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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
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#618 ペンギン、そして水族館土産。





 よちよちと岩場の上を小さなペンギンが歩き回る。嘴が太く、目の周りがピンクっぽい。フンボルトペンギン、か。

 腰ほどの高さのアクリル板で囲まれたエリアが右と左にあり、左は岩場で右は水槽になっている。その二つが頭上の橋で繋がっていて、アクリル板で囲まれた橋をペンギンがよたよたと歩く姿を下から眺められるような形になっていた。


「かわいいわね」

「かわいいです……。今度ペンギンのゴレムを作ろうかしら」


 水槽の中で泳ぎ回るペンギンを見ながら、リーンとクーンがそんな話をしていた。

 ペンギンのゴレム……? メカペンギンか? なんでかね? ジェット噴射で空でも飛びそうな感じがするのは……。


「こっちのペンギンは大きいんだよ!」

「こっちのは眉毛がすごい……!」


 フレイと八雲が覗いているガラスに近づくと、中には他のペンギンより大きめなオウサマペンギンと、眉毛(?)が凛々しいイワトビペンギンがいた。

 オウサマ……王様ペンギンか。確かにペンギンといったらこんな感じのをイメージするな。だから王様なのかね?


「あれ? でも確か皇帝ペンギンってのもいなかったっけ? 別名なのか?」


 王様キングが別の国では皇帝エンペラーと呼ばれているとか?


「王様ペンギンと皇帝ペンギンは違う種だよ。皇帝ペンギンの方が頭一つ大きくて、南極にしかいないんだ」


 父さんの解説によると、なんでも王様ペンギンを発見した後に発見されたらしくて、大きな種だから王様ペンギンってつけたのに、それ以上のが見つかっちゃった。どうしよう? なら、もう次は皇帝しかないでしょう! って感じで付けられたらしい。ホントかよ……?

 ペンギンといえば南極、と思われがちだが、どちらかというと、南極で暮らしているペンギンのほうが少ないらしい。南極から少し離れた大陸にいるペンギンの方が多いとか。

 やっぱりあんな極寒の地で暮らすのは大変なんだな……。

 たくさんのペンギンたちを背景にして、みんなで写真を撮ることにする。『撮りましょうか?』と声をかけて下さった人がいたので、好意に甘えることにし、全員が写っている写真を撮った。

 父さんや母さん、冬花も入った家族写真だ。アリスも入っているけど、もう家族のようなものだし問題ない。……あらためて思うけど、多いなあ……。

 これで僕に孫までできたら何人になるんだ……? ……いや、娘たちを嫁に出す気はないから関係ないか! 久遠とアリスの子だけだろう。うん。

 王様ペンギンの横の水槽ではゴマフアザラシが元気に泳いでいた。ゴマフアザラシの子供って確か真っ白なんだよな。ちょっと見てみたかったが、この水族館にはいないようだ。

 こっちのは……オタリア?


「アシカの仲間みたいね。『たてがみ状の毛から「海のライオン」とも呼ばれる。たまにペンギンやオットセイを食べることもある……』」


 リーンがスマホで検索したのか、説明をしてくれた。こいつペンギン食べるのかよ……。それを横の水槽に置いて大丈夫なのか……? 

 僕が心配しているとクーンがなぜか薄っすらと笑みを浮かべて説明を続けた。


「『また、オタリアは一頭のオスが十頭程度のメスを集めてハレムを形成し……』」


 あれ? なんか親近感が湧いてきた。オタリアも僕をじっと見ている。お前も苦労しているのか。そうかそうか。

 

「おっ、こっちにはビーバーがいる!」


 背後から何人かの視線を感じるがスルーして、オタリアの下からアメリカビーバーのところへと向かった。毛がモコモコしてるな。

 尻尾が大きくパドルのようになっている。後ろ足には水かきもあるみたいだ。

 ビーバーといえばダムだ。こいつらは水辺の木をかじり倒し、水の流れをせき止めてダムを作る習性を持つ。そしてそのダム湖に巣を作るのだ。

 もちろん水族館ではダムなど作れないからか、ビーバーたちはダルそうにごろごろとしていた。

 なんというか野生さのかけらもない……。いやまあ、水族館育ちのビーバーなのかもしれんが。

 ビーバーって夜行性だっけか。すると今はお昼寝タイムなのかね?

