表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
545/637

#545 転移対策、そして神器製作。





「ふん、なかなか頑張ってはいるようだけど、ボクのフレームギアに比べたらまだまだだね」


 回収してきた一つ目ゴレムの残骸を調べ終えると博士はそんな風にうそぶいた。

 まあ、こっちの被害はゼロ、あっちは全壊なので、あながち間違っちゃいないと思われる。

 被害はゼロってのは嘘か。戦った重騎士シュバリエの中にはある程度破損した機体もある。

 それを差し引いてもこちらの圧勝だったとは思うが。


「向こうの奴らはこいつを『キュクロプス』って呼んでた」

「キュクロプス? ああ、サイクロプスのことか。古代魔法時代はサイクロプスのことをそう呼んでいたな。なんとも捻りのないネーミングセンスだね」


 ずいぶんとこき下ろすなあ。フレームギアだってそんなにセンスがあるとは思えんぞ?


「とはいえ、なかなか挑戦的な作品ではあるな。ほれ、ここの関節部分の刻印魔法などよくできとる。これがあるとないとでは動きが一・二倍ほど違ってくるじゃろう」

「防水・耐水性もしっかりしてるわ。まさかスライムの皮膜をこんな風に使うなんて思わなかった。これなら水中でもある程度の動きができると思う」


 同じようにキュクロプスの残骸を調べていた教授プロフェッサーとエルカ技師の言葉に博士が「まあ、それは認める」と面白くなさそうに呟いた。

 あ、そういえば聞いておきたいことがあったんだっけ。


「転移魔法を防ぐ……というか、発動させない方法ってあるかな?」

「転移魔法を? 結界を張ればいいんじゃないのかい?」

「それは転移してくるやつを入れないようにするやつだろ? そうじゃなくて逃げられないようにするっていうか……」

「ああ、例の邪神の使徒のか。うーん、仮にも神の使徒と名乗っているんだから、普通の転移魔法と考えるのは危険なんじゃないかな。冬夜君の【ゲート】だってその気になれば結界を通り抜けられるだろう?」


 いやまぁ、そうなんだけれども。神気を使えばそれくらいはね。さらに【異空間転移】を使えばいけないところなんかないからね。


「先手必勝、使われる前に仕留める、しかないんじゃ?」

「うーん……一、二秒あれば逃げられそうだし、難しいかな……」


 即死でさえなければ転移して逃げられると思う。やっぱり厄介だな。

 発信機みたいなのをつけても『方舟アーク』に逃げられちゃ追跡できないだろうし。


「まあ、そいつの映像は冬夜君の乗っていた黒騎士ナイトバロンに残っているから、後で現地も含めて調査しとくよ。なにかわかるかもしれない」

「面倒かもしれないが頼む」


 なにか転移した痕跡のようなものが見つかればいいのだけれど。

 こっちは博士に任せて、僕はもう一つの助言をもらえそうなところへと行くことにした。



          ◇ ◇ ◇



「転移魔法を封じる? 神気を使った【プリズン】のようなものを使えば封じ込めることもできなくはないと思うけど……」


 城のテラスで諸刃姉さんとお茶会をしていた花恋姉さんに質問をぶつけると、そんな答えが返ってきた。


「その手は僕も考えたんだけど、向こうも邪神の神気を帯びているのなら、【プリズン】を破られたりしないか?」

「神を詐称しているような存在の、さらにそのまた下の使徒と、最高神である世界神様の眷属である冬夜君とじゃ神気の質が比べ物にならないのよ」

「蟷螂がオリハルコンの盾に立ち向かうようなものだね」


 諸刃姉さんも笑いながら花恋姉さんの言葉を肯定する。蟷螂の斧ってやつか。


「でも地上の相手に神気を使った攻撃をすると、神界の掟に触れるのよ。もう冬夜君も完全に神の仲間入りしたんだから、直接神の力を使ったらダメなのよ」


 しまった。それがあったか。神気で強化されていない【プリズン】では奴らに壊されてしまう。

 向こうは神気(邪神)を使えて、こっちは使えないってズルくない?

 気持ち的には、信号無視をして暴走する車を取り締まるはずのパトカーが、信号をきっちり守ってるため、全然捕まえることができない、そんな心境である。実際のパトカーみたく、緊急時ということでOKにならんもんかね?


