表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
636/637

#636 エピローグ、そして次世代もスマートフォンとともに。

■三話投稿しています。ご注意を。





「会って挨拶をするだけだ。そこまで緊張することはない」

「は、はい。お祖父じい様」


 お祖父様はそう言うが、緊張するなという方が無理だと思う。

 我がブリュンヒルド公国の建国者にして、初代公王陛下である望月冬夜様。数々の伝説として語られるその人にまさか会うことになるとは。

 僕の名はコウヤ・ブリュンヒルド。国内名は望月もちづき煌夜こうや。先日、十五歳になり、成人の儀を済ませたばかり。

 その日の夜、父上とお祖父様に呼ばれ、ブリュンヒルド公王家に伝わる秘密を明かされた。

 なんと初代様は今も生きているという。天に浮かぶ島で、今もこの世界を見守っているんだとか。

 ブリュンヒルド公国が建国されて、すでに三百年以上が経つ。父上ですでに十四代目の公王だ。

 初代様は長命種だったのですか、と尋ねると、どうも違うらしく、神々に迎えられたとのことだ。もうわけがわからない。

 記録上、亡くなったことになっているが、公国を継ぐ者には、こうして一度は面会をすることになっているらしい。なんでもその資質を試されるのだとか。そんな話を聞いて緊張するなってのは無理ってものだ。


「そもそもその資質が無いとワシらが判断したなら、初代様の話なぞせんよ。お前なら大丈夫と判断したから話したのだ。おそらく初代様もそれを知っている」


 え、なんでもお見通しってこと……? さらに不安が増したんですが……。

 結局、緊張が解けないまま、お祖父様について行くと、城の中庭へと出た。こんなところに初代様が来るの?

 お祖父様が懐からスマホを取り出し、なにかメールを打っているようだった。

 次の瞬間、目の前に一人のメイドが立っているのに気づく。いつの間に……!?


「お久しぶりです。フランシェスカ殿」

「お久しぶりでス。そちラの方が?」

「はい。孫の煌夜です」


 お祖父様がただのメイドに頭を下げている。否、お祖父様が頭を下げる相手が、ただのメイドのはずがない。僕も慌てて頭を下げる。


「こちらはフランシェスカ殿。初代様に仕える十人の使徒の一人だ」

「フランシェスカと申しまス。上でマスターがお待ちになっていまスのデ、さっそく転移しまス。お二人とモ、お手をどウぞ」


 わけのわからないまま、僕はお祖父様と同じく、差し出されたフランシェスカさんの手に自分の手をのせる。

 すると一瞬にして、僕らは城の中庭から、色とりどりの花が咲き乱れる庭園へと転移していた。

 空には透き通ったドーム状の天蓋が見える。ここが初代様のいるという、空に浮く島?


「では、こちラへどウぞ」


 歩き出したフランシェスカさんについて、庭園を歩いていく。透き通ったガラスのような壁の向こうには雲海が広がり、やはりここは空の上なんだと理解する。

 こんな島は噂にも聞いたことがない。なにか外からは見えなくする、存在を隠蔽する機能でもあるのだろうか。

 やがて薔薇が咲き誇る門を抜けて、開けた場所へと出ると、中央の少し高くなった場所にある、白いガゼボ(四阿あずまや)の中に、一人の男性が腰掛けているのが見えた。


「やあ。ようこそ、バビロンの『庭園』へ。僕は望月冬夜。初代公王で、君の先祖になる」


 この人が初代様? 僕より少し歳上にしか見えないし、特に特徴もない普通の青年に見える……。城にある肖像画と比べると、だいぶイメージが違う気がするな。あっちはもっとこう……凛々しかったというか。


