嫁ぐ日 1
「しいちゃんママはお洋服作るの、上手だもんね」
「ママはできないの?」
光希君、お母さんの心の傷をえぐらないで下さい。あのごわごわの手袋を君も知ってるではありませんか
「お母さんもね、自分のお洋服作ろうかと思った事あるのよ。だけどお裁縫は全然できなくて、猫のおばあちゃんに辞めなさいって言われちゃったの」
猫のおばあちゃんは猫を飼っている私の母、本のおばあちゃんが主人の母、国語の教師だったという。
「猫のばあちゃんに作ってもらえば?」
「猫のばぁば作れるの?」
その間にもシチューを口に運んでくれる。恵もこぼすと「落ちちゃった」と教えてくれるので「教えてくれてありがとね」と言いながら、さらに汚す前に処理に当たる事が出来る。
「今度聞いてみようね、猫のおばあちゃん」 うん、と大きく頷く娘を見ながらこんな笑顔を毎日見ていたい。そう思った。
今日の天気はやはり雪を連れてきてくれた。主人は大丈夫だろうかと思いながら、子供たちと一緒に絵本の国へ入ってしまったように窓の外を眺めた。私が覚えている最初のプレゼントもこんな感じだった。
振ると雪が舞う雪だるまのスノードーム。キラキラしてるわけでもないのにとても綺麗で何回振ったことだろう。いつしか置き場所に困ってどこかにしまったはずなんだけど分からなくなってしまった。嫁ぐ時に部屋を整理していて、当時大切なものは何でも入れる宝物箱と一緒に段ボールにしまってあった。
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「その箱の事も忘れとったやろ?」
手伝ってくれている母は言った。
「あない大事にしとったんやもん、ちゃんと仕舞っとかなと思て」
「結果、忘れたんや。感謝しぃ? ほかさんといてあげたんやから」
「そうかぁ、こないなトコにあったんやねぇ。これお父ちゃんやんな、くれたん」
「そうや、バブルやっちゅうに家お金がなかったからな。おもちゃ買うンも一苦労やってんで」
「家、お金なかったんかいな。よう気付けへんかった」
「幸せならな、お父ちゃんも悲しむわ」
「ふっ、お父ちゃん死んでへんよ。外で荷物運んでるやん」
「知っとるわ」
そんな事を言う母が実は一番私が出ていくのを寂しがっているという事もよく分かっていた。