「あれ? だけど僕、何回か神気を含ませた【サーチ】とかを使ってるけど……」

「正確には『神の力を使って地上に大きな影響を与えること』が禁じられているんだけどね。その範囲外でならまあ、お目溢しはしてもらえる。『邪神の使徒』を倒す、ってのは少なからず影響を与えるだろうから直接的に神気を使うのはアウトかな」


 そうなると邪神の使徒は神の力無しで倒さないといけないのか。できなくはない……と思うんだけど、力技ができなくなってしまったのは痛いなぁ。


「まあ、裏技がなくもないんだけど……」

「裏技? なにかいい考えがあるなら聞かせてよ」


 少し考え込むような素振りをしていた花恋姉さんが口を開く。


「神気が込められた『転移魔法を封じる』神器を地上の誰かに使わせればいいのよ」

「転移魔法を封じる神器? そんなものがあるのか?」

「たぶん、似たようなのが神界の宝物庫にあるんじゃないかな? だけどこの方法はちょっと難しいよ。いろんな条件があるし」


 腕を組んで首を傾げながら諸刃姉さんも花恋姉さんの口にした考えに同意する。

 いろんな条件? 宝物庫に入っているんだからおいそれと貸してなんかはくれないだろうとは思うけど。


「いや、物によっては貸してはくれると思うんだけど。神界の宝物庫ってね、今まで悠久の間、神々たちが心血注いで作ったものから、適当に遊び半分で作って飽きた物まで、ごちゃ混ぜに放り込んであるんだよ。とにかく数が多いから、まず探すのに時間がかかる。管理しているのは世界神様だけど、整理整頓されているわけじゃないから……」

「時間がかかる? どれくらい?」

「千年単位はかかるんじゃないかなあ」

「せっ……!?」


 探すのだけで千年!? そんなの探してられるか! いったい何個あるんだよ!?


「宝物庫とは言うけど、ぶっちゃけた話、不用品置き場なのよ。もう使わないからしまっておこう、っていう。本当に大切な物なら自分で持っておくのよ」


 神々たちも僕の【ストレージ】と同じく、自分で所持品を別次元に収納しておけるからな……。普通はそうするよな。

 しかし困ったな、そんな時間を費やしている余裕はないぞ。あ、【サーチ】で探せば簡単に見つかるんじゃ?


「宝物庫自体が神器を封印するための倉庫だからねえ。探索魔法なんて弾かれると思うよ」

「おのれ」


 まあ、そりゃそうか。神界、天界ならいざ知らず、地上においては危険物レベルの物だろうし。いらない物だとはいえ、厳重に保管してあるよな。


「やっぱり先手必勝しかないのか……」

「そんなこともないのよ。神器がなければ作ればいいのよ」


 は? なにマリー・アントワネットみたいなことを言ってんのかしら、このお姉様は。

 いや、マリー・アントワネットの『パンがなければ……』のセリフは自身の言葉ではないらしいが。


「冬夜君も神の一員として認められているのだから、自分で神器を作っても問題ないのよ。もちろん、それを自分で使うってのはダメだけど」

「あと、作った以上、責任を持って管理をしなきゃダメだね。地上に放ったらかしにしたりしたら、新たな邪神を生みかねないし」

「神器を……作る? 僕が?」


 え、それってアリなの? それができるなら助かるが。


「なに言ってるのよ。冬夜君は【神器創造】を使って邪神を倒したじゃない」

「あ! そういえば……!」

「ただあれはその場だけの……まあ言ってみれば急拵え、使い捨ての神器だからね。とても人間が使えるものではないし。作るなら人間でも使えるような、一般的な神器を作る必要がある」


 一般的な神器ねえ……。そう言われても神器を作る方法がよくわからない。邪神との戦いの時は無我夢中だったからなぁ……。


「ま、ちゃんとした神器を作るなら直接教えてもらった方がいいだろうね。あいにくと私と花恋姉さんはそういった生産関係の神じゃないから教えてあげることはできないけれど」


 生産関係の神? じゃあ農耕神である耕助叔父とか? まさか酒神である酔花の方じゃないよな?


「言葉が悪かったね。生産関係というよりは製造関系の神って言った方がよかったかな」


 製造……? なにかを作る神ってことか? でもそんな神様知り合いにいたっけ? 世界神様に頼むとか?