「君もそうだったけど、なんで初めてここに来る子はみんなしてそんな顔をするかなあ」


 僕の微妙な表情を見て、苦笑いしながら初代様がお祖父様にそんなことを口にする。お祖父様も同じく苦笑しながら口を開いた。


「申し訳ありません、おそらく城にある肖像画のせいかと」

「やっぱりか。ほらあ、だから盛らない方がいいって言ったじゃん……。ああいうのは普通の姿の方がいいんだって」

「ずっと残るものなんですよ? やっぱりちゃんとしたのを残したいじゃないですか。歴代公王しかバレないのですから問題はないはずです」


 いつの間にか、初代様の横に綺麗な女の人が立っていた。長い金髪が風に揺れる。こちらを向いたその双眸は、左右で色が違っていた。右目は蒼で左目は翠。

 疑問に思った僕は、お祖父様に小声で尋ねてみる。


「あの方は……?」

「我らブリュンヒルド王家の祖、ユミナ公妃様だ」


 ユミナ公妃……!? 初代様を支えた九妃の一人にして、我が王家の御先祖様……!?


「は、初めまして、初代様、ユミナ公妃様。望月煌夜と申します」

「初めまして。望月ユミナと申します。貴方の遠い遠いお祖母ばあちゃんです」


 お祖母ちゃん……。い、いや、確かにそうなのかもしれないけど、違和感が半端ない。だってうちの母上より若いんだもの……。

 ふと、公妃様の後ろを見ると、テラスのようなところで円卓に座り、お茶を飲んでいる八人の女性が見えた。ひょっとしてあの方々が残りの九妃様たちなのだろうか?


「次代の国王さんは髪が黒いんですね」

「ええ、こやつの母親がイーシェンの出だったもので」

「ふふっ、若い頃の冬夜さんにそっくりです」


 初代様にそっくり? 僕が? そうかなぁ……? 何年かしたら、僕も目の前の初代様のようになるのかな?


「で、どう?」


 初代様の言葉に公妃様の眼がこちらへと向けられる。さっきまでとは違った真剣な眼で、じっ……と見られていると、なんともいたたまれない気持ちになる……。何もかも見透かされているようで……。ず、随分と長く見られているけど、いったいどういう……。


「ふふっ、問題ありませんね。さすが私と冬夜さんの子孫です」


 笑顔に戻った公妃様に、なんかわからないけど、ホッとした。


「良かったな。これでお前は次代の公王として認められた。ワシも同じことをされたから、その気持ちはわかるぞ」


 お祖父様も同じことをされたのか……。これって公王になるための儀式なのだろうか。


「貴方は彼よりもガチガチに緊張していましたね。ずいぶんと落ち着きが出たようで」

「それはまあ……。四十年も経てば少しは、ですな……」


 珍しい。お祖父様があたふたしている。どうやらお祖父様も公妃様には頭が上がらないようだ。


「さて、『看破の儀』も済んだところで、新しい公王子にプレゼントをしよう」


 初代様がそう言うと、フランシェスカさんが白い小箱を持って僕の前に歩いてきた。

 差し出された小箱を受け取る。思ったより重い。なんだ、これ?


「開けてごらん」


 言われるがままに小箱開けてみると、中にはピカピカで新品の黒いスマホが入っていた。


「これは……!」


 僕の持っているスマホと、というか、今出ているどのモデルとも違うものだ。最新機種? というか、これって……!

 思わず視線を向けた僕にお祖父様が重々しく頷く。


「そうだ。ブリュンヒルドで作られるスマホは、すべて初代様のいるこの島で作られている。この事実は公国でも限られた人物しか知らぬ。お前も決して口にしてはならんぞ?」


 やっぱり。ブリュンヒルドから販売されるスマホはどこで作られているのか、誰も知らなかった。公子である僕でさえ。

 ブリュンヒルドのトップシークレット。長きに渡り、他国がその秘密を暴こうとあの手この手で諜報員を送り込んできたが、これはわかるはずがない……。


「そのスマホは成人祝いだよ。今までにない機能が搭載されていて、既存のスマホより性能が格段にアップしている」

「性能がアップ……? カメラ機能とかが良くなったとかですか?」

「いやいやいや、カメラなんて性能を上げても、さほど変わらないでしょ。そのスマホはね、属性を付与してある。それを持っていれば、適性がない者でも魔法が使えるようになっているんだ」

