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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
520/637

#520 荒野の戦闘、そして独立分離。

■若干修正しました。





 ギガンテスを目覚めさせる前に、まずはアイゼンガルドに跳び、現地を確認する。知らない間に誰かが住み始めていたら困るからな。

 アイゼンガルドの首都、工都アイゼンブルクがあった場所は相変わらずの廃墟であった。【サーチ】で調べてみたが、人間はいない。人間はいないが……。


「【サーチ:悪魔ゴレム】……反応なし、か」


 八雲が言っていた悪魔ゴレムと鉄仮面の女がまだいるかと思ったのだが、この近辺にはいないらしい。

 八雲を取り逃して、調査団などが来るのを恐れたのだろうか。

 まあ、誰もいないのなら好都合だ。ここなら多少暴れても被害はないだろう。

 まずはここにみんなを呼び、専用機ヴァルキュリアに乗り込んでいてもらう。そうしてから僕だけが地下都市アガルタに戻り、ギガンテスを広範囲の【ゲート】でアイゼンガルドへ転移させる、と。

 その後、僕もアイゼンガルドに転移して、レギンレイヴで参戦……とまあ大雑把だけど、作戦はこんな感じだ。

 さっそくみんなをこちら側へ呼び、各自フレームギアへ乗り込んでもらう。エンデのやつも参戦するみたいだ。ま、目的はアリスのフォローだろうけど。

 

『うわあ、視界が高い! わ、確かに動きが普通のフレームギアより重い気がする!』


 そのアリスは初めて乗るオルトリンデ・オーバーロードに振り回されている。確認のためかうろうろと歩き回り、腕を上げたり下げたりしていた。

 その下でエンデの乗る竜騎士ドラグーンがおろおろと心配そうに見守っている。落ち着け、親父。


『やっ!』


 一方で、エルゼから借りたリンネの乗るゲルヒルデが、腕から必殺のパイルバンカーを繰り出していた。こっちの方はそれほど違和感はないようだ。うまく動かしている。エルゼの操縦に比べるといささか荒っぽい気がするけど。

 こっちも母親であるリンゼがリンネのことを眺めていたが、エンデとは違い落ち着いて見守っていた。さすがうちの嫁は違うね。

 本来ならば専用機はその本人しか乗りこなせないが、魔力の質が似ている親兄弟などならそれほどの負担はないようだ。母親の双子の伯母であるエルゼの機体にリンネが乗っても問題はないのだろう。

 アリスの方はフレイズ……というかたぶん父親エンデの種族特性だと思うんだけれど、魔力の質を完全に変化させるのでこちらも問題ないっぽい。

 さて、じゃあ一旦僕だけガンディリスに戻って、と。

 地下都市アガルタでは用意したモニター前にみんな集まっていた。モニター内では相変わらずオルトリンデ・オーバーロードとゲルヒルデが動きを確認している。

 それを食い入るように見ているのは、この国の国王である鉄鋼王だ。


「これがブリュンヒルド公国の持つ巨大ゴレムか……。確かフレームギアというのだったな?」

「正確にはゴレムではないのですが……まあ、そうです。あれらでギガンテスを倒します」

「今さらだが大丈夫なのか? あれは決戦兵器。かつてこの大陸の文明を滅ぼしたものの一つだぞ?」

「まあ、それなりに強いんでしょうが……邪神より強いとは思えないんで、大丈夫でしょう。いざとなったら奥の手もあるんで。んじゃ、ギガンテスを転移しますよ?」


 この場合の奥の手とは上級神になった僕の『神威解放』で神力をフルに使ってギガンテスを消滅させるということだが。

 たぶんギガンテスは塵となるんで、ガンディリスやクーン、博士たちからブーブー文句を言われることは間違いない。できれば避けたい。

 さて、向こうでみんなも待ってるだろうから、さっさとこのデカブツを送り届けるか。


「【ゲート】」


 ギガンテスの足下に【ゲート】が広がり、埋まっていた大量の土砂や岩壁ごと落ちていく。落ちていく一瞬、ギガンテスの装甲表面に光が走った。おそらくいまのを攻撃と捉え、冬眠スリープモードから再起動したのだろう。

