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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
560/637

#560 方舟発見、そして神核完成。

■今年の更新はこれで最後になります。今年も一年、ありがとうございました。来年も『異世界はスマートフォンとともに。』をよろしくお願い致します。





 アルブスからの『方舟』発見の報を受けた僕らは、すぐさま【ゲート】を使い、深海の底に潜むヴァールアルブスへとやってきた。

 薄暗い船内に浮かぶ正面モニターに、海溝の底深く潜む『方舟』を発見する。


「間違いないね。『方舟』だ。ついに見つけたぞ」


 さて、見つけたはいいが、どうする? 全戦力をもって強襲し、『方舟』を叩くか?


「いや……、『方舟』を発見した時のことを思い出したまえよ。僕らが煙幕で視界を防がれたわずかな間に『方舟』は忽然と消え失せただろう? 下手をするとあの二の舞になるんじゃないか?」


 むぐ。博士の言い分ももっともだ。今となってはあれは潜水ヘルメット男が持つ『邪神器』の能力だと思う。

 わずかな間があれば転移されてしまう可能性が高いな。あの潜水ヘルメット男を倒すか、邪神器を使えないようにするかしないと……。


「この海域にずっといるのもマズい。アルブス、探査球をいくつか監視に残してヴァールアルブスを移動させよう。向こうに見つかってしまったらせっかくのアドバンテージが無駄になってしまうからね」

『了解』


 博士の言を受けて、ヴァールアルブスがゆっくりと『方舟』のいる海域からはなれていく。

 確かに博士の言う通り、見つかってしまったら向こうはまた転移で逃走してしまう可能性もある。


「【テレポート】であの中に一気に乗り込むってのはダメなのかの?」

「おそらく結界が張ってあるだろうからね。弾かれて万が一深海の中に転移してしまう可能性もゼロじゃない。オススメはしないね」


 博士がスゥの提案を却下する。さすがにそれはなあ……。水圧でペチャンコになるのはゴメンだ。


「しかしアレを見張っていれば、これ以上港町が襲われる心配はないでござるな」

「いえ、それも怪しいわよ。何も『方舟』から出て出撃する必要はないんだもの。目的の港町の海域にキュクロプスを直接転移させればいいわけだし」

「な、なるほど……。転移魔法持ちは厄介でござるなあ……」


 リーンに返した八重の言葉に僕、桜、八雲、ヨシノの四人はわずかに眉を寄せる。いや、僕らのことを言っているわけじゃないのはわかってるんだけどね?

 みんなの言いたいことはわかる。目の前に敵がいるのに攻撃を仕掛けることができないって歯痒さが。向こうはこちらに気付いた瞬間に転移して逃げてしまうかもしれない以上、下手に手を出すわけにもいかないからな。

 やはりあの潜水ヘルメット男の邪神器を破壊するしかないか。しかしそうなってくるとこっちもそれを壊すための神器が必要になってくる。新しい神器が。

 新しい神器を作る……それには神器の心臓となる『神核』を完成させなければならないわけなんだが……。

 今のところ九割くらいまではうまくいっていると思っているのだが。ゴルフボールくらいまでは圧縮できたし。あとはそこからビー玉くらいまで圧縮できれば完成するのだけれども。

 やっぱり神器を完成させることは急務だな。


「とりあえずアレを監視しつつ、なんとか中に探査球なり発信器なりを直接忍び込ませる方向でいこう。バラストタンクなり排水口なり、どこかに侵入できる場所があるはずだ」


 転移で逃げられても追跡できるようにか? でも……。


「入り込めたとしても結界に阻まれて、居場所をこっちに送信できないんじゃ?」

「まあ、そこは任せておきたまえ。入り込んでさえしまえば、あとはなんとかなる」


 自信たっぷりにニヤリと笑う博士に、どう見ても悪党の笑いだよなあ……と若干引いてしまう。


「でも冬夜さんもよくあんな感じになりますよ?」

「そうね。悪い顔してる時の冬夜と同じよね」


 ハハハ、リンゼ君にエルゼ君、二人とも何を言っているのやら。僕があんな意地の悪い笑みを浮かべるわけがないじゃないか。ねえ、みんな?

