#595 転戦、そして多腕多脚。
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邪神の使徒に襲われている五国、レファン王国、ガルディオ帝国、炎国ダウバーン、レグルス帝国、魔王国ゼノアスに、ブリュンヒルドの戦力を分ける。
五国のうち、一番数が多いのがガルディオ帝国、次いでレグルス、レファン、ゼノアス、ダウバーンとなっている。
ガルディオ帝国にはエルゼ、リンゼ、リーン。
レグルス帝国にはルー、八重。
レファン王国にはスゥ、ユミナ。
魔王国ゼノアスには桜、ヒルダ。
炎国ダウバーンには僕が行く。
子供たちは母親と一緒に。……エルナとリンネはいつものごとく交換しているが。
もしものために、ノルンのレオノワールとニアのティガルージュは騎士団の半分と一緒にブリュンヒルドに残していく。
エンデはアリスがゴネたため、ユミナ……久遠と同じレファン王国へ。
バビロンのみんなには各戦場での実況報告に回ってもらう。中継ドローンを使ってヤバそうなら他から援軍を回すために。
そんな大まかなことを決めてからが大変だった。
まず僕が五カ国を回りつつ、それぞれ襲われている都市の場所なんかを、王様たちの記憶からもらう。
そして【ゲート】を開き、その国の騎士団、貸し与えたフレームギアと、奥さん子供らを現地に送るのだ。
八雲が記憶を覗ける【リコール】を使えれば手伝ってもらったんだが……。
それでも八雲だけは五つの戦場を僕とともに回ってもらい、いつでも【ゲート】で来れるようにしておいた。何があるかわからないからな。
そしてやっと僕らが転移してやってきたのは、炎国ダウバーンにあるオアシスの町・イシュギルが見える砂漠の丘の上。
砂漠にポツンとあるオアシスのほとりに広がる町が、今や阿鼻叫喚の様相を呈していた。
いたるところに火の手と煙が上がり、住人たちが逃げ惑っている。
主に人々を襲っているのは融機兵だ。数十機のキュクロプスは見えるが、山羊頭はいない。あまり数は揃っていないのか? こっちは助かるけど。
『ダウバーンの戦士たちよ! 侵略者からイシュギルの町を守るのだ! 突撃ッ!』
量産型スマホに付与された【スピーカー】によって、若きダウバーン国王陛下の号令が皆に轟く。
ダチョウのような魔獣に乗った、ダウバーン戦士団が曲刀を抜き放ち、砂漠を駆け抜けてイシュギルの町へと進軍した。
その後方からはダウバーンとブリュンヒルドの重騎士混合部隊が続く。
僕? 僕がなにしているかというと……。おっとやっと全員ロックできたか? やはり神気を使ってないから町ひとつとなると時間がかかるな……。
「【ゲート】!」
町の住人全ての足下に大きめの【ゲート】を展開、そこから落として後方の砂漠へと転移させた。
住人ではなく、襲っている敵を転移させることも不可能ではなかったが、火事や倒壊に巻き込まれている人たちがいるかもだからな。
ダウバーン国王陛下も人命優先で、と言ってたし。
初めは町全体を【ゲート】の魔法陣で包み、人間だけを落とそうと思ったのだが、二階とか屋根に避難している人たちが取り残される可能性があったのでやめた。一人一人をロックするのは時間がかかるが人命には変えられない。
とりあえず生存者だけを転移させた。申し訳ないが、すでに亡くなった人の遺体まで転移させようとするとさらに時間がかかってしまい、救える命も救えなくなる可能性があったからだ。
「【光よ来たれ、平等なる癒し、エリアヒール】」
転移してきた住民に広範囲回復魔法をかける。数が多いため全員が全快とはいかないまでも、重傷者が軽傷者ほどには回復できたはずだ。何回か繰り返せば大丈夫だろう。
ここはダウバーン国王陛下に任せて僕も戦闘に回ろう。
「琥珀!」
『御意』
大虎状態で現れた琥珀の背に乗り、砂漠の上を駆けていく。
イシュギルの町に入ると、一人のダウバーン戦士と戦う融機兵の姿が見えてきた。
すれ違いざまに融機兵の首をブリュンヒルドで刎ねる。ゴトン、と金属の塊が落ちたような音を背後で聞きながら、琥珀に乗って町を駆け抜けていく。
「直接魔法が効くなら一気に決めるんだがなあ……」
『岩や氷塊を落とせばよいのでは?」
「それだと町がメチャクチャになるからね」
ままならないもんだ。
ダウバーンに現れた敵はそこまで多くないし、少し頑張れば殲滅できるだろう。増援がなければだが……。
『むっ。主、あれを』
「……なんだ、あれ?」
琥珀が止まり、上空に視線を向ける。つられて僕も上に視線を向けると、そこには奇妙な小さな渦のようなものがあった。
【神眼】を使って確認すると、町からぼんやりとした光の塊がその渦に吸い込まれるように消えていくのが見えた。まるで洗面台の排水溝に水が流れていくような、そんな感覚を覚える。
「あれって……」
『どうやら亡くなった人間の魂を吸い取っているようですね』
あれもゴルドの【空間歪曲】なのか? 人間の魂を喰らって邪神は成長する。もしかして邪神復活のエサとしてこの町は襲われたのか?
