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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
554/637

#554 キョウの都の決戦、そして天敵。

■キリが悪いため少し長くなりました。





 イーシェンの首都・キョウの都は、襲い来る魔獣などに備えて、城郭に囲まれた作りになっている。

 しかしその城郭も高さは四メートルほどしかないので、本来ならばフレームギアやキュクロプスなどではひと跨ぎで越えられてしまうだろう。

 今現在もキョウの都が無事なのは僕の張った結界に侵入を阻まれているからである。

 だけれどそれもいつまで持つかわからない。なによりもまずいのはあのメタリックパープルの角付きキュクロプスだ。

 あいつの持つ邪神器なら僕の張ったキョウの都の結界など数撃で壊せてしまうと思う。

 あれは神気を注いだものじゃなく、ごく普通の魔力の結界だからな……。

 邪神の神気を僅かに纏うキュクロプスの攻撃でも、かなりダメージが蓄積されていると思われる。


『お父様。ここからでは射線上にキョウの都があって【一斉射撃フルバースト】ができませんわ』


 クーンからそんな通話が届く。グリムゲルデの【一斉射撃フルバースト】をくらったら、さらにキョウの都の結界が弱まってしまう。それはまずい。

 最低でもあの邪神器を持つキュクロプスをここから引き剥がさないと……。

 僕がそんなことを考えていると、後方から一発の銃声が響く。

 とほぼ同時に、目の前の角付きが紫の槍を一振りしたかと思うと、ガキィン! と金属が弾ける音が辺りに反響した。

 振り向くとスナイパーライフルを構えたブリュンヒルデが見えた。久遠が狙撃したのか。


『へえ。正確に頭を狙ってきやがった。面白いじゃねーか』


 角付きが槍をくるんと回転させる。


『いいね、いいね。ただ町を壊すのもつまんねーと思ってたところだ。嫌だっつっても相手になってもらうぜ! お前ら、いくぞ!』


 槍を構えた紫色の角付きを先頭に、キュクロプスの群がこちらへと駆けてくる。


『思ったより簡単に釣れましたね。ずいぶんと直情的な人物のようです。父上、速やかに後退を』


 久遠が冷静に分析するような口調で話しかけてくる。どうやら挑発してキョウの都から引き離そうって腹だったらしい。この子本当に六歳児……?

 久遠に言われる通り、僕らは迫るキュクロプスを警戒しながら後方へと退却する。

 幸い、キュクロプスは機体が重装甲の部類なので、足はそれほど速くはない。と、言ってもうちの重騎士シュバリエより少し遅いくらいだが。


『逃がすかよ!』


 突然、先頭を走っていた角付きが、足のバーニアを噴射させて高スピードで突っ込んできた。

 ぐんぐんと追いついて来た角付きの槍が、最後尾を走る重騎士シュバリエの一機に迫る。


『させないんだよ!』


 その重騎士シュバリエの前に出て角付きの槍を盾で防いだのはフレイの駆るジークルーネ。

 ジークルーネの盾に槍を防がれた角付きのキュクロプスが一旦下がる。


『俺の「ウィスタリア」を止めるたあ、さすがブリュンヒルドのゴレム兵だな。だけどこいつはどうかな!』


 ウィスタリアと呼んだメタリックパープルの槍を、角付きが頭上でぐるぐると回す。

 回転するたびに槍にバチバチという火花が飛び散り、角付きは稲妻を纏ったその槍をまっすぐにこちらへ目掛けて振り下ろした。

 瞬間、轟音と共にあたりにいくつもの雷撃が降り注ぐ。

 間一髪、咄嗟に後ろへ下がったジークルーネの目の前にも大きな雷が落ちた。

 何機かの重騎士シュバリエが落雷を浴びて、その場に膝をつく。

 フレームギアはコックピットに防御シールドを張ってあるからパイロットたちは無事だと思うが、機体は少なからずダメージを受けているだろう。

 しかし雷撃をくらったのはこちら側だけじゃない。角付きの後方にいたキュクロプスたちにも雷は落ちた。

 味方もろともってか……! あっちはおそらくパイロットがいない、あるいはゴレムが動かしているとすれば、遠慮なんていらないんだろうが……。

 雷撃をくらって動きが鈍くなった重騎士シュバリエに、追いついたキュクロプスたちが一斉に襲いかかろうとする。


『ここまで離れたらもう遠慮はいりませんわね』


 その群れに向けてクーンの乗るグリムゲルデから晶弾の雨が降り注ぐ。さらにクーンが撃ち漏らしたキュクロプスを、久遠のブリュンヒルデが丁寧にヘッドショットで撃ち抜いていた。

