中では男女がまぐわっている。


「飽きた」

 不思議なものでこういったものは長時間見てると飽きるものだ。メフィストはシャワーを浴びに行った。本当にシャワーかわからないが。

 退屈になってきたので『ようつべ』を開く。『ようつべ』とは動画投稿サイトだ。投稿されている映像は無料で見れる。

 なんとなく色々クリックいると、あるロックバンドの動画にたどり着いた。

 なんだこの人間たちは! このバンドは何者だ! なんでこんな音楽を奏でられるんだ!

 そして私に更なる衝撃が走った。


 クラウドレイン 地獄ツアー決定! 詳細は後日発表! 


「これだ!」

 私は立ち上がり叫んだ。


「早くしろ、メフィスト。記者会見が始まってしまうではないか!」

「待って下さいよ、かんとくぅ」

 メフィストは半べそをかきながら俺のあとにつづく。

 ここはクラウドレインの地獄ツアー記者会見会場だ。我々は招待状を持っていないのでハンディカムを持って突撃取材をかんこうしようと言う魂胆である。

「彼らが見えるかメフィストよ」

 メフィストはハンディカムで遠くから撮影している。

「はい。なんとか」

「よし、では出てきたところで突撃だ! ん?」

 記者会見にはもちろんクラウドレインが座っているのだが、その端にどう見ても人間でないものがいる。そいつは大きな翼を持っている、紛れも無いあのいけ好かない連中。

 そう天使だ。しかもあいつは、

「げっ、ミカエルじゃないか」

 俺が驚愕していると、記者会見が始まった。

「えー、本日は地獄、現世各メディアの方々にお集まりいただきありがとうございます。本日はクラウドレイン地獄ツアーの詳細を発表したいと思います。ではTAKU君お願いします」

 TAKUと呼ばれた青年が目の前のマイクをとる。

「どうも、クラウドレイン、ボーカルのTAKUです。まあ今回俺たちが地獄に来たのは他でもない、世界を制覇した次はやっぱり地獄界でしょということなんでまあそんなとこであとは俺たちのロックを聞いてくれればわかります。まあ以上です」

 進行役の悪魔がマイクをとり、

「詳細っていっても、地獄の要所をまわるので、その場所の発表ですかね。まずしょっぱな

は地獄の門です。その次に七大地獄をまわって最後はサタン様の前でしめですね。まあそんな感じです」

 なんとの大雑把な詳細である。次にミカエルがマイクをとった。

「こんにちは天使長のミカエルです。皆さんにはお世話になっています」

「帰れー! ここをどこだと思ってんだ!」

 悪魔の記者から野次が飛ぶ。

「私は今回のツアーの発起人であります。なぜこのようなツアーを企画したかと申しますと、そろそろいいのではないかと、地獄界の皆様と手をとっていけるのではないかと思いまして今回のツアーを企画しました。なぜロックなのかと言うと、彼が好きなのですね。彼と言うのはサタンですね。彼はロックが非常に好きだと聞きまして、今回この方々、クラウドレインさんにお願いしました。この方達は現世でも絶大な人気があり、天使の中でもファンが多い。この方達なら我々をつないでくれるものだと判断しこのようなツアーとなりました。」

