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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
561/637

#561 神器完成、そして同型機。

■今年初めての更新になります。今年もよろしくお願い致します。





「結局ヨシノ向けの武器はああいう形になったでござるか」


 八重が完成した神器を手にするヨシノを眺めながら、僕に話しかけてきた。

 城の中庭でヨシノが手にしているそれは、端的に言えば弓だった。

 もちろんただの弓ではない。普通の弓は弦が一本だが、あの弓には何本も弦が張ってある。弓であり、ハープでもある、ハープボウってやつだ。

 ヨシノがいくつも張ってある弦の一つを引き、矢をつがえる姿勢をとると、弓と弦の間に光の矢が形成される。

 それを天に向けて放つと一瞬にして光の矢は蒼穹の彼方へと消えていった。

 神力の矢だ。あれを喰らえば邪神の使徒とて無事ではすむまい。ただ、ヨシノは弓矢を使ったことがないようなので、命中率がちょっと不安だが……。狩奈姉さんにでも教えてもらえるように頼もうか。

 ヨシノが今度は弦の一つを指で弾くと、ピィン……と澄んだ音色が響き渡った。

 ハープの音色を奏でるそれを駆使して、ヨシノが曲を弾き始める。

 あれ? この曲は……。

 この間、ヨシノがコンサートで指揮したゲームのオープニング曲。そのRPGと双璧を成すと言われるもう一つのRPGの序曲だ。

 なんだ? 未来の僕はヨシノにゲーム音楽を聴かせてばかりいたのか?

 『最後の幻想』という意味のそのゲームタイトルのように、流れるような美しい幻想的な旋律が中庭から放たれていく。


「神器としてより、楽器として見てますね、あれは」

「まあ、楽器としてもそれなりの効果はあるから問題ないっちゃ問題ないんだけど……」


 少し呆れたような言葉を漏らした久遠に僕はそう答えながら、持ったナイフで自分の指の先をちょっとだけ切る。

 赤い毛筋ほどの血を残して傷はすぐに塞がってしまった。これは回復効果だな。

 この回復効果は神器の特性ではなく、ヨシノの演奏魔法によるものだろう。

 それが神器の力でブーストされているとみた。予想外の副次効果だが、これはありがたい。


「ヨシノお姉ちゃんばっかりズルいーっ! あたしもーっ!」


 ハープを奏で続けるヨシノに痺れを切らしたのか、リンネが突貫していく。


「もー、気持ちよく弾いてたのに」


 ブツブツと文句を言いながら、ヨシノがハープボウから手を放す。

 すると弓の形をしていた神器が一瞬で野球ボールほどの球体に変化した。

 プラチナ色の光を纏う金属質の球体。それこそが僕の作った神器の本体である。

 その球をヨシノがリンネの方に軽く投げる。ふわりとリンネの方に飛んできた球は、そのまま衛星のようにリンネの周囲をゆっくりと回り始める。

 この状態が神器の防御モードである。矢や弾丸、あらゆる飛び道具を打ち落とし、持ち主の身を守る。

 僕のレギンレイヴの装備を流用したってわけだ。


「よーっし! 【神器武装】!」


 リンネが腕を目の前で大きくクロスさせると、プラチナの球体であった神器が、まるで柔らかな絹糸のように解け、リンネの両腕に纏わりついていく。

 瞬く間にリンネの指先から肘までを覆った神器は、やがて硬質なガントレットの形を成した。


「おとーさーん! なんか壊すの出して!」

「壊すのってお前な……」


 壊す前提で出さなきゃならんのか。なんかあったかな……。

 面倒だったので僕は【ストレージ】から上級フレイズの軽自動車くらいはあるでっかいかけらを中庭にドンと出した。

 魔力を流し硬度を上げる。フレームギアの装甲並みに硬くなったそれの周囲に一応【プリズン】をかけ、破片が飛び散らないようにしておく。さすがにそこまではならないと思うんだけども。