 ここで『かいじゅうひろば』は終わりらしい。ここから一階に下りて初めのホールの方へと戻るのか。


「ペンギンかわいかった!」

「私はカワウソが……」

「あたしは白黒のイルカ!」


 背後から聞こえるそれぞれのお気に入りの動物たちを聞きながら階段を降りていくと、明るく開けた空間にフードコートがあった。


「ちょうどいいや。ここでご飯食べていこうか」

「いいでござるな!」

「お腹ペコペコなんだよ!」


 僕が提案すると、真っ先に食いしんぼうの八重とフレイから賛成の声が上がる。

 フードコートにはたくさんの椅子とテーブルが並び、何人かのお客さんが食事をとっていた。

 とりあえずカウンターの方へと行き、立看板にあるメニューと対峙する。

 ラーメンとカレーが多いな……。お、大海老天重なんでものもあるぞ。

 シャークナゲットにドルフィンカレー……カレーの海にご飯でできたイルカと小島。そしてエビフライのヤシの木か。凝ってるな。

 かわいいけど、子供向けっぽくてちょっと僕は抵抗がある。いや、僕も子供なんだけども。

 こっちのシャーク味噌カツ重はどうだ? サメ肉ってのは気になる。いや、こっちのとうもろこしで埋め尽くされたコーンの海原味噌ラーメンも捨てがたい……。フカヒレラーメン……!? ぬぬぬ……!

 よし! やっぱりこのシャーク味噌カツ重にしよう! サメ肉を食らうぞ!

 カウンターで注文して番号のついた呼び出しベルをもらう。人数が多いので、何人かに分かれてテーブルについた。水はセルフサービスらしいので自分で用意する。

 僕は父さんと母さん、そして冬花と座る。このフードコートは片側に水槽、反対側に外が見える長窓があり、水槽の中にはペンギンやゴマフアザラシが泳いでいた。どうやら二階の『かいじゅうひろば』から繋がっているようだ。


「ぺえぎん!」

「そうだね、ペンギンだねー」

「冬花も楽しんだみたいでよかったよ」


 母さんの横に座る冬花は、水槽の中を泳ぐペンギンを飽きることなく見ている。ペンギンが気に入ったのだろうか。


「けっこう面白かったねえ」

「大人になってから来ると、また違った見方ができるからねえ。水族館は冬花さんくらいの時に冬夜君も連れてきたことあるんですけど、覚えてないようですし」

「え? そうなの?」


 全く覚えていない……。いや、なんとなく行ったような気がするけど、何を見たかとか全然覚えていないな。


「冬花さんと同じように初めははしゃぐだけはしゃいでいたんですけど、後半は疲れたのか半分眠ってましたからね」

 

