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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
603/637

#603 過去世界、そしてゴレムの本懐。





『あの日、我は二人を失っタ……。水晶の男が放った光の渦に飲み込まれテ消滅すル、二人の姿が今モ目に焼きついてイル』


 水晶の男……おそらく支配種のギラの奴だろう。ギラの放った粒子砲によってクロム・ランシェスの妻子は亡くなったとアルブスは話していた。


『我は二人を取り戻ス。ソノために様々な犠牲を払い、ここまでキタ。時を超え、二人を救ウ。誰にも邪魔はさせヌ!』

「……ちょっと待て、お前の目的はその二人を生き返らせる──というか、死なないようにする、ことなのか?」


 執念を燃やし、右手を剣に変えるゴルドに対して、僕は思った疑問をぶつける。


『それ以外に目的はナイ……! なにがあろウとも我は……!』

「お前……知らないのか?」

『……?』


 知らないとしたらこれは悲劇だ。いや、知らないんじゃない。こいつの……こいつに移植されたクロム・ランシェスの記憶から暴走後の記憶が抜け落ちている……? 記憶の移植が不完全だったのか?

 目の前にいる黄金のゴレムは、妻と娘のその後を知らずに……ただ二人を取り戻すためだけに、世界を相手にあれだけのことをしでかしたのか。


「奥さんと娘さんを失ったあと、お前が何をしたか覚えているか?」

『失った後ダと? 我は……『金』に記憶を移植し……いや、そんな記憶はナイ……? だが我にはクロムの記憶が……?』

「奥さんと娘さんを殺した水晶の男をどうやって撃退した?」

『ソレハ……それ、は……?』


 ゴルドが考え込むように動きを止める。自分でもわかってきているのだろう。人間と違い、ゴレムは忘れるということはない。その頭脳たるQクリスタルに記憶は蓄積されている。

 だからその記憶があるならば間違いなく思い出せるはずなのだ。記憶があるならば……。

 僕らは『金』の王冠は、クロム・ランシェスの暴走前に記憶を移植されたと思っていたが、ゴルドの言動からしてどうやら移植されたのは暴走後だったようだ。

 それはクロム・ランシェスが失われていく自分の記憶をなんとかとどめようとしたからなのかもしれない。

 だけどその記憶は、暴走し、奥さんと娘さんの二人が死んだところまでしか移植されていなかったのだ。

 それが意図的なものだったのか、記憶容量などの問題なのかはわからない。しかしそれが悲劇を生み出している。


「僕のところに『白』の王冠がいる。『黒』の王冠は初期化してしまったが、『白』の方は幸い五千年前の記憶を持ったまま確保できた」

『「白」と「黒」……!』

「そう。五千年前、クロム・ランシェスに付き従っていた二体だ。『白』の記憶によれば、二人を殺されたクロム・ランシェスは『白』と『黒』の能力を暴走させた。結果、フレイズ──水晶の怪物たちは次元の狭間へと追いやられ、あんたの奥さんと娘さんの死は『なかったこと』になった」