「いっくよーっ! 【グラビティ】!」


 リンネお得意のインパクトの瞬間にガントレットの重さを加重した強烈な一撃がフレイズのかけらに炸裂する。

 瞬間、澄んだ綺麗な音とともに、フレイズのかけらが木っ端微塵に砕け散った。

 おい、砕けちゃったよ……。【プリズン】しといてよかった……。

 あの神器自体に身体能力を上げるとか、破壊力を上げるといった特性はない。

 そう考えると素材に使った神応石の特性なんだろうが……。

 多くの神々が神器の素材に使うという神の鉱石だ。神力を増幅させる効果があってもおかしくはないけど……。

 半神であるリンネであの威力だ。いつか僕専用の神器を作ってもいいかもしれない。ま、地上じゃ使えないんだけどさ。


「すごーい! おとーさん、もう一個出して!」

「リンネねーさまズルいーっ! つぎはステフのばんー!」


 先ほどリンネが放ったのと同じようなセリフを今度はステフが放つ。

 自由奔放なリンネも唯一の妹には弱いのか、文句を言いながらも神器をステフへと手渡した。


「【じんぎぶそー】!」


 ステフが球体に戻った神器を掴み、右手を翳すと今度はステフの身長と同じくらいの大きな盾が形成された。

 プラチナ色に輝く、戦乙女の紋章が入った盾だ。神応石は持ち主に適した重さになるため、ステフの負担にはならないはずである。

 一応大盾なのだが、大きさがステフに合わせたものになっていて、ちょっとばかりミニサイズであるのはご愛嬌だ。


「とーさま! さっきのやつもっかいだしてー!」

「結局出すのか……」


 僕はため息をつきながら再び上級フレイズのかけらを【ストレージ】から取り出した。



          ◇ ◇ ◇



「ふむ、特に性能は問題なし、か」


 一通りの神器の検証を行った結果、致命的な欠陥というものは見当たらなかった。

 この神器自体の特性である、【神気無効化】も問題なく発動している。

 この神器の周囲では神気を使うことができない。僕自身で試してみたが、間違いなく神気を使った【サーチ】が発動しなかった。

 工芸神であるクラフトさんの話だと、神気を封じる、という能力は神器ではわりとポピュラーな能力らしい。

 魔法でいう【サイレンス】のようなもんか。相手の邪魔をするってのは基本的な戦略のひとつだ。

 ちょっと予想外だったのは、この【神気無効化】の射程距離で、九つの形態それぞれによって違うことだった。

 わかりやすく言うと、直接的な白兵戦武器は無効化する範囲が小さい。刀や剣、短剣状態だと、神器を中心として五メートル以内という狭さだ。

 逆に銃やハープボウなどだと五十メートルほどまで伸びる。ただ、範囲が広がると、端の方は効果が薄れていくようなのだ。

 相手の神気を完全に封じるなら、近距離戦ができるほどまで近づく必要がある。

 それと【神気無効化】を発動すると、当然ながらこちらの神気も使えなくなる。

 子供たちは半神であり、生まれた時から日常的に神気を微量ながら使っている。それゆえのあの身体能力なのだ。

 故に、【神気無効化】を発動中はいくらか身体能力が落ちる。まあ、それは向こうも同じことなのだが……。

 一応、オンオフは自由なのでうまく使えばそれほど足枷にはならないと思うのだけれど……。不意を突かれることもあるので、常に無効化にしておいた方が安心なんだが。

 フレイとエルナだけは【パワーライズ】と【ブースト】を使えるので、身体能力はそこまで落ちないと思うけどね。

 だけどフレイはまだいいが、エルナは前に出て戦うタイプじゃないからな……。

 やはり八雲かフレイ、久遠あたりにあの潜水ヘルメット男を倒してもらい、逃げる手段を無くしてから邪神の使徒を各個撃破といきたいところだ。

 神器の【神気無効化】を使えば『方舟』に施されている邪神の結界も破れるはずだ。

 だけどなあ……。中に乗り込んで潜水ヘルメットの奴を即時見つけて接近、【神気無効化】して神器で倒す……ってなかなかの電撃戦なんだが。

 潜水ヘルメット男が一人でいてくれればいいが、仲間が揃っているところに飛び込んではこっちが危ないかもしれないし。

 とりあえず博士のところに行って『方舟アーク』が今どんな状況か聞いてみよう。

 そう結論付けた僕は『バビロン』へと【ゲート】で転移した。

 『バビロン』の『研究所』に入ると、相変わらず博士が難しい顔をして壁に取り付けられたモニターを睨みつけていた。


「なんか進展はあったか?」

「あったというか……ま、これを見てくれ」


 博士が手にした小型リモコンを操作すると画面がパッと切り替わる。

 これは……『方舟アーク』が移動しているのか?

