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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
509/637

#509 子供たちの日常、そして魔導列車。

■『異世界はスマートフォンとともに。』19巻、ドラマCD付き特装版、本日発売です。

『VRMMOはウサギマフラーとともに。』1巻も同時発売です。よろしくお願い致します。





「おとーさん、見て見て!」

「待ってよ、リンネ!」


 昼下がり、高坂さんから回された仕事を一段落させ、バルコニーでお茶を飲んでいると、部屋の奥からリンネとエルナの二人が駆けるようにやってきた。

 二人ともいつもの服装ではなく、メイドさんの格好をしている。なんだなんだ、どした?


「まあ、かわいい! 似合いますね!」

「うむ。かわいいのじゃ。よく似合っておるのう」


 一緒にいたユミナとスゥが手放しで褒めちぎる。かわいいだって? そんな言葉では言い表せないくらいだ! この気持ちを言葉にするならば、


「おとーさん、どう? これ」

「ちょーかわいい」


 くそっ、頭の悪そうな返しになってしまった。まあいい。事実だ。あ、かわいいって方ね。頭の方じゃないよ?


「こほん。どうしたんだ、その服。リンゼのお手製かい?」

「うん。レネさんの仕事を手伝うって言ったらリンゼお母さんが作ってくれたの。ぱぱぱって」


 僕の質問にエルナが答えてくれた。ぱぱぱっとですか……。おそらく本当に数分で作っちゃったんだろうなぁ。リンゼの裁縫技術は今や神レベルだ。いや、実際に神がかっているのだけれども。

 しかし、メイドのレネの手伝い? まあ確かに歳が近いし、仲良くなってもおかしくはないけど……。

 レネはいま十か、十一歳だったか?


「子供の頃のレネさんと一緒に働くって変な感じ」

「うん。まるで別人だもんね」

「え、そうなのか?」


 そうか、二人の知るレネは十数年後のレネなんだ。成長期を過ぎる前と後では姿もそりゃあ違うだろう。


「うーんと、どっちかといえば性格……? 私たちの知ってるレネさんは、完璧なメイドさんだから。私たちの礼儀作法の先生もしてるの」

「なに!? あのレネがか!?」


 驚いたような声を上げるスゥ。『スゥ姉ちゃん』と呼ばせて姉貴風を吹かせていた妹分の未来を信じられないようだ。

 まあ、気持ちはわかる。僕もあの『冬夜兄ちゃん』と呼んでいたレネが、そんなパーフェクトメイドになるなんてちょっと信じられないからな。


「レネさんはなんでもできるんだよ。料理も裁縫も戦闘も礼儀作法も一流なんだ。ちょっと私たちに厳し過ぎるけど」

「なるほど。厳しいからこそレネが教育係なのですね」


 納得したようにユミナが頷く。


「リンネは作法の勉強をよくサボるから怒られていただけ。レネさんは優しいよ」

「むうー」


 エルナの指摘にリンネが膨れる。微笑ましい光景に僕らが和んでいると、部屋のドアを開けてその当人レネが顔を出した。


「あの、こっちにエルナちゃんとリンネちゃんがいませんか?」


 レネには二人は僕の親戚だと言ってある。【ミラージュ】が付与されたバッジ(今はブローチになっているが)で姿も普通の子供に見えているはずだ。僕らを『お父さん』『お母さん』呼びするのも、昔からのあだ名みたいに言っといたし。