人間は死ぬと身体から魂が抜け出し、天界へと向かう。汚れ過ぎた魂でなければ、そこで浄化され、再び生まれ変わる。輪廻転生ってやつだ。
だけど邪神に食われた魂は消滅してしまう。もはや生まれ変わることさえもできない、本当の消滅だ。とても許せることではない。ふざけやがって……!
【プリズン】で渦を隔離しようとしたその前に、ふっ、と先に渦の方が消えてしまった。もはや吸い取る魂がないことがわかったからだろう。
「くそっ、他の四カ国でも同じことが起きている可能性があるな……!」
死んだ人間の魂を使っての邪神の復活。それが邪神の使徒の目的なのか? それとも堕神である侵蝕神の方を?
堕神である侵蝕神はゴルドに取り込まれている。それは確かだ。すると目的はゴルドのパワーアップ……?
いかんな。考えがまとまらない。とりあえず目の前の問題を解決しよう。
「ターゲットロック。対象の足下に【アースバインド】」
『……ロック完了。【アースバインド】発動しまス』
しばしの間があって【アースバインド】が発動する。これで町にいる融機兵の足下が固定された筈だ。石を砕けば抜けられてしまうが、ダウバーンの戦士たちの助けにはなるだろう。
問題はキュクロプスの方かな。これ以上町を壊されてはたまらない。押し返してはいるから、これ以上の破壊はされないと思うが……。
町中を駆け抜け、融機兵を片付けていく。機械と融合しているだけあって、こいつらは半端なダメージでは倒れない。ブリュンヒルドの晶弾を数発食らわせても平気で襲ってくる。まるでゾンビだ。
首を切るとか、土手っ腹に穴を開けるとか、致命的なダメージを与えないと動きを止めない。
一応、生き物ではあるらしいので、頭か心臓を潰せば倒せる。ゾンビは心臓を潰しても動き続けるから、ゾンビよりはマシなのかね? でもゾンビは動きが鈍いからな……。光属性の魔法にも弱いし。あっちの方が戦いやすくはある。
「検索。動いている融機兵」
『検索完了。表示しまス』
スマホに表示された融機兵はだいぶ減っている。これならもうダウバーンの戦士団に任せても大丈夫だろう。
キュクロプスの方もこちらが有利に戦っている。向こうの援軍が来るかもしれないが、その時はまた戻ってくればいい。
ダウバーンの国王陛下に電話して、他の戦場に行くことを伝える。もしも敵の増援が来たら連絡するように頼んでおいた。
「シェスカ。他の襲われている四カ国で、僕はどこに行けばいい?」
『レファン王国でしょウか。融機兵の数が多く、住民タちにかなりの被害が出ていまス』
バビロンにいるオペレーター役のシェスカに状況を尋ねるとそんな応答が返ってきた。
レファン王国か。ユミナと久遠、スゥとステフ、そしてエンデとアリスが向かっているはずだが、それでも手が回らないのか……。
急ぎ【ゲート】を開き、レファン王国の商業都市、ミオパレードへと転移する。
高い城壁に囲まれた、先ほどのイシュギルの町よりもかなり大きな都市が、いたるところで火の手が上がり、城壁の一部は壊されてしまっていた。
壊された城壁の近くには倒れた何機かのキュクロプス。さらにその向こうには、群がるキュクロプスにメガトンパンチを喰らわせるスゥのオルトリンデ・オーバーロードの姿があった。城壁を背にして都市を守っている。
エンデの竜騎士もユミナのブリュンヒルデの姿も見える。二人は山羊頭の方を相手しているようだ。レファン王国の騎士が乗った重騎士も奮戦している。
そして都市の上空には、やはりあの不気味な渦が魂を吸い取っていた。
「【プリズン】!」
渦の周りに【プリズン】の結界を張る。何物をも通さない結界に、魂を吸い取ることもできなくなった渦は、全て吸い切ったと勘違いしたのかあっさりと消えていった。
「ユミナ、ミオパレードに来たけど、戦況はどうなってる?」
『冬夜さん! キュクロプスの方はなんとか抑えているんですけど、融機兵の方がちょっと多くて……! そっちには久遠たちが向かったのですけど、心配です……!』
スマホで検索すると、久遠、アリス、ステフの三人とも中央広場のようなところで戦っているようだ。
「琥珀! 中央の広場へ!」
『御意』
乗っている琥珀が駆け出し、屋根の上へと飛び上がる。屋根の上を駆け、屋根から屋根へと飛び渡り、最短距離で中央の広場へと走っていく。
やがて中央の高い台座の上に、楽器を持った銅像が立つ広場が見えてきた。あそこだな?
