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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
535/637

#535 暗殺者、そして兄と弟。





 夜風に雲が流れて月の光がわずかに差し込む。

 龍鳳国オルファンには二つの宮殿がある。龍の一族の龍宝りゅうほう殿と、おおとりの一族の鳳震ほうしん殿である。

 その時代の龍鳳帝の出自によって、交代で政務を司る宮殿だ。

 その一つ、赤い豪奢な造りの宮殿である鳳震殿に一つの影が降り立った。

 壁を飛び越え、ふわりと音もなく中庭に降り立った影は流れるような動きで宮殿内へと侵入する。

 窓の鍵を外側から特殊な道具を使い、素早く開錠し、するりと室内へと忍び込む。その身のこなしはまるで猫のようなしなやかさを感じさせる。

 仮にも現鳳帝の御座おわす宮殿である。警備はしっかりとされており、巡回も逐一行われている。

 にもかかわらず、忍び込んだ影はその隙間を縫うように宮殿の中を誰にも気付かれることなく奥へと進んでいく。

 侵入者はまるで警備兵の巡回ルートを知っているかのように、易々と目的地の部屋の前まで辿り着いてしまっていた。

 またしても扉の鍵穴に特殊な道具を差し込み、ものの数秒でその鍵を容易く開けてしまう。

 影は音を立てないように慎重に部屋の中へと侵入した。少し大きめな部屋には、机と椅子、クローゼット、何も入っていない本棚とセミダブルほどのベッドが置いてあった。

 影は迷うことなくベッドの方へと忍び寄り、そこに眠る青年の顔を捉えた。

 月明かりが窓から差し込む。先代の龍帝である龍麻帝の寝顔が月明かりに照らし出された。

 無言で懐から短刀を取り出した影の人物がベッドへと近づく。


『おっと、そこまででやんスよ』


 しかしその人物の首筋にピタリと白刃が当てられる。

 驚いた影の人物がゆっくりと振り向くと、そこには宙に浮いた銀の剣のみがあり、その刀身は己の首筋に向けられていた。


『少しでも怪しい動きをしたらスパッといくでやんスよ。部屋を血の海にしたかねぇんで大人しくするっス』


 銀の『王冠』、インフィニット・シルヴァーの声に影の人物は手にしていた鞘に入ったままの短刀をその場に落とした。

 その音で寝ていた龍麻も目を覚まし、己が部屋にいる侵入者に目を丸くする。


「……結局彼の予想が当たってしまったか」

『さすがうちの坊っちゃん。先を読んでいなさる。あっしを置いといてよかったでやんしょ? 旦那』


 溜め息をつく龍麻にけらけらとしたシルヴァーの笑い声が返される。その通りなので龍麻は何も言えなかった。


「ともかく人を呼んでこなければな……」


 龍麻がベッドから立ち上がろうとした瞬間、影の人物は落とした短刀を拾ってすばやく抜き放った。そのまま龍麻へと襲いかかろうとしたが、それよりも速くシルヴァーの白刃が一閃し、影の人物はそのままその場に倒れ落ちる。


「……殺したのかい?」

『いんや。スタンモードで気絶しているだけでさ。人を呼びにいくなら早くしてくんなせえ。こいつが起きちまう前に』

「わかった」


 シルヴァーが呼びに行くわけにもいかず、龍麻が上着を羽織り、部屋を出ていく。

 シルヴァーは黒い忍者のような服とこれまた黒い覆面をした影の人物を見下ろした。

 ついっ、と切っ先で目から下を覆う覆面を下ろす。影の人物の素顔が月の光に晒された。


「ありゃ、こいつは……? 坊っちゃんはここまで読んでいなさったのかね?」


 差し込む月光の中、シルヴァーはゴレムっぽくなく、溜め息をつくような仕草をしてみせた。



          ◇ ◇ ◇


 

 そろそろ寝ようかとしていたところに鳳帝陛下からメールをもらった僕は、久遠の言った通りになったことに驚いていた。

 僕としては、ひょっとしたらありえるかな、くらいに思っていたのだが、息子さんの方が正しかったらしい。なんかちょっと凹む。


「なに変な顔をしているのよ?」


 書類整理を手伝ってくれていたリーンが凹んでいた僕に追い討ちをかける。いや、変な顔て。あんたの旦那の顔ですけど?


