嫁ぐ日 2
主人は愛知の出身で、私は大阪だった。地元を離れてみたい、違う景色を見てみたいと主人は県内の大学ではなく大阪の大学に、私の母校に来たのだ。彼は1つ先輩だった。私たちは出会って5年目、11年前の6月3日に結婚式を挙げた。
全部の荷物を積み終えると、父は
「もう荷物ないか? まあ、あってもええわ。足りんモンあったら電話せぇよ。送ったる」
母は出て来なかった。出てきたのだが父に窘められて渋々出てきたのだ。涙に濡れた顔を娘であっても見られたくなかったのだろう。
「ほな、行くね」
あぁ元気にな、と短く父は言った。
母の事も少しはあったが最後まで普段の父だった事に涙があふれた。
「ありがとうございました」
お辞儀をすると、長くしていた髪が両方の肩からすべり落ちた。
「シュッとせぇ、あちらさんにそんな顔見せるンか」
「せやね。どっかサービスエリアででもメイク直してくわ」
私は涙の頬を拭い、笑顔を作って見せた。ある晴れた7月の土曜日。
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「夜まで降ってるかなぁ。ねぇ、ママ」
「そうだといいね。パパは車大変かもしれないけど」
今年はあえて主人とは話し合っていない。僕が買っておくよと言っていたので私はノータッチだ。1人5000円未満だよと念は押しておいた。
「光希パパ遅くなるよ。お風呂入っちゃおう。洗い物のお手伝いしてくれる?」
「いいよ」
同意すると自分のシチューに使ったお皿とスプーンを流しまで下げてくれた。自分の分だけ洗ってと頼む。めぐも、と恵も手伝いたがったので私と一緒に運ぶ。よいしょ、よいしょと口に出してしまうのがまた可愛い。
洗い物を流しに置き、先に私はお風呂の準備をする。洗い物は光希がお風呂に入っている間にできるだけ済まそう。主人の分の食器は明日だ。
大学に入ってから、クリスマスは家族の日ではなくなった。恋人のいる子はそちらを優先したし、私も友人との時を過ごした。聞くところによると、そんなもんだと思っていたのはやはり父の方で、門限11時には帰って来なさいとだけ言った。私は家族が嫌いになったわけではなく、門限などなくても常日頃夜のドラマが始まる前には帰っていた。ドラマが見たかったというのもあるけれど、帰る場所はいつもここだったから。その年も家族の予定より先に友人の誘いに乗ってしまっただけだった。奇しくも翌年からは恋人の日になってしまったけれど…。