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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
513/637

#513 帰郷、そしてお仕置き。





「名乗るほどの者ではない、ねぇ……。まあ、お嬢ちゃんの名前なんかに興味ないけど。どうせすぐいなくなるしね」


 鉄仮面の女がクスクスと笑うと、廃工場にいた半機械の悪魔たちが、八雲に向けて襲いかかった。

 壊れた窓の外にいた八雲は踵を返し、廃工場から離れる。それを窓を乗り越えて追ってくる悪魔たち。


「むっ!?」


 廃工場から少し離れたところで八雲は足を止める。前からも同じような悪魔が現れたのだ。


『ギギッ』


 機械が軋むような声を上げて、前方の悪魔たちが自らの爪を伸ばす。そのまま鋭利な手刀となった両腕を振りかぶり、八雲へと襲いかかった。


「ふっ!」


 八雲が愛刀を抜き放つ。水晶の煌めきをたたえたその刃は、すれ違いざまに悪魔の胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 下半身を残し、悪魔の上半身が地面へと落ちる。どうやら胴体は生身のようで、青い血が廃虚の地面を染めていた。

 倒れた仲間を一瞥もせず、続けて襲いかかってくる悪魔を八雲は袈裟斬りに斬り捨てる。

 父である冬夜の魔力が込められたこの晶刀は、絶大な切れ味を持つ。受け止められるのは同じ晶材を用いた武器だけだ。たとえ機械で強化された悪魔だろうと防ぐことはできない。

 ……はずなのだが。


「っ!?」


 背後から振り下ろされたメタリックオレンジの戦棍メイスを八雲は晶刀で受け止める。


「あらぁ? おかしいわねぇ。私の『ハロウィン』で砕けないなんて。ずいぶんと頑丈な剣だこと」

「……あなたのお仲間も同じようなことを言ってましたよ」


 いつの間にか追いかけてきていたらしい鉄仮面の女に八雲が言い放ちつつ、戦棍メイスを払い退ける。


「お仲間? 誰かしらぁ?」

「青い手斧を持った丸兜の奴です」

「ああ、インディゴね。ふぅん、あいつとったんだ? じゃあ私とも遊んでもらおうかしらねぇ!」


 鉄仮面の女が再び戦棍メイスを振り下ろす。見切れないスピードではない。八雲は晶刀をかざし、正面からそれを受け止める。


「ぐっ!?」


 八雲の腕が悲鳴を上げる。先程とは違った重い一撃。さっきのは全力ではなかったのかと、再び払い退ける。


「ほらほらほら、どうしたのかしらぁ?」

「ぬ、ぐ……!」


 連続で振り下ろされる戦棍メイスが、一撃ごとに重くなる。おかしい。これではまるで……!

 八雲の脳裏についさっき廃工場で見た、潰された変異種の姿が浮かぶ。

 まっすぐに振り下ろされる戦棍メイスを今度は横に転がりながら避けた。地面へと振り下ろされた戦棍メイスは、敷き詰められた石畳を破壊し、大きな窪みを作る。


「その戦棍メイス……。振り下ろすたびに重さが加算されるんでござ……ですね? あるいは重さを瞬時に変えることができるとか」

「あららぁ、バレたわ。本当に何者よ、お嬢ちゃん?」


 鉄仮面の女が探るような目を向ける。メタリックオレンジに輝く戦棍メイスを再び八雲へと向けた。

 八雲があの戦棍メイスの能力に気がついたのは、妹の攻撃法に似ていたからだ。もっともリンネの攻撃はもっと重いが。

 気がつくと周囲には半機械の悪魔が群がりつつあった。この数と目の前の鉄仮面の女を同時に相手にするのはさすがの八雲でも厳し過ぎる。

 となれば、八雲が取る行動は一つ。


「【ゲート】」


 足下に自分一人が通れるほどの転移門を開き、ストンと地面に落ちるようにその場から転移する。悔しいが、逃げるのも戦略の一つ。転移する瞬間、驚きに目を見張る鉄仮面の女を見て、八雲は少しだけ溜飲を下げた。

