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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
583/637

#583 眼鏡、そしてメガネ。





「そもそも眼鏡というものは、近視や遠視、乱視など、視力の異常を調整したり、強い光などから目を保護したりするために用いるものである。故に本来ならば個人によって千差万別、同じ眼鏡などありはしない。いや、度の無いレンズを使用した、いわゆる伊達眼鏡ならば単一の同じ物が量産できような。だからといって皆が皆、同じフレームの眼鏡をかけたところで、それは没個性を招くだけである。何人にもそれぞれ相応しい眼鏡があり、眼鏡の似合わぬ者などこの世にはいない。かけるだけで、知的に、誠実そうに見え、色気さえも醸し出す眼鏡は、顔における神器と言ってもいいだろう。それ故に我輩は眼鏡をかけていない者が憐れでならない。皆は知らないのだ。眼鏡をかけた自分と、かけていない自分……そのギャップが生み出す魅力をどれだけ損なっているのかを! 『乱暴者かと思ったら実は優しかった』、『クールな男の笑顔』、『派手な女性の家庭的な一面』……これらのギャップと同じような効果を眼鏡一つで生み出せるのだぞ! 眼鏡は顔の一部であり、顔全体を華やかに彩るツールである! 印象の薄い人物でも眼鏡によってその個性をアピールすることもできるのだ。これは女性のメイクと同じであるな。つまり眼鏡をかけていないということは、スッピンをさらけ出しているのと同じこと。それはそれで飾らない美しさがあるのかもしれぬが、美しくなる、その努力を怠ってはならぬ。男だろうと女だろうと、美しいものに人は惹かれる。ならば人はすべからく眼鏡をかけるべきであろう! 自ら美しくなり、美しいものを澄んだその美しい眼鏡で見るべきであろう! 眼鏡には清純、清楚、純粋などのイメージを相手に与える効果もある。女性ならばかけて損はなかろう? この世界ではまだ眼鏡は高級品で庶民にまでは広まっておらぬ。ならば、我輩が広めよう! 神の力は使ってはおらん。一人の人間として、眼鏡をこの世に浸透させよう! 我輩が眼鏡の伝道師として人々に眼鏡の素晴らしさを説いて回るのだ! そのために冬夜殿の力を借りたく、ここまでやってきたというわけである」

「はぁ……」


 話が長いわ! 夢中になるあまり、グラシィこと眼鏡神から神気がうっすら漏れている。部屋にいたメイドさんとか気分悪くなって出てっちゃっただろ!

 というか、おかしいのがこの人の神気がダダ漏れなのに、誰一人として花恋姉さんら神族の者がここにやってこないってことだ。

 眼鏡神が来たって絶対に気がついているよね? 気がついていてこっちに来ないってことだよね? ちくしょう、僕に押しつけて逃げたな……!


「君、聞いておるのかね?」

「あ、すみません……。ま、まあ、なんとなく話はわかりました。眼鏡はまだこの世界では高級品で、貴族の一部くらいしかしてませんからね。地球だと目が悪くてもコンタクトレンズをしたりで眼鏡をかけない人もいたけど、」

「コォンタァクトレェンズゥ〜?」


 眼鏡神の眼が細められ、僕に向けられたその顔がぐにゃりと歪む。ギラリとしたその目の奥にはどんよりとしたくらい光があった。あ、なんか地雷踏んだ。


「君はアレかね? 目の中にレンズを入れるという、アホらしい物の肯定派かね? 目というデリケートな器官に異物を入れて無事にすむとでも? この世界には回復魔法があるが、それだって万能ではない。目の傷は治るかもしれんが、細菌の増殖はまでは治せんのだぞ? 間違えた使用をすれば失明にもつながる。そんな物と眼鏡が同列だと? 魅力的な眼鏡を捨ててコンタクトにし、素顔で勝負するなど、鎧もなしに素っ裸で敵に斬り込むのと同じであるぞ! 目が悪いのであれば眼鏡をかけよ! 目が悪くなくとも眼鏡をかけよ! 一生付き合える相棒ぞ! コンタクトなぞ邪道! 眼鏡こそ至高の存在にして、♾《無限大》の可能性を秘めた究極のアイテムである!」

「わぁ、すごーい……」


 血走った眼を向ける眼鏡神に僕はそう答えるしかなかった。ホント勘弁してくれませんかね……。

 ふう、と眼鏡神が息をひとつ吐く。


「すまぬ。ちょっとムキになってしまったのである」

「ちょっと……?」

「千年前にコンタクトレンズ神とやり合ったのを思い出してしまってな。つい……」


 いんのかよ、コンタクトレンズ神。千年前ってコンタクトレンズなんてなかったのと違うか?