「いるじゃない。結婚式の時に地上に降りてきた神々の中に、うってつけのが」

「……えーっと、あ。工芸神?」

「当たり」


 この世界は神々の保養地として使われることが決まっている。その先遣隊として十人の神が先んじて地上に降りてきていた。

 舞踏神、剛力神、工芸神、眼鏡神、演劇神、人形神、放浪神、花神、宝石神、それに時空神である時江おばあちゃんを足した十名である。

 工芸神って確か……四十代くらいで白髪交じりの髪を後ろで縛り、口髭を生やした男の神様だったよな。

 作務衣のような和風の服を着て、いかにも職人という感じのひとだった。


「眼鏡神や人形神でもいけるとは思うけど、あの二人はクセが強いから……」


 花恋姉さんが遠い目をしながらそう語る。そうね、眼鏡神は眼鏡に並々ならぬ情熱を持っているし、腹話術で話す人形神はちょっと怖かった。できれば工芸神にお願いしたい。


「工芸神に習えば僕にも神器が作れる?」

「それでも二日三日でできるような物じゃないけど、宝物庫を漁るよりは近道なんじゃないかな?」


 千年はかからないけど、九九九年はかかるとかいうオチじゃないよな……?

 あれ? でもそれならば工芸神に転移阻害の神器を作って貰えばいいのでは?


「それだとその神器の管理責任者は工芸神になってしまうのよ。さすがにその神器の後々の責任まで押し付けるのはどうかと思うのよ」

「まあ、使い終わったら神界の宝物庫に放り込んでおけば問題はないと思うけどね。だけどせっかく神器作りを習うチャンスなんだから、師事しておいて損はないと思うよ」


 姉さんたちの言うことはもっともだ。気安く『ぱぱっと作ってちょうだい。後の管理もよろしくね!』では無責任過ぎる。

 きちんと譲渡すれば神器の責任者は移行するらしいが、やはり私用で必要な神器なのだから、自分で作るべきだと考え直す。


「神器の作り方を教えてもらうにしても、工芸神はどこにいるんだろう?」

「え? それこそ普通に【サーチ】で探せばいいんじゃないの?」

「ああ、そうか……」


 そりゃそうだ。一度会ってるんだから普通に【サーチ】で探せるわ。馬鹿な質問した。

 呆れたような花恋姉さんの視線を避けながら、僕はマップから工芸神を探し出す。


「えーっと……あれ? ミスミド王国の王都にいるぞ。ずいぶんと近くにいたんだな」


 地図を確認すると、ミスミド王国の王都ベルジュに工芸神の反応があった。中心地から外れてはいるが、王都なのは間違いない。


「ああ、ミスミドは質のいい土や鉱石、木材なんかも簡単に手に入るからね。工芸神にとって腰を落ち着けやすい場所だったんじゃないかな」


 なるほど。木材なんかは大樹海が近いからな。質のいい材木なんかは手に入りやすいかもしれない。

 ま、なんにしろ助かった。ここなら【ゲート】で普通に行ける。さっそく会いに行ってみようか。


「なら、あちしもついていってあげるのだ!」

「うおっ!? いきなり現れるな!」


 突然横に現れた酔花に、僕はビクッとなってしまった。驚かすな! 神出鬼没はもうお腹いっぱいなんだよ!


「……なにが目的だ?」

「ミスミドのお酒がちょっち欲しいなー……と。あと工芸神の作った徳利とお猪口?」


 徳利とお猪口? そんな物まで作っているのか? 陶磁器や漆器も工芸の一つだから作れてもおかしくはないのか。

 なんにしろ物作りに長けた神様なのは確かだろう。ただ僕の貧しい想像力だと、陶芸家とかって『こんなものー!』とか言いながら、失敗作の皿を地面に叩き割るような気難しい人物しか浮かばないのだが……。


「まあ、ともかく会いに行ってみるか」


 僕はミスミド王国の王都・ベルジュへと繋がる【ゲート】を開いた。

 目立たないように、路地裏に開いた【ゲート】から足を踏み出すと、強い日差しが僕らを襲う。


「相変わらず暑いなぁ……」


 ミスミドはブリュンヒルドよりも気温が高い。暑いことは暑いが、日本のようにジメジメとした暑さではなく、カラッとした暑さなので、過ごしやすいとも言える。

 タージ・マハルに似た王城を横目に見ながら、僕らは雑踏の中を歩き出した。

 獣人たちの国だけあって、いろんな種の獣人が行き交っている。来年にはミスミドにも魔導列車が通るので、もっと賑やかになるはずだ。


「まずは酒屋からなのだ〜」

「ちょっと待て、なんでそうなる?」


 スキップするように歩き始めた酔花に突っ込みを入れる。酒屋より先に工芸神のところだろう?

