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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
552/637

#552 海辺の戦い、そして乱戦。

■風邪ひきました。咳と吐き気がひどかったです。季節の変わり目、皆さんもご注意を。





 ズシン、ズシンと地響きを立ててやってきた、メタリックブラウンに輝く角付きの一つ目(キュクロプス)が、振り上げた大きな肉切り包丁をオルトリンデ・オーバーロードへと振り下ろす。


『スターダストシェル!』


 オーバーロードが翳した左手に星の形をした小さな光が集まり、瞬く間にそれが並んで正面に大きな光の壁を作った。

 ガキィンッ! と肉切り包丁は光の盾に阻まれる。


『じ、じゃま。おまえ、こわす』


 光の盾に阻まれてなお、角付きは肉切り包丁を何度も振り下ろし続ける。

 メタリックブラウンの機体から聞こえてきた男の声はたどたどしく、知性をあまり感じられないように思えた。少なくとも僕が会ったことのある『邪神の使徒』ではないと思う。

 それを証明するかのように、角付きはただ肉切り包丁を叩き続けるだけだった。

 何度やっても無駄なのに……と僕が思っていると、オーバーロードの左手の作る星の盾(スターダストシェル)が、少しずつ欠け始めた。


「なっ……!」


 これはあの肉切り包丁の能力か? それとも神魔毒(薄味)とやらでオーバーロードの出力が出てないからか?


『ステフ! これ以上はまずいのじゃ! 突き飛ばせ!』

『わかった! キャノンナックルスパイラルッ!』


 向こうが肉切り包丁を振り上げたタイミングで、オーバーロードが回転する右腕を胸部に、ドカン! と食らわせた。

 不意打ちプラス至近距離で食らった角付きはさすがこらえられなかったのか、二、三歩後退する。

 そこにオーバーロードの胸部からさらに衝撃波が放たれて、角付きはさらに後方へと吹っ飛ばされた。

 追い討ちをかけようとしたオーバーロードだったが、その前に三機のキュクロプスが立ち塞がる。

 

『んもう、じゃましないでー!』


 ステフがそんな声を上げて、キュクロプスの一機を殴りつけようとするが、あっさりと躱されてしまう。

 オーバーロードの動きは大きく、速くはない。躱すことに集中すれば、避けることは難しくないのだろう。

 そもそもオルトリンデ・オーバーロードは防衛戦に特化した機体だ。守ることには他の機体よりも優れているが、直接的な攻撃手段はそう多くない。

 対上級種戦用の『ゴルドハンマー』という外武装もあるが、基本的には殴るのが主な攻撃手段である。

 そもそもゴルドハンマーはドデカい上級種を相手とするためのもので、キュクロプスサイズの相手だと使いづらいのだ。

 的を外したり、近過ぎて重力波に自分が巻き込まれる可能性もある。オーバーロード本体に負担もでかいしな。


『キャノンナックルスパイラルッ!』


 オーバーロードの右腕が撃ち出される。さすがにこれは避けられなかったキュクロプスの一機が、まともに正面から食らってバラバラになった。

 しかしすぐさま他のキュクロプスがやられた機体の代わりに入り、オーバーロード包囲網を形成する。

 吹っ飛ばされた角付きの方はといえば、肉切り包丁を杖のようにして立ち上がるところだった。

 こいつら……何気に連携しているのか? 博士が言うにはキュクロプスは軍機兵ソルダートと同じように互いに情報をやり取りしているらしい。

 このキュクロプスはあの角付きを守るためにオーバーロードの前に立ち塞がったようだ。

 向こうが連携してくるとなると厄介だな……。

 立ち上がった角付きが再びこちらへと歩き出した瞬間、不意に動きが止まった。

 それは『動きを止めた』というよりも、『動きを止められた』という方が相応しい不自然な止まり方だった。

 