「それは地球の話であろう? 他の文明が栄えた世界ではコンタクトレンズがある世界も普通にあるぞ? まあ、どの世界も眼鏡が作られてからだがな! ……ただ文明が栄えすぎると視力回復手術が容易くなり、眼鏡もコンタクトも廃れてしまうのであるが……」

 

 そう言ってショボンとなる眼鏡神。

 文明が栄えすぎるとみんな視力が悪くなることもなくなり、眼鏡はおしゃれアイテムでしか無くなるらしい。さらにそれも流行り廃りを経て、誰もかけなくなるんだとか。

 まあ、地球にだって片眼鏡モノクルとかしてる人なんか今はほとんどいないしな。流行るものもあれば廃れるものもあるのはどの世界も一緒か。


「種族的に眼鏡もコンタクトも必要ない世界もあるしな。この世界くらいの文明レベルが一番眼鏡を広めやすい。っと、話は戻るが、そういうわけで眼鏡を広めるために協力してはもらえぬだろうか?」

「んー……」


 正直に言えば……どうでもいいな! 眼鏡が流行ろうと廃れようと僕には関係ないし。いや、廃れるのは困るか。目が悪くて困っている人たちもいるわけだし。主に平民に。

 眼鏡が平民にもなんとか手の届く値段で買えるようになれば、助かる人は多くいるだろう。そう考えると悪くはないとも思う。

 ただそうなるとまずはレンズ研磨の技術をもっと広めないといけない。

 ここらは同盟各国に技術開示すれば問題なく広まると思う。目の前に専門家がいるしな。

 最終的には平民にも安い眼鏡を広めるとして、まずは貴族や上流階級に広める……か?

 伊達眼鏡ならレンズ研磨の技術もいらないし、ファッションとして目の悪くない人たちにも流行はやらすことはできると思うけど……。


「でもなぁ……僕が眼鏡をかけたところで流行ったりはしないと思うんだけど……」

「む? こういったものは有名人が広告塔になれば広まると思ったのだが」

「有名人……まあ、一部には有名かもしれないけどさあ。ファッションとして流行らせようとするなら、やっぱりモデルは女性とかの方がいいような気がする」


 普通顔の僕がかけたところで、大したインパクトはないだろうし。なんなら地味さがパワーアップしてしまう可能性もある。

 それならば、美人な女性にかけてもらって、眼鏡の魅力を振りまいてもらった方がいいんじゃないかね?


「ふむ。ならば君の奥方たちに協力を頼めないだろうか」

「え?」

「結婚式で拝見したが、全員美しい女性であった。彼女たちが我輩の眼鏡をかければ、さらにその魅力を引き出せることであろう。広告塔としては申し分ない。どうかね?」

「ユミナたちを眼鏡の広告塔に? うーん……」


 いやまあ、うちの奥さんたちが眼鏡をかけたら、それはそれはお似合いだと思いますけど?

