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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
515/637

#515 エルフの里、そして封印の魔剣。





 鬱蒼と茂るその森は、まるで侵入者を拒むかのような気配を漂わせていた。

 おそらく十人中九人が、不気味な森、と感じることだろう。人を寄せ付けない、圧のようなものが感じられた。

 この森は危険だ。危ない。迂回しよう。と考えてしまうような森が、久遠の目の前に広がっていた。

 常人ならば心に従い、この森を迂回する道を進むだろう。しかし小国の王子様はそんなことは関係ないとばかりに森の中へと分け入っていく。

 久遠がことさら鈍いわけではない。彼も出て行けと言わんばかりの迫ってくる威圧感を感じてはいた。

 感じてはいたが、迂回する気はなかっただけである。


「明らかに人避けの結界ですよねえ。しかもかなり強力な。普通の森ではないということですか」


 久遠はゴブリンから奪った剣で、邪魔な低木の枝葉を払いながらズンズンと森の中を進んでいった。

 なんとも奇妙な森だと久遠は思った。先ほどから変な気配がちらちらと感じられる。おどろおどろしい雰囲気というか空気というか。

 いつしか薄暗い森の中に霧が漂い始め、目の前の視界が悪くなってきた。

 わずか数メートル先のものも判断し辛い状況に、久遠は、おかしいぞ、と心の中で思う。

 霧は大気中の水分が多く、気温が下がれば発生しやすくなる。雨の後に気温が下がると起こりやすいのはそのためだ。

 しかしこの森はそれほど寒くはないし、湿気も高くなかったように感じる。それに急に感じた魔力の流れ。

 久遠は十中八九、この霧は人為的なものであると判断した。人避けの結界がある段階で、何者かの意図があるとは思ってはいたが。

 おそらくこれは魔法によって生み出された霧。久遠を森で迷わせるつもりなのか、あるいは……


『そこで止まれ』


 突然森の中に響いた声に、ピタリと久遠は足を止める。

 しわがれた老人のような声だった。何者かがこちらを監視しているらしい。どうやらこの霧は向こう側の姿を隠すためのものだったようだ。


『子供よ。その場から引き返せ。さもなくば恐ろしい災いがお前に降りかかることだろう。今すぐに……』

「あ、そういうのいいんで。こちらとしてはこの森を通過させていただきたいだけなんですけれど、なにか条件が必要ですか? 少しならお金も渡せますが」

『えっ?』


 しわがれた声が動揺したような色を見せる。子供なら少し脅せば引き返すと思っていただけに、この反応は予想外だった。


『か、金など要らぬ。この森から早く出て行くのだ。魔物に食われたいのか』

「そう言われましても。僕はこの森を抜けて向こう側へ行きたいのです。申し訳ありませんが戻る気はありませんよ?」

『ならぬ! 戻るのだ!』

「だから戻りませんって」

『あっ、こら!』


 再びズンズンと前進を始めた久遠に、しわがれ声が焦り始める。それと同時に木の上から葉擦れの音がいくつか久遠の耳に届いた。どうやら声の主は木の上からこちらを監視しているらしい。