 ギガンテスが落ちた【ゲート】を閉じて、新たに小さな【ゲート】を開き、僕もアイゼンガルドへと跳ぶ。

 ギガンテスは呼び込んだ土砂と岩に埋もれて倒れていたが、すぐにその巨体を起こし、ガラガラと崩れた岩山から立ち上がった。

 その機体は邪神よりは小さいが、ヘカトンケイルと同じくらいの巨体を誇っていた。つまり、フレイズの上級種と同じくらいあるってことだ。

 その形態は巨人。しかし、フレームギアのような洗練されたデザインではなく、どことなくレトロチックで無骨な姿をしている。

 様々な形状のパーツがゴテゴテと付いていて、お世辞にもスタイリッシュとは言えない。

 背中には何本ものパイプが飛び出していて、キラキラとした魔素の蒸気を吹き出していた。

 長く太い腕に太い足、なのに頭は小さく、なんともアンバランスな印象を受ける。

 頭部には顔などなく、まるでアーメットヘルムのような形状をしていた。横に細長いスリットのような中からカメラアイの光が覗いている。

 

『ガガガガガガガ……』


 軋むような唸り声を上げてギガンテスが両拳を振り上げる。


『っ!? 正面! 八重さん、ヒルダさん、回避して下さい!』

『!? わかったでござる!』

『りょ、了解です!』

 

 ギガンテスの正面にいた八重のシュヴェルトライテとヒルダのジークルーネが、突発的なユミナの命令に従い、正面から横へと退避する。

 次の瞬間、長い腕をしならせて、ギガンテスの二つの拳が地面に叩きつけられた。

 瞬間、大地が大きく揺れたかと思ったら、津波のようにギガンテスの正面の地面がめくれていく。

 まるで絨毯の端をたわませて波打ったかように、岩と土砂の津波がギガンテスの前方を襲った。

 さっきのユミナの言葉に反応してなければ、八重とヒルダは今の岩津波に巻き込まれてしまっていただろう。

 おそらくユミナの眷属特性、『未来視』が発動したと思われる。


『土魔法の【アースウェーブ】と同じような技を使うのね……。これがこの機体のゴレムスキルかしら。それとも別の魔道具の機能?』


 グリムゲルデに乗るリーンからそんな声が漏れてくる。分析は後にしようよ。きっとクーンが頼まないでもやってくれるからさ。

 おっと、僕もこうしちゃいられない。


「【レギンレイヴ】!」


 【ストレージ】から愛機レギンレイヴを呼び出した僕は、【フライ】で飛び上がり、そのままコックピットへと乗り込んだ。こいつで戦うのも久しぶりだな。

 僕がレギンレイヴで空中へと飛び上がると、同じように飛行形態で飛んでいたリンゼのヘルムヴィーゲから通信が入ってきた。


『冬夜さん。まずは私たちだけでやらせてくれませんか?』

「え? 別にいいけど……大丈夫か?」


 この場合の『大丈夫か?』はリンゼたちに向けたものではなく、主にアリスとリンネに対してのものだ。慣れない機体で未知の敵に立ち向かうのは難しい。僕もフォローしようと思っていたのだが。


『おとーさんの力を借りなくたってできるよ! まかせて!』

『リンネの言う通り! 陛下はそこで見てて! お父さんもね!』

『えっ!? ちょっ、アリス!?』


 エンデの慌てた声が漏れる。うーむ、まあ……大丈夫か。リンゼたちも今や神の眷属、それがこの場に七人もいる上に、上級神である時江おばあちゃんのサポートもあるのだ。これだけでも過保護過ぎるよな。