 『方舟アーク』がいた海域はかつて魔工国アイゼンガルドがあった大陸の南西の海域である。世界の西の果ての海底の、そのまた下の海溝に潜んでいたわけだが、その『方舟アーク』がゆっくりと移動しているのだ。


「アイゼンガルドの方に向かっているのか?」

「この方向だとそうだろうね。また港を襲うつもりなのか、それとも……」


 アイゼンガルドは魔工王の暴走、次いで邪神の出現、金花病の発生と、多くの厄災に見舞われ、かなり荒れ果ててしまった。

 それでもまだ多くの人が暮らしている。アイゼンガルドが崩壊して以降、新たな国、政府は成り立ってはいないが、それぞれ都市国家のレベルで存在してはいるのだ。

 そしてそういった都市国家の場合、大陸中央より沿岸部の都市の方が発展しやすい。

 アイゼンガルドは工業国家だったため、その技術を持った職人が多く、国が滅びた今でも他国からの取引は存在していた。

 隣国にはストレイン王国、ガルディオ帝国、ラーゼ武王国と取引を望む大国に恵まれている。

 幸い? 大変動によって陸路が完全に断たれたことによって、アイゼンガルドが直接的に侵攻されることはない。

 また、金花病や盗賊山賊の跋扈、荒廃した都市からの難民など、多くの問題を抱えるこの地を隣国があまり魅力を感じられず、侵略する価値を見出せないという理由もあり、あくまで都市間との貿易のみが続いていた。

 しかしその恩恵を受けているのはあくまで大国と向き合っている北東部だけで、南西部の沿岸都市はそこまで発展してはいない。

 『方舟アーク』がこのまま真っ直ぐにアイゼンガルドの方へ向かうならその南西部が襲われることになる。

 大きな湾岸都市がないというのはありがたいが、襲われる都市からしたら冗談ではないだろう。


「ん? 止まったな。何をしているんだ?」


 博士がコンソールを叩き、モニターの映像を切り替える。

 海底にいる『方舟アーク』が探査球の暗視装置によって映し出されるが、海中に舞う土煙が酷くてよく見えない。

 なんだ? 穴を掘っているのか?


「ははあ。海底資源を掘り起こしているのか」

「海底資源? あ、それを使ってさらにキュクロプスを量産しているってことか?」

「たぶんね」


 『方舟アーク』はうちの『工房』付きの潜水艦みたいなものだからなあ……。キュクロプスを量産されるのはあまりよろしくないんだが、この状況では邪魔もできない。

 邪魔した瞬間に転移で逃げられたら、せっかく見つけたのにまた振り出しに戻ってしまう。


「待てよ? 採掘しているということは、掘り出した鉱石を取り込んでいるということか? ……ふむ、この土煙に乗じて『方舟アーク』に近づいてみよう。中に潜入できるかもしれない」

「え? 大丈夫なのか、それ?」

「まあ、任せたまえ」


 博士がコンソールを操作して、監視していた卓球ボールほどの探査球の一つを『方舟アーク』に近づけていく。

 どうやら船体の前方の方で海底を掘り、真ん中あたりで取り込んで必要な成分を含む鉱石だけを選別、後部から残った土砂などを排出しているようだ。

 探査球はミスリル製なので、取り込まれれば回収されるはず、ということだが……本当に大丈夫か? なんかそのまま溶鉱炉みたいなところに落とされて溶かされたりしない?