『……ちょっとどうするのよ! まったく戻る気ないじゃない!』

『……くっ、仕方ない。もう少し脅かそう』

「おや?」


 先ほどまでのしわがれた声ではなく、普通の男女の声がわずかに聞こえた。どうやら声を変えていたようだ。声から判断するに若そうな男女だったが。

 そんなことを分析しながら霧の中をさらに進む久遠。

 そんな彼の前に大きな影が立ちはだかる。

 濃霧を突き抜けて現れたのは、全身が木でできた四メートルほどの小さな頭の巨人。歩くたび、関節の至るところからバキバキと樹皮が剥がれ落ちる。

 ウッドゴーレムだ。まだ若い。育ちきった本来のウッドゴーレムなら六、七メートルはいく。

 それでも六歳の久遠と比べればとてつもなく大きい。


『ゴオォォォン……!』


 目の前で唸りを上げるウッドゴーレムを無言で見上げる久遠。しわがれた声の主たちは、さすがに竦み上がって動けなくなっているのだと判断し、気を良くした。


『踏み潰されたくなくばここより去れ! 今なら、』


 バキッ! となにかが砕ける音がしたかと思うと、ウッドゴーレムの首が潰れて、その巨体に似合わぬ小さな頭がゴロンと地面に落ちた。

 同時に『オオォォ……ン……』と、ウッドゴーレムが後ろへと倒れていき、地面に激突した衝撃で全身がバラバラになる。


『『えっ!?』』

「ああ、ゴーレムは生きているとみなされないんですね」


 そう呟いた久遠の眼は、赤みを帯びた金色の光を放っていた。

 【圧壊の魔眼】。久遠の持つ七つの魔眼の一つ。その名の通り、睨むだけで物質を圧壊させる魔眼である。

 生き物には効かない、あまりにも硬いものは潰せない、効果範囲が狭いなど、使用の際の弱点もあるが、使い勝手のいい魔眼であった。

 ウッドゴーレムは喉に核を持つ。生き物に効かないこの魔眼だが、スケルトンやゾンビには効果があったため、ダメ元で首の核を潰そうと試してみたのだ。どうやらうまくいったらしい。


『ちょっ、どうなってんの!?』

『まともじゃない! 普通の子供じゃないぞ!』


 もはや隠すこともしなくなった声に、久遠は苦笑いを浮かべた。

 普通じゃない、か。その言葉に久遠は生まれた時から晒されてきた。彼だけではない。彼の姉たちや妹もそうだ。

 そのように見られるのは慣れている。少しばかり傷付くが、だからといってこの力をことさらに隠すような真似はしない。この力も含めて自分なのだ。父と母からもらった大切な力である。

 倒れたウッドゴーレムを乗り越えて久遠は森の奥へとに進む。


『あっ、ああああ! ちょっと待ちなさい!』

『くっ、こうなったら!』


 ガサガサッ、という葉擦れの音とともに、久遠の前に二人の男女が飛び降りてきた。

 金髪に翠眼すいがん、どちらとも森の中を見つからないためであろう、グリーン系でまとめられた服を纏い、その耳は長かった。


「エルフですか」

「これ以上進むことはならぬ! 大人しく引き返せ!」


 男の方のエルフが背負っていた弓に矢をつがえて構え、狙いをつけた久遠にそう言い放つ。

 女のエルフも魔法の杖の先端を同じように久遠に向けた。


「先ほども申しました通り、僕はこの森を抜けたいだけなのです。なんとか通させていただくわけにはいきませんか?」

「いかぬ! 警告はしたぞ!」


 男のエルフから矢が放たれる。次いで女のエルフの杖からは人の頭ほどの水球が飛び出した。

 久遠は手にした剣で、飛んできた矢をこともなげに切り払う。続けて飛んできた水球に視線を向けた。久遠の眼が青みがかった金色に変化する。

 次の瞬間、水球がたちまち空気に溶け込むように消え失せてしまった。エルフの二人が驚いて目を見張る。


「なっ!?」

「えっ!?」

「あいにくと僕に魔法は効かないんですよ」


 正確には魔法が効かないのではない。打ち消すことができるというだけである。いかなる魔法効果も消滅させてしまう【霧消の魔眼】だ。

 これにも弱点はあって、魔法の効果を及ぼしているもの全てを視界に捉えないといけない。なので、この霧のように広範囲に広がっているものは難しいのだ。

 【圧壊の魔眼】と同じく、この魔眼も効果範囲は狭い。それでもこの距離なら常時発動させることは可能だ。


「あっ、あれっ!?」


 再び魔法を放とうとする女エルフだったが、杖の先に水球ができるたびにすぐさま消滅してしまう。


「い、いったいお前は……!」

「望月久遠と申します。もう通ってもいいですか?」

「双方そこまで」

 