 と同意を求めたが、誰一人として頷いてはくれなかった。ちくせう。



          ◇ ◇ ◇



「ぐぬぅぅぅぅぅぅ……!」


 脂汗を流しながら神核を圧縮していく。ゴルフボール大まで小さくなったそれをさらに押し固めていく。

 ちょっとでも気を抜けば弾け飛びそうなそれを、ゆっくりと、慎重に、バランスをとりながら圧縮していく。

 かれこれ二時間もこいつと格闘している。初めの方は興味深そうに見ていた子供たちも、だんだんと飽きてきたのか、誰も気に留めなくなっていた。ちょっと寂しい……。


あるじ、頑張って下さい!』

『最後まで気を抜かずに!』

 

 子供たちに放って置かれている僕を憐れんでか、琥珀と瑠璃がエールを送ってくれている。珊瑚と黒曜、紅玉も見守ってくれていた。

 それから中庭で格闘することさらに二時間。

 お昼が過ぎて、もはや疲労困憊のギリギリまで力を絞り出した僕は、ついにゴルフボールから少し大きめのビー玉くらいまで神核を圧縮することに成功した。


「あ、とは、こい、つを、固、定、すれ、ばぁぁぁぁぁぁ……!」


 神核の周りに鍵をかけるように、六面パズルをぐちゃぐちゃに崩すように、二度と開かなくなってもいいと思えるほどの安全ロックをかけて、僕の神核は完成した。


「で、きた……」


 完成と同時に僕はその場にうつ伏せにばったりと倒れ込む。

 もー、ダメ……。限界っス……。指一本動かすのもヤダ……。


『大丈夫ですか? あるじ……』

「だいじょばない……」


 疲れ過ぎて呂律が回らない……。異世界に来てこれほど疲れたことはないってくらい疲れた。回復魔法を使う魔力、いや気力さえない。今、暗殺者なんかに襲われたら間違いなくやられる。

 くくく、邪神の使徒たちめ。今がお前らの最大のチャンスだぞ。この機を逃せば二度と僕を倒す機会など巡ってはこない。せっかくのチャンスを見逃したな……!

 ……いかん、思考までおかしくなってる……。

 実際に暗殺者なんかが来ても、琥珀たちが守ってくれるだろうけども。

 バビロンにある魔力タンクがなければ、本来なら琥珀たちまで消えているところだ。

 ぶっ倒れたまま、目の前の地面に転がる神核を眺める。

 プラチナの神気を陽炎のように放つ真球状の水晶体。間違いなく神核として完成している。とうとうやってやったぞ、と思わず口の端が緩んだ。

 無くさないように【ストレージ】に……。まあ、無くしても僕が『戻れ』と念じれば戻ってくるんだけど……。

 地面になんとかビー玉ひとつ分の【ストレージ】を開き、その中へ神核を落とす。

 あー、もうホント限界……。

 僕は心地よい疲労感と共に琥珀たちに見守られながらストンと意識を手放した。



          ◇ ◇ ◇



「ふむ……。初めてにしてはなかなかの出来だな。神器の核としては申し分ないよ」


 おお……。やった。工芸神であるクラフトさんにお墨付きをいただいたぞ。あの辛く厳しい作業はもう終わったのだ。

 やっとのことで『神核』を作り上げた僕は、その成果を見てもらおうとミスミド王国にいる工芸神・クラフトさんのところへとやってきていた。


「それで、神器の『器』は決まったかね?」

「それなんですけど……奏助兄さんの神器のように、その時の状況によって形が変わる神器って僕に作れますかね?」

「奏助? ……ああ、音楽神のことか。形が変わる神器には二通りのタイプがある。一つは使用者の思念を読み取り、読み取った姿へと変化するもの。音楽神の持つ神器、『千変万化』はこちらの方だね。もう一つのタイプは元からいくつかの形が決められていて、状況に応じてそれを切り替えて変化するというもの。どちらもメリット、デメリットがある」


 クラフトさんのいうメリット、デメリットとは。

 まず、自由自在に変化する方。こちらはその都度、何に変化させるか使い手の細かいイメージが必要となる。

 そのため、元の形……奏助兄さんの『千変万化』なら、楽器の形を正しく記憶、理解していなければならない。つまり、ピアノならば、内部のハンマーなどの構造も全てわかっていなければならないということ。

 てか、無理でしょ。いや、奏助兄さんのが楽器だから複雑なのかもしれないけどさ。

 剣、槍、斧、なんていう単純な武器ならそれほど複雑なイメージはいらないんじゃないかと思ったが、重さとか硬さまでイメージしないといけないらしい。それはしんどいな……。

