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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
593/637

#593 七色蚕、そして深淵。

Twitterのアカウントを乗っ取られてしまいました……。今はサブアカウントで活動中です。皆様もお気をつけて。


アニメ二期も始まりました。そして『異世界はスマートフォンとともに。』の連載を始めて今日で十年になります。

せっかく書いたのだから載せてみよう、と、気軽に始めたことが十年も続くとは……。コツコツと続けてきてよかったと思います。

これからも『異世界はスマートフォンとともに。』をよろしくお願い致します。





「珍しい素材が手に入ったので持ってきました」

「ほうほう。これは……なかなか……」


 樹竜イグドラシルの素材を工芸神……クラフトさんにお土産として持って行った。

 この素材は今現在、世界中で僕しか持っていない。珍しい木材ならクラフトさんも喜ぶと思ったんだよね。こんな神素材、まさしく神に預けた方が有効活用ってものだろう。


「いいね。硬いのにクセがなく死に節もない。そしてこの軽さ。面白い素材だよ」


 クラフトさんは渡した何本かの木材を、手にしていた鉈で適当な長さにスパッと切り、そこから大きめのナイフでザックザックと形を整え、のみ、ヤスリと道具を変えて、あっという間に一本の木剣を作ってしまった。

 一分くらいで。嘘だろ……僕が【モデリング】で作るより早いぞ……。

 クラフトさんはそのまま薪割りのところに置いてあった薪を切り株に立てて、木剣を振り下ろし、スパン! と薪を一刀両断してしまった。

 ちょっと待って、木剣で木を切るって、諸刃姉さん以外にできんの!?


「ちょっと研ぎ過ぎたか。君の子供用にと思ったんだけど、刃を潰さないと危なくて使えないな」


 いや、危ないというか、あの子ら普通に真剣とか使ってますけどね?

 調整された木剣を手渡されて、その軽さに驚いた。軽いとは思っていたけど、こうして形になってみると、普通の木剣に比べてその軽さがよくわかる。

 木製バットとプラスチックバットみたいだ。こんなに軽いと逆に使いづらい気もするけど、フレイとかなら難なく使いそうだな……。


「それで神器はうまく使えているかい?」

「ええまあ。子供たちが、ですけど」


 僕の作った神器なのに僕が使えないってのが笑えるけど。

 正確には使えないのではなく、使ってはいけない、なんだけどね。

 世界神様の眷属である僕が神器を使ってしまうと、間違いなくこの世界に『大きな影響』を与えてしまう。

 奏助兄さんの楽器やスマホみたいな神器なら問題ないけど、武器となるとね。あ、ハープボウを楽器として使う分には問題ないか。ハープなんて弾けませんが。


「邪神の使徒……あと堕神の残滓を倒したら【ストレージ】に入れて封印するつもりです」

「それがいいね。神界の宝物殿に入れてしまうとのちのち必要になった時、探すのが大変だから。それに神器を使わなきゃいけないような状況も全くないわけじゃないし」


 神々とて様々な者がいる。中には迷惑な奴らもいるらしい。この世界に逃げた従属神や堕神みたいなやつとかな。

 そんな奴らと争いにならないとも限らないということか。神々の戦いとか笑えないねぇ……。


「戦いが大好きだっていう神も多いからね。戦神とか闘神とか……。武神もそのうちの一人だけど、彼の場合自分を鍛えることに比重を置いているからまだマシかな。最近は弟子の成長を楽しむようになっているみたいだしね」