「いやー……、出来の良い息子さんを持つとお父さん立つ瀬ないなあ、と」

「なに言ってるのよ。息子は父親を越えていくものでしょう? そっちを喜びなさいな」

「まあ、そうなんだけどね」


 次代のブリュンヒルド公王としては頼もしくはあるしね。僕がバビロンに隠居するのも早いかもしれないな。

 まあ、それはそれとして。

 龍麻さんが狙われた。やはり昼間の襲撃は龍山さんを狙ったものではなく、龍麻さんを狙った犯行だったわけだ。

 まさか襲撃に失敗したその日のうちに二回目の襲撃とはね。

 いや、『まさか』とこっちが思うからこそ犯行に及んだのだろうが。

 久遠の言う通りシルヴァーを護衛に残しておいてよかったな。ちなみに龍山さんの方には紅玉を配置させてあった。

 なにはともあれ鳳帝陛下のメールによると、なにやら少し厄介なことになっているらしい。迷惑でなければすぐきて欲しいとの連絡があった。

 どっちみちシルヴァーたちを回収しなきゃいけないしな。夜中だけど、なにか急ぐ理由があるらしい。

 龍鳳国まで【ゲート】を開こうとすると、執務室のドアがノックされた。

 リーンが扉を開くと、そこには外出着に着替えた久遠と寝巻きのままのユミナの姿があった。


「父上、オルファンへ行くのなら僕も連れて行って下さい」

「え? なんでわかったの?」


 久遠の方にも鳳帝陛下からメールがいったのだろうか。アドレス交換をしていた様子はなかったが。


「シルヴァーが鞘から刀身を抜いた感覚がありました。何かあったんですよね?」


 そっちか。シルヴァーも一応『王冠』だ。契約者マスターとのリンクは常に繋がっている。感覚共有に近いものがあるらしい。


「こんなに夜遅く子供が外出するのは母親としては反対なんですけど……。冬夜さんが一緒なら父親同伴ということで許さないでもないです」


 ユミナが不承不承といった感じで口を開く。親が子供に『夜遅く出歩くな』というのは普通のことのような気もするが、ブリュンヒルド(ここ)に来るまで、この子は一人で旅をしてたわけだし、今さらな気もするな。

 まあ、今回のことは久遠のお手柄だし、連れて行くことに異論はない。

 またなにか、僕の気がつかないところを補ってもらえるかもしれないしな。父親としてはなんともカッコのつかない話だが。

 いや、家族にカッコつけても仕方がないか。

 ユミナたちに後を託し、【ゲート】で久遠とともに鳳帝陛下の宮殿、鳳震殿に転移する。

 すぐさま出迎えの文官の人たちが来て、僕らは案内されるがままにとある部屋へと案内された。

 そこには鳳帝陛下に龍麻さん、龍山さんと護衛らしき人が幾人か、そしてベッドに横たわる血の気のない女性が一人いた。意識を失っているようだが、呼吸が荒く、額には大量の汗が浮かんでいる。

 あれ? この人、見たことあるな?


