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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第1章 異世界来訪。
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#5 双子、そして一日の終り。

 裏路地に入り、狭く細い道を進んでいくと、突き当たりで四人の男女が言い争っていた。

 片や男が二人、対するや少女が二人。男はどちらもガラが悪そうで、少女の方はどちらも可愛い。

 二人とも歳の頃は僕と同じか、歳下かな。にしてもあの二人の女の子、よく似ているな…というかそっくりだ。双子だろうか。目つきと、ショートカットとロングという髪型の違いはあるけれど。髪の色はどっちも同じ銀髪だし。

 上半身は黒を基調にした上着と白いブラウスという姿で二人ともほぼ共通であったが、下半身はロングの子はキュロットに黒いニーソックス、ショートの子はフレアスカートに黒のタイツという差があった。活発さと清楚さ、その性質の違いがよくわかる。


「約束が違うわ! 代金は金貨一枚だったはずよ!」


 ロングの子が男たちに向かって声を荒げた。それに対して男たちはニヤニヤと馬鹿にした薄笑いを浮かべている。男の一人はキラキラと光るガラスでできた鹿の角のようなものを持っていた。


「なにを言ってやがる。確かにこの水晶鹿の角を金貨一枚で買うと言ったさ。ただし、それは傷物でなければ、だ。見ろよ、ここに傷があるだろう? だからこの金額なのさ。ホラよ、銀貨一枚受け取りな」


チャリンと一枚の銀貨が少女たちの足元に転がる。


「そんな小さな傷、傷物のうちに入らないわよ! あんたたち初めからっ……!」


 悔しそうな目で男たちをロングの子が睨む。その後ろに隠れているショートの子も悔しそうに唇を噛んでいた。


「……もういい。お金はいらない。その角を返してもらう」


挿絵(By みてみん)


 じりっとロングの子が前に出る。握りしめた両の拳には、不釣り合いな大きなガントレットが装備されていた。


「おっと、そうはいかねえ。もうこれはこっちのもんだ。お前らに渡すつもりは───」

「お取り込み中すいません。ちょっといいですか?」


 突然声をかけた僕に、全員の視線が集まる。少女たちはキョトンとしていたが、男たちはすぐさま険悪な目をこちらに向けてきた。


「あ? なんだテメエは? 俺たちになんか用か?」

「あ、いえ、用があるのはそちらの彼女で」

「え? あたし?」


 脅すように睨みつけてきた男を無視し、その後ろのロングの子に声をかける。


「あなたの角を金貨一枚で僕に売ってもらえないかと」


 しばらくポカンと話を聞いていた彼女だったが、やがて理解できたようで僕の提案に、笑顔で返事をしてくれた。


「売るわ!」

「テメエら、なに勝手なこと言ってやがる! これはもう俺たちのもん────」


 男が水晶の角を頭上に持ち上げた瞬間、大きな音をたててそれは粉々に砕け散った。僕が投げた石が見事命中したのだ。


「なッ…!? なにしやがる!」

「それはもう僕のものだから、僕がどうしようと僕の勝手です。あ、お金はちゃんと払うんで」

「野郎!」


 男の一人が懐からナイフを抜いて僕に襲いかかってくる。僕はそれを見ながら、確実に身を躱す。避けることができると何故か初めから確信していた。見えるのだ。相手の動きや、ナイフの軌道が。

 これが神様がくれた身体能力強化の効果だろうか。身体を屈め、男の足を払う。仰向けに倒れた男のボディにすかさず拳を打ち込む。


「ぐふッ…!」


 男はそのまま気を失った。

 振り返るともう一人の男とロングの少女が戦っていた。男は手斧を振り回していたが、ロングの少女のガントレットに阻まれ決定打に欠けていた。やがて稲妻のように踏み込んだ彼女の右ストレートが男の顔面に炸裂。白目を向いてばったりと男が倒れる。お見事。

 こんなにあっさりと勝負が決まるのなら、水晶の角を砕く必要はなかったのかもしれない…。争いごとの種なんか無くなった方がいいかと思ったんだが……。女の子の手前、ちょっとカッコつけたかった自分の馬鹿さ加減に後悔したが、まあ、仕方がない。僕は財布から金貨を一枚取り出しロングの少女に渡す。