『な……ん、ダト……!』


 ゴルドが目を見開いて僕を見ている。自分のしてきたことが、全くの無駄……それどころか、すでに目的は果たされていたという事実を受け止められないのかもしれない。

 こいつはクロム・ランシェス本人ではない。その記憶を移植されただけのゴレムだ。だけど僕はどうにもこいつに同情を禁じ得ない。

 僕だって家族を目の前で失い、蘇らせるその方法があるのなら、誰が邪魔をしようとどんな犠牲を払おうともそれをやり遂げようと思うからだ。


『……我が目覚めた時、すでに千年が経っていタ……。この記憶を使い、『黒』の力で過去へ戻ろうとしタが暴走し、生み出された時の歪みにヨリ逆に未来へと飛ばされタ……』


 『黒』の力で過去に……? 【時間遡行】か。時江おばあちゃんから聞いたが、未来に行くより過去に戻る方が大変だって話だったな。

 千年も戻ろうとすれば、かなりの無理が生じるのだろう。『黒』の力が暴走して次元震が起こり、その反発でゴルドは逆に未来へと飛ばされたのか。

 そしてその暴走時にもう一人のゴルド……ゴールドが生み出された……。

 博士はクロム・ランシェスの暴走の際に『金』の王冠が未来へ飛ばされたんじゃないかと言っていたが、どうやら違っていたらしい。


 『クク……。クハハハハ!』


 不意にゴルドが狂ったように笑い出す。その笑いは僕を嗤っているようにも、自分自身を嘲っているようにも思えた。


『我は何も知らずに、全く無駄なコトをしていタというノカ!? 未来へと飛ばさレ、ソコにあった邪神の力を使って、よウやく本懐を遂げたと思えば……それは全て無駄だっタと!? そのよウな戯言ざれごと……! 我が信じルとでも思っタのか!?』

「お前……」


 ゴルドの目に怒りの炎が宿る。それは僕に対してなのか、それとも……。

 ゴルドの右腕が大きな大剣に変化する。次の瞬間、ゴルドの姿が闇の中に消えた。これはさっきの……!


「っ!?」


 殺気を感じ、身を捻るとすぐ真横を風切り音を立てたなにかが通り過ぎていく。

 すれ違いざま、ゴルドのバイザーのようなものの隙間から、赤く光る目が見えたような気がする。

 おそらくは保護色。オリハルコンスライムでできたボディ全てを黒くしているのだろう。カメラアイである目までは黒くできなかったので、バイザーを下ろしたんだな。

 全く光もない闇の中で黒のボディは視覚しづらい。


「【神威解放!】」

『グッ!?』


 【神威解放】で神気の光を周囲に放つ。浮かび上がったゴルドの攻撃を避け、手にした神器の剣銃ガンブレードでその左腕を撃ち抜く。

 神気の塊を受けたゴルドの左腕は肘から下が千切れ飛んだ。


「諦めろ。お前の目的は元々達成されていた。五千年前の世界で、クロム・ランシェスは妻と娘と共に過ごしている筈だ」


 僕はゴルドにそう語りかけるが、心の中では断言はできないと思っていた。

 ギラたちの襲撃をなかったことにしたとしても、その後、彼らがどういう人生を送ったかはわからないからだ。

 思いがけない不幸はそこらへんにいくらでも転がっている。

 娘さんが病気になって若くして亡くなったり、奥さんがその後事故で亡くなったなどという可能性だってゼロじゃない。

 間違いないのはクロム・ランシェスという男は、それまでの記憶を少しずつ無くし、やがて全ての過去の記憶を無くしてしまったのだろうということ。

 ゴレム技師である膨大な知識も、世界を渡り、手に入れた魔法知識も、そしてそれまでの大切な家族の記憶も。

 だけど、奥さんと娘さんがいたのなら、新たな記憶を積み重ねることができたのではないかと思う。

 『白』の代償はそれまでの記憶を奪うことで、その後の記憶までは奪えない。

 自分の名前を忘れても、そばに居る奥さんが教えてくれたろう。自分が何者かを忘れても、娘さんが語ってくれたのではないだろうか。

 そうしてかつての天才ゴレム技師、クロム・ランシェスではないかもしれないが、夫であり父親でもある、ただのクロム・ランシェスとして、生きていけたのではないかと……そう僕は思うんだ。

 全て僕の都合のいい空想に過ぎないが……そうであってほしいと思う。


『今サラ、それを信じられルものか! ソレが、ソレが真実ならば、我は、なんのために我はココにいル!』


 こいつのしたことは許されることではない。たとえ家族のためであったとしても、他人を犠牲にしてもいいという理由にはならない。

 だけども、僕がその立場だったなら、その選択をしなかったと言える自信はない。してはならないことだとわかっていても、その手を血に染めたのではないだろうか。

 だがそれが全く無意味なことだったと知ったなら、自分がしてきたことへの心の免罪符を失ってしまう。

 家族のために、という言い訳が無くなったとき、しでかしてしまったことの大きさを思い知る。自分はそれに耐えられるだろうか……。

 心の支えにしてきた家族の思いを裏切ったように感じるかもしれない。

 『彼』は誰かに裁いてほしいと思っているのではないだろうか。それは僕の勝手な解釈だろうか……。

 ふと、左の方が明るくなってきていることに気付く。タイムトンネルの出口が近くなってきているのだろう。僕は逆流する川の中にいるようなもので、勝手に出口へと向かっていたわけだ。