 自由自在タイプのメリットはどんな形にも変形させられるってこと。新たに考えた形にも変化させられるってことだ。

 そしてデメリットは完璧なイメージが必要ってこと。それと器を作る際に特殊な調整が必要らしい。つまり作るのが難しい。

 そしてもう一つの方。切り替えタイプとでも言おうか。

 こちらの方のメリットは変化に要する時間が短く、使用者に負担がないこと。製作が楽なこと。

 デメリットは当然ながら、初めに決められた種類の形にしか変化できないってこと。完成後の追加変化はできないってことだ。


「その条件だと、切り替えタイプの方がいいのかな……」


 使用者に負担が少ないってところと、製作するのが楽ってのはありがたい。

 神器製作は初心者だからさ。あまり挑戦的な作品は避けたいところだよね。


「まあ、そっちの方が失敗は少ないだろうな。自由自在に変化するタイプは細かな調整が必要になってくるから初心者向けじゃない。作り手にも使い手にもね」

「あ、その武器を巨大化させることってできます? 邪神の神器はそんな能力があるんですけど」

「巨大化? ああ、それは持ち手の体格に合わせて一番適した姿に変化する【最適化】の機能だな。あれは神核とは関係ない器の特性だから、比較的簡単に後付けできるよ」


 なるほど。あれは神器の神核による特性じゃなくて、武器の素材による特性なのか。確かに巨大化した上に雷を出したりしてたもんな。


「それで神器につける特殊効果だけど、【神気無効化】でいいんだね?」

「はい。それでお願いします」


 【神気無効化】。その名の通り、相手の神気を無効化する。つまり、神気による能力を封じる。

 この神器を使えば、あの潜水ヘルメット男の邪神器による転移を防ぐことができる。ただし、そのためには相手を自分を中心にした射程距離内に引き込まねばならないが。


「しかし……よく考えてみると妙だな」

「なにがです?」

「邪神の使徒というのは神器を持っている。それもいくつもだ。これらはどこからきた?」

「え? そりゃ……邪神が作ったんでしょ? 神族しか作れないんだし」


 何を今さら。ユラが生み出した邪神。そしてそれに取り込まれ、邪神を乗っ取ったあのニート神が生み出し、残したものがあの邪神器だろ?


「世界神様の眷属たる君が、何ヶ月もかかかってやっとここまで作ることができた神器を、たかが元従属神ごときがそんな短期間にポンポンと作り出せるものなのか?」

「そう言われると……」


 邪神の使徒が持っていたアレは神器……だと思う。それとも神器じゃないのか? 神器もどき? でも神気を纏っていたしな……。


「従属神時代にコツコツと何個も作っていた……とか?」

「そんなコツコツと努力をする者があそこまで落ちぶれるとは思えんのだが」


 むう。確かにそうだ。あいつは大した努力もせず、都合の悪いことは周りのせいにして、『俺はまだ本気を出していない』とか言うようなタイプだ。

 そんな奴がコツコツと神器製作の努力なんかしているわけがないな。


「となると……あの邪神器はどこから?」

「もともと存在した神器を作り変えたか……。あるいは……神器ではないのか」


 やっぱり紛い物ってことか? いや、そもそも邪神自体が正式な神ではないのだから、そいつが作ったものを神器ということ自体、おかしな話なのだが。


「邪神がそういった神気をまとった武器を作り出した例はいくつかある。邪聖剣とかね。しかしそれでも一つか二つで、こんなに多くはなかった」


 今のところ、八雲とフレイが破壊した茶色い肉切り包丁と紫の槍、潜水ヘルメット男の持つ青い手斧とペストマスクの男が持つ赤いレイピア、あと、八雲が出会ったっていう鉄仮面女のオレンジ色のメイスか。

 少なくとも五つの邪神器が作られている。確かに多いな。


「これはひょっとすると……」


 クラフトさんは少し考え込む様子を見せたが、すぐにかぶりを振って視線を僕に戻した。


「ま、考えても仕方がない。で、変化する神器を、という話だったけど、何通りに変化させるんだい? あ、巨大化とかは抜かして」

「何通り、か。そう言われてもな……」

「普通、こういう変化系の神器は誰にでも使えるように、あるいは状況に応じて臨機応変に対応できるようにといった目的があるんだけれど、君の場合はすでに使い手が決まっているのかね?」


 神器の使い手か。ええっと……僕やユミナたちではダメなんだから、やっぱり子供たちの誰かに託すことになるよな……。

 ここはやはり年長者として八雲か? 八雲なら刀だけれども。

 いや、やはり長男。ブリュンヒルドの跡継ぎである久遠に……久遠だと、武器はなんだろう? 普通に剣かな? シルヴァーとか使ってるし。

 戦闘センスでいったらリンネも……あの子ならガントレットとかかな?