 にこやかに久遠が自己紹介を告げた時、別の声が割って入った。

 森の奥から新たに三人のエルフが現れる。そのうちの一人は若草色のローブを纏い、明らかに他のエルフとは雰囲気が違っていた。


「長老!」


 長老とは言うが、見た目的には他のエルフと大差ない。若々しく、どう見ても二十代半ばである。金髪の長い髪をした長老と呼ばれた男のエルフは久遠の前へと進み出てきた。


「人間の子よ。迷惑をかけたな。詫びと言ってはなんだが、我がエルフ里へと招待しよう。疲れを癒すが良い」

「エルフの里ですか? ありがたい話ですけど、急ぎますので……」

「じき、日が暮れる。迷わずこの森を抜けようとしても、真夜中になるぞ。夜通し歩き続けるのはやめた方が良い」


 そう言われて上を見上げると、確かに森の隙間から覗く空は暮れ始めていた。真夜中になって、野宿する羽目になるのはちょっと避けたい。しかも久遠は一人だ。野獣から身を守るために木の上寝なければならないかもしれない。


(食糧も心許ないし、ここは素直にご招待されておきますかね? と、その前に……)


 一瞬だけ、久遠の眼が白金の輝きを帯びる。【看破の魔眼】。実母であるユミナも持つ、人の本質を見抜く魔眼だ。

 エルフたちは警戒心は持っているけれども、悪意はないようだ。だけど少し恐怖の色が見える。これは自分に対してなのか、それとも別なことに対してなのか……。


「ではお言葉に甘えさせていただきます。望月久遠と申します。一晩ご厄介になります」

「うむ。私はエルフの里の長、ウォルフラムという。大したもてなしはできぬが、宿と食事くらいは世話しよう。コルレット、案内を」

「私っ!? あ、はい……。……じゃあ、こっちよ」


 先ほどまで久遠と対峙していた女エルフの方が、驚いた声を上げるが、長のジロリとした睨み一つで勢いを無くす。

 コルレットが久遠を引き連れて森の奥に消えて行くと、残った男のエルフの方が長に小さく抗議の声を上げた。


「どういうつもりなんだ、長! あんな怪しげな子供を里に入れるなど!」

「何者かはわからぬが、子供でありながら腕は立つ。それにあの力……。我らの助けになるやもしれぬ」


 長は久遠とウッドゴーレム、それにエルフ二人との戦いを隠れて見ていた。

 おそらくあの力は【魔眼】の力だ。あの力があれば、ひょっとすると……。

 長は神が遣わしたかもしれぬ希望に、縋る気持ちで村へと戻り始めた。



          ◇ ◇ ◇



 エルフの里は森を切り開くことなく存在していた。

 集落の中心にある大樹を取り囲むように木の上に家が作られ、それらが吊り橋によって縦横無尽に木から木へと道が延びている。エルフの里は樹上の村であった。

 薄暗い中、いくつかの明かりが灯っている。ランプかと思いきや、それがガラスの中に閉じ込められた蛍であることに久遠は驚く。

 普通の蛍ではない。魔光蛍まこうぼたるだ。体内の魔素を魔法に変換し、通常の蛍より何倍もの光を放つ蛍である。

 光魔法【ライト】を放つ蛍、と言った方がわかりやすいだろう。

 樹上の村だけに、松明たいまつやランプのような火を使う明かりはまずいのかもしれないな、と久遠は思った。

 案内された家は長の家らしく、コルレットは長の娘だという。どう見ても二人は兄妹にしか見えない。

 長命種は成長を終えるとほぼその姿が変わることはない。久遠の母の中ではリーンと桜がそれにあたる。

 もっとも彼の母たちは、皆、神の眷族となっているので老化したりはしないのだが。

 部屋に通されてすぐに食事に呼ばれた。食堂に行くと、長であるウォルフラムと娘のコルレット、そしてウォルフラムの妻であるという、ウルスラが出迎えてくれた。


「大したおもてなしもできなくてごめんなさいね」

「いえ、こちらこそ突然申し訳ございません。ありがたくいただきます」


 食堂の椅子に着くと久遠はテーブルに並んだ料理を眺めた。パンに豆と葉のサラダ、野菜の煮物、具沢山のスープ、果物に木の実、そして焼いた肉の塊だ。

 エルフというと菜食主義のように思われるが、普通に肉も食べる。テーブルに並んでいた肉は何かの鳥肉を塩で味付けしただけのものであったが、素朴な味わいが久遠は嫌いではなかった。