 ゴルド……クロム・ランシェスが向かおうとしたその先はやはり……。


『【空間……歪曲】』

「な……!?」


 ゴルドが翳した右腕の先に空間の歪みが生み出され、僕が驚いている間にその中へと奴は姿を消した。

 ここでの転移魔法はこのタイムトンネル内でしか移動できない。

 僕らが入ってきた入口の方に向かっても、まだ完成していないタイムトンネルでは、流れる時間の奔流によって現実世界の元の場所に戻る事はできない。それこそ【異空間転移】でも使わない限りは。

 となると……! 

 光が射す左の方へ視線を向けると、そこに現れた歪みからゴルドが出現していた。

 そしてそのまま、タイムトンネルの出口へと消えていく。

 僕が驚いたのはあいつが【空間歪曲】を使ったことでもあるが、あの状態で王冠能力を使ったことにも驚いたのだ。

 もはやあの羽根で『代償』を払うことはできない。となれば、自らの身を『代償』とするしかないのだ。

 それを使ってまで、過去世界へ戻ろうというのか。執念としか言いようのないその想いに僕は畏怖を感じる。

 とはいえ、見ているわけにもいかない。すぐさま僕はタイムトンネルの出口へと向かい、過去の世界へと躍り出た。

 どこかの森の中だろうか。ゴルドの姿はなかったが、小さな足跡のようなものが湿った土の上にある。ここに奴が出現したのは間違いないようだ。

 当たり前だがタイムトンネルの内と外では時間の流れが違う。出てきた時間の差は体感で一分も遅れてはいないと思うが、外では大きくズレているのかもしれない。

 さすがに数時間も大きくズレてはいないと思うが……。

 周囲を見回すと遠くに大きな山脈が見える。あれってゼノアスで見つけた研究所の近くにあった山脈によく似ているな。

 ここは……やはりクロム・ランシェスが住んでいた場所の近くなのか?


『ゴガァァァァァッ!』


 不意に森の奥から獣とも魔物ともつかない雄叫びが聞こえてきた。魔獣か?

 ここが五千年の前の世界だとしたら、強い魔獣なのかもしれない。

 聞こえてきたのはゴルドの足跡が向かった方だ。行ってみるか。

 【アクセル】を使い、森の中を木にぶつからないように気をつけて駆け抜ける。

 やがて森が開けた場所に出たとき、以前僕も遭遇したことのある双頭のティラノサウルスとゴルドが戦っているのが見えた。いや、あの時のより大きいし、角もあるから別種だな。ここが五千年前だとしたら僕が見たやつの原種なのかもしれない。

 右手を突撃槍ランスに変えたゴルドが、襲いかかってくるティラノサウルスに向けて突っ込んでいく。

 突撃槍ランスはティラノサウルスの胸に深々と突き刺さったが、根本からボキリと折れてしまった。


『ゴフッ……』


 胸と口から血を吐いて、双頭のティラノサウルスがその場に倒れる。同時に、ゴルドも前のめりに倒れてしまった。

 すでにゴルドのボディは崩壊を始めていた。身体の各パーツが崩れて砂のようになりつつある。ボディのオリハルコンスライムが『代償』を払っているのだろう。このまま放置しておけば、やがて機能を停止するのは間違いない。


「あ……」


 どこからか漏れた小さな声に僕は周囲に視線を巡らせる。すると、大きな木の下に一人の少女が蹲っているのを見つけた。

 歳の頃は七つか八つか……ちょうどリンネやエルナと同じくらいか。明るい亜麻色の髪を二つ結びにし、エプロンドレスのような服を着ている。

 その子を見て、僕は思わず息を呑んだ。その子は僕が見たことのある子だったのだ。

 間違いない。クロム・ランシェスの写真に写っていた子だ。するとこの子が……!

 倒れていたゴルドからその子に視線を向けていると、女の子がおずおずと話しかけてきた。


「あのっ、私が襲われそうになったとき、突然その子が助けてくれて……お兄さんのゴレムですか?」

「……君は、ゴレムを知っているの?」


 ここが五千年前の表世界ならゴレムは存在しないはずだ。バビロン博士の作ったサポートメカのようなロボットはあったかもしれないが、ゴレムという名称はなかったと思う。それを知っているということは……。


「うちにもその子と似た子が二人いるの。『アルブス』と『ノワール』っていう……。今はもう動かないけど……」


 動かない……? だとするとここは『白』と『黒』が暴走した後の世界なのか? 

