ナンパ泣かせ
紅桜です。
この小説は私が書かせていただきました。
お楽しみいただければ、何よりです。
夏の日差しが降り注ぐ人の波の中、目的のカフェへと歩く。うちわを持ち仰ぐ人、汗を拭う人、ぱたぱたと服に風を入れる人。…みてる方が暑くなる。もう少し涼しげに振る舞えないんだろうか。
「ねぇ君。……ねぇったら。ちょっ聞いてる?水色のワンピースの君?!」
……私だろうか。まわりに他に水色のワンピースいないし。
振り向いた先には…少年?男性?兄と同じくらいだろうか。多分、高校生くらいであろう男の人が数人いた。
「あぁ、やっと気づいてくれたか。もしかして自分だと思ってなかった?」
「はい。知り合いの声ではなかったので。何か御用ですか?」
その問いかけに答えたのは先ほどとは違う人物だった。…チャラい。
「いっやぁ、美人さんだなあ、と思ってね?まぁ、いわゆるナンパ、ってか。って訳で僕らと遊ばない?一人でしょ?」
「ちょ、そんな誘い方して来る子いないよ、アホ。えっと、まぁこの馬鹿は無視してくれて構わないんだけど…。君、可愛いなって思ったんだ。だから声かけたんだけど、今からとか、空いてるかな?」
少し、期待してた。滅多に見かけない程の美人で、だけど遊び慣れてはいなさそうな、女の子。珍しいくらい俺の好みで、これまた珍しく俺が声をかけた子だった。だけど…。
「今からとか、空いてるかな?」
「…趣味悪いって言われませんか?」
「はぁ…?」
返ってきた返事は完全に予想外で。随分と間抜けな声を出してしまった。いやだってこんな綺麗な子に声かけて趣味悪いって言われるなんて、しかも本人に。
「え?あの、えっと…」
「特に御用もないようなので失礼しますね。」
何と言うべきか迷って口ごもっている間にさっさと行ってしまった彼女は、あっという間に人ごみに紛れて見えなくなってしまった。
グラスが二つにお菓子の入った大皿の乗ったお盆を持ち、階段を上がる。
「美蓮、玲也のとこにお茶とお菓子持ってって〜!」
なんて。全く人使いの荒い母親だ。
「兄さん、開けるよー。」
そう声をかけると1ミリの迷いも遠慮もなくドアを開ける。お盆を片手に持ち替え、わりと重いそれを落とさないように気をつけて。ガチャリ、その音の一瞬後、中にいた人物と目があった。…あ。
「君は…!」
「この間の趣味悪い人。兄さんのご友人だったんですね。」
その人物の言葉をさえぎり言った私の言葉に、兄は一瞬きょとんとした後に、ふと何かを思い出したような顔をし、そして…大爆笑した。
「なに、兄さん。」
「いやっ。裕也から受けた相談の、原因がっまさか、お前だとは、思ってなかったから、あははっ」
「はぁ?」
つまり、こういうことであった。
兄さんの友人、裕也さんが私をナンパしようとしたが私は断った。…あれって断ってたんだ。で、裕也さんが「俺って趣味悪いのか?」と兄さんに相談をしている最中に私が入って来たらしい。それで兄さんはそれが私の事だったと分かって大爆笑、と。
「俺は、裕也の趣味は悪くないと思うよ?美蓮、モテんじゃん。」
「…そうだっけ?」
「相っ変わらず自覚ないのなお前。…よし、裕也。」
「…んだよ。」
「美蓮を幸せにしてやってくれ。」
「「…はぁ?」」
裕也さんとついハモってしまった。兄さんは一体なにを言い出すんだろう。…ついに狂ったか?
「声でてんぞ美蓮。狂ってねーわ。つか、あれだろ?お前モテるんだから一度くらい彼氏作ってみろよ。案外楽しいかもだろ?で、俺的には裕也はいいやつだと思うし…」
そこで一度言葉を止めた兄さん。なにを言い出すかと思いきや、
「お前にメロメロのようだから。」
そう言ってにやりと笑った。裕也さんを見ると少し顔を赤くして焦ったような顔をしていた。…本当なんだ。その事実も、この展開も予想外過ぎて頭がうまく働かない。…でも、
「まぁ、そうだね。案外、楽しいかもだから、試してみる価値はあるよね。」
そんな可笑しな展開から始まった交際は、はてさて吉と転じたか凶と転じたか…。
お読みくださりありがとうございました。
ご感想などいただければ、今後の参考にさせていただきます。