「それならまあ、向こうにミスリルの塊が取れたと認識されるだけで……お、うまく回収されたよ」


 画面が見ていると酔いそうなほどシェイクされたあと、大量の砕けた鉱石とともによくわからない場所へ移動させられたらしい。


「『方舟アーク』には結界が張ってあるんじゃなかったか? 中の探査球を操作できるのか?」

「外にある別の探査球を中継させて、海中や空気中にある魔素を繋いでコントロールしている。細い繋がりだが、少なくとも掘削中は大丈夫だ。ちなみにこれが切れたら自爆するようにセットしてある。証拠は残さないよ」


 フフフ……と博士が怪しい笑顔を浮かべる。いやいや自爆って……。

 どこかへ運ばれた探査球は掘削された鉱石とともにベルトコンベアーのようなものに載せられたようだ。そのタイミングで博士が探査球をベルトコンベアーから空中を飛んで脱出させた。

 初めて見る『方舟アーク』内部は全体的に薄暗く、よく見えない。探査球のライトを付けることもできるのだが、さすがにそれは発見される恐れがあるのでやめることにしたようだ。

 どうやらここは鉱石を貯めておく倉庫のような場所らしい。

 壁にはいくつかのハッチがあってどこかの通路に繋がっていそうだが、小さな探査球では開けることはできない。


「見ろ、通気口っぽいものがある。あそこから通路へと出よう」


 扉の上部にあった通気口らしきものに近づくと、いくつかのスリット状になった蓋部分を探査球から出したレーザーのようなもので小さくくり抜き、本体を侵入させた。


「この手の通気口は基本的にどこの部屋にも繋がっているはずだが……。急がないと掘削が終わってしまうな」


 狭い通気口の中を音もなく飛んでいく探査球。そこから届く映像は、まるでダンジョンの通路を進んでいるかのようだった。

 中の大きさはわずか二十センチ四方もない。そんな狭く、いくつも枝分かれをしている通気口の中を探査球がゆっくりと進む。


「こっちの方からなにか音がするな。行ってみよう」


 探査球が音もなく空中を漂いながら曲がり角を曲がった。一瞬、画像にノイズが走り、探査球が落ちる。しかしすぐに浮かび上がり、また進み始めた。


「むう。そろそろ中継が切れそうだな。その前になにか有益な情報を……お?」


 探査球が進む先が明るい。通気管の右側に、部屋と繋がった通気口があるようだ。

 横にいくつものスリットがある蓋の隙間から部屋を覗くと、そこにはズラっとものすごい数のキュクロプスが並べられていた。

 一部空間を歪めて広くしているのだろうか、船体よりも明らかに広く見える。バビロンの『格納庫』と同じような景色がそこには広がっていた。


「こりゃまたずいぶんと量産したな……」

「今まで見たことのない機体もある。新型かな? 技術開発していたのはこっちだけじゃなかったってことか」


 面白くなさそうに博士がため息を漏らす。

 うーむ、なんとか爆弾とか仕掛けられんかな。今のうちにここにあるやつを破壊できたらすごく助かるんだが。この探査球の自爆でここらへん全部吹っ飛ばせない?

 そんなことを博士に漏らすと探査球の自爆は証拠を残さず消えるためのもので、時空魔法による爆縮を利用するから吹っ飛ばすのは不可能だと言われた。ちえっ。


「ぬ? あれは……」


 視角を変えた画面に博士が身を乗り出す。僕も釣られたようにその画面の場所に目を向けると、見たことのある人物がいるのがわかった。

 ペストマスクをした黒いコートの男だ。『方舟アーク』を強奪(まあ、僕らのものでもないのだが)された時にいた『邪神の使徒』だ。

 ペストマスクの男は壁際にある机の上のコンソールを何やら操作している。

 そのコンソールの横にはバランスボールほどの赤い結晶体が大きな漏斗のようなものに固定されており、その下には、なにか濁った赤い液体のようなものが大きな容器になみなみと溜まっていた。

 一番上にある赤くてデカい結晶体。僕はその結晶体に見覚えがあった。

 あれってフレイと行った、魔法王国フェルゼンのオークションにかけられていた人造魔石じゃないか? なんであれがここに?