 ミカエルは悪魔の記者たちが投げるボールペンや何やらをかわしながら説明を終えた。

「まあ、こんなとこですかね。日程は現世時間で一ヵ月後です。以上!」

 進行役の悪魔はそう言うと立ち上がり、会場を後にした。その後ろにミカエル、クラウドレインがつづく。

「行くぞ! メフィスト!」

 我々は彼らに突撃取材をするためにあとを追った。


 先ほど記者会見を終え、控え室に入ろうとする一行を遠くに確認して、我々はカメラを向けた。

「すいません。ちょっとよろしいですか?」

 一瞬一行は驚いた表情を見せた。そこへすかさずミカエルが割ってはいる。進行役の悪魔が言う。

「なんだ、君達は。どうやって入った」

 俺はかまわずマイクを向ける。

「クラウドレインさん。我々は映画を撮っているものでして、あなた方のドキュメンタリーを撮らせてもらいたいのです」

「聞いているのか! 君達!」

「おもしれぇ。いいぜ」

 ギター担当のマイケルが言った。

「ですが……いや、ここでは決められない」

 進行役の悪魔が言った。

「じゃあ名刺を渡しときますんで、また連絡ください」

 我々は名刺を渡すと一目散に帰っていった。


 ここは地獄風呂。1080℃の赤いマグマの風呂である。

「うーん」

「……」

「連絡はまだか、メフィスト」

「まだですね。やっぱり無理なんじゃ……」

「ばかもん。ここであきらめたら映画監督失格だ」

 脱いで置いてある俺のズボンのポケットの携帯が鳴った。

「よっしゃきたー。だから大丈夫と言っただろう」

 俺はズボンに手を伸ばし、携帯をとる。

「はい、もしもし。いやーお人が悪い。我々をこんなに待たせて。食べちゃうぞなんてね」

〈俺を食べるとはいい度胸だな〉

「へ?」

〈俺がわからんとは、もうろくしたもんだなベリアル〉

「サ、サタン様!?」

 俺は思わず立ち上がり直立不動になった。

〈今しがた神から連絡が入った〉

「へ?」

〈ミカエルが神にお前らの件打診したようだ。クラウドレインのドキュメンタリーを撮らせてくれるそうだ〉

「マジすか?」

〈がっはっはっ! あのミカエルがお願いしますだとよ、なんと気分のいいことだ〉

「は、はあ」

〈まあ、うまくやれや。じゃあな。また連絡する〉

 そこで携帯はぶつりと切れた。


 俺はさっそく頭を抱えた。

「ドキュメンタリー撮ったことねえ」

 俺の苦悩のその横でメフィストはパソコンでようつべを見てげらげら笑っている。

「げらげらうるせえ!」

 俺は机の上のコップをメフィストの見ているパソコンに投げつけた。

「あー。PCがぁ」

 メフィストひびが入ったパソコンの画面をみてしょんぼりした。俺は風呂から上がり、机の上の缶ビールを一気に飲み干した。

「だめだ。寝よ」

 俺は映画の構想をあきらめ座っていたソファーに横になった。

「じゃ、いい案思いついたら起こしてくれ」

「かんとくぅ。自分で考えてくださいよぉ」

 メフィストが俺を揺さぶる。しかし無視だ。わからんものはわからん。

「ちぇ」

 メフィストはあきらめたようだ。だがなにやらカチャカチャうるさい。どうやら壊れたパソコンをいじってるらしい。うるさい。非常にうるさい。

「うる――」

 ガシャーーーーン!!!!

 俺が怒鳴るか怒鳴らないかのタイミングでどでかい音が後ろで鳴った。振り返ると、部屋の壁から車が半分出ている。突っ込んだようだ。

「ななな、なんだ!?」

「うひゃーすげー」

 各々が声を上げると、車から男が降りてきた。

「よっ。ベリアル、メフィスト」

 でっぷりした腹にモヒカン、作業服姿の男が降りてきた。

「あ、あ、バールのおやじ!」

「撮ってるか。ベリアル」

 バールのおやじが言った。

「普通に来てくださいよ。ああ、壁が……」

 引っ越したばかりの壁に大穴を空けられ俺はがっくりきた。

「酒はあるか?」

 バールのおやじは会って早々酒を要求した。

「はいはいはい」

 メフィストはいそいそとウォッカを注いだ。バールのおやじはソファにどかっと座りウォッカを一気に飲み干した。

「くう、うめえ」

「なんか用すか。おやじ」

 メフィストがウォッカを注いだ。

「単刀直入に言うが、お前に頼みたいことがある」

バールが言った。

「なんすか、いまそれどころじゃ……」

 とベリアル。

「まあ聞けや」

 おやじはウォッカをあおると、続けた。

「お前、こんどバンドのドキュメンタリー撮るだろ。そこでだ。地獄側のスパイをしてもらいたい」

「スパイ?」

「そうだ。まあ、サタン様はそのなんとかレインが気に入っているらしいから何も言わんが発起人があのミカエルだ。あのいけ好かない正義ぶっている男だ。隙を見て俺たち悪魔族を叩く気だろう。そうはさせない」

「しかし、俺は単純に映画を撮りたいだけなんですが」

 おやじは拳で机を思いきり叩いた。

「ばかやろう! それでも悪魔族のトップであるあの大悪魔サタン様の直属の部下か! お前にはこれを断ることは出来ないぞ。見ろ!」

 おやじは懐から丸まった紙を取り出し、広げ俺に見せた。

 そこにはなにやら文字が羅列してあり最期にサインが書いてある。

「これは……ルシファー様のサイン」

「そうだ、あの調停者であるルシファー様のサインだ」

 調停者とは人間界で言うと元老院のようなもので、地獄界全体を調節している。ある意味サタンよりも権限を持っている。

「ちなみにこれはサタン様は知らない」

 おやじは言う。

「それって……」

「みなまで言うな」

 俺はつばを飲み込んだ。それはつまりルシファー様の裏切り。

「無理無理無理!」

 おやじ俺の肩をぽんと叩き、

「諦めろ。これを断れば、お前はこの地獄界から出て行くしかない」

 おやじはすっくと立ち上がると乗ってきたジープに乗った。

「頼んだぞ。状況は逐一報告してくれや」

 返事を聞かずに、ジープに乗って行ってしまった。

「そんなあ……」


 クラウドレインはツアーに向けてリハーサルを繰り返していた。その様子を我々は撮影している。俺の頭はスパイのことで頭がいっぱいだった。それに輪をかけたのが天使の連中である。やつらは五人ほど我々と一緒に彼らの演奏を観ている。悪魔である我々が関わるということで天界側も天使を動員したのだと言う。

 俺は演奏中のクラウドレインの邪魔をしないように天使達に近づき、

「悪いが端に寄ってくれないか。カメラに写ってしまうんだよ」

 天使の一人がむっとしたが、五人は端に寄った。

 天使といっても色々である。我々悪魔に対して好戦的なものもいる。全部が全部いわゆる人間が想像している穏やかで優しげなものばかりではない


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