 リンゼの眼鏡姿とかは見たことがあるな。古代魔法言語の翻訳眼鏡をかけた時に。とてもよく似合っていた。……ふむ。


「とりあえず話だけはしてみましょう。みんなが嫌だって言ったら諦めてくださいよ?」

「うむ。ご助力感謝する」


 まあ、みんなが眼鏡をかけた姿を僕も見てみたいしな。広告塔はダメでもファッションとしての眼鏡なら受け入れてくれるかもしれないし。とりあえず聞くだけ聞いてみよう。



          ◇ ◇ ◇



「で、あたしたちにどうしろって?」

「ほら、今度聖王国アレントで炎国ダウバーンと氷国ザードニアの結婚披露パーティーがあるだろ? その場に眼鏡をかけて行って、宣伝してほしいってことらしいんだけども」


 どういうこと? と首を傾げるエルゼに僕が説明する。

 炎国ダウバーンのアキーム国王と氷国ザードニアのフロスト国王の若き二人の王は、聖王国アレントのアリアティ姫とレティシア姫の姉妹姫をそれぞれ娶った。

 結婚式はそれぞれの国で行ったが、このたび、お互いの正妃の国である聖王国アレントでそのお披露目のパーティーがあるのだ。

 もちろん僕らも招待されていて……というか、僕がいないと各国の代表者が一堂に集まれない。僕以外はパナシェス王国のカボチャパンツ王子しか転移魔法が使えないからな。

 まあ、そのパーティーで奥さん方に眼鏡をかけてもらって、他国の人たちにアピールしようって作戦なんだけど。


「眼鏡でござるか? 拙者、目は特に問題ないのでござるが……」


 八重がなんで? とばかりに首を捻っている。うーむ、眼鏡はイーシェンとかではほとんど見なかったし、どうしても視力矯正の道具としか見られてないからなぁ……。


「眼鏡は目が悪い者だけがかけるものにあらず。そなたらの魅力を引き出すものなり。ふむ、そなたにはオーバル型が似合いそうである」


 八重の疑問にすかさず割って入り、眼鏡神ことグラシィさんが手にした鞄から楕円形の眼鏡を取り出す。

 地球でよく見るオーソドックスな眼鏡だな。フレームは細い金属フレームのようだ。

 眼鏡を手渡された八重は戸惑いながらもそれをかけてみる。


「ど、どうでござるか……?」


 う……!

 度無しの伊達眼鏡をかけた八重がおずおずと感想を尋ねてくる。これは……!

 僕が息を飲んだのを見計らったように、眼鏡神がふふんと声をかけてくる。


「けっこうな破壊力であろう?」

「くっ……認めるしかない……!」


 いつもは活発的な八重が眼鏡をかけた途端に知的な雰囲気を纏ってしまった。ちょっとした文学少女のようにも見える。見えてしまう。これがギャップ萌えというやつなのか……!

 これはちょっと甘くみていた。ここまで雰囲気が変わるとは……。


「だ、旦那様? やっぱり変でござるか?」

「んいや!? とても似合ってる! かわいい! いつもと雰囲気が変わって、それもまた良し!」

「そ、そうでござるか……。ふふっ」


 照れた眼鏡っ娘八重もまた良し! 

 これはけっこうヤバいな……。いつもと違う八重にドキドキする……。


「そ、そんなに変わるのかしら? あたしもかけてみようかな……」

「ふむ。活発そうなお嬢さんにはウェリントン型などどうかな? 雰囲気がガラッと変わると思うが」


 眼鏡神のおすすめの眼鏡を受け取り、エルゼがそれをすちゃっとかける。


「ど、どう?」


 少し丸みを帯びた四角形スクエア型の黒縁眼鏡をかけたエルゼが窺うようにこちらに視線を向ける。

 おお……! なんというか、委員長っぽい。いつもの活発なエルゼが鳴りを潜め、真面目な委員長が誕生した。口うるさいけれども優しい生真面目な少女、というイメージがする。


「真面目委員長萌え!」

「い、いいんちょう……? えっと、似合ってるってこと?」

「もちろん! いつもと違う感じでまた別のエルゼの魅力がよく出ている!」

「そ、そっかな……。ま、まあ、悪い気はしないわね」


 ヤバいな。うちのお嫁さんたち眼鏡をかけてもかわいい。いや、眼鏡をかけたらまた別の魅力が引き出された気がする。これがメガネマジック……!

 眼鏡神がポン、と背後から僕の肩を叩き、ドヤ顔でサムズアップをかましてくる。あ、なんだろう、イラッとした。眼鏡叩き割ってやろうかしら。


「面白そうじゃのう。わらわもかけてみたい!」

「ステフも! かーさまとおそろいのがいい!」


 スゥに釣られてか、ステフまで眼鏡に興味を持ったようだ。親子でお揃いの眼鏡ってのも面白いかもしれない。僕も同じのをかけてみるかな……。


「あたしもお母さんと一緒にかける!」

「え? 私も?」


 スゥとステフの母娘おやこに続き、リンネが強引にリンゼに眼鏡を勧める。

 そうなると、他の奥さんたちも子供たちとお揃いの眼鏡を、となり、眼鏡神はしてやったりとばかりに次々と眼鏡を取り出して渡していく。

 あっという間にほとんどの者が眼鏡をかけているという、眼鏡人口密度の高い部屋になってしまった。

 うーむ、全員が眼鏡だと、逆に普通になってしまわないか? これ。

 眼鏡という際立つ個性が、眼鏡によって潰されているような気がするんだが……。


「わかっとらんのであるな。それは全員が裸眼の状態でも同じこと。むしろこうして全員が個別の眼鏡をかけたことによって、それぞれの魅力が引き出され、今までとは違う個性が生まれたのである。眼鏡をかけて初めて自然体になったと言ってもいいのである。これこそが人の本来のあるべき姿ではなかろうか。つまりは眼鏡は体の一部なのである!」


