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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
495/637

#495 方舟、そして地底湖。





『船……? 「クロム・ランシェス」ガ造リシ物……? 「方舟アーク」ノ可能性大』

「『方舟アーク』?」


 ユミナが連れてきた『白』の王冠、イルミナティ・アルブスはそう答えた。


『「方舟アーク」。クロムガ造リシ移動型工場(ファクトリー)。我モ他ノ「王冠」モ、ソコデ造ラレタ』

「造られた……? つまり『王冠』の製造工場ってことか?」


 僕らの『バビロン』で言う『工房』ってとこか。アルブスの話によると、クロム・ランシェスってのはかなりの変わり者でどこの国にも所属せず、好き勝手に旅をしていたらしい。その足となったのか『方舟アーク』こと移動工場船だったとか。

 ウチの博士もそうだが、変わり者の魔工学者ってのは同じ傾向にあるのかね?


「まさか『方舟アーク』も九つあるとか言わないよな……?」

『? 自分ノ知ル限リ、一隻ノハズ』


 そりゃよかった。まあ、当たり前か。

 話を聞いていた探索技師団シーカーズのリップルさんがアルブスに話しかける。


「その『方舟アーク』に入る方法をアンタは知ってるかい?」

『「王冠」ガ鍵トナル。我ラガイレバ問題ナシ』


 なるほど。『王冠』そのものが船に乗るための鍵となっているわけか。それじゃ誰も入れないわけだ。


「王様よ。悪りぃんだけど、この『白』を貸しちゃくれねぇか。船に入るにはどうしても王冠の力がいる」

「って言われてもねえ……」


 探索技師団シーカーズの団長、マリオのおっさんに頼み込まれたが、はいそうですかと貸せるもんでもない。


「お父様、お父様! ここは私がアルブスとともにブリュンヒルドの代表として『方舟アーク』へと赴くというのは……!」

「却下よ。あなたは珍しい魔導船が見たいだけでしょう? おとなしくしてなさい」

「お母様、いけず!」


 僕に耳打ちしてきたクーンをリーンが引き離す。ま、そんなことだろうとは思っていたけど。

 正直、『方舟アーク』とやらに興味はある。『王冠』シリーズを造りあげた稀代のゴレム技師が遺した遺産だ。歴史的、技術的に価値のあるものなのだろう。

 しかしそれ以上に、『方舟アーク』がどんな力を有しているかわからない。なにせ世界の壁を越えた技術者の居城だ。放置しておくのは得策とはいえない。一度は確認しておく必要がある。


「クロム・ランシェスの工房……! 見たい! 『王冠』の秘密が解き明かされるかもしれないわ!」

「ボクも気になるね。まだ見ぬ技術が埋もれているのに、行かない手はないよね、冬夜君?」


 エルカ技師とバビロン博士は行く気満々だ。ほら! ほら! とその横でクーンが握りこぶしを振り上げている。……行かない、とは言えない雰囲気だ。

 まあガンディリスには一度は行ってみたいと思っていたし、渡りに船か? あそこの王女様……第二王女、コーデリア姫の話だと、ガンディリスの国王は大らかで温厚な人物みたいだし。


「わかった。アルブスを連れてその遺跡に行こう。ユミナ、いいかな?」

「ええ。大丈夫です」


 アルブスはブリュンヒルドに所属しているけれども、その契約者マスターはユミナである。ま、(仮)と付くのだが。一応許可はもらわないとさ。


「はい! お父様、私も行きます! 行きますったら行きます!」

「ズルいですわ、クーンお姉様! お父様、わたくしも行きます!」

「君らね……」


 競うように手を挙げるクーンとアーシアに頭が痛む。遊びに行くわけじゃないんだけどなあ。



          ◇ ◇ ◇



「うおおおおぉぉぉぉ!? 速い! 速いぞおっ!?」


 窓から見える景色を眺めながらマリオのおっさんが子供のようにはしゃいでいる。否、はしゃいでいるのはマリオのおっさんだけじゃない。『探索技師団シーカーズ』のおっさんみんなだ。

 ここはバビロン博士が造った大型高速飛行船『バルムンク』の中。

 ガンディリスへ行くにあたって、『探索技師団シーカーズ』の飛行船では着くのに何週間もかかってしまうとわかった。そこでバビロンの『格納庫』にあったこいつの出番となったわけだ。

 元々はフレームギアを輸送するために五千年前に造られた飛行船である。僕が【ゲート】を使えるため、今まで陽の目を見ることがなかったが、こういう大人数での移動には役に立つ。

 ちなみに『探索技師団シーカーズ』の飛行船は僕の【ストレージ】の中。

 搭乗者は『探索技師団シーカーズ』の面々の他、僕、ユミナ、リーン、クーン、ルー、アーシア、バビロン博士、エルカ技師。お供にポーラとアルブス、そしてエルカ技師のところのフェンリルである。


「しっかし、驚いたね……。まさかこんな飛行船があるなんてさ。こっちの大陸じゃこれが普通なのかい?」

「まさか。ブリュンヒルドだけよ。あの国はいろいろとおかしいから、一緒にしちゃ駄目。常識が壊れるわ」


 なにやらリップルさんとエルカ技師が失礼な会話をしているが、訂正してくれ。おかしいのは博士だけだから。

 そうユミナに漏らしたら、『冬夜さんはもっと客観的に物を見た方がいいです』と言われた。どういうこと?