 話を聞くと、武神である武流たける叔父も、若い頃はなりふり構わない武の追求とやらをしていたんだそうだ。それが何億年もかけて丸くなったんだと。

 人にも、いや神にも歴史ありって感じだな。

 フレイだけにお土産ってのもなんなので、八雲にも木刀を、他の子供たちには動物の木彫りの置物を作ってもらった。もちろんお金は払ったぞ。

 少し値が張ったが、神作品をこの値段でと考えると安い……はずだ。

 とりあえずクラフトさんにお礼を言って、作ってもらったお土産を持ってブリュンヒルドへと帰る。

 城の廊下を歩いていると、ちょうどヒルダと出くわしたので、フレイに木剣を渡してもらおうと思ったのだが断られた。


「せっかくのプレゼントですもの。ちゃんと自ら手渡ししてあげて下さいな」


 ごもっともである。

 ヒルダと訓練場へ行くと、八雲とフレイがちょうどいたので二人に木刀と木剣を渡す。


「わー! とっても軽いんだよ! 振りやすいんだよ!」

「ありがとうございます、父上」


 木刀と木剣をもらった二人は嬉しそうにさっそく素振りをしていたが、やはり手にすると使ってみたくなるのが武器というもので。

 八雲とフレイはそのまま木刀と木剣で模擬戦を始めてしまった。ま、喜んでくれているようでなによりだ。打ち合っている音が、『ドギャッ!』とか『グワシッ!』とか、木刀や木剣ではあり得ない音なのはこの際スルーしよう……。

 他のみんなはリビングにいるというので、行ってみると、ステフとリンネ、ヨシノの三人を除いた子供たちと、リーンとリンゼ、それとユミナがお茶を飲んだりしてそれぞれくつろいでいた。

 僕がクラフトさんからのお土産を出すと、子供たちがそれぞれ気に入った木彫りの動物を手にしていく。

 クーンはクマ、アーシアはイヌ、エルナは小鳥を選び、久遠は選ばなかった。


「僕はステフたちが帰ってきてからでいいので」

「偉い! 久遠は立派なお兄ちゃんですね!」


 ユミナに撫でくり撫でくりされるがままの久遠は、もう諦めたかのような渇いた表情で笑っている。


「久遠も大変だな……」

未来あちらではユミナお母様もここまで激しくはないんですけどね……」


 僕の呟きにクーンが苦笑いとともに答えてくれる。

 まあ今のユミナは念願(?)叶って、ブリュンヒルドの世継ぎを生んだという事実もあいまってあんな感じになってるんだろう。

 生まれてから六年もすれば、さすがに未来のユミナも落ち着くよなぁ。


「ただいまー!」


 リビングにステフとリンネ、ヨシノがいきなり現れた。ゴールドも一緒か。

 ヨシノの【テレポート】で転移してきたらしい。驚かせてしまうから、出現場所は考えるようにとあれほど……。


「とーさま、これあげる! にしのもりでみつけたの! おみやげ!」


 ヨシノにちょっと小言を言おうとした僕の出鼻を挫くように、ステフが小さな木でできた箱をにゅっ、と差し出してきた。

 お土産? にしのもりって西の森か。どうやら三人はこの城の西にある森に遊びに行っていたようだ。

 ブリュンヒルド周辺には強い魔獣はほとんどいないが、野犬や狼の類は出る。なので、あまり勝手に出歩かないでほしいんだが……ま、この子らが野犬や狼にどうにかされるとは思えないけども。

 だけど久遠とアリスらが出会った絶滅種……確かマルコシアスとか言ったか。あの例もあるからな。気にしすぎかもしれないけど、少しは警戒してほしい。

 まあ、それはそれとして。


「お土産……って、なにこれ?」

「あけてあけて!」


 急かすステフになんの疑いもなく、僕は小箱の蓋を開けた。

 

「ひぃ!?」


 中に入っていたものを見て、僕は思わず手を滑らせる。小箱が絨毯の上に落ち、中身がモゾモゾと箱の下から這い出してきた。


「「きゃああぁぁぁ!?」」

「あら」


 ユニゾンで悲鳴を上げたのはリンゼとユミナ。あまり驚かなかったのはリーンである。

 箱の下から這い出してきたのは虫だ。三匹のイモムシ。けっこうデカい。十センチ以上はある。虹色のような光沢を持つイモムシが足下でウネウネと蠢いていた。


「こっ、こっ、これは……?」

「きれいでしょ! ステフがつかまえたの!」


 きれい……? いや、色はね!? 色がどうこうの前にイモムシだから!