「わかった。でも危なくなったら割り込むからな?」

『『うんっ!』』


 スピーカーからリンネとアリスの元気な返事が聞こえてくる。『えっ!? ちょっと冬夜!?』と焦るエンデの声も聞こえてくるが無視した。


『よーし! じゃあいく……!』

『待ちなさい。よくわからない相手に無策で突っ込むのは愚の骨頂。まずは相手の出方を窺いつつ、攻め方を考えるのです』

『っとと……はーい』


 さっそくリンネがゲルヒルデで突っ込もうとしたのをヒルダが止めた。あの子は『とりあえず攻撃!』という考えをなんとかした方がいいな……。

 そんなことを考えていたら、ギガンテスの肩のアーマーがガルウィングのように開いた。そこに見えたのはずらっと並んだミサイルポッド。


『ガ』


 バシュッ! と、一斉に何百発ものミサイルが僕らへ向けて放たれる。キラキラとした魔素の煙を棚引かせてこちらへと飛んでくるミサイルの雨。


『まかせて! 【スターダストシェル】!』

 

 アリスの乗るオルトリンデ・オーバーロードがみんなの前に立ち、左手を正面に翳す。

 瞬く間に小さな星型の光が集まって、大きな防御障壁を作りだした。

 星の防御壁にミサイルが阻まれ、爆発を繰り返す。逸れたミサイルが地面を破壊し、爆風が瓦礫を吹き飛ばした。

 なかなかの破壊力だな。あんなのが地下都市アガルタで放たれてたら間違いなく落盤していた。

 撃ち尽くしたのかミサイルの雨がやむと、オーバーロードが右腕を振りかぶる。


『お返しだよっ! 【キャノンナックル】!』


 オーバーロードの右腕が、肘から切り離されてギガンテスへと飛んでいく。必殺のロケットパンチ、【キャノンナックル】だ。


『かーらーのー! 【結晶武装】!』


 飛んでいった右腕がたちまち水晶に覆われて、凶悪なやじりのような形になる。

 ギガンテスの巨体からすれば、三十メートル越えのオーバーロードでさえ小さく見える。

 ギガンテスが人間の成人サイズだとしたら、オーバーロードは赤子ほどしかない。

 しかし、赤子の拳サイズの石が飛んできたらどうだろう。かなり痛いのではないだろうか。

 ギガンテスは正面から飛んできたロケットパンチを避けることなく胸で受け止めた。

 勢いよく当たった水晶のやじりはそのままギガンテスへと突き刺さったかに見えたが、その装甲を貫くことはできなかった。


『えっ!?』


 アリスが驚いた声を上げる。勢いをなくしたオーバーロードの右腕はそのまま落下し、地面に落ちるスレスレのところで再びブーメランのようにアリスの下へと戻り、右腕肘部とドッキングする。


『まったく効いてない……?』

『オーバーロードの拳でござるぞ?』


 ヒルダと八重が無傷のギガンテスを見上げる。単純な機体の破壊力ならオーバーロードの一撃は全フレームギアでも最強だ。その代わり動きが遅く、初期動作も分かりやすいので躱されやすいのだが。

 それを真正面から受け止めて無傷? しかもアリスの【結晶武装】でコーティングしているのに? どんだけ硬いんだよ。まさか晶材を使っているとか?


『拳が当たった時、変な音がした。なにか硬いゴムのような……。あの胸部装甲は金属じゃないのかもしれない』


 ロスヴァイセに乗る桜からそんな通信が入る。そうだったか? よくわからなかったけど……。

 しかし硬いゴム? 金属じゃないのか? 打撃・衝撃に強い装甲というわけか。


『ならば斬撃でござるかな。桜殿、支援魔法を!』

『わかった』


 八重の言葉にロスヴァイセの背中にある二つの拡声兵器シンフォニックホーンが肩に移動し、先端が大砲のように開く。

 アイゼンガルドの荒野に小さなメロディがフェードインしてくる。この曲は……。

 桜が歌い始める。主人公が白い龍に乗る映画の主題歌として作られたこの曲は、フェードインから始まり、フェードアウトで終わるという、始まりも終わりもない構成となっている。タイトル通りに『終わりがない』ことを表しているらしい。