 なんかよくわからんことを言い出したな……。

 ちょっとだけ眼鏡論に納得しかけたけど、やっぱり度が過ぎるといかんな。眼鏡なだけに。

 それはそれとして、奥さんと子供たちの眼鏡姿というのはかなりのレアなので写真に撮っておこう。


「……この眼鏡、なにか付与がかかってるのかしら? 普通の眼鏡じゃないわね?」


 リーンがボストン型と言われる、丸みを帯びた逆台形の眼鏡を手にし、そんなことを口にした。付与がかかっている? 妖精族の目で確認したのかな?


「おお、そこに気がつくとはさすがであるな。確かに付与のついた眼鏡もいくつかあるのである。妖精族の奥方が手にしているものは【拡大視】であるな」

「【拡大視】?」

「眼鏡のテンプル……ツルを指で滑らせると見ている物が大きく拡大される付与である」


 リーンが眼鏡の側面、ツルの部分を指でスッと動かすと、驚いたような表情を浮かべる。


「へえ、これは便利ね。望遠鏡のような使い方もできるってわけね?」


 リーンが窓の外を眺めながら、指をスライドさせている。どうやらあの操作で拡大縮小をしているようだ。


「お母様、私にも! 私にも見せて下さい!」


 そうなると魔道具好きな娘さんが黙っちゃいない。クーンが飛び跳ねるようにリーンの眼鏡をせがんでいた。

 苦笑しながらもリーンがかけていた眼鏡をクーンに渡すと、彼女ははしゃぎながら同じように眼鏡のサイドをスライドさせて窓の外を眺めていた。


「まさか付与した眼鏡をばら撒いたりはしてませんよね?」

「さすがにそれはしてないのである。我輩は眼鏡を広めたいのであって、魔道具を広めたいわけではないからして」


 眼鏡神の答えに僕はホッと胸を撫で下ろす。対処なしにこの類のものをばら撒いたりしたら、犯罪に使われる可能性もあるからな。


「他にもいくつか付与した眼鏡があるぞ。ちなみにこれは【鑑定】、こっちが【熱感知】、そしてこれが【光線】であるな」


 そう言いながら、眼鏡神がテーブルの上に三つの眼鏡を並べていく。

 ちょっと待て。【鑑定】と【熱感知】はなんとなくわかるが、【光線】ってのはなんだ!?


「その名の通りレンズから【光線】を出す眼鏡だが。オーク程度なら一瞬で蒸発させることができるのである。欠点は眩しすぎて自分の目がやられてしまうところであるが……」

「物騒なのはしまってくれんかね」


 眼鏡ビームかよ! すごいかもしれないが、ネタ武器的な雰囲気が拭い切れない。

 他二つはまともなのか……?

 【熱感知】の方をかけて、ツルの部分に触れてみると、サーモグラフィーのように熱源が赤く光って見えた。どこかの捕食者プレデターにでもなった気分だ。

 一応、普通の状態と切り替えはできるのか。フレームを触るたびに切り替えられる画像を確認する。

 でもこれってどういう時に使えばいいんだろうね?

 闇夜の中で獲物を探すときとか? あ、諜報部署の騎士には使える眼鏡かもしれんな。これは貰っとこう。

 こっちの【鑑定】ってのは……?

 同じようにそれをかけてフレームのサイドをタッチする。んん?

 なんかターゲットのような、丸に十字のマークが出て、僕の視線に合わせてぐりぐりとそれが動く。まるでPCのカーソルみたいだな。

 ぴっ、と部屋の壁にかけてあった絵画に合わせると、マンガの吹き出しのように説明文が現れる。


『絵画:油画』


 ……いや、それは見りゃわかるけども。

 視線をずらし、部屋の扉の方へと向ける。


『扉:木製』


 いや、だから。それも見ればわかるっての! なんだ? この【鑑定】ってのは見たそのまましか鑑定できんのか!?


「それはかけた本人の知識によって細かく説明されるのである。故に、本人がわからないものはわからんのであるな」

「え、それって【鑑定】の意味なくない……?」


 だって知っている知識によって出るのなら、【鑑定】なんぞせんでもわかるってことでしょう?