「え!? 自分の適性以外の魔法もですか!?」


 古来より魔法は適性がないと使えない。その常識を覆すとんでもない機能だ。


「火、水、風、地、光、闇の六属性を付与した、クリムゾンレッド、オーシャンブルー、ミントグリーン、コーヒーブラウン、プラチナホワイト、ナイトブラックの六色を発売する。一応、それぞれ干渉するようになっているから、二台持っても複数の属性持ちにはならないけどね」


 初代様の説明によると、あくまでも適性を補佐するものなので、持っていればすぐに魔法を使えるという機能ではないそうだ。やはり、勉強や訓練が必要になってくるらしい。それでも魔法を諦めていた多くの人たちには救いのアイテムとなるのは間違いない。

 あ、それで僕にこのナイトブラックのスマホを?

 僕は闇属性以外の全ての属性に適性がある。だから実は闇属性の召喚魔法に憧れていたのだ。

 このスマホがあれば憧れの召喚獣を呼べるかもしれない。そう思うとワクワクしてきた。


「何よりの祝い。大切にします」

「うん。そのスマホを使って、次世代もよろしく頼むよ」


 そう言った初代様の手には同じような黒いスマホが握られていた。



          ◇ ◇ ◇




『まもなくブリュンヒルド、ブリュンヒルド〜。 お出口は右側となっております。ベルファスト王国へお向かいの方は……』


 魔導列車のアナウンスを聞きながら、私は頭上の棚に置いてあった荷物を下ろし始めた。どうやら着いたみたい。

 故郷であるエルフラウ王国からレグルス帝国を抜けて、やっと目的地に到着した。魔導列車を使ったとはいえ、一日半。身体がもうボキボキだ。

 貴族や裕福な商人が乗るゆったりとした指定席と違って、こっちはすし詰めのような普通席。狭いシートが正直言ってキツい。隣のおっさんはタバコ臭いし、もう最悪だよ。

 私の名前はネロ・シルエスカ。北方の雪国、エルフラウ王国の東にある小さな町、アレンテ出身のいたって普通の十二歳の女の子。まあ、人より『ちょっぴり』小さいけれども。

 故郷を遠く離れ、ここ、ブリュンヒルド公国にある『バビロン機導女学院』に入学するためにはるばるやってきました。

 バビロン機導女学院は五年制の公立専門学校で、世界中から入学生を募っている。

 しかしそれぞれ一国につき定数五名という狭き門のため、入学できるのは本当にわずかな者だけなのだ。

 その五人に私は運良く入ることができた。今でも信じられないが、この手にある入学許可証と、学生証が夢ではないことを教えてくれる。

 棚から下した大きな荷物をよっこらしょと背負い、停車した魔導列車から足を踏み出し、駅のホームに降り立つ。


「ここがブリュンヒルドかあ……」


 エルフラウの魔導駅舎よりも大きくて煌びやかな駅に私はしばし目を奪われる。さすがは世界一の魔導都市。あらゆるところに魔導具が使われている。


「えっと、改札は……あっちか」


 私は大きな荷物を背負いながらトコトコと歩き、スマホをかざして改札を抜けた。

 駅舎から出ると、大きな通りの先に中央公園が見えた。そしてさらにその先にある桜並木の続く道の果てに白亜のお城が見える。あれがブリュンヒルド城だ。

 不意にどこからか透き通るような歌が聞こえてきて、私はキョロキョロと視線を彷徨わせる。

 よく見ると、今出てきた駅舎の壁の上の方に、大型の霊子映像エーテルビジョンが取り付けられていた。

 遠方や記録した映像が映し出される霊子映像エーテルビジョンは、今やそう珍しいものではない。

 昔はそれこそ国で管理して設置してたそうだけど、今ではちょっとしたお金持ちならみんな持っている。こうして街中にあるのは珍しいけれども。

 霊子映像エーテルビジョンにはフリルの付いた衣装で歌って踊る、桜色の髪をした女の子が映し出されていた。

 確か最近売り出し中のアイドルだっけか。お姉ちゃんが夢中になって話していたけど覚えてないや。