「これって────」


 後方を振りかえろうとすると、それよりも速く僕の周囲をなにかが駆け抜けていく。

 次の瞬間、目の前にいた角付きとその周囲にいたキュクロプスらが、見えない壁に押し戻されるかのようにまとめて沖の方へと吹き飛ばされていった。

 あらためて後方を見ると、両肩に拡声兵器シンフォニックホーンを構えたロスヴァイセと、スナイパーライフルを構えたブリュンヒルデの姿があった。


「動きを止めたのは久遠か?」

『はい。ヨシノ姉様がしっかりと狙いをつけたいと言うので』


 やっぱり久遠の『固定』の魔眼だったか。というか、あんな巨大ロボも固定できるのか? 固定してスナイプできたらうちの子無敵じゃなかろうか。

 まあ、魔眼の力を連続で使うのはしんどいから、無敵は言い過ぎか。

 角付きの周りにいたキュクロプスは吹っ飛ばされたが、その他のキュクロプスがわらわらと再びオーバーロードへと向かってくる。

 しかし襲ってきたキュクロプスの一機が先ほどの角付きと同じように一時停止したかと思ったら、次の瞬間には銃声と共に頭部を撃ち抜かれていた。

 久遠の狙撃か。ヘッドショットとはにくい真似を。

 ユミナと同じくらいブリュンヒルデを巧みに使いこなしているな。

 フレームギアなら頭部はあくまでカメラやセンサーなどが集中しているパーツの一部でしかないから、機能を停止することはない。だが、キュクロプスはゴレムと同じくQクリスタルが頭部にあるようだ。

 ゴレムの頭脳ともいえるQクリスタルをやられてはキュクロプスも機能を停止せざるを得ない。

 ここらへん、作り手が固定観念を捨てきれてないって博士は叩いてたな。

 確かに普通のゴレムと同じように頭にGクリスタルを配置する必要はないよな。どうせなら攻撃を受けにくい背中とか、なんなら動力源となるGキューブと同じ場所にすればいいのに。どっちかが壊れたらどうせ動かなくなるんだから。

 まあ戦闘後、回収することを前提に考えたら、どっちかは残るようにした方がいいのかもしれないけれども。


『久遠にばっかりいいカッコはさせないんだよ!』


 そう言ってフレイの駆るジークルーネがキュクロプスの一機を上下真っ二つに斬り裂いていた。

 本来のフレイの戦闘スタイルは、相手と状況に合わせて【ストレージ】から適した武器を取り出し、臨機応変に戦うという、どちらかと言えばトリッキーな戦い方だ。

 そのせいか、動きが幾分鈍いようにも感じられる。いや、あくまでもヒルダの戦い方と比べて、ということだが。

 それでも他のフレームギアよりもうまくキュクロプスを倒している。

 それに並んで八雲の操るシュヴェルトライテも次々とキュクロプスを斬り伏せていた。

 こちらは母親である八重と戦闘スタイルがほぼ一緒なので、それほど問題なく動けているようだ。


『えいやーっ!』

『どんどんかかってこーい!』


 他のみんなより突貫して暴れているのはリンネの乗るゲルヒルデとエンデの乗る……あれ? 竜騎士ドラグーンを動かしているのエンデじゃなくアリスか?

 いつの間に乗せてたんだ? 竜騎士は複座式にしてないはずだけど……。いや、子供一人くらいなら乗せられるスペースはあるが。

 どういうことだとエンデの竜騎士へ通信を繋ぐ。


「おい、エンデ? どうした?」

『いや、急に気持ち悪くなってさ……。そしたらアリスが代わりに動かすって乗っ取られ、て……うぷ』


 あー……。そっか、エンデも武流叔父の眷属だから、この神魔毒(薄味)の効果に引っかかっているのか。

 乗っ取られたってことはコックピットシートにはアリスが座っているのか。てことはエンデは狭い後部スペースに押しやられている、と。

 ううむ、不憫な……。ま、耐えてもらおう。

 アリスの戦闘スタイルも竜騎士には向いていないはずなんだが、器用に戦っているな。エンデの戦い方と比べると荒々しくていささかスマートさに欠けるが。


『アリス、そっち行ったー!』

『まかせて!』

 