「ダーリンって虫が苦手だったかしら?」

「苦手ってほどじゃないけど、いきなりだったから……!」


 僕はそこまで虫嫌いってわけじゃない。好きでもないけど。カブトムシやセミくらいなら触ることもできるけど、幼虫となるとちょっと抵抗がある。……ごめんなさい、嘘です。かなり抵抗がある。

 硬い殻がある虫ならまだなんとか大丈夫だが、こういったイモムシ系はかなり苦手だ。

 あのGでさえ、スリッパでパーン! とできるのにね……。

 ため息をついてリンネがステフに話しかける。


「ほら、やっぱり。いくら色が綺麗でも、みんな虫は嫌がるよ、ステフ」

「えー……? きれいなのになぁ……。とーさまはきらい?」

「嫌いっていうか、苦手っていうか……」


 せっかくお土産に持ってきてくれたステフを傷つけることになりはしまいか、と、言葉を選んでいる僕をよそに、しゃがみ込んだリーンがイモムシを手に取り、小箱へと戻していた。

 よく素手で掴めるなぁ……。森に住む妖精族にとっちゃ、虫なんて日常的にいる存在なのかもしれないけどさぁ……。


「……間違いないわね。これ七色蚕なないろかいこだわ」

「七色蚕?」


 蚕なの? そのイモムシ。いや、蚕だろうがなんだろうがイモムシには変わりないから苦手なのは苦手なんだが。


「七色蚕はね、虹色の綺麗な光沢がある美しい絹糸を生み出す蚕なの。その糸で紡がれた絹は王侯貴族にとても好まれたと言われているわ」

「へー……言われている?」

「ええ。二〇〇〇年ほど前に絶滅したって聞いているわ。子供のころ里の長老が話してくれたの」


 絶滅種……? まさか……!


「おそらく以前、久遠たちが倒した絶滅種と一緒にこちらの時代へやってきたのね。次元の穴を通り抜けて、こちらへ来てしまったんだわ。ふふっ、これは文字通り思わぬ拾い物ね。でかしたわよ、ステフ」

「ほめられた!」


 リーンがステフの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに、にぱっ! っととびきりの笑顔になった。

 リーンの話によると、七色蚕は二〇〇〇年ほど前にとある国が独占的に飼育していたそうだが、何かの実験で全滅してしまったらしい。

 かつては野生でも生きていた七色蚕だが、人間に飼育されるようになると、次第に生命力が弱くなってしまったようだ。

 確か蚕も家畜化された昆虫で、自然の中ではもう生きられないんだっけか。


「この七色蚕は家畜化してない野生の種。これを改良していけば、その生地はブリュンヒルドの特産品になること間違いないわよ。ホント碌なことをしないと思っていたけど、邪神の使徒も役立つ時があるのね」

 

 リーンがニヤリと笑う。特産品ねぇ……。まあ、それはありがたいけど、飼うの……? これ……。


「大丈夫よ。ダーリンに管理しろとは言わないから。そうね、『錬金棟』のフローラに頼んでちょっと品種改良してもらおうかしら。まずは数を増やさないとね。それから……」


 七色蚕から取れる絹の産業にリーンはだいぶ乗り気のようだ。彼女はその衣裳からわかるように、かなりのオシャレさんである。

 裁縫ならリンゼの方が上手いが、デザインなどはよくリーンも口を出しているしな。最高級の布が作れるとあっては見逃せないのだろう。

 服飾関連なら『ファッションキングザナック』のザナックさんにも協力してもらえるか?

 だけど立ち上げたブライダル部門が大評判で、各国から次々と注文が入ってきているらしいから、手伝ってもらえるかな?