 寝てたのか……。それで夢とでも勘違いでもしたのかね……? 水族館の中は幻想的だから、子供の目には不思議空間に映ったのかもな。

 そんなことを考えているうちに呼び出しベルが鳴ったので料理を取りにいく。

 シャーク味噌カツ重はお重に入ったご飯の上に、小さなカツが四つ載っていて味噌ダレがかかっている。味噌汁もついていた。こりゃ美味そうだ。


「いただきます」


 まずはメインのカツに食らいつく。これがサメの肉か。淡白で白身魚のような味がする。それが味噌ダレと相まってちょうどいい感じだ。ご飯も進む。

 味噌汁も美味い。少しくどくなりそうな味噌ダレの味を洗い流してさっぱりさせてくれる。これでまたカツに挑める。

 目の前では冬花がドルフィンカレーにはしゃいでいた。

 なかなかスプーンをつけない。かわいいご飯のイルカにためらっているのかと微笑ましい気持ちなる。


「だう」


 ……と思ってたらイルカの頭がスプーンのギロチンに無慈悲に切り落とされた。カレーの海にイルカの頭が沈む。おおう……。

 カレーにまみれたイルカの頭を冬花がスプーンで掬って口へと運ぶ。


「おいち!」

「美味しいかい。よかったねえ」


 パクパクとカレーライスを食べる冬花の口元を、母さんがナプキンで拭う。子供向けの甘口カレーらしく、冬花はカレーが気に入ったようだ。

 僕の隣の父さんは僕が悩んだコーンの海原味噌ラーメンを食べていた。まるでコーンで蓋をしたように黄色しか見えない……。すごい量だな……。確かにコーンの海だわ。

 ふと横を見ると、ルーはフカヒレラーメンを頼んだようで、味わうというか分析するように目を閉じてもぐもぐと口を動かしている。

 フカヒレってそれ自体は味がないんじゃなかったっけか……? まあ何かしらの味はつけられていると思うけど、それがフカヒレの味と勘違いしないだろうか。後で教えとこう。


「ごちそうさまっと」


 シャーク味噌カツ重を食べ終わり、食器返却口へと戻す。なかなか美味かった。城での食事にサメを取り入れるのもアリだな。

 みんなが食べ終わるまで少しばかり休憩して、最後にお土産のコーナーへとやってきた。

 お菓子やグッズ、ぬいぐるみにインテリアまで、いろんな海の生き物に関するお土産が置いてある。


「ぬいぐるみ!」


 ステフがぬいぐるみが置いてある売り場に駆け出すと、久遠を除いた他の子どもたちも一斉にわーっと走り出した。


「こら、店内で走らない!」


 しかしいろんな種類のぬいぐるみが置いてあるな。イルカにアザラシ、カワウソにペンギン……え? ダイオウグソクムシのもあるの……?

 こんなの売れるのか……? と思う僕を嘲笑うかのように『いま売れています!』というポップカードが貼られている。売れてるんだ……。

 いや、デフォルメされてはいるけどさあ……。ぬいぐるみを買うのって子供か女性が多いだろうからそこに人気があるのか? 子供って虫が好きだしな……いや、それは男の子だけか?

 僕も小さい頃は虫が好きだった気がするが、大人になったらどっちかというと苦手になったな……。

 たくさんの足がついているのがどうにも……海老とかはなんとも思わないのにな……。


「ステフ、これにする!」

「私はこれ……!」

 

 ステフがイルカのぬいぐるみを持ち上げ、エルナはカワウソのぬいぐるみを抱きしめていた。

 他の子もそれぞれお気に入りのぬいぐるみを見つけたようで、八雲はアザラシ、フレイはクマノミ、クーンはペンギン、ヨシノはアシカ、アーシアはビーバー、リンネはイロワケイルカ、そしてアリスはサメのぬいぐるみを抱き抱えていた。冬花もみんなより小さなイルカのぬいぐるみを手にしている。