 ……ふーん、けっこういい歌だな。

 しばし聴き入っていた私だったが、はっ、と我に返る。


「いけない、いけない。それより学院は……っと」


 私は霊子映像エーテルビジョンから目を離し、懐からスマホを取り出して学院までの地図を表示する。

 今や世界中の人たちが使っているこのスマホも、このブリュンヒルドで作られたものだ。

 今から三百年以上も前の、初代公王陛下が甦らせた古代技術により生まれた多目的魔導具。この魔導具の開発により、人類の発展が数千年は進んだと言われるほどだ。

 先ほどの霊子映像エーテルビジョンもこのスマホの技術を使って作られている。

 スマホは今や、市民や冒険者にとって必須アイテムになっている。こんな便利なもの、手放せないよね。

 それが初代公王陛下が世界にもたらした二大技術の一つ。そしてもう一つが……。


「あれは……!」


 城の西に二つの巨人が対峙しているのがここからでも見えた。大きい。民家を軽くこえる大きさだ。

 全身鎧を身に纏った騎士のようなその姿。あれこそが初代公王がもたらしたもう一つの技術。巨大人型汎用兵器『フレームギア』である。

 五千年以上前、異世界の侵略者により世界は未曾有の危機に陥った。その侵略者に対抗するために、1人の天才魔工学者によって生み出されたのが『フレームギア』である。

 しかしフレームギアは一度も前線に立つことはなかった。なぜなら侵略者が突然世界から姿を消し、わけのわからないままに平和が戻ったからである。

 こうして役目を果たすことのなかったフレームギアは、一度はその歴史から姿を消す。

 しかし三百年前、再び異世界の侵略者が現れた。これに対しブリュンヒルド初代公王陛下は、古代の遺産であるフレームギアを復活させ、世界の国々と連携し、侵略者からこの世界を守ったと言われている。

 その後、再び平和になった世界にフレームギアの技術が広くもたらされた。その用途は山崩れなどの災害救助から、巨獣と呼ばれる大型魔獣の討伐、そして国家間の威信をかけた『機導大戦ラグナロク』などである。

 機導大戦ラグナロクとは、各国のフレームギア数機が連携して戦い合う、大規模な擬似戦争のことだ。

 一年に一度開催され、優勝国は一年間、世界連盟の主導権を手にすることができる。

 その機導大戦ラグナロクに選手として出場するためには、ここブリュンヒルドの機導学校を卒業して、『機導者トルーパー』の資格を得なければならないのだ。

 もちろん私もそこを目指している。そのためにここまで来たのだ。


「よし! 行こう!」


 私は逸る気持ちを抑えながら、機導学院へ向けて歩き始めた。





■エピローグ・了■

(Ending Song:イセカイジュエリー)



■これにて『異世界はスマートフォンとともに。』完結です。十年以上もの間コツコツと書いてここまできました。感無量です。もともと震災で様々なものを失い、やることがなく、買ったばかりのスマホにポチポチと手慰みに書き始めた作品が、いつの間にか書籍化し、コミカライズ、アニメ化して、海外の人たちにも読まれるようになるとは思いませんでした。

語りたいことはいくつもありますが、それは最終巻のあとがきにとっておきます。


冬夜君たちの物語は一旦幕を下ろしますが、ユミナたちが女神となり、彼女たちが創造した世界を舞台に新たな物語が始まります。主人公はスラムに住む桜色の髪を持つ、小さな女の子。だけど実は……。


新作『桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜』。

これからも頑張りますので、引き続きよろしくお願い致します。


では引き続き、リンゼと桜による新作のプロローグをどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