 雷撃をくらった重騎士シュバリエたちがその間に後方へと下がる。

 追いついて来たキュクロプスたちに前に出た重騎士シュバリエたちが応戦し、乱戦の様相を呈してきた。

 その中で邪神器を持つ角付きとフレイのジークルーネが攻撃の応酬を繰り広げている。

 フレイの本来のスタイルはあらゆる武器を使い、状況に応じて最も適した戦いをするというものだ。

 そのため彼女は剣だけではなく、あらゆる武器を一通り使いこなせる。もちろん槍も使いこなす。

 槍を使えるということは、槍を使う相手の戦い方もある程度読めるということだ。

 角付きが繰り出す槍の一撃を、フレイは盾で受け止め、剣で弾き、退いて躱した。

 ジークルーネは互角以上に戦っている。しかし、向こうはまだ余力があり、武器の性能差にわずかだが差があるように思える。

 向こうは邪神の神気を纏った槍、こちらは僕の魔力を注いだ晶材製。

 攻撃を受けるたび、ジークルーネの武器がダメージを受けていく。


『おらあっ!』

『っ!?』


 強烈な角付きの一撃をくらい、耐えていたジークルーネの盾が大きく二つに割れた。

 怯むジークルーネの頭部目掛けてメタリックパープルの槍が再び迫る。

 だが間一髪、横から駆けつけたシュヴェルトライテの剣閃に紫の槍は弾かれ、大きく的を外した。


『それ以上妹をいじめないでもらおうか』

『八雲お姉様!? いじめられてなんていないんだよ!』


 助けられたフレイが心外とばかりに抗議の声を上げる。

 槍や薙刀など長物武器を持つ相手に剣で勝つには、三倍の技量がいるという。

 その槍相手と剣で互角にやりあっていたのだから、フレイの言い分もわかる気もする。

 だけど危なかったのは事実。フレイと八雲は二人で角付きの相手をすることに決めたようだ。


『んもー! しつこーい!』


 声のする方に振り向くと、ステフの乗ったオルトリンデ・オーバーロードが、大型キュクロプス二機と殴り合いをしていた。

 ほぼ同じサイズの二機に同時に攻撃されているオーバーロードには、必殺のロケットパンチを飛ばす余裕がないようだ。

 腕を飛ばす『キャノンナックル』は、当たり前だが飛ばしている間は片腕となる。そこにもう一機に襲われてしまっては反撃するのが難しい。

 結果、襲いくる大型キュクロプス二機を殴り飛ばして距離を取ろうとしているのだと思う。

 しかしながらこの大型キュクロプス、耐久性が高いらしく、なかなか倒れない。

 起き上がり小法師のように、よろめいては踏み止まり、また向かっていくという、さながらゾンビのような戦い方だった。


『これならどーだ!』


 オーバーロードが脚部にあるドリルを外し、右腕にガシンとドッキングさせる。


『ひっさーつ! ドリルブレイカー!』


 高速回転したドリルが大型キュクロプスの胸部にクリーンヒットし、バキバキと大きな穴を穿つ。

 胸部に風穴を空けられた大型キュクロプスが背中から地面へと倒れていく。さすがにあれでは立ち上がれまい。


『こんどはこっち! ドリルキャノンナックル!』


 ドン! と向かって来ていたもう一機のキュクロプスに向けて、オーバーロードからドリル付きの右腕が発射された。

 凶悪な回転をはらみながらドリル付きのキャノンナックルがあやまたず大型キュクロプスの腹部を貫いていく。

 盛大な音を立てて大型キュクロプスが地面へと倒れた。


『やったー!』


 喜ぶように振り上げた右肘に、キュクロプスを貫き戻ってきた腕がドッキングする。

 次の瞬間、オルトリンデ・オーバーロードの至るところの関節からブシューッ! とキラキラとしたエーテルを含んだ白煙が上がる。


『え? え? なにこれー!?』


 ステフの悲鳴とともに、オーバーロードが片膝をつく。これは……!