「はい、金貨一枚」

「…いいの? あたしたちは助かるけど…」

「粉々に砕いたのは間違いなく僕だしね。かまわないから受け取ってよ」

「じゃあ…遠慮なく」


 そう言ってロングの子はガントレットの付けた手で金貨を受け取った。


「助けてくれてありがとう。あたしはエルゼ・シルエスカ。こっちは双子の妹、リンゼ・シルエスカよ」

「…ありがとうございました」


 ぺこりと後ろにいたショートの子が頭を下げて小さく微笑む。


挿絵(By みてみん)


 やっぱり双子だったか。ロングの子がエルゼ、ショートの子がリンゼ。うん、覚えた。髪型と服でしか判断できないけど。


「僕は望月冬夜。あ、冬夜が名前ね」

「へえ。名前と家名が逆なんだ。イーシェンの人?」

「あー…まあ、そんなとこ」


 宿屋のミカさんと同じ反応に、僕は同じように答える。あー、イーシェンってどんな国よ。気になるなあ、もう。




「そうかー。冬夜もこの町に来たばかりなんだ」


 と、果汁水を飲みながらエルゼ。この町に、というよりこの世界に、の方が正しいのだが。

 あれから僕たちは宿屋「銀月」に戻ってきた。彼女たちも宿屋を探していたというので、一緒に連れて来たのだ。新たにお客さんを連れてきたので、ミカさんはほくほくしていた。わかりやすい人だ。

 そのまま三人で食事をしようということになった。いろいろ話をしながらミカさんの夕食を食べ終え、今は食後のお茶を飲んでいる。


「私たちもあいつらの依頼でここに水晶鹿の角を届けにきたんだけどね。酷い目にあったわ。なーんか胡散臭いなーとは思っていたんだけどさ」

「…だからやめようって私は反対したのに…。お姉ちゃん、言うこときいてくれないから…」


 姉のエルゼを妹のリンゼが非難するように睨む。暴走気味な姉にしっかり者の妹、といったところか。エルゼの方は物怖じしないタイプ、リンゼの方はどこか人見知りするタイプに見える。


「二人はなんであいつらの依頼を受けたの?」


 疑問に思っていたことを二人に聞いてみる。あんないかにも怪しい奴らと取り引きなんて、どうかと思う。


「ちょっとしたツテでね。あたしたち、前に水晶鹿を倒して角を手に入れてたんだけど、欲しいって話が来たからちょうどいいやって。でもダメだねー。やっぱりギルドとか、ちゃんとしたところから依頼を受けないとやっぱりトラブルに巻き込まれるのね」


 溜息をつきながらエルゼが目を伏せる。


「この機会にギルドに登録しよっか、リンゼ」

「その方がいいと思う…。安全第一。明日にでも登録に行こうよ」


 ギルド。確かゲームとかだと、ハローワークみたいに仕事を斡旋してくれるところだったか? いろんな依頼があって、それをこなせばお金が貰えると。ふむ。


「良かったら明日、ついて行っていいかな。僕もギルドに登録したいんだ」

「いいよ。そんなら一緒に行こう」

「うん…。一緒に行こう」


 二人とも快く承諾してくれた。ギルドとやらに登録して仕事をもらえればいくらか稼げる。この世界で生活していく基盤ができるかもしれない。

 その日はそれで二人と別れ、自分の部屋に戻った。やっと一日が終わる。いろいろあったなあ。

 異世界にやってきて、服を売って、宿屋に泊まり、女の子を助けて、喧嘩した。なんだこの一日。

 とりあえずスマホに今日の出来事を日記代わりにメモっておこう。ついでに情報サイトを巡り、あっちの出来事をいろいろと読み漁っていく。お、巨人勝ってる。えー、あのバンド解散しちゃうのか…残念。

 キリのいいところで電源を切り、ベッドに潜り込む。明日はギルドに行って登録だ。どんなところだろうな…。そんなことを考えていると、すぐに睡魔が襲ってきた。ぐう。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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