 僕があの絵を見て『絵だな』『油画だ』としか知識がなかったからそう出たわけで、『作者は誰々だな』『何年に描かれた物だ』という知識があれば、


【絵画:〇〇年に画家の〇〇〇〇が描いた油画』


 と出たんだろうけど、知っているなら【鑑定】するまでもなくわかるわけで。

 意味あるのか、この付与……。いや、忘れていた記憶からも引っ張ってこられるのならまだ使い道はあるのか……?

 たとえば『会ったことはあるけど、誰だっけ、この人……?』というようなシチュエーションのときに【鑑定】すれば一発で出てくるわけだ。

 あれ? 意外と使えるか……?

 王侯貴族なんかだと、こいつ誰だっけ? という場面はけっこうあるからなあ。

 試しに隣にいた眼鏡をかけたユミナに照準を合わせてみる。


『ユミナ・ブリュンヒルド/望月ユミナ:女性。神の眷属。ブリュンヒルド公国公王、望月冬夜の妻の一人。旧姓ユミナ・エルネア・ベルファスト。風・土・闇の属性持ち。【看破の魔眼】、【未来視の魔眼】を有する。ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストと、王妃、ユエル・エルネア・ベルファストの長女、第一王女として生まれる。弟に第一王子、ヤマト・エルネス・ベルファストが……』


 長い長い、長いから。僕が知ってるユミナの情報がつらつらと出てくる。やっぱり知ってることが表示されるだけだな。使えるんだか使えないんだか……。


「あまりお気に召さなかったようであるな? それならばこれはどうであるか?」

 眼鏡神から黄色いセルフレームの眼鏡を手渡される。また変な付与じゃなかろうな……?

 疑いつつもとりあえずかけてみる。……普通の眼鏡のようだが。

 これもさっきの【熱感知】のようにフレームにスイッチがあるのか?

 サイドのフレームに指を滑らせながら、周囲に視線を巡らせていく。特には……んん!?

 視線を向けたルーの服がうっすらと透けて見える……? え!?

 まさかと思い、フレームの指をさらにスライドさせると、完全にルーの服が消えて、下着姿のルーが見えた。


「それは【透視】の付与がされた眼鏡である。視界が遮られた場所でも有利に────」

「ふんっ!」

「おわあぁぁぁ!?」


 バキィッ! と僕はかけていた眼鏡を真っ二つに割った。


「なっ、なっ、なにをするのであるか! 眼鏡を破壊するとは神をも恐れぬ冒涜ぞ!」


 眼鏡神が涙目になって反論して来るが、わかっちゃいないな。僕はあんたを助けたんだぞ?


「冬夜さん? なにしているんですか?」

「今【透視】の付与がなんとかって聞こえたんですけど……?」


 ギクゥッ!?

 僕らの背後にユミナとリンゼが、冷たい能面のような表情をして立っていた。

 ゴゴゴゴゴ……とその背中から擬音が聞こえてきそうなほどの迫力と、ハイライトの見えない二人の双眸に、眼鏡神でさえ、ひゅっ……と息を呑み、冷や汗をダラダラと流し始める。


「い、いや!? 【】付与の眼鏡がね!? 僕の力に耐えられなくて壊れたみたい! エルゼとかが使えるかなあと思ったんだけど、残念だなぁ! これってもうないんですよね?」

「う、うむ。付与の眼鏡は基本一点ものであるからな。もうない……のである」

「……なるほど」

「……そうですか」


 ユミナとリンゼの重圧プレッシャーがふっと消える。一応納得してくれたようだ。二人が子供たちの方へと離れていくと、僕らは溜め込んだ息を大きく吐いた。


「危なかった……。この眼鏡の存在が発覚していたら、間違いなく奥さんたちに吊し上げられるところだった……」

「怖い奥さんたちであるな……。ま、まあよかったではないか」

他人事ひとごとみたいになに言ってるんですか。吊るし上げられるのはあんたですよ?」

「我輩!?」


 僕が作ったわけでもないんだから、当たり前だろ。知った上で嬉々として受け取っていたら僕も危なかったが……。

 発覚してれば間違いなく花恋姉さんたちも参戦してくる。眼鏡神に逃げ場はなかったろう。

 さらに言うなら間違いなくパーティーで眼鏡をかけてはくれなくなったろうな。感謝してほしいよ、まったく。


「以後、こういった眼鏡は出さないように」

「り、了解である……」


 眼鏡神が脂汗を浮かべながら、真っ青になってこくこくと頷く。神だろうと女性を敵に回してはいけないのだ。それが世界の真実である。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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