「二人ともメイド長が待ってるよ。早く行こう?」

「あ、いけない! 行こっ、エルナお姉ちゃん!」

「うん。じゃあお父さん、お母さんたち、行ってきます」

「あっ、ちょい待ち。写真撮らせて!」


 踵を返して走り出そうとするリンネたちに向けて僕は声をかけた。こんな貴重なショット、見逃せるもんか。いそいそと懐からスマホを取り出す。


「あっ、そうだ。レネさんも入って!」

「ええ!?」


 驚くレネを有無を言わさず引き寄せて、両サイドを固めるエルナとリンネ。はい、そのままー……。

 パシャリとシャッターを切る。うん、いいスリーショットなんじゃないかな。


「それ、あとで送ってね!」


 そう言い残し、三人は慌ただしくバタバタと部屋を出て行った。まるでつむじ風だな。


「あのレネがのう……。時の流れというものは人を変えるのじゃな……」


 スゥが感慨深そうにお茶に口をつける。


「確かにそれもあるのかもしれないけど、もともとレネは真面目なしっかり者だし、努力家だからね。一流メイドの素質はあったんだと思うよ」


 『環境が人を作る』とはよく言うけど、うちがこんな環境だからなあ。メイドの技術も戦闘術も、師匠になれる人がそこらにいるからさ。普通に神様たちが歩いているからね。

 レネもなんらかの神々の加護を得てるんじゃないだろうか。耕助叔父あたりの。よく畑の世話を一緒にしているって聞いたし。


「しかし羨ましいですね……。はぁ……私たちの子供はいつやって来るのやら……」


 ユミナが深いため息をつく。来てないのは八重も同じだが、八重の子供、八雲は目撃情報がいくつかある。まったく捉えられないのはユミナとスゥの子供、僕の子供の下から一番目と二番目の子供だけだ。


「いや、ユミナ姉様。子供たちの会話からすると、もうすでに来ている可能性が高いらしいぞ」

「え!? じゃあなんで私たちに会いに来ないんですか!?」

「わらわに聞かれてものう……。来たくない理由があるのか、それともなにかに巻き込まれているのか……」


 来たくない理由ってなにさ……。『お父さん嫌い』ってのだけは勘弁して下さい。


「冬夜さん、【リコール】で子供たちから記憶もらって探せないんですか?」

「うーん、それ時江おばあちゃんに禁止されてるからなぁ……。子供たちは全員無事にここに集まるから心配無用、って言われた」


 【リコール】は相手の記憶を譲ってもらう魔法だ。それを使って姿形を知りさえすれば、あとは【サーチ】で捜せるのだろうけど。


「私とスゥの子供のどちらかは男の子なんですよね。遊びに夢中で帰るのを忘れているのでは……」

「ううむ。あり得るのう。しかしアリスの話だと、歳の割にはしっかりした男子おのこらしいぞ、久遠くおんは。遊び呆けて、ということはないのではないかの」

「では余計な災難に巻き込まれているとか?」

「冬夜の息子じゃ。それは充分にあり得るのう……」

「おいおい」


 勝手なこと言うなや。そもそもその子の母親は君らのどちらかでしょうが。


「まあ、考えていたって仕方がない。僕らは待つしかないよ」

「そうですね。ところで冬夜さん、さっきの写真、私にも下さい」

「あっ、わらわもじゃ」

「はいはい」


 僕は先ほど撮った写真を二人に送信した。子供たちが来てから写真も増えてきたな。みんなにも見てもらいたいから写真を共有するアプリの方にも送っておく。


「今日は他の子たちは?」

「フレイはいつものようにヒルダさんや八重さんたちと訓練場の方に。アーシアもルーさんと厨房で昼食の用意をしています。ヨシノとクーンはバビロンにいるはずですけど」


 クーンはわかるけど、ヨシノもバビロンに? なんか用事でもあったか?

 少々気になったので、僕も行ってみることにした。

 クーンなら『工房』にいるだろうと思い行ってみると、意外なことにヨシノもそこにいた。

 クーンが組み立てている作業用装備型ゴレム、『アームドギア』の横で、『工房』のツールを使い、なにやら作っていた。


「あ、おとうさん」

「なに作ってるんだ?」

「楽器だよ。ほら」


 ヨシノが僕に差し出したそれは小さな箱に金属の細長い板が何個も取り付けられているものだった。これが楽器?

 真ん中にギターのように穴が空いており、金属の板は規則正しくV字型に並んでいた。どこかで見たような気もするけど……。

 金属の板を押してみるとなかなかに固く、特に音は鳴らない。これどうやって演奏するんだ?