 酔花は僕の方に振り返ると、はぁ〜……と、やれやれ的なため息をついた。なんかイラッとするな……。


「冬夜お兄ちゃんはわかってないのだ。手土産の一つも持たずに『教えてくれ』って押しかけて、教えてくれると思う?」


 うぐ。酔花にしてはまともなことを……。

 確かに教えを乞うのに手ぶらで行くのは失礼かもしれん。菓子折りの一つでも用意するべきだったか。


「そ・こ・で。ミスミドの地酒と冬夜お兄ちゃんの【ストレージ】に眠っている地球のお酒を手土産に持っていくのだ。工芸神もお酒好きだから、きっと喜んで教えてくれるのだ〜」


 本音はお前が飲みたいだけだろ……。【ストレージ】の中にあるじいちゃんの秘蔵の酒は数に限りがあるんだぞ? まあ、一本くらいなら大丈夫だと思うけど……。

 しかし酔花の言う通り、酒好きならこいつに従うほうがいい。

 腐っても酒神。名酒を探し当てる勘は神がかっている筈だ。というか、それしか取り柄がないんだから、ここは役に立ってもらおう。


「なんか馬鹿にされた気がするのだ」

「気のせいだろ」


 勘の鋭い酔花を無視して、ちょうど近くにあった大きな酒屋へと入る。

 さすがは王都なだけあっていろんな酒が売られていた。

 へえ、種族によって作る酒もいろいろと違うんだな。熊獣人の蜂蜜酒……これとかいいんじゃないか?


「ダメダメ、工芸神は辛口が好きだから別なのにするのだ。ここはあちしに任しときんしゃい。冬夜お兄ちゃんは支払いだけしてくれればいいのだ」


 そう言い残すと酔花はとててて、と店内の商品をチェックしに行ってしまった。

 財布扱いはちょっとアレだが、実際に酒の目利きなど僕にはできないので、従うしかない。結婚はしたけど、まだ未成年だしね。

 こっちの世界じゃもう成人しているので飲んでもかまわないといえばかまわないのだが、一度決めた以上、二十歳になるまでは飲まないと決めている。

 まあ、実際は何度か飲んでいるけれども……。奥さんたちも飲む時は飲むしね。

 結局、酔花のやつは何本もの酒瓶をカウンターに並べ、僕はそれを支払った。

 というか、半分以上は手土産の酒ではなく、酔花の晩酌用だろ。なんだかんだ言って蜂蜜酒も買ってるし。


「まいどありー」


 酒屋の店主の声を背中に受けながら、僕らは店を出た。


「よし、じゃあ工芸神のところへ────」

「次はおつまみなのだ!」

「おい」


 さらに酒の友を買い求めようとする酔花を止める。おつまみになりそうなものなら【ストレージ】の中にたくさんあるから大丈夫だっつーの。

 渋る酔花を引きずって、王都の外れにある一軒の家を目指す。

 その家はちょっと高台の場所に作られていて、平屋の一軒家の横には大きな木が立っていた。

 その家の玄関先にある木でできたベンチに一人の男性が座り、なにかナイフのようなもので木材を削っている。


「来たかね」

「工芸神、お久しぶりなのだ!」


 顔を上げた工芸神は酔花の顔を見ると、ふっ、と笑顔を浮かべた。

 どうやら僕たちが来ることはわかっていたらしい。【サーチ】を感知されたのかな?