「久遠はいいのか?」

「僕はぬいぐるみはあまり……それよりもこっちの方が気になります」


 久遠がチラチラと気にしていたのは、一回五百円で回せるカプセルトイだ。中には精巧な南極の生物のフィギュアが入っている。

 コウテイペンギン、イワトビペンギン、アデリーペンギン、シャチ、ヒョウモンアザラシ……かなりリアルなフィギュアだな。これはちょっと僕も欲しい。

 両替機で五千円分を崩し、久遠と二人五回ずつ回すことにする。

 結果、久遠は一個も被らず、僕は久遠が持っていないフィギュアが二つ被った。なんでやねん。

 もちろん大人ですから(?)、被ったのは久遠にあげましたよ? それでコンプリートできた久遠は喜んでいたし、問題ない。うむ……。

 子供たちはぬいぐるみやおもちゃなどに興味津々だったが、奥さんたちはお土産やグッズ、アクセサリーなどに興味があるようだった。


「このマグカップかわいいわね。リンゼ、一緒に買わない?」

「お姉ちゃん、こっちのペンギンストラップは?」

「あ! それもいいわね!」


 と、グッズ売り場の方ではエルゼリンゼ姉妹が、


「ルー殿、こちらのフカヒレスープなんか美味そうでござるが……」

「八重さん、完熟牡蠣のオイスターソースなんてものもありますわ!」

「むむっ、そっちも美味そうでござるな……!」


 と、食品売り場では八重とルーが悩み、


「こっちのクッキーは大勢に配るには良さそうですわね」

「ユミナ姉様、こっちのダイオウグソクムシスイートポテトというのが売れているようじゃぞ?」

「ううん……それは人を選びそうですが……」


 と、お菓子売り場ではユミナとスゥが話し合っていた。

 またダイオウグソクムシか……。それ、ダイオウグソクムシの形をしたスイートポテトってことだよね? 中に入ってるとかそういうのではないよね……?

 

「ダイオウグソクムシは食べられるよ……」

「え……?」


 父さんがぼそっと呟いて母さんの方へ去っていく。

 おい、マイダディ。まさか食べてないよな……? 

 興味を持つとなんでもチャレンジしたがる父さんならありえるような気もするが……。ひょっとしてマンボウを僕に食わせたのも父さんか……?

 ま、まあ父さんの不審さは置いといて、僕も城のみんなに配るお土産を買わないとな。

 しかしどうしても大勢に配るとなると、個包装のものが詰まったものを選びがちになるなあ。

 騎士団のみんなにはクッキーとかでいいか? このアクアリウムふりかけってのもアリかな……米なら異世界むこうにもあるし。イーシェン勢は喜びそうだ。

 執事のライムさんや宰相の高坂さんにはボールペンとかメモ帳なんかがいいかね? イルカのボールペンはちょっと可愛い過ぎるか?

 ああ、博士ら開発陣や、シェスカらバビロンシスターズにも買わないといけないか。買わずに帰ったら間違いなく嫌味を言われる……。

 なんだかんだでかなりの量を買ってしまった。それでもみんなで持てる量だが。

 人目のつかない場所に行ったら少しずつ【ストレージ】で収納していこう。いきなり大荷物が消えたら不審に思われるからな。

 さて、お土産も買ったことだし、あとは帰るだけだ。その前にと、何人かはお手洗いに行った。

 待っている間、子供たちや奥さんらはフードコートの壁の水槽を泳ぐペンギンを見ていた。

 なかなか楽しかったな、水族館。

 子供たちとこの思い出を語れるのは十数年後か……。未来の僕たちはそれを楽しみに子供たちの帰還を待っていることだろう。

 お手洗いから帰ってきたみんなと一緒に水族館を出る。

 最後に水族館前でみんなと写真を撮った。これも思い出の一ページになればいいな。

 駅へ向かうバスに乗り込んで、水族館を後にする。帰りのバスの中ではぬいぐるみを手にご機嫌だった子供たちも、駅に着く頃には電池が切れかかったように皆眠そうな顔をしていた。