「ああ、押すんじゃないの。はじくんだよ」

「弾く?」


 言われた通り爪の先で下に弾くと、ピィン、と澄んだ音色が響いた。なるほど、こうやって音を出すのか。


「『カリンバ』って楽器だよ。知らないの? これ、おとうさんから教えてもらったんだけど」

「え、そうなの?」


 僕じゃない。未来の僕に教えてもらったということだろう。『カリンバ』だって? 聞いたことがあるようなないような。

 僕はスマホを取り出し、地球のネットに繋いで検索をしてみた。あ、これか。

 カリンバ。アフリカの楽器か。サムピアノ、あるいはハンドオルゴールとも呼ばれる……。確かに音が鳴る仕組みはオルゴールと同じだな。

 ああ、そうか。じいちゃんの好きなバンドのボーカルがこの楽器を使ってた。何回かライブ動画を見たことがある。


「ヨシノは楽器も作るのか?」

「うん。簡単なものは自分でできるよ。難しいのはクーンお姉ちゃんに頼んで【モデリング】で作ってもらったりする。楽器を演奏するの好きなんだ」


 そうなのか。

 母親である桜と同じく歌うことも好きらしいが、どちらかというとヨシノは楽器演奏の方が好きらしい。ううむ、音楽神である奏助兄さんの影響かね?


「なにか弾けるかい?」

「いいよ。じゃあこの曲で」


 僕が尋ねると、ヨシノがカリンバで曲を弾き始めた。

 ゆっくりと澄んだ音が響き、美しい旋律を作る。この曲は……パッフェルベルの『カノン』か。

 ヨハン・パッフェルベルの『カノン』。正しくは『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調』の第1曲だ。

 『カノン』とは主声部の奏でた曲を次々となぞりながら進んでいく様式のことだ。

 黄金コードとも呼ばれるパッフェルベルの『カノン』が、ヨシノのカリンバにより、シンプルでありながらも美しい旋律を生み出し、心地よく響く。

 見事な演奏だ。小さな親指二本だけでよく演奏できるな……って、あれ?

 突然どこからかフルートの音色が聞こえてきた。というか、こんなことをするのは一人だけだ。

 視線をヨシノから上げると、予想通り奏助兄さんがいつの間にか演奏に加わっていた。相変わらずブレないな、このひと……。

 未来から来た娘と音楽の神との共演に静かに耳を傾ける。これってものすごく贅沢なひとときなのではないだろうか。

 ポロン……と、最後の一音が響き終えたと同時に、僕はヨシノたちに拍手を送った。いや、これは見事だ。いい演奏だった。

 僕だけでなくクーンや横で聞いていた『工房』のロゼッタも拍手を送っている。うん、クーンはアームドギアで拍手をするのはやめよう?


「えへへ。照れるんだよ」

「いやいや、どうして。素晴らしい演奏だったよ」


 今度は僕も参加しよう。娘との演奏会……これは楽しそうだ。

 アームドギアに乗ったままのクーンを見上げ、僕は尋ねる。


「クーンは楽器を弾けるのか?」

「少しなら。音楽を聴くのはお母様も好きなので」


 子供たちの中でもやはり音楽に興味がある子とそれほどない子がいるらしい。

 八雲、フレイ、リンネあたりはあまり興味はなさそうだ。


「それよりもお父様! どうですかこれ! 重装型アームドギア『ベオウルフ』です!」


 クーンは身につけたアームドギアを自慢するように動かしてみせた。

 大きな両腕に、太い両足。いかにもパワータイプと言わんばかりのゴツいボディ。小柄なクーンの本体と相まって、なんとも奇妙なアンバランスさを醸し出している。


「お前はなにと戦うつもりなんだ……」

「まだ特にはこれといって。ですが、戦力は多いに越したことはありませんわ」


 うーむ、この子なりに邪神の使徒との戦いを考慮しているのだろうか。子供にこんな心配をさせるなんて、僕はダメな親だなあ。

 軽い自己嫌悪に浸っていると、懐のスマホが着信を告げた。

 ん? フェルゼン国王陛下からか。


「はい、もしもし」

『おう、公王陛下か。うちで完成した魔導列車、そろそろあれの搬出をお願いしたいんだが。ベルファストとリーフリースに』

「ああ、そういえば……わかりました。すぐに行きます」


 世界初の(実際には五千年前にすでに造られていたし、西方大陸には似たようなものがあるのだが)魔導列車の一号車と二号車はフェルゼンで造られて、ベルファスト、リーフリース間を走る予定になっていた。