 いや、『自分も使いたい!』とかフレイあたり言いそうだよな……。そうなると他の子たちも……。


「ううーん…………」


 誰に合わせて作ればいいのか悩む……。

 そもそも変化する神器にしようと思ったのは、相手がキュクロプスに合わせて巨大化する神器を使っていたから。

 こっちも巨大化する神器じゃないと太刀打ちできないんじゃないかと思ったからだ。

 だが、クラフトさんの話だと巨大化自体は別に付与できるっぽい。

 なら変化する武器である必要はないとも言える。

 言えるんだけど……。

 子供たち誰か一人だけに適した神器を与えるのは、すごく揉めそうな気がする……。

 やはりここは全員に合った武器に変化する神器の方がいいよな。みんな使える方が自由度がきくし、誰かが仲間外れってのもなんだし。

 すると九通りか……。多いな。今さらだけど。


「九種に変化する神器か。いいんじゃないかな。では器の方の下準備をしよう。素材はやはり神応石がいいだろうな」


 そう言ってクラフトさんは何もない空間から漬物石くらいの平べったい真っ白な石を取り出した。

 神応石。僕らの結婚指輪にも使われている特殊な鉱石で、注ぐ神気によって様々な特性を持たせることができる。

 そういえば僕らの結婚指輪のデザインは、工芸神であるクラフトさんが作ってくれたんだよな、確か。

 クラフトさんから手渡された神応石を受け取って、神気を注いでいくと、真っ白だった神応石がだんだんとプラチナ色の輝きを帯びてきた。

 ………………。

 …………えーっと、これ、いつまで注入するの? 長いな。まだですか?


「できる限り限界までかな。その方が君の神気に馴染んで強力なものになるし、これは後乗せできないからね」


 ……マジか。技術的には難しくはないけど、限界まで注げって……。神核だけじゃなく、器を作る方もしんどいとは……。

 他の神様たちがあまり神器を作りたがらない気持ちがわかってきた……。自分用に一回作れば充分だわ……。

 数時間後、ほとんどの神気を注ぎ込んで干からびそうな僕をよそに、クラフトさんが神応石を満足そうに眺めていた。


「うむ。素晴らしい。これで素材については問題ないだろう。あとは器となる武器の形状だが、どうするかね? それだけなら私が作ってもいいし、自分で作るのもありだが」


 つまり武器のデザインはどうするか、ってことだよね? 本来ならば工芸の神であるクラフトさんに頼むのが一番いいんだろうけど、これは僕が子供たちに渡すものだ。やはり最後まで自分の力でやり遂げたい。

 デザインがダサくても性能に差異はないしね……。

 神気を吸い取られて憔悴しながらも、そう心に決めた僕だったが、今すぐは無理だ。

 うん、明日から。明日から神器の製作に入ろう。

 しかしそこに思いもよらないクラフトさんの言葉が僕に向けて飛んでくる。


「ああ、変化する形の分だけ神核が必要だから、あと八つ作っておくように」

「………………ほわっつ?」


 え、なに言ってんの、このひと

 一個作るだけでもあんな大変だったもんを、あと八つ作れと!? 死ねと!? 鬼ですか、あなた!? 神ですか、そうですか!

 嘘ん……。



          ◇ ◇ ◇


 

「で、きた、ばい……」


 なんで行ったこともないところの方言が出たのかわからないまま、僕は地面へと倒れ込んだ。

 あれから『一度できたんだから次はもっと楽に作れるはずだ』というクラフトさんの、なんの根拠もない言葉に騙され、本当に精魂尽きるかと思うほど、神核作成に気力体力神力を搾り取られた。

 一週間だぞ。一週間クラフトさんちに軟禁され、ずっと作らされたのだ。七日で八つの神核を作った自分を褒めてやりたい!

 クラフトさんのいう通り、一度成功体験があるからか、追加で作った八つの神核は、全て失敗することなく作ることができた。ブレイクスルーってやつかね?