 思ったよりも豪勢な食事をいただき、久遠が満足していると長のウォルフラムが話しかけてきた。


「それで、久遠殿はどちらへ参られるのかな?」

「ブリュンヒルドです。家族に会いに。まず帝都ガラリアを目指していたのですが、途中で馬車から投げ出されてしまって。それでこの森を抜けようと」

「帝都か。確かに迂回するよりはこの森を抜けた方が速いが……。この森には人避けの結界が張ってあったのだがね」

「ああ、そうみたいですね」


 返ってきた軽い言葉にウォルフラムは肩を落とす。古代魔法文明から伝わる強力な結界なのだが……。その姿を見て、娘と妻もなんとも言えない表情を浮かべた。


「久遠殿は人間にしてはよほどの鍛錬を積んだと見える」

「はあ、まあ……。親類の方たちがとんでもない人たちばかりだったので……」


 具体的に言うと、剣神、狩猟神、武神あたりだ。加えて母たちに姉たちもとんでもなかったが。

 どこか遠い目をしている久遠に、話を切り出していいものかどうかウォルフラムはいささか逡巡したが、意を決して目的を話し始めた。


「その久遠殿に折り入って頼みたいことがある」

「……なんでしょう?」


 三人の様子から薄々とそんな気がしていた久遠は、動じることなく野菜の煮物にフォークを突き刺す。

 

「この森はかつて『鎮守の森』と呼ばれていた。我々はその守人の一族なのだ」

「鎮守、ですか。察するに、なにかを封印、または守っている?」

「鋭いな。そう、この森には古代魔法王国時代に作られた恐ろしい魔法生物が封印されている。暴走し、この辺り一帯を破壊し尽くしたと伝えられる、伝説の魔物が」


 魔法生物。人の手と魔法により作り出された魔法生命体アーティファクトクリーチャー

 その歴史は太古に遡り、辿ればスライムも誰かの手により生み出された魔法生物と言われる。

 ゴーレム、ガーゴイル、キマイラなどはもとより、ミミック、ホムンクルスなども魔法生物と言える。

 その魔法生物がこの森に封印されている?


「封印はすでにボロボロで、今にも破られそうなのだ。すでに瘴気が漏れ始めている……」

「ああ、それで。なんとなく森全体に禍々しい気が漂っているなと」


 その魔法生物が放つ瘴気が森に漂っていたのかと、久遠はひとりごちる。


「それでその魔法生物とはいったい?」

「よければ案内しよう。その目で見てみるといい」


 見れるのか、と久遠はちょっと驚いた。こういったものは地中深くや亜空間に封印してあるものかと思っていたが。

 食事を終え、久遠とエルフの長であるウォルフラム、それに娘のコルレットの三人で家を出る。

 ウォルフラムが手にした魔光蛍のランプに照らされて、ぼんやりと夜道が照らし出される。

 その封印の場所とは目と鼻の先、村の中心にある大樹であった。歩いて数分でその封印された場所へと辿り着いてしまった。


「この封印の大樹がこやつを今まで押さえ込んできたのだ。しかしそれも限界に近づいている」

「これは……」


 久遠が見たものは大樹の根の中に取り込まれるように押さえつけられている、一本の剣であった。

 刀身は白銀に輝き、金色で彩られたガード部には不気味に輝く赤い宝玉が取り付けられている。

 間違いなく剣だ。しかし剣が魔法生物?