『負荷がかかり過ぎたんですわ。オーバーロードは他のフレームギアよりも圧倒的に燃費が悪いんです。イグレットでも何回も星の盾を使ってましたし……』


 クーンから説明するような声が飛んできた。オーバーロードを動かしているエーテルリキッドが全身に回り切れてないってことか? 人間でいうと貧血みたいなものか。

 とにかく動けないのはヤバい。ただでさえデカいオーバーロードがあれでは格好の的だ。

 同じように考えたのか、キュクロプスどもがオーバーロードに群がっていく。そうはさせるか!


「【ゲート】!」

『あややっ?』


 オーバーロードが地面に沈み込むように転移していく。出現場所はここから少し離れた後方だ。時間が経てばまた動けるようになるはずだからな。


『むー! とーさま! ステフまだたたかいたーい!』

『これ、ステフ。わがままを言うでない。もう充分に楽しんだであろ? 少し休むのじゃ』

『むー……。わかったの……』

『うむ。よい子じゃ』


 なんかほんわかした会話が流れてくるが、この戦いを『楽しみ』ととってしまうのは問題だと思う……。ステフが戦闘狂にでもなったらお父さん泣くぞ。少しスゥと教育方針を話し合う必要があるな。

 大型キュクロプスは倒れたが、普通サイズのキュクロプスと重騎士シュバリエとの戦いは続いている。さすがに連戦はきついのか、イグレットの時よりも精彩を欠いているようにも感じるな。

 そんな状況を打破するかのような声が戦場に響く。


『ブリュンヒルド騎士団、突撃ッ!』

『おおおおおおおおおお!』


 白騎士シャインカウントに乗る騎士団長のレインさんの号令で、重騎士シュバリエたちが楔型の陣形で敵陣を切り裂いていく。

 魚鱗の陣……だっけか? 馬場の爺さんあたりから教わったのだろうか。武田の騎馬軍団を率いていた将軍なのだから、その手のことはお手のものなのだろうけど。

 団長に鼓舞されたのと、後方にいるヨシノの操るロスヴァイセから飛んできた支援魔法により、うちの騎士団が息を吹き返した。

 乱戦の中、うまく連携をとり、確実に一機一機を潰していく。

 その中で大立ち回りをしているのは、やはり角付きのキュクロプスと戦っているフレイのジークルーネ、八雲のシュヴェルトライテだ。

 この戦いに邪魔が入らないように、リンネのゲルヒルデとアリスの竜騎士ドラグーンが周りのキュクロプスを撃退している。

 メタリックパープルの角付きキュクロプスは、二機のフレームギアに攻められているにもかかわらず、互角の戦いを繰り広げていた。


『おらおら、どうしたどうしたァ! もっと気合い入れてかかってこいよ!』

『くっ、この!』

『うるさいんだよ!』


 左右同時に斬りかかった二つの剣を、槍の中心を持つようにして角付きはどちらとも受け止めて弾き返した。

 そのまま間髪を容れず、くるんと回した槍をジークルーネに付き出していく。

 その槍をジークルーネが躱したタイミングでシュヴェルトライテが斬り込むが、角付きは素早く槍を引いてその剣撃を弾き返し、後方へと下がった。

 完全に動きを読まれている気がする。戦いの中で八雲とフレイの戦い方を見切ったとでもいうのか?

 神魔毒(弱)の効果でいつもより出力が落ちているとはいえ、ここまで翻弄されるとは。

 僕と対戦した時は飛操剣フラガラッハでの不意打ちに近い勝ち方だったしな。あの時に仕留めていれば……。

 さっき戦った肉切り包丁の鉄仮面は、ただ武器を振り回す力任せのヤツだったが、こいつは違う。

 経験に裏打ちされた強さを持つ実力者だ。今はまだ抑え込めているが、油断していると大怪我をするかもしれない。


『おっと』


 突然角付きが垂直に立てた槍になにかが弾かれる。銃弾? 久遠か!

 さっきも弾いてたが、久遠の狙撃さえも見切るってどんだけ視野が広いんだよ……。

 あまりの実力にジークルーネとシュヴェルトライテも動きが止まっている。

 いや、周りのキュクロプスは減ってきているんだから、数で押せばきっと倒せるはずだ。あいつだって二機のフレームギアとやり合っている最中に久遠の狙撃は躱せまい。

 再びジークルーネとシュヴェルトライテの攻撃が始まる。


『おっ、やる気だなァ! けど、甘いぜ!』


 斬りかかってきたジークルーネの斬撃を躱し、角付きが真ん中あたりを持った槍で殴ろうとする。しかし斬り下ろしたはずのジークルーネの剣が跳ね上がり、その槍を弾き返した。