 桜の支援魔法を受けたみんなの機体が強化されていく。


『九重真鳴流奥義、鳳翼飛斬ほうよくひざん!』

『レスティア流剣術、一式・風刃!』


八重のシュヴェルトライテとヒルダのジークルーネが、その刀と剣を振り下ろすと、大気を切り裂く斬撃がギガンテスへ向けて飛んでいった。

 ギガンテスはその巨体のため、避けることができず、太腿のあたりと脇腹にその攻撃をまともに喰らった。

 今度は無傷といかなかったようで、装甲の一部を見事に切り裂いている。しかしその大きさから例えると、人間ならば擦り傷のようなものだろう。


『むう。いまいちきいてないようでござるな』

『大きなだけあって厄介ですね』


 ボディを切り裂かれたギガンテスが怒ったようにその拳を八重たちに振り下ろす。

 二人ともそれを難なく躱したものの、地面を抉り、飛び散った瓦礫の雨に晒される。

 しかし八重もヒルダもそれを片っ端から剣で打ち落としていた。相変わらずとんでもないな……。

 ギガンテスの機体のあらゆるところに取り付けられている自動迎撃砲台から、レーザーのような光が周囲にばら撒かれる。


『わっ、わっ』


 リンネが乗るゲルヒルデが射程範囲内にいたようで集中攻撃を受けていた。リンネはゲルヒルデのその機動力を活かし、器用にレーザーの雨をかいくぐっている。


『リンネ! 掴まって!』

『おかーさん!』


 レーザーを凌いでいたゲルヒルデにリンゼが乗る飛行形態のヘルムヴィーゲが突っ込んできた。ヘルムヴィーゲの下部から飛び出したフックを掴み、ゲルヒルデがヘルムヴィーゲとともに空へと離脱する。

 ギガンテスが空へと逃げた二機に、頭部側面にある二門のキャノン砲を向けた。


『させないわ』


 そのギガンテスの顔面に何百発もの晶弾が撃ち込まれる。リーンのグリムゲルデだ。

 顔面を破壊することはできなかったが、注意を逸らすことはできたようで、ギガンテスの大きな機体がグリムゲルデへと向いた。

 大振りなテレフォンパンチが地上のグリムゲルデへ向けて放たれるが、それを予測していたリーンがホバー移動によりパンチを躱す。

 グリムゲルデはオーバーロードに次ぐ重量のため、機動力が低い。ちょっとヒヤヒヤしてしまった。

 ギガンテスの自動迎撃砲台からまたしてもレーザーが飛び、エンデの竜騎士ドラグーンブースターユニットを装備したルーのヴァルトラウテが撹乱するように戦場を駆け抜ける。

 その合間を縫うように、ユミナのブリュンヒルデが自動迎撃砲台を一つずつ、確実に狙撃して破壊していく。

 相変わらずよくあんな遠い場所からピンポイントで当てられるよなぁ……。


『む? 先ほどつけた傷が塞がっていくでござるぞ?』


 八重の声に注意を向けると、先ほどシュヴェルトライテとジークルーネが与えた破損部分が再生していくのが見えた。ちっ、やっぱりヘカトンケイルと同じく自己修復機能があるのか。

 面倒だが修復機能が働くよりも速く、一点集中攻撃で内部を破壊するしかないだろう。修復されるのは装甲だけで、中身まで復元するわけではないし。


『おとーさん! 武器ちょうだい! 蹴ったり殴れるやつ!』

「は?」


 いつの間にかリンゼのヘルムヴィーゲの上に乗って、空中をサーフボードのように飛んでいるゲルヒルデから通信が入る。

 さっき『おとーさんの力を借りなくたって』みたいなこと言ってなかったか、君……。まあ、いいけど。


「えーっと……形状変化モードチェンジ鉄甲ナックル脛当グリーヴ

 

 レギンレイヴの背中に装備してある十二本の水晶板フラガラッハから左右二つが切り離され、形状を変えながらリンネのゲルヒルデへと飛んでいく。

 リンゼに手出し無用と言われていたが、これくらいならいいよね?