 商売人が商機を逃すとは思えないから、たぶん大丈夫だとは思うけども。


「なんというか……未来ではブリュンヒルドの養蚕業はかなり有名なのですけど、まさかステフが発端だったとは思いませんでしたね……」


 久遠が小さなため息をつきつつそんなことをぽろりと漏らす。なるほど。この事業は大成功するようだ。なんとなくわかってはいたけどさ。


「しかしよく生きていたな……。普通の虫なら鳥とかに食われてしまっていたんじゃないのか?」

「七色蚕はこう見えて魔獣の一種なの。認識阻害の野生魔法をもっているから、鳥や獣にはそう簡単には見つからないわ」

「えっ? こいつ普通の虫じゃないの? 危険はないのか?」

「伝え聞く話だと毒も持ってないし、特に危険はないと思うわ。ただ単に見つけにくいってだけの魔法だから」


 リーンがそう説明してくれるが、そんなのよく見つけることができたな……。


「うちの子たちに、たかが虫の使う認識阻害が効くと思う?」

「そう言われてみると、まあ確かに……」


 うちの子たちは総じてなんというか『勘』が鋭い。『こっちのような気がする』、『たぶんこれ』、などという曖昧な直感が鋭いのだ。ここらへんも半神である体質なのだろうか。なぜ僕にはないのだろうか? 生まれついての神族じゃないからかね?


「とにかく明日にでももう一度西の森に行ってみましょう。まだ他の七色蚕がいるかもしれないわ。繭になっている蛹もいるかもしれないし」


 リーンがワクテカしとる。魔法以外でこうなるのは珍しいな。魔導具でテンションが上がっているクーンと同じだ。やっぱり母娘おやこなんだなぁ。


「あーっ! ねーさまたちなんかかわいいのもってる! なにそれ!?」

「父上のお土産ですよ。ステフのもあります。どれがいいですか?」


 めざとく木彫りの動物に気付いたステフがテーブルに置いてあった残りのものに食いついていく。

 それを横目にこっそりとスマホで西の森を検索してみると、まだ数十匹の七色蚕がいるようだった。

 どうやら次元の穴ってのは、周囲のものを吸い込んで、過去から未来へと吐き出すみたいだな。

 ひょっとしたらここらに落ちてる葉っぱや枝なんかも過去の絶滅種かもしれん。違いがわからないから判断できないけど。

 検索結果をリーンに教えてあげたらとてもいい笑みを浮かべていた。バビロン博士とかと比べるとアレだけども、リーンもけっこう研究者肌なんだよなぁ……。その気質がクーンに受け継がれたんだろうけどさ……。



          ◇ ◇ ◇



 次の日、西の森に探索に出かけるとすぐに十数匹の七色蚕と、木の枝にぶら下がった虹色の繭をいくつか見つけた。

 思ったよりも繭がでかいんだが。七色蚕ってのはたくさん糸を吐き出す種なんだろうか。

 とりあえず【サーチ】で検索して余すことなく回収して『錬金棟』のフローラに任せたら、わずか数時間で繭から糸を紡ぎ出してしまった。

 そして今度はそれを『工房』のロゼッタがまたも数時間で一枚の布地に織り上げてしまった。すごく助かるんだけど、釈然としないものを感じるのはなんでかね?

 七色蚕の繭から作られたその布地は、普通のシルクよりも滑らかな手触りで、艶のある光沢が美しい、まさに最高級というような質感だった。

 しかもこれ、魔力を通すと色が変わるんだよね。流す魔力の強さによって、様々な色になる。そんなに大きな魔力はいらないから、一般の人たちでも普通に使えると思う。ただ、これが一般の人たちが手の出る値段になるかと言われると、無理っぽいなぁ、と、僕は目の前でポロポロと涙を流すザナックさんを見てそう思った。


「これがっ……! あの、伝説の七色蚕のシルク、アルコバレーノ……! まさか、この目で拝むことができようとは……! 本当に公王陛下についてきてよかった……! ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 拝まれた。まさかそれほどとは。

 七色蚕のシルク、アルコバレーノは古書にわずかに記載されているだけで、存在していたことはわかっていても、実物はもはやこの世にない、幻の生地となっていた。

 そもそもそれを生み出す七色蚕が絶滅しているのだ。幻となっても仕方がない。

 服飾関係者にとってはまさに伝説の生地というわけだ。


「保存魔法がかけられたものが一つくらい残っていてもおかしくないと思うんだけど……」

「アルコバレーノは反射魔法の特性を持っていて、保存魔法の付与を弾いてしまうのよ。だからどんなに丁寧に扱って保存をしても、二千年は持たないわ」


 『ファッションキングザナック』についてきたリーンがそう説明してくれる。なるほど、それで幻の生地になってしまったんだな。


「おおっ、本当に魔力によって色が変わるんですね!」


 ザナックさんが手にしたシルク・アルコバレーノに魔力を通し、色が変わったのを見て歓喜の声を上げている。魔法は弾いても魔力を弾くわけではないので、ザナックさんでも色をすぐに変えられた。


