ナナイロタウン
私がそれに気付いたのはいつの事だっただろうか。何も父が着替えているところを目撃したわけではない。両親が白状したわけでもない。それでも今こうして自分の子供たちのためにクリスマスの日の食事を整えている。
「ほら、シチューよ」
今日は手間を惜しまずクリームシチューにした。チキンも買ってあるから相性は良いはずだ。シチューだぁ、温まるよね、とお姉さんを気取りたい5歳の恵が言う。
「そうね。テレビで食べてるもんね」と私は冬恒例のテレビCMを持ち出して相槌を打つ。
「お父さんは?」
「お父さんはお仕事だと思うよ。コウキたちが起きてる間には帰って来られないかもしれないね」
兄の光希も9歳になりサンタさんの存在がどうというのもそろそろという頃だ。
主人は居宅型のヘルパーステーションで現場ヘルパーとして働いている。利用者さんのお宅に伺って支援するのだ。スケジュールは教えてもらってないけど、支援がなければ事務仕事があるようだし、支援があれば当然遅くなる。大抵夜の9時、10時だ。私たちが恋人時代のようなひと時を過ごせたのも近くて4年前だった。子供たちはまだ小さく早くに眠ってしまったため久しぶりに2人でシャンパンを傾け合った。
「恵はね、プリキュア」
「くれるといいね。プリキュア」
「ナナイロタウンのだよ? ハッピーとかピースとかみんないるの」
「そう、楽しそうね」
彼女の言う“ナナイロタウンの”というのは「夢のプリキュアナナイロタウン」というおもちゃでいわゆるドールハウスのようなもの。それだけで6000円近い。インターネットで2500円ほどだけど、どこか気が引けた。
キュアドールが勢ぞろいで飾ってあって、恵はキュアドールが付いてくると思っているらしく、人形ごっこがしたいとおもちゃ屋さんで見つけて以来欲しがっている。けれどキュアドールは全部別売りで1体1200円ほどする。我が家にそんな余裕はない。
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今年は前々からホワイトクリスマスになると言われていた。めったに雪の降らないこの街にもやって来ると言う。
「いただきます」
恵が食べ始める。TVを付けない我が家だけど恵がいろいろと話してくれる。お行儀は少々問題だけれど。フランスでは問題ない…ハズ。
「しいちゃんはね、サニーのお洋服だって。しいちゃんママがね。作ってくれるんだって」 まだプリキュアから離れない様子の娘だった。