 転移した先では所在なげに教授プロフェッサーが辺りを窺っていた。空中に現れた転移門から地面へと八雲が着地する。


「のおぉぉ!? な、なんじゃ、嬢ちゃんか!? おどかさんでくれい!」


 突然、目の前に落ちるように現れた八雲に、教授プロフェッサーは腰が抜けるほど驚いた。瓦礫に足を取られ、倒れそうになるのを騎士の姿をしたお付きの軍機兵ソルダートが支えてくれる。


「見つかりました。逃げます!」

「お、おお、わかった!」


 状況をすぐに飲み込んだ教授プロフェッサーが頷く。先ほど八雲が囲まれた場所からここまではそう遠くない。すぐにここにも悪魔たちがやってくるだろう。


『ギギッ』


 そう思っているうちに本当に悪魔たちがやってきた。蝙蝠の羽をはばたかせて、こちらへと飛んで来る。その後ろには鉄仮面の女も見えた。

 逃げるのは癪だが、敵地で無理をする必要はない。自分一人ならまだしも教授プロフェッサーという連れもいる。『三十六計逃げるにかず』とは父の言葉(違う)だ。他の三十五計は知らないが。


「【ゲート】!」


 開いた転移門に教授プロフェッサーを飛び込ませ、お付きの軍機兵ソルダートの騎士たちがそれに続く。

 逃すかとばかりに、悪魔の腕が弾丸のように打ち出され、鎖をともなって八雲へと襲いかかった。

 晶刀を横へと振り抜いて、八雲はなんなくその腕を斬り落とす。

 しかし次の瞬間、悪魔の背後にいた鉄仮面の女がオレンジに輝く戦棍メイスを振りかぶる姿を見て、八雲はバックステップで転移門の中へと飛び込んだ。

 転移門が消えたその場所に、ドゴンッ! と大きな地響きを立てて、何か見えないものが落下した。石畳が派手にへこみ、無数の亀裂が入る。


「……逃したわぁ。残念ねぇ。これってインディゴに怒られるかしら?」


 鉄仮面の女、タンジェリンはため息とともに憂鬱そうな声を漏らした。

 




 【ゲート】で転移してきた裏路地から表通りへと出る。高い時計塔がある中央広場から延びるこの通りからは、丘の上に立つ城がはっきりとよく見えた。

 八雲が生まれた時から見慣れた城……というか、実家だ。

 その城を見上げながら八雲は陰鬱そうなため息を吐く。


「帰ってきてしまった……」


 とっさに一番安全なところ、と思い浮かべたのが良かったのか悪かったのか、無意識に八雲はブリュンヒルドの町に転移していた。転移先はよく妹たちと城を抜け出すときに使っていた路地裏である。


「おお、ここはブリュンヒルドじゃな。嬢ちゃん、ここの王様とワシは顔見知りじゃから安全じゃぞ」

「ええ、私もよく知ってます……」


 嬉しそうに語る教授プロフェッサーに八雲はなんとも言えない気分になった。

 とりあえず、邪神の使徒の情報を持ち帰るという自分の目的は果たした。あとは大手を振ってこの時代の父と母たちに会いに行けばいいのだが、ずっと連絡を取ってなかった手前、どうしても二の足を踏んでしまう。

 ぐぅぅ……、と気が滅入ったせいか、お腹まで空いてきた。


「そういえば腹が減ったの。お、あの宿で食事ができるようじゃ。なにか食べていくか」

「そうですね……。っ! いや、あそこはやめておきましょう。あっちの方に美味しそうな店がある予感がします。あっち、あっちに」


 慌てたように八雲は教授プロフェッサーをぐいぐいと別の方向へと押していく。

 教授が指し示した宿の名は『銀月』。ブリュンヒルド王家お抱えの国営店だ。故に、国に仕える騎士などもちょくちょく食べに来る。安全面をいうならば、ここより安全な店はない。