「む?」


 気のせいか? あの液体の一部が少し歪んだような……。いや、気のせいじゃない。あの液体は不気味な蠕動を繰り返している。ぐにゃりと軟体物のように波打つさまは不気味な雰囲気を醸し出していた。


「まさか……あれはグラトニースライムか?」

「グラトニースライム?」


 博士が映像を見ながら呟いた言葉に思わず聞き返してしまう。聞いたことのないスライムの名前だ。


「グラトニースライムは古代魔法時代に人工的に作り出されたスライムだ。なんでも取り込んで養分にし、どこまでも成長していく。もともとは危険な廃棄物を処理することを目的として作られたのだが、使役に失敗、暴走し、巨大化して開発した小国をも飲み込んでしまった。周辺国の連合軍がなんとか魔水晶に封印し、処分したと聞いていたが……」


 封印? ひょっとしてあの人造魔石にその古代スライムが閉じ込められていたのか?

 そんなものを使ってなにをしようとしているんだ、こいつらは……嫌な予感しかしない。


「うん? 誰か入ってきたぞ?」


 博士の声に考えていた頭を上げると、壁にあったハッチから、誰かが格納庫に入ってきたところだった。

 その入ってきた者を見た僕たちは、思わず固まってしまう。


「な……!?」

「これは……どういうことだ……?」

 

 入ってきた者は人間ではなかった。機械仕掛けの人形、ゴレムである。それも僕たちが日頃からよく見ている機体と全く同じ姿。

 『金』の王冠、セラフィック・ゴールド。ステフを主人マスターとするゴレムが敵本陣である『方舟アーク』の中にいる。どういうことだ?


「検索。『金』の王冠、ゴールド」

『検索中。……検索終了。1件でス』


 僕がスマホでゴールドを検索をかけると、ブリュンヒルド城の中にピンが一つ落ちた。『方舟』《アーク》の中のやつは結界に防がれたのだろう。


「ゴールドは城にいるぞ。ってことはこいつは誰だ?」

「同型機か? 『王冠』はそれぞれひとつしかクロム・ランシェスは作らなかったと聞いていたが……。『金』の王冠は二つあるのか?」


 『方舟アーク』を所持している以上、向こうに『王冠』が存在するとは思っていたが、それはまだ未発見の機体かと思っていた。まさか同型機とは。


 『金』の王冠に気がついたペストマスクの男は、なにかを話しかけているが、通気口の中では遠すぎて話している内容までははっきりと聞こえない。


「あのペストマスクの男が『金』の王冠の契約者マスターなのか?」

「わからない……。そもそもステフがゴールドと出会った状況も空の穴から落ちてきたと言っていた。それが時空の歪みだとしたら、ゴールドとあの『金』の王冠の同型機二体は過去の世界から飛ばされてきたのかもしれない」


 あの『金』の王冠とゴールドは時空震による時の歪みで過去から未来へ飛んできた可能性があるのか?


「なんだ? スライムが……」


 容器の中にいたスライムとおぼしき赤い物体が激しい蠕動を繰り返している。いったいなにが起きるのかと画面を食い入るように見ていた僕らを嘲笑うかのように、画面に砂嵐のようなノイズが入り、やがてブツッという音とともに画面が真っ暗になってしまった。


「ああ、もう! 時間切れか!」


 博士が別の探査球の映像を映し出すと、『方舟アーク』は掘削を終えて再び海底を移動するところであった。

 侵入した探査球は、通気口の中で爆縮自爆し、チリとなって消えているだろう。


「まあ、いろいろと収穫はあった。新型のキュクロプス、グラトニースライム、そしてもう一つの『金』の王冠。どれもこれも面倒な予感がするね」


 まったくだ。

 しかし、あのスライムをなんに使うつもりなんだろう。かつて国を一つ滅ぼしたという恐ろしいスライムだ。なにかしら対策は考えておいた方がいいかもな。

 うちの奥さんたち、スライム嫌いだからなあ……。そっちの対策も必要かもしれない……。

 

 

 

 





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