 首を傾げた久遠の耳に、小さな怨嗟の声が届いてきた。


『キル、コロス、キル、コロス、キル、コロス、キル、コロス、キル、コロス、キル、コロス……キラセロ、キラセロ、キラセロォォォォ……』

「うわ怖っ」


 久遠が顔をしかめて一歩退く。怨嗟の声は間違いなく剣から放たれている。生きているのか、この剣は? と久遠は驚きに目を見張った。


「インテリジェンスソード。そやつは邪悪な意思を持つ呪われた剣だ。五千年もの昔、古代魔法文明で作られた魔法生物よ。大樹の力で封じているが、いずれ解き放たれ、この世に災いをもたらす……」

「いや、もうすでにこれ解けそうですけど」


 カタカタと剣が動き、絡みあった大樹の根がパキッパキッと千切れていく。カタカタという音がやがてガタガタになり、少しずつ大樹の拘束が解かれ、木片が飛び散り始めた。


「ば、馬鹿な、早過ぎる!」

『キラセロオオォォォォ!』


 バガン! と大樹の拘束をぶち破り、魔剣が飛び出してくる。空中に浮かんだ魔剣の切っ先がゆらりと久遠へと向いた。


『サシコロォォォォ!』


 放たれた矢のように猛スピードで魔剣が久遠へ向けて飛来してきた。長もコルレットも動けず、久遠が魔剣に貫かれると思ったそのとき、突如失速した魔剣が地面に落ちて、ガラランと虚しい音を立てた。


『ウ、ウゴケヌ……! ナゼダ……!?』

「魔法を使って自分で自分を動かしてたんでしょうけど……。まあそれなら打ち消せますので」


 久遠の右眼が青みがかった金色の光を放つ。『霧消の魔眼』である。飛行魔法を解除された魔剣はなす術なく地面に落ちたというわけだ。


「さて。あなたはどうにも暴れん坊な剣のようですが……どうしましょうかね?」

『キサマ……! キリキザンデヤル……!』

「おや。ずいぶんと反抗的な。ところでその宝玉。あなたの『核』ですよね? それを破壊されても意思は保てるんでしょうか? 試してみましょうか」


 今度は久遠の左眼がレッドゴールドの光を放つ。【圧壊の魔眼】。久遠は七つの魔眼を左右どちらからでも放つことができ、このように同時に二つの魔眼を発動させることもできる。

 久遠の魔眼に晒されて、ギシリと魔剣の赤い宝玉が音を立てた。


『マッ、マッ、マテ! ヤメロ! ソレダケハ!』

「待て? やめろ? ずいぶんと上から目線ですね……」


 再びギシリと宝玉が軋む。


『ギャ────ッ!? マッ、マッテクダサイ! オネガ、オネガイシマスゥ!』


 刀身を仰け反らせるほどに魔剣が焦り、悲鳴を上げる。魔法生物にとって核はその生命の源である。先のウッドゴーレムのように、破壊されればその命を散らすことになる。

 普通、こういった貴重な魔導具の『核』にはある程度の防護結界が張られていたりする。この魔剣にも自動修復機能や防護結界はあるのだが、それが軒並み機能していない。久遠の魔眼により機能を停止させられているのだ。

 魔剣と久遠のやりとりをポカンとした様子で眺めているエルフの長とコルレット。

 まさか封印されし伝説の魔剣が、こうも容易くやられるとは。いざとなればエルフの里一丸となって、命を投げうっても再封印を、と慄いていたのに。


「あの、久遠殿……?」

「ああ、すみません。もうちょっと調きょ……いえ、しつけておきますので、しばしお待ち下さい」

「ああ、そうですか……」


 そこからは久遠の脅し文句と魔剣の悲鳴が交互に繰り返されるのみであった。魔剣は久遠の隙を見て逃げ出そうと飛び出すが、すぐさま彼の魔眼で落とされる。そしてまた宝玉がギシリと。


『坊ちゃん! 勘弁して下せえ! もう逆らいませんから!』

「ずいぶん流暢に喋るようになってきましたね。もう少しかな?」


 ギシリ。パキッ。


『ニギャ────ッ!? こりぇ以上は、こりぇ以上はホントにらめェェェェ!? 壊れちゃう! 壊れちゃうかりゃぁぁぁぁ!』

 

 魔剣の絶叫がエルフの里に響き渡る。いつしか赤かった宝玉は、魔剣の顔色のように真っ青になってしまっていた。もう魔剣には久遠に逆らう気など微塵もなかったのである。








■『異世界はスマートフォンとともに。』第20巻発売しました。よろしくお願い致します。

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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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