 だが前より楽に作れるからって、まったく疲れないということではない。

 逆にゴールを知ってしまったから道のりの長さがわかってしまうというか……。疲れる前から疲れてしまうような感覚が……。なに言ってんのかわからないって? 僕もわからん……。

 とにかく疲れた……。三日間くらいぶっ続けで寝てもいいんじゃなかろうか……。

 自由自在タイプより、切り替えタイプの方が作るのキツくない……?

 向こうは神核一個でいいんでしょう? あっちの方が楽じゃん……。


「普通は切り替えタイプだと、変化させる形は二つか三つくらいだからね。九つも変化させるなら確かに自在タイプの方がいい。ただそれは使い手が神族だったら、だがね。人間が扱うならやはり切り替えタイプの方がいいと思うよ」


 できた神核をめつすがめつ、クラフトさんが説明してくれる。

 ううむ、子供たちは半神であるから半分は神族であるのだが、半分は人間だ。僕に負担がかかる分だけ、あの子たちに負担がかからないと考えればこの疲れも飲み込める。

 それに本来、神器はもっと長い時間をかけて作るものだ。こんな全速力でフルマラソンするような作り方は普通はしない。

 ゆっくり作るならやっぱり切り替えタイプの方が総合的に楽なのかもしれない……。


「というか、こんなに神核作るなら、もう九つの神器を作るほうが楽なのでは……」

「あまり多くの神器を地上に生み出すのはお勧めしない。地上に混乱をもたらすし、その神器を管理するのは君だからね。基本的に神器は不滅。これから未来永劫、君に責任がついて回る。余計なリスクは背負わない方がいいと思うよ」


 むう。確かに。神器は下手をすると新たな邪神を生み出す苗床になりかねない。数が多ければ多いほどその危険性は高まる。のちのちのことを考えると、やはり神器は一つでいいか……。


「まあ、万神殿パンテオンの宝物庫に入れてしまえば盗まれる心配もなくなるけど……」

「そこってアレですよね? 一度放り込んだら探すのに千年単位で時間がかかるっていう神様たちの不用品置き場……」

「ま、それは置いといて」


 置いとくのかい。誰か管理してくれるひとはいないのか? 目的に応じた神器を取り出せるようになればすごく助かると思うんだが。

 しかしそれを口にすると僕にその仕事が回ってきそうな気がするので言葉にはしない。何千、いや何万年も倉庫整理なんかしてたまるか。

 

「神核は必要数集まった。あとは器を完成させるだけだけど、作る九つの種類は決めたのかい?」

「だいたいは。ひとつだけ悩んでますけど」


 八雲は刀、リンネはガントレット、エルナは杖、久遠は剣、アーシアは短剣、クーンは銃、ここまではすんなり決められた。

 残りのフレイ、ヨシノ、ステフなんだけど……。

 フレイは万能型だから槍とかでも使いこなせると思う。

 ステフは【プリズン】を使うし、体当たり戦法を使うから、盾なんかなら突っ込んでいくシールドチャージ的な使い方ができるだろう。

 問題はヨシノだ。ヨシノの得意な武器ってなんだ?

 あの子基本的に戦わないからな……サポート役というか。得意な武器……楽器?

 ギターをぶん回して殴りつける、みたいな? いやいや、それは正しい使い方じゃない。楽器をそんな使い方したらヨシノが悲しむ。

 あ、でも昔なにかでギターアックスってのを見たような気が。斧とギターが合体したようなやつ。

 ヨシノのはそんな方向でひとつ考えてみるか。

 九種の武具に変化するといっても、別に八雲が刀しか使っちゃダメというわけでもない。槍で戦ってもいいし、銃で撃ってもいい。結局は使い手次第だからな。

 ただ単にそれぞれ子供たちの得意な武器を使わせてあげたい、っていう僕の我儘だ。状況に応じて使いたい形態を使えばいい。


「よし、じゃあ神応石を武器に作り変えていこうか」

「ア、ハイ……」


 笑顔でそう言い出したクラフトさんに、あとどれくらいかかるのかと、僕は少し陰鬱な気持ちになった。





■今までの書籍特典のSSやコラムをホビージャパンさんの『ノベルアップ+』で公開中です。発売から一年経過したものを載せております。アニメ化した時に特典として書いた幕間劇も含め、全部で約十万字ほど。ほぼラノベ一冊分です。個人的な公開ですので、『ノベルアップ+』の検索で『冬原パトラ』で探していただけると。楽しんでいただけたら幸いです。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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