わらわらと融機兵が群がる中で戦う久遠たちの姿が見えた。
「吹き飛ばせ、琥珀!」
『承知!』
琥珀の口から大きな衝撃波のようなものが放たれ、久遠たちに群がっていた融機兵の一部をまとめて吹き飛ばした。
「とーさま!」
「父上!」
「みんな大丈夫か?」
見た限りでは三人とも怪我はないようだった。ステフの【プリズン】で身を守り、久遠とアリスがメインとなって敵を倒していたようだ。ステフに付き従う『金』の王冠、ゴールドも黄金の剣を持ち、融機兵を倒している。
『こんな雑魚、坊っちゃんとあっしの敵じゃありやせんよ。けど数が多くて救助まで手が回らねえです』
久遠が構える『銀』の王冠、シルヴァーからそんな声が漏れた。
ふと周囲を見るとレファン王国の騎士たちも武装ゴレムをまとって融機兵と戦っているが、その足下には倒れた人たちの姿も見える。着ている服からして、犠牲になった市民たちだろう。
子供たちが人の死にショックを受けてやしないかと心配したが、それを察した久遠が苦笑しながら口を開いた。
「大丈夫ですよ。僕たちは盗賊退治なども経験済みですし、そこまでヤワじゃありませんから。ステフに至っては、ここレファン王国で戦争にも参加してますし」
「そういえばそうだった……」
ステフはレファンの女王陛下に請われて客将として反乱軍と戦っていたんだったな……。
うちの子ら肝が据わりすぎてない? あまりにも子供らしくなさすぎる……。未来の僕よ、育て方間違えたんじゃね……?
ちょっとだけ不安になったが、今さらかと思い直す。王族で半神で親戚に神々がいっぱいいる環境で、普通の子供に育つわけがない。子供らしくなかろうが、この子たちはいい子だ。問題ない。うむ。
それはそれとして、住人たちを避難させないとさらに被害が増えるな。
イシュギルの町の時と同じように【ゲート】で転移させたいところだが、少々時間がかかる。ちなみに今もターゲットロック中だ。
「やあっ!」
ゴガン! と鈍い音がして、ワニ頭の融機兵が吹っ飛んでいき、壁に激突する。その場でくるりと回ったアリスの回し蹴りがさらに別の融機兵に炸裂した。
「あはは! どんどんかかってこーい!」
次から次へと融機兵をボコボコにしていくアリスを見て、僕は『ほっといていいのか? あれ……』という視線を久遠に向けた。
「ここのところ、あまり訓練もギルドの討伐依頼もしてませんでしたから……少しテンションが上がっているだけです。ひと暴れしたら落ち着くかと」
と、苦笑しながら久遠が話す。
ううん……? 確かに王妃教育でストレスが溜まっていたのかもしれないけど……ま、まあこれで発散できるならいっか……。いいのか……?
いつもよりはっちゃけてるアリスに一抹の不安を抱く。
そうこうしているうちに住民へのロックが完了した。
「【ゲート】!」
とりあえず城壁の外、ユミナたちが戦っている反対側へと住民たちを転移させる。けっこうな魔力を消費してしまったが、僕の場合すぐに回復するから問題ない。
これで気兼ねなく掃討戦に入れる。
「【鉄よ来たれ、黒鉄の防壁、アイアンウォール】!」
ズァッ! と広場の前に出現した、高さ三十メートル、幅十メートルほどの鉄の壁のてっぺんにブリュンヒルドの弾丸を撃ち込む。
根本を固定されていない鉄の壁は、ぐらりと前のめりに倒れていった。ドズン! という鈍い音とともに、群がっていた融機兵がグシャグシャッと潰されていく。
ううむ、リーンとクーンの真似をしてみたが……効果的ではあるのだけれど、なんとも後味が悪い。
なんだろうね、『戦い』というか、『作業』になってしまっているというか。まあ、そんなセンチメンタルな気持ちなどこいつらには不要だとは思うのだが。
害虫駆除みたいなものだと割り切らんとやってられないからな。僕らが躊躇えば誰かが犠牲になるかもしれないのだから。
気持ちを切り替えた僕は、ズァッ、ズァッ、ズァッ! と【アイアンウォール】を連続で発動し、融機兵を潰していく。
その光景を見ても融機兵には恐怖とか躊躇いの感情はまったく見られない。動物の仮面を着けているとはいえ、少しは身体の動きにその感情が出てもおかしくないと思うのだが、やはりそんなものは持ち合わせていないのか。
感情の全くない半生命体と、擬似的な感情を持ち合わせているゴレム。どっちが人間に近いのだろうか……。などと、益体もないことを考えているうちに、視界にいた融機兵は一掃されていた。
都市から住民は避難させたから、あとはレファン王国の騎士団に任せても大丈夫だろう。
「ユミナ、こっちはあらかた片付けた。そっちは?」
『こっちもキュクロプスはなんとか片付きそうなんですが、山羊頭の新型機に少々手こずってます……』
スマホでユミナへ連絡をすると、ちょっと焦っているような声が聞こえてきた。どうやら少し苦戦しているらしい。
「琥珀、子供たちを頼む」
『御意』
「【テレポート】」
琥珀を中央広場に残し、【テレポート】で城壁外の戦場に転移する。
近くにユミナのブリュンヒルドが見える。狙撃モードにしたブリュンヒルドのライフルから山羊頭へ向けて晶弾が発射された。
これは避けられないだろうと思った弾丸は、山羊頭がかざした両手の爪が伸びるガントレットのようなところでブロックされて弾かれる。おいおい、あの弾丸は晶材でできた晶弾だぞ!? それよりも硬いのか!?