 しかし今の八雲にとっては、父の配下がいてもおかしくない危険な店である。

 もしもすでに手配されていたとしたら、通報されれば一発で父が飛んで来るだろう。そして母も……。

 ここに至っては逃げ出す気はないが、もう少しだけ心の整理をする時間が欲しい八雲であった。

 テンパっていたためか彼女は気がついていなかった。銀月の店先にいた数匹の猫たちがじっと自分たちを見ていたことに。

 そのうちの数匹が八雲たちを追いかけて動き出し、一匹は自分たちのボスに知らせるため、城への道を駆け始めた。



          ◇ ◇ ◇



 一方、そのころ。


 僕らを乗せた魔導列車はリーフリース皇国最初の駅であるパリストン駅に停車し、ここでも盛大な歓迎を受けた。地理的な問題で、リーフリース側はこのパリストン駅の次が皇都ベルンとなる。つまりは終点だ。

 僕らの短い旅も次の駅で終わる。全体的に見て列車自体に問題はなさそうだ。これなら大丈夫なんじゃないかな。

 ここからはリーフリース、ベルファスト、それぞれの国内の地方へと線路が延びていくと思う。異世界のローカル線ってところか。

 それとは別にレグルスやミスミド、パナシェスなど隣国にもやがて延びて、人々の往来や物資の流通が多くなることだろう。

 観光を目的として旅をする人たちも増えると思う。そのうちツアー会社なんて出てくるかもしれないな。

 終点に到着するのを惜しむかのように、ユミナが窓から見える景色を眺めている。


「アレフィスからベルンまで五時間ですか。馬車での旅だと何日もかかっていたのが嘘のようですね」

「お金はかかるけどね。だけど安全は保証されるから、裕福な人たちは乗ってくれると思う」


 魔導列車に乗れば盗賊などに襲われる心配はなくなる。安全に目的地に着けるのだ。貨物列車が走るようになれば、大量の荷物を運ぶことも可能になる。

 これからは魔導列車が流通の要になるんじゃないかな。


あるじ

「ん? 琥珀か?」


 そんなこれからの展望を思い浮かべていた時、城でお留守番をしているはずの琥珀から念話が飛んできた。何かあったのだろうか。


「どうした? 何かあったのか?」

《はい。配下の猫から知らせが届いたのですが、八重様に似た少女が城下に現れたと……》

「えっ!?」


 思わず大きな声を出してしまい、周りのみんなの視線を集めてしまった。隣のユミナが目をパチクリさせて尋ねてくる。


「ど、どうしたんですか、冬夜さん?」

「いや、その……琥珀から連絡があって、城下に八雲らしき子が現れたって……」

「なっ、ほ、本当でござるか!?」


 ガタッ、と立ち上がる八重。周りのみんなもピタリとお喋りをやめて僕らの方を窺っている。


「琥珀、その子は今どこに?」

《場所はわかりませんが、城へ向かっているわけではないようです。猫たちが尾けているので、自分は今そちらへ向かってますが────》


 城へ向かっているわけじゃない? 帰ってきたわけじゃないのか?

 八重が焦れたように僕に迫ってくる。


「だ、旦那様! 速く捕まえにいかねば! 確実に取り押さえぬと逃げてしまうやもしれぬでござる!」


 いやいや、そんな犯罪者みたいに言わんでも。貴女の娘ですよ?

 とは言え、八雲は【ゲート】を使える。逃げられてしまうってのはあり得なくもない話だ。


「よし、【ゲート】で琥珀のところへ行こう。それから尾けている猫たちに連絡をとって────」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 冬夜殿、いや、公王陛下がいなくなるのはまずい! ベルンではリーフリース皇王陛下も待っているんだから!」


 焦る僕たちに待ったをかけたのはオルトリンデ公爵閣下である。

 そうだった。なんとなくゆるく考えてたけど、これって一応式典なんだった。

 くそっ、よりによってこんな時に!