「お久しぶりです、工芸神さん」

「こっちではクラフトと呼ばれている。クラフトと呼んでくれ。新神さん」

「では僕も冬夜と」

「わかった、冬夜君」


 挨拶をしている間も工芸神のナイフを持つ手は止まらない。大まかな形でしかなかったその木材は、あっという間に鮭を咥えた熊の姿へと変わってしまった。

 あっ、これじいちゃんちにあったやつだ。


「それは?」

「ちょっとした手遊びだよ。それなりに金になる」


 ポイッと木彫りの熊を僕の方に工芸神……いや、クラフトさんが投げてよこした。

 すごいリアルだな……。それにナイフだけで仕上げたはずなのに、表面がすごい滑らかだ。どう削ればこんな風になるんだ? 見ていたのにまったくわからない。


「まあ、入りたまえ。なにか私に用があるのだろう?」


 招かれたクラフトさんの家の中は雑多なもので溢れていた。おそらく陶芸に使う轆䡎《ろくろ》や、彫刻などに使う彫刻刀、ガラス工芸に使う吹き竿、どれもこれも工芸品に関連する道具ばかりだ。機織り機まである。いったいどれだけ幅広く手を広げているのか。

 僕らは手土産として持ってきた酒をテーブルに並べながら、現在の状況を説明する。


「なるほど、神器をね。まあ教えるのはやぶさかではない。君は世界神様の眷属でもあるし、コツさえ掴めばすぐに作ることはできるだろう。もちろんすぐといっても二、三ヶ月かはかかると思うが」


 おお。どうやら教えてもらえそうだ。二、三ヶ月か。それなりにかかるなぁ。


「普通、下級神の新神一年目が神器を作ろうとしたら、百年はかかる。それに比べたら破格だと思うがね」


 ひゃく……! それは確かに差があるな……。

 僕は立ち位置としては新神のペーぺーではあるが、世界神様の眷属であるため、上級神とほぼ変わらない神格を持っているらしい。

 神器作りにおいても、それは大きく左右されるものであるらしく、習得時間の短縮になっているとか。なんかズルしているような気にもなるが、この際それは甘えさせてもらおう。


「ただ作れるとは言っても、当たり前だが、君の力を超える神器は作ることはできない。君にできない力を神器に付与することはできないんだ。あくまでも神器とは神の力を人間が使えるようになる道具だからね」


 むう。『邪神の使徒を探せる神器』が作れれば簡単かと思ったのだが、無理っぽい。作れても僕と同じ、探査範囲の狭いものができるだけだろう。量産すればいけるかもしれないが、何年かかるって話だ。


「まぁ、そこらへんも説明していこう」

「お願いします」


 クラフトさんは僕らが買ってきた酒の蓋を開けると、自作らしいグラスにゆっくりと注いだ。その横から、にゅっ、と酔花の持つグラスが差し出され、それにも酒が満たされていく。こいつ……飲みにきただけだな?


「神器を作るなら、まず『器』を決めないといけないな」

「『器』?」

「神の力を宿したなにか。剣だったり、壺だったり、指輪だったり。そういった『器』だよ」


 なるほど、神の力を注いだ道具ってことか?


「どういった力を込めるかによって、それに相応しい器を選ばねばならない。例えば、『とてつもなく切れ味の鋭い』『剣』なら相応しいと言えるが、『とてつもなく切れ味の鋭い』『木彫りの熊』ではわけがわからないだろう?」

「わけがわかりませんね」

 

 『切れ味の鋭い木彫りの熊』ってなんだ? 手に持つとザックリ切れてしまうとか?


「『結界を張る』『木彫りの熊』なら大丈夫だったり?」

「そうだな。そっちの方がまだイメージできるね。だから君の場合、『転移魔法を防ぐ』などに相応しい『器』を選ぶ必要がある。『転移魔法を防ぐ』『木彫りの熊』でもいいが、これは最適とは言えないだろう」


 まあ、木彫りの熊である必要はないわけだし。別の置物でも可能っちゃ可能だよな。僕も木彫りの熊よりかは、例えば女神像とかの方がいいと思う。


「また、付与する効果が『転移魔法を防ぐ』でいいのかどうかも検討する必要がある。そもそも相手のそれは転移魔法なのかどうかも怪しいからね。せっかく作ったのに相手に効果なしでは無駄な神器を作ってしまうことになる」


 確かに。博士も言っていた通り、あれは転移魔法に似た邪神の力の一部のような気もする。

 やはり神気で強化された【プリズン】を使って、相手を閉じ込めるようなものがいいのかな。

 僕がその神器を使うわけじゃないからな。いろいろと考える必要がありそうだ。




 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