「この人って……」

「名前は龍乃たつの龍弥たつや様の側仕えにして、今回の事件の実行犯です」


 僕の疑問に龍山さんが答えてくれた。ああ、そうだ。この宮殿の前で、龍麻さんの弟だっていう龍弥とやらと一緒にいた目付きの鋭い女性だ。

 この人が龍麻さんを? ってことはやっぱり、裏であの弟が糸を引いていたのか。

 この龍乃という女性は龍の一族ではなく、どこからか龍弥が拾ってきた人材だという。その人物がまさか暗殺者だったとは龍山さんも予想外だったようだ。


「状態が良くないようですが、捕らえる際になにか怪我でも?」

『すいやせん、坊っちゃん。あっしのミスでやんス』


 久遠が尋ねると、机の横に立てかけてあった鞘に入ったままのシルヴァーがふよふよとこちらにやってきた。

 なんでも龍麻さんが応援を呼んでくる前に目が覚めた彼女は、隠していた毒針で自分を刺そうとしたんだそうだ。

 それにいち早く気が付いたシルヴァーは毒針を弾き飛ばしたが、運悪く弾き飛ばした際に彼女の指にかすってしまったらしい。

 微量だが毒を受けて彼女は昏睡、このままでは朝まで命がもたないだろうとのこと。なるほど、だから僕を呼んだのか。


「【リカバリー】」


 龍乃とやらの身体から毒を消滅させる。犯行の証人が死んでしまっては面倒だからな。

 たちまちベッドに横たわっていた彼女の血色が良くなり、呼吸もゆるやかになった。毒の効果は消えたようだ。


「やはり龍麻さんの暗殺が狙いだったんですかね?」

「だと思います。おそらくその裏には……」

「龍弥様を連行するよう兵を差し向けました。あくまでも事情聴取ですが。しかし抵抗するなら拘束しても構わないと命じています」


 鳳帝陛下が言い淀んだ言葉を龍山さんが引き継ぐ。

 まあ、そうなるよな。なにもやましいことがないのなら、素直に従って出頭すればいい。しかし抵抗するなら……。


「……本当に龍弥が命じたのだろうか?」


 ずっとベッドに横たわる龍乃を眺めていた龍麻さんがぼそりと呟いた。

 いたたまれなくなったのか、鳳帝陛下が声をかける。


「十五年という年月は人を変えます。年だけでいえば龍麻様の方が下なのですよ? 龍弥様は龍麻様が亡くなられてから、自分の地位を高めることに腐心してきました。今では次期龍帝の一人に数えられるほどになりましたが、その裏ではあまり良くない噂も聞きます」

「選帝争いは綺麗事だけでは勝ち抜けない。それは鳳華もわかっているはずだろう?」

「それは……そうですけど……」


 龍の一族と鳳の一族が交代交代に帝位に就くこの国では、その時に同じく帝位を争う相手は同じ一族の者になる。

 どの国でも後継者が複数いるとこういったことは避けられないよな。

 よく聞くのは、凡愚の長男、秀才の次男、どっちを王位に就ける? といった話だけど。

 凡愚でも伝統にのっとり長男に継がせるか、国のため頼り甲斐のある秀才の次男に継がせるか。

 僕? その長男がよほど駄目なら秀才の次男に継がせるよ。凡愚の長男に継がせて、それで国が傾いちゃ意味がないだろ?

 凡愚ではなく、凡才の長男なら、秀才の次男がそれを支えて、という形もあるが。才は無くとも愚かでなければいい。

 ちなみにこういった話は奥さんたちともしている。もしも長男が国を率いるに相応しくない者なら、容赦なく王位継承権を剥奪すると。

 優秀であるならばなにも僕の血筋にこだわる必要はないとも思っている。

 もともと棚から牡丹餅のように転がり込んできた王位だ。どうしようもない馬鹿息子に継がせるなら、別の優秀な人物に王位を継いでもらった方がいい。その方が国民のためでもある。

 まあ、今のところその心配はなさそうだけども。

 僕は傍らにいる久遠むすこをちらりと見遣る。ま、優秀すぎるってのもちょっと考えものだが。

 僕がそんな益体もないことを考えていると、廊下の方から『待て!』『止まれ!』という怒鳴り声と走る足音が響いてきた。


「龍乃! 龍乃は無事か!?」


 部屋に飛び込んできたのは夕方に会った龍麻さんの弟である龍弥だった。

 飛び込んですぐに部屋にいた鳳帝陛下の護衛の人たちにたちまち取り押さえられる。


「騒がしいですよ、龍弥殿」

「陛下! 龍乃が毒針を受けたというのは本当ですか!?」

「本当です。自らの毒針で自害しようとしたのです。もっともブリュンヒルド公王陛下のお陰ですでに毒は消してありますが」


 鳳帝陛下の言葉を聞いて、龍弥は安堵のためかその場に座り込む。一方、それを見る鳳帝陛下の目は冷たい眼差しであった。

 自分の大切な人を殺されかけたのだ。この男が犯人だとしたらそんな目になるのも無理はないよな。


「龍弥」


 龍麻さんの声にビクッとなり、俯く龍弥。

 護衛兵に腕と肩を押さえつけられて床に膝をつく龍弥に龍麻さんが近づいていく。

 