 皇王陛下だけならなんとかなったかもしれないが、今回はリーフリースの重臣の方々も来ている。招待した一国の王がいなくなるのはさすがにマズいのは僕にもわかる。


「と、とりあえず、八重さんだけでもブリュンヒルドに戻ってもらったらどうですか? 王妃なら全員揃っていなくてもさほど問題はないと思いますけど……」


 リンゼがオルトリンデ公爵におずおずと尋ねる。公爵はむむむ、と考え込んでいたが、


「まあ、公王陛下がいるのなら……。一人体調が悪くなったので帰した、とリーフリース側に説明すれば問題はない……と思う」

「ではそれで! 旦那様、体調が優れないので、一足先に帰るでござる!」


 体調が優れないとはとても思えない、はっきりとした口調で八重が叫ぶ。

 ぬぬ、僕もついて行きたいが、この状況ではやはり無理か……。


「お父様、私がついて行くんだよ。いいかげん八雲姉様を捕まえないと」


 長女不在の次女の責任感からか、フレイがそう申し出てくれた。フレイが八重と一緒に行ってくれるなら安心かな。


「わかった。……八重も落ち着いて冷静にな」

「拙者は冷静でござる。冷静でござるとも」


 そわそわ、うずうずという擬音が聞こえてきそうな八重がそう語る。大丈夫、だよね?