 ゲルヒルデの拳にも晶材は使われているのだか、相手が相手なだけに、もっと殴りやすいものが必要なのだろう。

 戦闘用のガントレットに変形した水晶板フラガラッハは、ゲルヒルデの両手に装着され、三つの突起を持つ凶悪な武器へと変形した。

 同様に足にも膝から下を覆うようなアーマーのように変形する。


『よーし、いくよーっ!』


 ギガンテスの頭上上空へとリンネのゲルヒルデを乗せたヘルムヴィーゲが上昇していく。

 ギガンテスは地上を駆け抜けるエンデの竜騎士ドラグーンとルーのヴァルトラウテに気を取られ、攻撃をしてこない二人のことは眼中にないようだ。

 ここらへんがゴレムとロボットの違いを感じるところだ。妙な人間性を感じる。感情らしきものが垣間見えるのだ。

 ゴレムはただのロボットではない。人間のように失敗したり、喜んだりする機体もある。特に古代機体レガシィはその傾向が多い。

 ヘカトンケイルの場合、中身があのサイボーグジジイだったからアレだが、ギガンテスにもプログラムされた命令に従う他にも自己の感情認識があるような気がする。だからといって説得など通用しないし、躊躇う理由もないが。

 ギガンテス頭上を旋回したヘルムヴィーゲから、ゲルヒルデが豪快に飛び降りる。


『りゅうせいきゃく────っ!』


 加重魔法【グラビティ】により、とてつもない重さになったゲルヒルデの直下型キックがギガンテスの頭上に落ちる。

 メギャッ! っという鈍い音を立てて、ギガンテスの首から上が胴体の中にめり込んだ。

 ゲルヒルデの総重量は確か7トンくらいか? それが数十倍にも跳ね上がり落ちてきたのだから、そりゃそうなるか。金だらいが落ちてきたのとはわけが違う。人間の頭上に超高度から鉛のゴルフボールが落ちたようなもんか?

 ギガンテスは動きを止め、膝を地面につけてそのまま前のめりに倒れていった。



          ◇ ◇ ◇



「倒し……た?」


 地下都市アガルタのモニターでこの戦いを見ていた誰かからそんな声が漏れた。

 あまりにもあっけない結末に、喜べばいいのか、驚けばいいのか、わからないといった顔が並んでいる。


「さすが私の機体に私たちの娘ね。決めてくれたわ。だけど……」

「そうじゃのう。これで終わりとはいかないようじゃな」


 モニターを冷静に見るエルゼとスゥのそんな会話にみんなの視線が再び映し出されるギガンテスへと向けられた。

 倒れたギガンテスの全身から、バシュゥゥゥゥゥーッ……と、蒸気のようなものが一斉に吹き出される。


「ああああ……! できればあまり壊さないでって言ったのにぃ……!」


 もくもくと煙を上げるギガンテスに、クーンだけがハラハラとした気持ちでモニターを見守っていた。そのクーンに八雲とフレイの姉二人が呆れたような視線を向けていた。

 モニターの中で、倒れたギガンテスからさらに勢いよく蒸気が吹き出す。

 次の瞬間、ガゴン、という鈍い音とともに、倒れたギガンテスの右腕が肩から外れた。

 同じようにガゴン、とさらに肘から先が外れる。立て続けにガゴン、ガゴン、という音が、立ち昇る白煙の中から聞こえてきて、煙が晴れるとギガンテスのその巨体はいくつかのパーツに分かれてバラバラになっていた。

 左右の上腕と前腕。同じく左右の大腿部に下腿部。そして頭、胴体上、胴体下。

 11のパーツにバラバラになったギガンテスだったが、先ほどのゲルヒルデの攻撃によって壊れたわけではなかった。


「お、おい、見ろ! あれ!」

 

 モニターを見ていた一人からそんな声が上がる。

 分離したパーツの一つがガチャガチャと変形を始め、新たな人型ゴレムとなったのだ。

 大きさはちょうどフレームギアと同じくらいか。続けとばかりに11のバラバラになったパーツは、それぞれ独立した新たな巨大ゴレムとなった。否、頭部のパーツだけはひしゃげたまま動かないので、合計で10機である。


「むう。あのギガンテスとやら、オーバーロードと同じ構造であったか」

「合体分離機構! 燃えるぅ!」


 スゥの苦々しい顔とは反対に、キラキラとした目をモニターへと向けるクーンに、八雲とフレイの姉二人は再び呆れた視線を向けた。









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