いや、弾いている……というか、受け流している?
撃たれた腕も無事というわけではなく、ヒビが入ったみたいだ。
ブリュンヒルドから二発目の弾丸が放たれるが、山羊頭は素早い動きでそれを躱す。
狙撃の真骨頂は不意打ちにある。予想していないところから放たれる遠距離射撃だからこそ、避けられないのだ。場所がバレてしまえば対処されてしまう。
それをわかっているからユミナも鏡面装甲のステルスモードを使い、位置を変えて新たな狙撃を試みている。
あの山羊頭の素早さは面倒だな……。専用機では一番動きが鈍いスゥのオルトリンデ・オーバーロードでは捉えることは難しいだろう。重装備の重騎士も同じだ。
なんとかやり合えるのはエンデの竜騎士と指揮官機の黒騎士か。
くそう、僕のレギンレイヴがあったらなあ!
「うん?」
【ロングセンス】で視力を上げると、そのエンデが竜騎士で山羊頭と戦っているのが見えた。
が、山羊頭は山羊頭でも他の山羊頭とは毛色の違う機体と戦っている。
まず、両腕が槍のような杭のような形をしている。さらにそれをオーバーロードのスパイラルナックルのように撃ち出しているのだ。
杭のようなものには鎖が繋がれていて、外れても引き戻されるようになっている。
そして巻き戻った杭がまた竜騎士へ向けて撃ち出される。
ちょっと待てよ、それゲルヒルデのパイルバンカーのパクリなんじゃないの!? あるいはオーバーロードのスパイラルナックルか!?
『「創造は模倣から始まる」というが、またストレートに真似てきたねえ』
通信チャンネルをオンにしておいたスマホから博士の声が漏れてきた。
『「指揮者」は既存のものを改良するのが得意じゃったからな』
『ふんっ、自分で新しいものを生み出すことができないだけじゃない。キュクロプスだってフレームギアの技術をいろいろ真似てるし』
教授とエルカ技師の声も飛んできた。フレームギアも地球のアニメとかに出てくるロボットをけっこう真似してるけどな。人のこと言えんか。
それが使える技術ならどんどん取り込んでいこうって姿勢は悪いことじゃないと思うが。そこから進歩できれば儲けものだし。
まあ、なんでもかんでも真似してそれで満足、ではどうしようもないけれども。
飛んできた鎖付きの杭を躱し、エンデの竜騎士が、晶材の小太刀でその鎖をぶった斬る。
そのまま加速して接近し、胴を薙ぎ払うと山羊頭は上下真っ二つに泣き別れとなった。
あの機体は素早いが、やはり装甲は薄いようだ。それはエンデの竜騎士も同じなのだが、竜騎士は僕の【グラビティ】で軽量化もしてあるし、晶材でのコーティングもされているからな。比べものになるまい。
『次元の歪みを確認。なにかが出現しまス』
「え?」
不意に聞こえてきたシェスカからの通信とともに、エンデの前方にあった空間が歪み、そこから奇妙な機体がぐにゃりと這い出してきた。
たとえるなら蜘蛛。しかし蜘蛛は蜘蛛でも人型の上半身がついたアラクネのような機体である。
その人型の上半身も腕が四本あり、頭部には本物の蜘蛛のようにいくつもの目が光っている。
そしてメタリックレッドに光るその機体の腕には、同じような色の細剣が握られていた。
「ここで邪神の使徒が登場かよ……!」
僕は舌打ちとともに、エンデの竜騎士と対峙するメタリックレッドの機体を睨みつけた。