 リンネのゲルヒルデが討ち漏らしたキュクロプスを竜騎士ドラグーンの双剣が十文字に斬り裂く。

 二機は背中合わせになり、群がるキュクロプスを次々と倒していった。

 エンデとエルゼがアドバイスをしているのか、連携されたいい動きだ。お互いにサポートしながら目の前の敵を打ち倒している。なかなかやるな。

 と、思っていたら、ゲルヒルデが倒し損ねたキュクロプスが、ボロボロになりながらも死角から竜騎士ドラグーンに剣を振り下ろそうとしていた。

 だが次の瞬間、そのキュクロプスは全身に晶弾の雨を受けて、蜂の巣になりながらその場に水飛沫をあげて沈んでしまう。


『リンネ、油断は禁物だよ』

『エルナおねーちゃん!』


 ゲルヒルデが相手をしているキュクロプスの横を、低空飛行で飛んできた飛行形態のヘルムヴィーゲが翔け抜ける。

 翼に仕込まれたブレードがゲルヒルデの正面にいたキュクロプスを真っ二つにすると、そのまま上昇していった。

 空からの援護射撃は助かるな。エルナはそういったサポート役が向いているのかもしれない。

 サポート役といえば……。


『いっくよーっ!』


 ヨシノが操るロスヴァイセから大音量のギターサウンドが流れてきた。

 この曲は戦闘機パイロットたちの群像劇を描いた有名な映画の主題歌だ。日本語にすると『危険領域』となるその曲のチョイスに、なんとも言えない気持ちになる。

 これ、ヨシノが生でギターを弾いているのか? うねるようなギターの響きに、僕がそんなことを考えていると、それに乗せて桜の歌声が聞こえてきた。

 いつもと比べると、か細い声だな……。いや、この曲はもともと歌い出しは弱々しい感じなんだけれども。

 やはり神魔毒(薄味)の影響があるのだろう。その後も桜の声はいつもの調子を取り戻すことはなかった。

 しかし、確実に歌の効果は出ている。目に見えて、キュクロプスたちの行動が鈍くなった。行動遅延の付与がされているのだ。

 その動きが鈍くなったキュクロプスの頭に、久遠の操るブリュンヒルデの放った晶弾が次々と命中する。

 まるで機械のように正確にキュクロプスの頭を撃ち抜いていく。

 うちの息子さん、超A級スナイパーかなんかか……? 背後に立ったら殴られるんじゃなかろうか。


『遅いですわ!』


 ヘッドショットを繰り返す久遠に続くように、ブースターユニットを換装したアーシアのヴァルトラウテがキュクロプスへと突っ込んでいく。

 加速された素早い動きで、ヴァルトラウテが両手に持った剣を振り抜くと、キュクロプスの首が二つ続けて宙に舞う。

 出力が落ちている状態でよくあんな芸当ができるな……。

 剣を持ったヴァルトラウテが僕の方へ向けて大きく手を振る。


『見て下さいましたか、お父様! わたくしにかかればこんな雑魚、三枚に下ろしてやりますわ!』

『ちょっ、アーシア! 前を見なさい! 戦場で浮かれてるんじゃありませんわ!』

『はわわっ!?』

「っと、【スリップ】!」


 槍を持って突進してきたキュクロプスを【スリップ】で転ばせる。勢いよく転び、海の中へと倒れたキュクロプスにヴァルトラウテが双剣を突き立てた。あっぶな……!