 琥珀の待つブリュンヒルドの城門前へ【ゲート】を開くと、待ち兼ねたように八重が勢いよく飛び込んでいった。フレイもそれにひょいと続く。


「大丈夫かなあ……」


 不安な気持ちを抱えたまま僕らを乗せた列車はリーフリース皇都、ベルンへと向かっていった。



          ◇ ◇ ◇



 八雲は教授プロフェッサーと別れ、ブリュンヒルドの城下町をぶらついていた。

 教授プロフェッサーは知り合いのゴレム技師……おそらくはエルカ技師であろう、に挨拶してくると城へと向かったため、八雲は別行動をすることにしたのだ。

 本来なら一緒に行くべきなのだろうが、ここに来てまだ八雲は城に行くのを躊躇っていた。


「さすがにこれ以上は……。こんなことなら先に母上に許可をもらってから修行の旅にでるべきであったか……」


 大きなため息をつきながら八雲は町を当てもなく歩く。過去の町並みとはいえ、生まれた時から知っている町だ。迷子になる事はない。

 さて、これからどうしたものかと、再びため息をつく八雲の前に立ち塞がる一つの影。

 俯いた顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。

 覚えている顔よりも若いが、間違いなく己の母親である八重の姿であった。


「見つけたでござるよ、この家出娘……!」

「い、いや、は、母上……。私は別に家出したわけでは……」


 無表情にこちらを睨んでくる八重に、八雲がたじろぎながら一歩下がる。

 母親の放つ無言の威圧に八雲はたじたじとなる。八雲は金ランクの冒険者となり、それなりに強くなったと自負しているが、母親である八重には毛筋ほども勝てる気がしない。


「いったい今までどこをほっつき歩いていたのでござるか……?」

「あの、その、は、母上、これにはわけが……」


 八雲は蛇に睨まれた蛙のように動けない。母親の怒りはそれほどかと足が竦みそうになる。

 一瞬【ゲート】で逃げようかという考えが脳裏をよぎったが、そんなことをすれば火に油を注ぐようなものだ。

 こうなれば覚悟を決めて母の怒りを受けるしかない、と目をつぶった八雲だったが、次の瞬間、ぎゅっと八重に抱きしめられていた。


「え、あの、母上……?」

「この馬鹿娘……! どれだけ心配したと……!」


 金ランクの冒険者とはいえ、わずか十一の娘が一人で諸国を旅するなど、心配するなという方が無理だ。

 八重には母親として八雲と過ごした記憶はないが、抱きしめたこの娘が自分の娘だと、大切な存在だと確信できた。


「やっと、会えたでござるな……」

「母上……。そ、その、も、申し訳……」

「くふふ、八雲姉様ったら照れてるんだよ」

「なあっ!? ふっ、フレイ!?」


 ひょっこりと八重の背後から現れたのは、すぐ下の妹であるフレイであった。足下には父親の召喚獣である琥珀の姿もある。

 さすがの八雲も母親に抱きしめられている姿を妹に見られるのは恥ずかしい。

 じたばたともがいて八雲は離れようとするが、八重はしっかと抱きしめて離さない。


「は、母上! もうそろそろ離して下さ……!」

「……皆に心配をかけて、八雲は悪い子でござるな」

「えっ?」


 不意に口調が変わった八重に、八雲の顔がわずかに曇る。抱きしめられている八重の腕に力が入り、拘束が強くなった。


「ちょっ、は、母上? いささか力が強いのでは……! いたたたた!」

「……悪い子にはお仕置きをせねばなるまいな?」


 母親の低い声を聞き、八雲はさあっ、と血の気が引いた。この声は小さい頃よく聞いたことがある。

 約束の刻限まで城に帰らなかったとき。

 嘘をついて失敗をごまかしたとき。

 我儘を言って城のみんなを困らせたとき。

 決まって受けるお仕置きは同じだった。


「いやぁぁ!? はっ、母上!? 後生ですからアレだけは! アレだけわぁぁぁぁ!」


 八雲がじたばたと八重の腕の中でさらにもがく。しかししっかりと娘を拘束した八重の腕はびくともしない。


「ふっ、フレイ! 助けて!」


 姉の威厳も投げ捨てて、八雲はすぐ下の妹に助けを求める。

 涙目になっている姉ににっこりと微笑むフレイ。


「八雲姉様。往生際が悪いんだよ」

「いやああぁぁぁぁぁぁ!?」

「さて、城に戻るでござるかな。お仕置きはその後でたっぷりと……」

「ひぃぃ!? 父上ぇ! 助けて下さい!」


 とうとうここにはいない父親に助けを求める八雲。一瞬、琥珀は念話で自らのあるじにこのことを伝えようかと思ったが、威圧感とともに向けられた八重の微笑みに思い留まった。琥珀とて厄災は避けたい。

 ひょいと肩に娘を担ぎ上げた八重は城への道を楽しげに戻り始めた。

 肩に乗せられたその娘は絶望感に苛まれていたが。



          ◇ ◇ ◇



「ゔゔ、ゔ〜……」

「みんな、おかえりでござる」

「あ、うん……」


 逸る気持ちを抑えてリーフリースでの式典をなんとか終えた僕たちは、その足で【ゲート】に飛び込み、ブリュンヒルドへと戻ってきた。

 リビングへ足を踏み入れた僕たちが見たものは、にこやかに出迎える八重と、ソファーにうつ伏せに横たわり、唸り声を上げるおそらく八雲と思われる少女、そしてそのお尻に氷嚢を当てるフレイの姿だった。

 どうやら八雲は尻叩きの刑に処されたらしい。八重は厳しいからなあ……。


「いったいこれは……」

「少しばかり家出娘にお仕置きを」


 八重の返しに『絶対少しじゃないぃ〜……』と小さな反論が飛んできたが、八重は振り返りもせずにスルーした。なんだろう、笑顔が怖い……。


「八雲」

「はっ、はい!」


 八重の呼びかけに、びくん、となった八雲は、よたよたとソファーの上に正座した。叩かれたお尻が痛いのか、少し腰を浮かし気味だ。


「皆様、この度はご心配をおかけしまして、申し訳ありませんでした……」


 正座したまま、ぺこりと頭を下げる八雲。いやいや、そこまですることないから!

 僕がお尻を押さえる八雲に回復魔法をかけると痛みが消えたようで、顔色が幾分かマシになった。


「大丈夫かい?」

「ふう……。ありがとうでござ……ありがとうございます、父上」


 八雲は恥ずかしいのか、顔を背けながらお礼を述べた。

 他の子と同じく、八雲も母親である八重とよく似ていた。真面目そうな子である。真面目すぎていささか融通がきかなそうなタイプかな。

 なんにしろ無事でよかった。これで七人目。あと二人か。一人息子と末娘はどこの空の下にいるのやら。








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