「素敵でしょう? この生地で作られた服ならその時の気分によって色を変えられるわ。パーティーで誰かが同じようなドレスを着ていたとしても、すぐにイメージを変えることができるのよ。魔力を通さなくてもこの美しさ……これは貴族女性が食いつくこと間違いないわ」

「ええ、ええ! 最高級の生地としてこれは売れますよ! これは国家事業に?」

「いずれそうなればいいとは思うけど、今のところ数が揃わないからちょっと無理ね。生地はこちらで用意するから、この店にはこれを売り出すのにふさわしいドレスを頼みたいのだけれど」

「ありがとうございます! 誠心誠意努めさせていただきます!」


 リーンとザナックさんが本格的な交渉に入ってしまい、僕は蚊帳の外だ。時折り、こんな感じのドレスはないかとリーンに言われ、条件に合うドレスをスマホで検索してリーンのスマホに送るくらい。

 まあ、こういうのは門外漢が口を挟まない方がいい。

 手持ち無沙汰になってしまった僕が窓の外に視線を向けると、突然その窓を通り抜けて翡翠の燐光を纏う半透明の少女が飛び込んできた。


『大変、大変! 精霊王様、大変よ!』


 そう叫んで飛び込んできたのは大精霊・エアリアルだった。リンゼとも契約をしている風の大精霊だ。

 窓を突き抜けてきたことからわかるように、精霊体のままであるから、僕と僕の眷属であるリーンには見えているが、ザナックさんや店員さんたちには彼女の存在は見えていない。声も届いていないだろう。


「? どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないわ」

「あ、僕ちょっとトイレ借ります」


 席を立ち、店内のトイレへと向かう。察したのかエアリアルも素直に僕についてきた。ドアをバタンと閉めると、ため息とともに小さく声を出した。


「で? なにが大変なんだ? リンゼの話だとしばらく精霊界に里帰りしてたんじゃなかったか?」

『うん、精霊界で久しぶりにみんなと話していたんだけど、精霊王様が作った聖樹が異変を感じたの。北の方に禍々しい渦を感じるって』

「禍々しい渦?」


 アイゼンガルド全土に広がった神魔毒を浄化するために僕と農耕神である耕助叔父と作った聖樹。

 聖樹は精霊の宿る、浄化作用のある聖なる木で、今はまだ幼いが、やがて普通の精霊のように姿を得て、『聖樹の精霊』となるという。

 その聖樹が異変を感じるだって?

 聖樹はアイゼンガルドほぼ中央に位置する森の中にある。そこから北……? 一番近い国は海を挟んでラーゼ武王国があるけど……。


「ラーゼ武王国でなにがあったのか?」


 ついこないだラーゼ武王国で邪神の使徒と戦った。その影響がなにか……。


『違う。同じ大陸らしいからそこよりは南。精霊たちがそこから先が息苦しくて先に進めないって。聖樹の浄化の力も吸い込まれているような感じなんだって。まるで深淵のような……』


 聖樹の力が吸い込まれ、精霊たちも怯えて近づかない……。

 すぐにピンときた。邪神の使徒の力、いや、元・神である侵蝕神の力に精霊たちが怯えているのか。

 これは十中八九アイゼンガルドにあいつらはいるな。少なくとも侵蝕神の力を宿したゴルドだけは。

 それにしても深淵アビスね……。


『怪物と戦う時は自らも怪物とならぬように心せよ。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』


 ニーチェだったか? とっくの昔にかいぶつになってしまっているので、もう僕は手遅れだけど。それでも心だけは人間のつもりだ。

 そんな益体もないことを考えて苦笑しながら、僕はリーンたちのところへと戻った。

 







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