 アーシアはどこか詰めが甘いからちょっと不安になるな……。ルーがついているから大丈夫だとは思うけど……。

 戦況はこちらが有利に進んでいるな。フレームギアの足元を抜けた四つ腕ゴレムや半魚人らもイグレットの騎士団が確実に仕留めている。

 時間をかければ全てを討伐することは可能だろうと思う。

 問題は……。

 沖の方でヨシノのロスヴァイセに吹き飛ばされた角付きのキュクロプスが立ち上がったのが見えた。

 さっきの攻撃はあくまで押し戻しただけで、ダメージはほぼなかったのだろう。


『お、おまえたち、じゃま! ぜんぶこわす!』


 角付きのキュクロプスがメタリックブラウンに輝く肉切り包丁を両手で振りかぶり、そのまま勢いよく海へと振り下ろした。


「なっ!?」


 角付きが振り下ろした肉切り包丁の先から一直線に海が割れ、海底から岩がまるで剣山のように次々と突き出してきた。

 岩の隆起は波のようにものすごい勢いでまっすぐにスゥとステフの乗るオルトリンデ・オーバーロードへと向かう。


『防ぐのじゃ、ステフ!』

『うんっ! スターダストシェルっ!』


 星の防御壁が海底隆起の岩の突進を防ぐ。なんとか岩の増殖は止まったようだが、海の中に岩剣山の道のようなものが出来上がってしまっていた。


『土魔法の【アースウェーブ】みたいな技ね……。みんな気をつけて。あの大剣は地形操作の能力を持っているのかもしれないわ』


 ようやく冷却時間クールタイムを終えたグリムゲルデからリーンの声が届く。

 地形操作だって? また面倒な……。それって防ぐのが難しいやつだろ。空でも飛んでいないと……。


 「あ」


 と、僕は上空を飛ぶヘルムヴィーゲを見上げた。

 ヘルムヴィーゲは地上にいる角付きのキュクロプスに、空から一方的な集中砲火を浴びせる。

 晶弾の雨を避けることができない角付きは、手にした肉切り包丁を寝かせ、盾のようにしてヘルムヴィーゲの攻撃を凌いでいた。

 ボディに食らった晶弾は食い込んでいるのに、肉切り包丁に当たった晶弾は弾かれている。少なくともあの肉切り包丁は晶材と同じだけの強度を持っているということだ。

 間違いなくアレは邪神の神器……邪神器だと思う。僕が出会ったペストマスクの邪神の使徒が持っていたレイピアや、オーキッドとやらが持っていた槍と同じものだ。


『と、とんでるのうるさい! おとす!』


 角付きがその肉切り包丁を海面に突き刺すと、周りの地面が瞬く間に隆起し、角付きを天辺に乗せた数十メートルの岩の塔がそびえ立った。

 空を飛んでいたヘルムヴィーゲの目の前にのぼりつめた角付きは、飛び上がってその肉切り包丁をヘルムヴィーゲ目掛けて振り下ろす。

 マズい! 僕が咄嗟にヘルムヴィーゲへ向けて【プリズン】を放とうとしたその時、一発の銃声が海岸に響き渡った。

 肉切り包丁の邪神器が角付きの手から弾かれてクルクルと宙を舞う。

 砂浜にはスナイパーライフルを構えたままのブリュンヒルデの姿が。久遠か! 助かった!