 二国間の線路はすでに土属性の魔法使いたちによって完成しており、あとはフェルゼンからの納車を待つばかりだったのだ。

 当然ながら、転移魔法を使える僕がそれを請け負うことになっていた。いかんいかん、このところの騒動ですっかり忘れていた。

 フェルゼン国王の電話を切り、クーンたちに向き合う。


「ちょっと魔導列車を受け取りにフェルゼンまで行ってくる。すぐ終わると思うけど、昼食は先に……」


 取っていいから、と言付けを頼もうとした僕の目の前にビシッ! とまっすぐ挙げられるクーンの手。もとい、アームドギアの手。


「私も! 私も行きたいですわ、お父様!」

「え、でもベルファストとリーフリースに搬入するだけで、走らせたりは後日だよ?」

「それでもいいです! ピカピカおろしたての魔導列車を写真に撮りたいんです!」


 うちの娘は撮り鉄だったのか。いや、この子の場合、列車に限らずなんだろうけれども。

 まあ邪魔になるわけでもないし、別にいいか。


「ヨシノはどうする?」

「私はもうちょい音程を調整したいからパス。クーンおねえちゃんと行ってきたらいいよ」


 そうか。どうやらヨシノは魔導列車には興味はないらしい。普通の女の子はそうだよなぁ。


「じゃあ行くか。……アームドギアは置いていけよ?」

「えー……。フェルゼン国王陛下に見せびらかしたかったのに……」


 やめなさい。面倒なことになるから。フェルゼン国王陛下はともかく、王妃であるエリシアさんが間違いなく興味持つから。今いろんなことで手がいっぱいなんだから、また今度にしてくれ。

 渋るクーンを説き伏せて、僕らはフェルゼン魔法王国へと【ゲート】で跳んだ。



          ◇ ◇ ◇



 それから一週間後。僕らはベルファストの王都・アレフィスに来ていた。ベルファスト・リーフリース間を結ぶ、魔導列車の開通式に出席するためだ。

 すでに試験運転は完了し、魔導列車が走る線路が二本、新しく建てられた駅舎の中から伸びている。

 王都の名を取り、アレフィス駅と名付けられたこの駅から、リーフリースの皇都・ベルンにあるベルン駅までの路線だ。

 途中、四つの都市に止まり、五時間ちょいで終点に着く。

 駅のホームでは、その魔導列車一号機、『ラインベル』号が客車を連結させて、出発の時を今か今かと待っている。

 全体的に白銀のボディに青いラインが走っている。少し丸みを帯びた形状で、SLのように煙突はない。が、車体の両側面に付けられた噴霧穴からはキラキラとしたエーテルの残滓がまるで蒸気のように放たれていた。

 頑丈そうなその車体は、まるでスチームパンクにでも出てきそうな蒸気列車を彷彿とさせる。実際は魔力バッテリーで走るので、どちらかというと電車に近いと思われるが。音も静かだしね。


「というか、もう写真はいいだろう、クーン。いつまで撮ってるんだ」

「もうちょっとだけ! この角度からが最高なので!」


 エーテルの残滓を放つ魔導列車の写真を撮りまくるクーンに僕は深いため息をついた。こないだの搬出の時も撮りまくってたろ……。そんなに同じの撮ってどうするんだか。

 今回の開通式は記念行事として、僕らも乗り込むことになっている。

 本来なら僕と奥さんであるユミナたちだけだったのだが、無理を言ってクーンたちも乗せてもらえることになった。ついでにアリスも。アリスの付き添いとしてエンデも乗るが、こいつは乗客の護衛に雇われた冒険者としてである。