『なにっ!?』


 流れるようにその隙を突いて、シュヴェルトライテの刀が角付きの脇腹を襲う。


『このっ……! しゃらくせえ真似を!」

 

 機体を捻って避けた角付きの脇腹を、シュヴェルトライテの刀が掠める。

 なんとか躱したが、大きく体勢を崩した角付きに、たたみかけるように再びジークルーネの剣が迫っていた。


『く……!』


 さすがにこれは避け切ることができなかった角付きの左腕が、肘の先からバッサリと斬り落とされる。

 左腕を斬り落とされた角付きがジークルーネとシュヴェルトライテから距離をとった。

 なんだ? 二人の動きがさっきとまるで違う……。八雲とフレイになにか……あ!

 僕は共通回線になっているスマホに話しかける。


「ひょっとして今ジークルーネとシュヴェルトライテを操っているのはヒルダと八重か!?」

『はい、そうです』

『さっき久遠に連絡して隙を作ってもらい、その間に交代したんでござるよ』


 そうか、久遠の攻撃はそのための時間稼ぎだったのか。でも二人とも神魔毒(弱)の影響は? 大丈夫なのか?


『未だに気持ち悪いですが、数分ならなんとか……』

『さすがに長丁場は無理でござる……。なので短期決戦でいくでござるよ』


 シュヴェルトライテが刀を、ジークルーネが剣を構えて角付きへ向けて駆け出していく。


『調子に乗んなよ、この野郎!』


 角付きが振り下ろした槍からまたしても雷撃が辺りに雨のように降り注いだ。

 しかしジークルーネとシュヴェルトライテはそれを無視するかのように角付きへと迫っていく。ちょっ、そのままじゃ落雷に……!

 稲妻が二機のフレームギアを直撃するかと思ったそのとき、その雷撃が霧のように一瞬にして消えてしまった。


『なんだと!?』

『我が家の息子は頼りになるでござるな』

『ええ、まったく』


 久遠の【霧消】の魔眼か! え、この距離でも消せるのか!? うちの息子がチート過ぎる!

 角付きへと迫ったシュヴェルトライテとジークルーネの剣が振られる。

 シュヴェルトライテの刀がキュクロプスの首を飛ばし、ジークルーネの剣がその胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 メタリックパープルの機体が残骸となって辺りにばら撒かれていく。

 際どいところもあったけど、なんとか勝ったな。雷撃の中に突っ込んで行ったのはさすがに焦ったけど……。

 