 弾かれた肉切り包丁とともに、海へと落下していく角付きキュクロプス。


『おかーさん、エルナおねーちゃん、大丈夫!?』


 心配そうなリンネの声がゲルヒルデから聞こえてくる。今のは危なかったからな。心配するのも無理はない。


『びっくりしたけど大丈夫。問題ないよ』

『大丈夫よ、リンネ。心配してくれてありがとう』


 なんでもないということを示すように、ヘルムヴィーゲが空中でくるりと一回転をしてみせる。どうやら本当に問題なさそうだ。

 しかし焦ったな……。まさかあんな方法で飛び上がるとは……。空だから安全とヘルムヴィーゲも迂闊に近付かない方がいいな。

 上空から海に落っこちた角付きが立ち上がる。手を真横に翳すと、しばらく間があってから同じく海に落ちた肉切り包丁が海底から飛んできてガシンとその手に収まった。


『ほとんどダメージがないみたいね』


 立ち上がった角付きを見てのリーンの声が僕の耳に届く。あの高さから落ちて無傷か……。下は海だったし、地面に直接落ちるよりダメージは少なかったんだろうけど……。

 角付きが肉切り包丁を握り締めながら再びこちらへと向かってくる。


『キャノンナックルスパイラルっ!』


 ステフがオーバーロードの右腕を飛ばす。弾丸のように回転して飛んでくるオーバーロードの右腕に、角付きのキュクロプスは止まることなく突っ込んでいった。


『それ、さっきみた!』


 角付きが肉切り包丁を寝かせ、腹の広い部分を使い、まるでハエ叩きのようにオーバーロードの右腕を海面へと叩きつけた。

 地面へと潜り込んでしまった右腕を無視して、角付きがオーバーロードへと向かう。

 角付きが肉切り包丁を大きく振りかぶった。それに合わせてオーバーロードが左手を目の前に翳す。


『スターダストシェルっ!』


 星の盾が角付きの攻撃を防ぐ。

 先ほどと同じように角付きは何度も何度も肉切り包丁を振り下ろし、スターダストシェルを無理矢理破壊しようとしていた。

 力任せの強引な戦法だな。やはりこの邪神の使徒は脳筋らしい。


『このーっ! ステフをいじめるなーっ!』

『むがっ!?』


 スターダストシェルが欠けてきたあたりで横からゲルヒルデの飛び蹴りが角付きの頭にクリーンヒットする。

 【グラビティ】で加重していたのか、あの重そうな角付きのキュクロプスが勢いよく海へと横倒しになった。

 倒れた角付きがすぐに立ち上がろうとすると、そこへ追い討ちをかけるようにゲルヒルデの後ろ回し蹴りが炸裂する。

 サイズは二倍近くも違う二機だが、座り込んでいた角付きの頭をゲルヒルデのかかとがちょうどいい感じで打ち抜いた。

 再びキュクロプスが海に倒れ込む。角は折れ、頭部は歪んではいたが、まだ壊れてはいない。

 ひしゃげた頭のまま、ゆらりと角付きだったキュクロプスが立ち上がる。


『まだ……! このっ!』

『リンネ、ダメっ!』


 エルゼの止める声より早く、リンネが操るゲルヒルデがパイルバンカーを放とうとキュクロプスの腹部目掛けて飛び上がり、右腕を突き出した。

 しかしながらそれはガシッとキュクロプスの大きな左手で横から掴まれてしまう。 


『お、おまえ、し、しつこい!』


 キュクロプスが右腕を掴んだままゲルヒルデを持ち上げ、海に叩きつけようと大きく振りかぶる。

 危ないっ!


「【風よ包め、柔らかき抱擁、エアスフィア】!」


 投げ捨てられたゲルヒルデが、海に叩きつけられるその寸前に、僕の放った見えざる風のクッションが赤い機体を優しく受け止めて衝撃を和らげた。

 叩きつけられるダメージをほぼ吸収して、勢いを失ったゲルヒルデがバシャンと海に落ちる。

 あっぶなかった……! さすがにあの勢いで叩きつけられていたら、ゲルヒルデも無事ではすまなかっただろう。

 まあその前に緊急避難装置が発動して、リンネとエルゼは外に転移されたと思うけど、やっぱり心臓に悪い。

 ゲルヒルデを投げつけた角付きが、肉切り包丁を持って追い討ちをかけようとしたが、その前に二つの影が立ち塞がった。


『うちの妹になにをするつもりだ』

『万死に値するんだよ』


 八雲の操るシュヴェルトライテの刀と、フレイの操るジークルーネの剣が一閃し、角付きの両手首から先を切り落とした。

 関節の部分は装甲が弱い。とはいえ、あのわずかな隙間を狙うとは。

 手に持った肉切り包丁ごと、角付きの手首が海に落ちる。

 それでも奴は手首から先が無くなった腕で目の前の敵に殴りかかろうとした。

 シュヴェルトライテとジークルーネが散開するように横に逃げる。

 二機の立っていたその先に、全装甲を展開し、全ての銃口を角付きへと向けたグリムゲルデが仁王立ちしていた。


『う、が』

『一点集中、一斉射撃フルバースト


 グリムゲルデの放った晶弾の雨が、キュクロプスの頭部に次々と当たり、その形を蜂の巣にしていく。

 おそらくQクリスタルをも破壊したのだろう、メタリックブラウンのキュクロプスはその動きを止めて、ゆっくりと後ろへと倒れ、海へと沈んだ。


『妹たちをいじめたお返しですわ』


 年長組三人娘の怒りの攻撃により、勝敗は決したようだ。

 家族仲良くて出番のないお父さんは嬉しいよ。




 


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