 ゴルドは彼女たちがギラに襲われる前の時間に行きたかったはず……。タイムトンネル内で神気をぶつけて戦ったことで出口の時間がズレたのか。

 アルブスとノワールがすでに機能を停止しているという。クロム・ランシェスは彼らと再び契約することはなかった。

 彼らが次に目覚めるのは四千年後、ベルファスト王家の先祖である、アーサー・エルネス・ベルファストの手によってだ。

 そのアルブスとノワールを知っている。やはりこの子は……。


「僕は望月冬夜。君の名前を教えてくれるかな?」

「あっ、リューリです。リューリ・ランシェス」


 間違いない。この子がクロム・ランシェスの娘だ。

 ……タイムトンネルを抜けた先に生命の危機に瀕した自分の娘がいて、それを父親の記憶を持ったゴルドが救う。これは偶然なのか?

 ゴルドがタイムトンネルを作らなければ、このリューリという子は死んでいたかもしれない。

 これではまるで、初めから娘の命を救うために未来からやってきたみたいじゃないか。まさかこうなることも含めて史実通りだったのか? それともただの偶然なのか……?


「リューリ!」

「あっ、お母さん!」


 森の奥から若い女性が慌てたように駆けてくる。歳の頃は二十代後半。娘と同じような亜麻色の髪を一つにまとめ、肩から流している。

 倒れている双頭のティラノサウルスに怯えながら娘を抱きしめる女性。その目には僕に対しての警戒の色があった。


「あなたは……?」

「あの人は望月さん。私を助けてくれたの」


 女性の腕の中でリューリが今までの説明を始める。それを聞いた彼女は深々と僕に頭を下げた。


「この子の母のエッダと申します。娘を助けていただき、ありがとうございました。なんとお礼を申したらよいか……」

「いえ、実際のところ僕が助けたわけではなくて……」


 うつ伏せになって動かないゴルドに目を向ける。なんとか体を動かそうとしているようだが、もはや限界なのだろう。わずかに身を動かすのが精一杯のようだった。

 僕はゴルドに近づき、警戒しつつも話しかける。こいつはすでに崩壊が始まっている。……長くはあるまい。


「手を貸すか? ……最後に奥さんと娘さんの姿を見ておきたいだろう?」

『タ、のむ……』


 僕は【レビテーション】を使って、ゴルドを浮かせ、近くの木の根本にもたれさせる。


「娘さんを助けたのはこのゴレムです。僕は後から来ただけで……」

「これは酷い……。こんなに破損するまで娘を守ってくれたなんて……」


 エッダさんが息を呑むが、そのほとんどを僕がやったとはとても言えない。

 エッダさんもゴレムを知っているようだな。クロム・ランシェスの奥さんなんだから当たり前か。


「お兄さん、この子ってお名前あるの?」

「え? ああ、ゴルドだよ」


 リューリはゴルドに近づくと、ボロボロなその小さな手を取った。


「ありがとう、ゴルドちゃん。私を助けてくれて」

『リューリ……。エッ、ダ……』


 ゴルドは点滅する赤い目で二人を見ていた。やがて点滅が次第に遅くなり、フッと消えたかと思うとカクリと首を落とし、ゴルドは動きを止めた。

 完全に機能が停止したのだ。ゴレムにはスリープ機能があるが、これは違う。ゴレムの動力源であるGキューブから魔力を感じられない。


「動かなくなっちゃった……」

「もう寿命だったんだ。気にすることはないよ」


 僕はリューリに罪悪感を与えないため、わざとそうした言葉をかける。

 動きを止めたゴルドの胸部を【クラッキング】で開き、中にあったGキューブを取り出す。

 本来なら淡く緑色に光っている立方体のGキューブが光を失い、無惨にもひび割れていた。

 そしてそのGキューブの中に、禍々しい色をした小さな核を見つけた。わずかながら神気を感じる。

 こいつが侵蝕神の分体、か。

 僕はそれを取り出すと、自分の神気で包み込んで一気に圧し潰し、再生できないくらい木っ端微塵に打ち砕いた。これで世界神様からの依頼は達成だな。

 Gキューブが壊れるということはゴレムの死を意味する。休眠状態とは違い、基本的な機能などはQクリスタルに刻まれているため消えることはないが、それまでの経験、記憶は失われてしまう。