「この者は私の命を狙っていた。昼間には自爆ゴレムにも襲われた。────命じたのはお前か?」


 ごくり、と喉を鳴らしたのは誰だったろう。しばしの静寂の後、顔を上げた龍弥から出た言葉は。


「…………その通りです。私が龍乃に命じました」


 ざわ、と部屋の中の空気が揺れた。と、同時に鳳帝陛下の怒気も一層高まったように感じる。

 その鳳帝陛下の視線から弟を隠すように、龍麻さんが前に出る。


「なぜだ?」

「……怖かったからです。兄上がいたのではいずれ私の地位が奪われてしまう。それならばいっそのこと、と。私が命じたのです。龍乃はそれに従っただけで、」

「嘘ですね」


 龍弥の独白を僕の隣にいた久遠がズバンと切り捨てた。見ると久遠の右目が白金の輝きを見せている。これは……ユミナと同じ『看破の魔眼』か?


「嘘ではない! 私が命じたのだ! 私が、兄上を殺せと!」

「いいえ。貴方はそんなことを命じられる人ではありません。おそらくこの犯行は彼女の、」

「違う! 全て私が、私のせいなのだ! 兄上が命を狙われたのも、兄上が死んだのも! 龍乃は悪くない! 私が……っ!」

「……どういうことだ?」


 龍麻さんが言い募る龍弥に疑問を抱いたのか、久遠の方へと視線を向ける。


「詳しいことはわかりませんが、この人はそこの女性を庇っているのかと。おそらくこの犯行はその女性の単独犯なんでしょう。たぶん昼間の自爆ゴレムの方も」

「違うんだ、兄上! 全て私が命令したんだ! だから私が全ての罪を被る! 死罪になっても構わない! だから龍乃の命だけは……!」


 縋り付くように龍麻さんの足下で頭を下げる龍弥。その様子に龍麻さんを始め、みんな困惑している。

 あれほど怒りの感情を見せていた鳳帝陛下でさえも、今は怒りよりも戸惑いの方が大きいように見える。

 二人の代わりに僕が疑問に思っていたことを聞いてみた。


「……先ほど龍麻さんが死んだのも自分のせいだと言いましたね? 龍麻さんが死んだのは事故だったのでは?」

「……違う。祭壇が倒れたあの日、私が細工をしたんだ。鳳華を怖がらせてやろうと思って」

「私を?」


 突然出てきた自分の名に、さらに戸惑いの表情を見せる鳳帝陛下。


「鳳華が祭壇に上がる寸前で倒れるはずだったんだ。だけど倒れなかった。失敗したと思っていたら、あろうことか儀式の最中に倒れてしまった。兄上は鳳華を庇って死んだ……。私があんなことをしなければ、兄上は死ぬことはなかった!」


 涙交じりに告白する龍弥。誰しもが息を飲んでその告白を聞いている。賢帝と呼ばれた帝の死が、その実弟の悪戯によるものだとは、皆受け入れがたいのだろう。

 龍麻さんが龍弥を見下ろしながら口を開く。


「なぜそんなことを……」

「私は……鳳華が羨ましかったんです……。兄上といつも一緒にいて、私が教わることのできないことを楽しげに学ぶ鳳華が」

「それは……次期鳳帝候補である鳳華に龍帝であった私が直接教えなくてはならないことが多かったからで……」

「わかっています。でもあの頃の兄上の関心は鳳華にばかりいっていて、私は必要ない存在なんだと勝手に劣等感を感じていたんだ……。だから鳳華に嫌がらせをしてやろうとあんなことを……」