 ベルファストからはスゥの父親であるオルトリンデ公爵一家を始め、ベルファストの貴族や大商家から数十名、家族とともに乗り込むことになっている。

 なのでクーンだけじゃなく、他の貴族や商家の子供たちも、初めて見る魔導列車に興奮していた。


「エド君も喜んでいるみたいですね」


 ホームのベンチに座るオルトリンデ公爵夫人、スゥのお母さんであるエレンさんの腕の中で、スゥの弟であるエドことエドワード君がきゃっきゃと魔導列車を見て笑っていた。


「おお、エドも魔導列車が好きか。今からあれに乗るのじゃぞ」


 スゥがエド君の小さな手を握る。そのエド君をリンネとアリスが覗き込むようにして眺めていた。


「わ〜、エドにいちゃんかわいい〜」

「小さいエドさんって、なんか変な感じだね」


 二人の発言にオルトリンデ公爵が首をひねる。


「エドにいちゃん?」

「あっと、父上! そ、そろそろ乗り込まないといけないのではないかの?」


 スゥが慌てたように公爵に話を振る。やばっ、とリンネとアリスがその場からそそくさと離れてこちらへと来た。


「まったく……気をつけなよ」

「ごめんなさい、つい……」

「エドさんはよくボクらと遊んでくれたからさ。子供の姿ってなんか変な感じで」


 ベルファストとブリュンヒルドで離れてはいたが、うちの子供たちと未来のエド君はよく遊んでくれたそうだ。

 まあスゥの弟だから、スゥの子供にとっては叔父だし、他の子供たちにとっても叔父だしな。遊んでもらっても不思議はない。

 ベルファストの人たちが客車に乗り込み始めたな。そろそろ出発の時間か。

 僕らも順番に列車に乗り込む。僕らの客車は一号車だ。

 自動ドアではないので、最後の僕が乗り込んだ後に駅員さんが外からロックをかける。これで中からは開けられない。もちろん非常時には内部ドア上のハンドルを引くと開くようになってはいるが。


「わあ、綺麗ね!」


 エルゼが車内を見て驚きの声を上げる。一号車の中はまるでサロンかと思われるほどのゆったりとした空間になっていた。足下にはふかふかの絨毯、左右に豪華なソファーが並び、天井には天窓と魔光石のライトが並ぶ。車内の隅にはワインや果実水など、飲み物まで用意されていた。

 この一号車は王侯貴族が主に利用するためのいわばVIP車だ。快適な旅をするための機能がいろいろと備わっている。冷暖房も完備されているのだ。

 子供たちがふかふかのソファーに膝をつきながら、窓ガラス越しに外のホームを眺める。

 ピリリリリリリ、とホームに笛の音が鳴って、魔導列車が小さく振動する。魔力バッテリーにより、魔動機が動き出し、機関車の車輪が回転を始めた。


「動いた!」


 エーテルの残滓をキラキラと漂わせながら、『ラインベル』号がリーフリースへと向けてゆっくりと走り出した。

 車窓の景色が流れていく。振動も少なく、音も少ない。僕の知る電車とはまた違った乗り心地だ。

 リーフリースまでの線路は地上から数メートル高く設置された高架橋のように作られている。地球なら何ヶ月もかけて作る作業だが、土魔法ならすぐにできるので便利だよな。僕も一部手伝ったし。川にかかる橋の部分とか、仕上げの強化魔法とかね。

 なので眺めは最高だ。アレフィスを出てしばらくすると、広大な平原が広がって見えた。この先は森と平原ばかりのはずだ。

 同じような風景が続くというのに子供たちは流れる景色が面白いのか、窓際にべったりとひっついていた。僕も子供のころやったなあ。


「冬夜さん、何か飲みますか?」

「うん、じゃあもらおうかな」


 ユミナがグラスと飲み物を持ってきてくれた。

 まあ、僕らもこの短い旅を楽しむとしようかな。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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