 セーブできない旧式のテレビゲームで、電源をコンセントから抜いたようなものかな? 最初からやり直しってことだ。

 Qクリスタルさえあれば、新しいGキューブを得て、ゴルドという機体を再生することも可能だが、それは初期化した状態になるということだ。

 もちろん、移植されたクロム・ランシェスの記憶など残っているわけがない。

 つまり、『クロム・ランシェスの記憶を受け継いだゴルド』という存在はたった今この世から消えたのだ。

 こいつは……最後に奥さんと娘さんに会えて満足したのだろうか……。

 いや、こいつはゴレムで本人じゃない。そもそもその記憶、感情自体植え付けられたものであり、データ上の残滓でしかないのだ。

 そう考えるとこの小さなゴレムは、過去のクロム・ランシェスという人格を演じていただけの、哀れなピエロなのかもしれない。

 だが、彼が見せた感情の発露は本物だったように僕は思えるのだ。

 機械に魂は宿るのか? どうなんだろうな……。

 

「あの、この子、私に譲ってもらえませんか?」

「え?」


 思考の海に沈みかけていた僕は、思いがけない言葉に意識を浮上させる。


「私、将来お父さんみたいにゴレムを作れるようになりたいんです。確かQクリスタルがあれば特性は受け継がれるんですよね?」


 確かにその通りだが、ゴルドの特性は後からクロム・ランシェスの記憶とともにインストールされたもので、おそらく直してもゴールドと同じく王冠能力は持たない機体になると思う。


「修理する気かい?」

「今の私には無理でしょうけど、いつか……。助けてくれたこの子が元気に動いてる姿を見たいんです」

「こいつは……特性がないゴレムだけど……。それでもいいのなら」

「ありがとうございます! 頑張って修理しますね!」


 リューリが満面の笑みを浮かべ、ゴルドに触れる。その現金さになんとなくクーンを思い出してしまった。


「あの……ゴレムにお詳しいようですけど、ひょっとしてうちの主人……クロムのお知り合いの方ですか?」

「えっと……まあ」


 知り合い、か。未来での知り合いといえば知り合いだが、相手は記憶をコピーしただけの存在だ。難しいところだな。嘘はついちゃいないが正しくもない。


「申し訳ありません、主人はその、事故でいろんなことを忘れてしまって……」

「ああ、そのあたりは存じています。知り合いと言いましても、向こうは僕を覚えていないでしょう。ここに来たのはたまたまで、彼に会おうとして来たわけではないので……」


 僕の言葉にエッダさんは明らかにホッとした表情を見せた。その様子からクロム・ランシェスの記憶はだいぶ無くなってきているのだろう。知り合いである僕のことを覚えていないとなると気まずいと思ったのかも。

 覚えていないどころか知り合いでもないからな。会うわけにはいかない。


「では僕はこれで……。御主人によろしくお伝え下さい。リューリ、ゴルドをよろしくね」

「はいっ!」


 すでにボディの大半が崩壊し、ボロボロの残骸としか見えなくなっているゴルドに目を向ける。

 もはや黄金のボディは色を失い、装甲はボロボロに崩れ落ちて、ほぼ素体のようになってしまったこの機体を修理するとなると、全く別な機体になるだろうな。

 クロム・ランシェスはこれを見て『金』の王冠だと気付くだろうか。記憶を失っていたらわからないかもしれないな……。

 こいつのしでかしたことを肯定する気はないが、こんな姿になってまで目的を成し遂げた、その覚悟だけは尊敬する。

 僕は二人と別れの挨拶を交わすと、【異空間転移】を発動し、五千年前の世界から退去した。

 じゃあな、小さな黄金のゴレム。いつか……動けるようになったなら、今度は二人をそばで守ってあげるといいさ。



 



 

 


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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