「どうする? 一回どこかで休憩してから帰るかい?」

「いや、もう転移魔法で家まで帰った方がいいよ。向こうの駅からじいちゃんちまで歩くのもキツいだろうし」


 駅のベンチで母親にもたれながらうつらうつらとしている子供たちを見て、僕がそう提案する。人数が多いからタクシーで分散して帰るってのもアレだしな。

 とりあえず人目のつかない地下通路に向かい、一応認識阻害の魔法もかけて、監視カメラがない踊り場のようなところから【ゲート】でじいちゃんちに帰還した。

 家に着いた途端、子供たちはソファーや絨毯の上で寝てしまった。とうとう電池が切れたか。


「【レビテーション】」


 浮遊魔法をかけて、子供たちを一人一人奥さんたちに敷いてもらった布団へと運んでいく。ふよふよと浮かぶ子供たちに父さんと母さんが『おおおー!」とはしゃいでいたが。

 子供たちの中で唯一起きていた久遠も眠たそうにしているので寝るように言うと、無言でこっくり頷いて二階の階段を上がっていった。


「はー……。やっぱり家は落ち着くねえー……」


 ルーの淹れてくれたお茶を飲みながら母さんがそんなことをのたまう。いや、ここじいちゃんちで……まあ、名義は母さんになっているから間違いじゃないか。

 冬花もイルカのぬいぐるみを抱きしめてぐっすりとおねんねだ。けっこうはしゃいでいたからなあ。

 お出迎えしてくれたブランカが当然のように冬花のそばで寝転がる。


「楽しかったですね、水族館」

「やはりブリュンヒルドにも水族館が欲しいですわ」


 ユミナとルーがきゃいきゃいとそんなことを宣うが、実際に作って経営するとなると大変だと思うぞ……。


「そういや冬夜の国ってどんなところなんだい?」

「ああ、僕もそれ聞きたいなあ」

「どんなところって言われてもね。普通の小さな国だよ」


 両親が尋ねてきたので正直にそう答えたら、奥さんたちからジトッとした目で見られた。え? なにさ?


「あの、『普通の』というのは当てはまらないかと……」

「どんな大国も持ってない巨大人型兵器を何百機も所有して、失われた古代魔法技術を復活させ、大精霊の祝福を受けた国のどこが普通なのか、くわしく聞きたいわね」


 リンゼとリーンからそんなふうに大否定のお言葉をもらう。いやまあ、確かに普通……ではないかな……?


「巨大人型兵器……?」

「……なんかよくわからないけど、冬夜君が無茶苦茶やったってのはわかった」

「ひどっ!?」


 父さんの言葉に地味に傷つく。僕としては流れに身をまかせていたらそうなってた感が強いのに。


「なんかその国の写真とかないのかい?」

「一応アルバムにしたやつならあるけど……」


 実は僕や奥さんたちがちょこちょこ撮った写真をプリントアウトして何冊かのアルバムにしている。子供たちが帰った後に必要になるかと思ってさ。たぶん未来の僕たちも持っていると思うから、子供たちと見ながらこの時代での思い出を話せると思うんだ。

 分厚いアルバムを何冊かどどんとテーブルの上に置く。


「分厚いね……」

「まあ、九人もいるとね……。どうしても枚数が……」


 ああ、こっちにいるうちにデジタルフォトスタンドを買っておくか。自動でスライドショーをしてくれるやつ。

 博士に渡せば魔工式のやつを作ってくれるだろう。きっと王様たちも欲しがるぞ。


「へえ、これがお城かい? 立派なもんじゃないか。この子は誰だい?」

「メイド長のラピスさんですね。隣の人は執事のライムさんです」

「え!? こんなロボットに乗ってるの!? いいなあ、僕も乗りたい!」

「それは『重騎士シュバリエ』でござるな。一般騎士用の量産型フレームギアでござる」


 母さんたちがアルバムの写真を見ながら、奥さんたちの説明をあれこれと聞いている。

 本当に異世界むこうに連れていってあげられたらなあ。いや、連れていけないことはないんだろうけど、行ったら行ったで帰るのが一年後になるし、例のタイムパラドックスがあるからな……。世界神様に頼んだらなんとかならんかね?

 ……いやいや、一年に一度の里帰りだって充分配慮してもらっているのにこれは我儘だな。

 それに子供たちが帰った未来なら問題はなくなるわけだし。未来の僕がたぶん二人を異世界へ連れていってあげるんじゃないかと思う。冬花も……大丈夫かな? 帰ってから誰かに話したりしないよね?

 『異世界に行ってきた』なんて言ってたら、イタイ子扱いされるぞ……。

 アルバムを見て盛り上がる家族を見ながら、僕はそんなどうでもいいことを、ぼんやりと考えていた。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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