 子供の頃の嫉妬か。当時龍弥は十一か十二……。そんな気持ちを抱いてもおかしくはないか。幼い鳳帝陛下が自分の自慢の兄を奪っていく存在に見えたのかもしれないな。


「龍乃はそれを知っていたのか?」

「いや、知らないはずです……。ただ、兄上が生き返ったと知った私の様子がおかしいことを何度も聞かれた。兄上がいては私が次期龍帝となる障害になると思ったんだろう……」


 龍弥が語ったところによると龍乃は元々闇ギルドの一員であったらしい。所属していた組織が潰れた際、死にかけていた彼女に龍弥が手を差し伸べ、側仕えとしたんだそうだ。その恩を返そうとしたんだろうか……。


「……結局、私の浅はかな考えが龍弥様を苦しめたのですね……」

「龍乃!」


 いつの間にか目覚めていた龍乃がゆっくりと起き上がる。護衛の人たちが龍麻さんと鳳帝陛下の前に、すっと出た。龍麻さんを暗殺しようとした犯人だ。警戒するのは当たり前か。


「聞いていたのか……?」

「意識は目覚めていたのですが、身体が動かなかったものですから……」


 その手に手錠のようなものを付けられていた龍乃は、ベッドから下りるとその場で鳳帝陛下と龍麻さんに向けて深々と平伏した。


「全て私一人が独断でやったことです。龍弥様には何の罪咎つみとがもありません。どうか全ての刑罰は私一人に……」

「違う! 私がすぐに兄上に会いに行き、過去の罪を話していれば龍乃が動くこともなかった! だが、兄上に本当のことを知られるのが怖くて……! 兄上! 鳳帝陛下! 私はどうなっても構わない! 彼女の命だけは……!」


 龍弥が龍乃の横で同じように平伏する。

 ううむ。それぞれがちゃんと話し合っていれば、こんなボタンのかけ違いのようなことにはならなかったのかね……。


「鳳華……いや、鳳帝陛下」


 ずっと黙っていた龍麻さんがくるりと背後の鳳帝陛下の方へと向き直り、龍弥たちと同じようにその場に膝をつき平伏した。

 突然の龍麻さんの行動に、鳳帝陛下があわあわとうろたえている。


「元はと言えば私の兄としての至らなさが呼び込んだ凶事。どうか死罪だけは許していただけないでしょうか……伏してお願い致します」

「っ、兄上……! 兄上がそんなことをする必要は……!」

「兄らしいことの一つもさせろ。龍乃はお前の大切な人なんだろう? ならば私だって頭の一つくらい下げるさ」

「ふぐっ……! あにうえ……! あにうえっ……ごめん、ごめんよ……!」


 ぼろぼろと涙を流しながら床に額をつけ続ける龍弥。十五年越しの弟の謝罪に龍麻さんはただ小さく笑っていた。

 それを見ていた鳳帝陛下は、はあっ、と大きな溜息を吐く。


「龍山。あなたもこのとばっちりを食ったようだけど、この二人、あなたならどうしますか?」

「そうですな……。事故とはいえ龍弥殿は元龍帝陛下を害し、龍乃殿は暗殺未遂。普通ならば死罪……となるところでしょうが、被害者である元龍帝陛下がこうして頭を下げてまで恩赦を願っている。とはいえ罪をなかったことにはできませぬ故、財産と身分剥奪の上、国外追放……くらいが適当かと」

「じゃあそれで。二人からは全ての財産と身分を剥奪、三日以内に国外へ追放。二度とオルファンの地を踏むことは許しません。いいですね?」

「「ありがとう、ございます……!」」


 くぐもった声が二人から漏れる。なんとも甘い判決だとも思うが、たぶん僕もそんな感じにしたかもしれない。生きてさえいればどこでもやり直しはできる。


「……僕は余計なことをしましたか?」


 久遠が少し不安げに口を開く。久遠があのとき口を挟まなかったら、龍弥は暗殺事件の黒幕として、龍乃は実行犯としてどちらも死罪だった可能性もあった。

 それに比べたらこの結果は上々と言える。真実を暴くことが全ていいこととは限らないが、久遠の判断は間違ってはいなかったと思うよ。

 僕は無言で自慢の息子の頭を撫でた。

 

 


 




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