『久遠から雷の方は任せて下さいってメールが送られてきたんです。だからそれを信じて突っ込みました』

『さすがに疲れたでござる……。胃がムカムカして、変な耳鳴りはするし、頭は重い……。全身が気怠くて仕方ないでござる……』


 神魔毒(弱)の影響だな。その上であれだけの戦いをしたのだから、もう二人とも限界なのかもしれない。早く休ませてあげなければ……。


「っと、その前に邪神の使徒は……」


 ジークルーネの一撃により角付きのキュクロプスは真っ二つにされている。

 イグレットの時と同じく、このキュクロプスのコックピットもおそらく胴体にあったと思う。あの一撃で仕留められていたらいいのだが……。


『ぐ……!』


 バラバラになったキュクロプスの残骸の下から、ボロボロになった邪神の使徒が這い出てきた。確かオーキッドとか言ったか。

 左腕は千切れ、横腹に穴が空いていたが、肉切り包丁の邪神の使徒と同じく、ウゾウゾと肉が盛り上がり、みるみるうちに再生していく。


「『ウィスタリア』!」


 オーキッドが手を翳すと、地面に転がっていた邪神器が小さくサイズを変えて飛来し、その手に収まる。

 まだやる気か。

 僕は【テレポート】を使い、紫の槍を持つ邪神の使徒の前に立つ。

 念のため『神眼』で確認してみるが、やはりこいつも邪神器に魂が繋がったアンデッドだ。


「よお、あんたがブリュンヒルドの大将か?」

「……だとしたら?」

「はん。ぶっ殺すに決まってんだろ。アンタらは俺らの天敵らしいからよ」


 天敵ね……。まあ言い得て妙だな。こっちからすればお前らはしつこい害虫でしかないけど。


「確かにお前らの仲間を一人、さっき消してきたけどな」

「仲間? 誰だ?」

「肉切り包丁を持ったデカいやつだ」

「なんだよ、ヘーゼルの野郎くたばったのか。だらしねーなあ。ま、あいつは力だけの馬鹿だからな」


 くるんとオーキッドは手にした紫の槍を回転させ、その切先を僕へと向けた。


「んじゃ、敵討ちといくか。そもそも俺ぁ、こんな乗り物で戦うのは性に合わねえンだよ。直に戦った方が万倍面白え」


 僕も腰のブリュンヒルドを抜き、剣状態のブレードモードにしようとした時、頭上から飛び降りてくる二つの影に気が付いた。

 軽い身のこなしで着地したのは言うまでもなくフレームギアから飛び降りた八雲とフレイである。


「あ? なんだよ、このガキどもは?」

「お前の相手は私たちだ」

「お父様! 神剣! 神剣を!」


 八雲はキリッとオーキッドを睨み、戦闘態勢に入っているというのに、フレイの方は欲望に塗れた目で早くよこせとばかりにこちらに手を向けてくる。なんだかなぁ……。

 確かに僕が戦ってもトドメをさせないし、任せた方がいいんだろうけど……。そんな葛藤を抱えながら【ストレージ】から双神剣を取り出す。

 あれ? 神剣からの神力が弱くなっている? さっき取り出した時と比べるとかなり減少しているな……。これって邪神器を壊したからか? 

 神器は『神核』と呼ばれる電池のような神力の塊が力の源となっている。その力が大きく減少していたのだ。

 神力を補充すれば元に戻るだろうけど、工芸神であるクラフトさんの話だと、神器って確か作った神様かその眷属じゃないと、神力を受け付けないんじゃなかったか? 

 今まで騙し騙し使ってきたけど、これは……。


「お父様!? 早くなんだよ!」

「おっと」


 思わず考え込んでいた僕に、フレイから急かすような声が届く。

 神剣を受け取った八雲とフレイが剣を構え、オーキッドと対峙する。


「ガキだからって剣を向けた以上容赦しねえぞ」

「御託はいい」

「かかってくるんだよ!」

「はっ、言うねぇ。覚悟しな!」


 ドンッ! と、槍を構えたオーキッドが大地を蹴って真っ直ぐに飛び出していく。その先に狙うのは八雲。

 オーキッドが繰り出した神速の槍を八雲が身体をわずかに捻ってギリギリで躱す。そういう避け方は心臓に悪いのでやめてもらいたい。

 素早く引かれた槍が再び八雲に向けて突き出される。八雲がそれを今度は神剣で弾き、後方へと跳んだ。

 その隙間を埋めるように飛び出したフレイの剣撃がオーキッドを襲う。

 オーキッドは八雲に弾かれた槍を回転させるようにして、穂先の反対側、石突の方でフレイの剣を防いだ。

 さらに槍を回転させ、穂先をフレイへと向ける。横からの斬撃にフレイは後ろへと下がった。

 オーキッドの槍の使い方は、槍というよりは棒術に近い。槍を変幻自在に扱うその実力は確かなもので、八雲とフレイも攻めあぐねているようだ。

 二対一だというのに八雲とフレイの攻撃を見事に捌き切っている。普通ならこの後、防御から隙を見て攻撃に転じ、一人ずつ片付けていくのが定石だろう。

 普通なら、な。


「【ゲート】」

「ぐっ!?」


 突然背後から斬りつけられたオーキッドが反射的に振り返って槍を突き入れる。

 しかしその空間には誰もいない。ただ、剣の切っ先だけが宙に浮いていた。


「なっ……!」


 八雲が神剣の先だけを小さな【ゲート】で飛ばしたのだ。

 隙だらけで驚くオーキッドにフレイが神剣を真っ向から振り下ろす。


「てめ……!」


 振り返ったオーキッドが邪神器を横に翳し、なんとかそれを受け止める。しかしフレイの攻撃はそれで終わりではなかった。


「【パワーライズ】!」

「ぐっ!?」


 何倍にも膨れ上がったフレイの膂力に押され、オーキッドが膝をつく。

 邪神器にピキリとヒビが入った。


「『ウィスタリア』が……!? 嘘だろ、ありえねえ!」

「りゃあぁぁぁっ!」


 バキン! と邪神器が真っ二つに折れるのと同時に、フレイの操る神剣がオーキッドを袈裟斬りに斬り裂いた。


「か、は……! 嘘だろ……。な、るほど、天敵……か……」


 オーキッドが石化し、砂となって崩れていく。

 二つに折れたメタリックパープルの邪神器も黒煙を上げながらドロドロに溶けていった。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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