「このペースだとあと一時間ほどでガンディリスに着くね」


 博士がスマホの時計を見ながらそう言った。『バルムンク』は自動操縦になっているため、僕らは寝ていても勝手に目的地に着く。

 本音を言えば僕が【フライ】で目的地へ飛んで行き、そこから【ゲート】をつないだ方が早いと思う。一応提案はしてみたんだが、『バルムンク』に乗りたがる連中に押し切られた。もちろんクーンも含めて。

 まあ、そんなに何日とかものすごい差があるわけでもないし、僕が折れてのんびりといくことにしたわけだ。

 道中、博士とエルカ技師はマリオのおっさんやリップルさんとなにやら難しい話をし続け、クーンはそれを興味深そうに聞いていた。

 アルブスもフェンリルとボソボソ話していたが、こちらは話が弾んでいるという感じではない。なにか確認しているという感じだ。ポーラはその周りをうろちょろしてた。

 ルーとアーシアはさっきからバルムンク内にあるキッチンで作った料理を争うように僕のところへ持ってくる。いや、こんな量食べ切れないから! 二人には申し訳ないけど、『探索技師団シーカーズ』のおっさんらに分けてやった。不満そうに口を尖らせる母娘がそっくりで笑ってしまったが。


「そろそろかな」

「うむ。あれはピスト山脈だな。もうすでにガンディリスの領域内だ」


 博士のつぶやいた言葉に窓から見える山を確認したマリオのおっさんがそう告げる。なんだかんだであっという間だったな。

 僕らは艦橋ブリッジの方へ向かい、正面から下界を見下ろす。

 たくさんの山々が連なるその景色はまさに山岳国家とも言うべき姿だった。

 ところどころに盆地があり、そこに町が広がっている。その町をつなぐように細い山道がいくつも伸びていた。


「あれってトンネルか?」

「あれは大昔、ドワーフたちが掘った道だよ。掘削用のゴレムで掘ったやつもあるけどね」


 リップルさんが僕の疑問に答えてくれる。ドワーフか。主に鉱山で暮らす彼らならそれくらい朝飯前か。僕は『探索技師団シーカーズ』にもいる何人かのドワーフをちらりと見つつ、そう思った。


「おっ、見えてきたぞ。……なんだ? あれは?」


 マリオのおっさんが目を凝らしながら正面に見える山を睨む。

 山の麓のあたりからなにやら煙のようなものが立ち昇っているのだ。


「あそこが遺跡の入口かい?」

「うむ。ガンディリスの騎士隊と『探索技師団うち』の若い奴らが駐屯してるんだが……。しかしあの煙はなんだ?」

「火事かしら……」


 博士たちもマリオのおっさんが指し示した方向に目を向ける。どれ、僕も。


「【ロングセンス】」


 視力を飛ばし、マリオのおっさんが示した方向を眺める。確かに煙が立ち上っているな。設営されているテントなどが燃えている。それだけじゃなく、バラバラになったゴレムの残骸などがあるぞ。あれってガンディリスの騎士ゴレムか?


「よくわからないけど、何かに襲われたみたいだ。ガンディリスのゴレムらしき残骸が転がっている」

「なんだって!?」


 僕の言葉にリップルさんが声を荒げる。博士がバルムンクの操縦席に座り、飛行船のスピードがアップした。

 やがてみんなにも視認できる距離まで近づくと、その惨状がはっきりとわかった。

 野営地からは火の手が上がり、倒れた人や壊れたゴレムの残骸がそこらじゅうに転がっている。明らかに何者かに襲撃を受けた状態だ。

 バルムンクが着陸すると、すぐさま『探索技師団シーカーズ』の人たちが我先にと飛び出していった。

 辺りに敵の姿はない。すでに撤収したのか? いや、遺跡の中に突入した……?

 遺跡の入口はかなり大きく、地下へと向かう形状をしていた。ゴレム数体でも楽に入れそうだ。


「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」


 怪我人を抱き起こすマリオのおっさんの声で我に返る。

 っと、いかん。考えるのは後だ。まずは怪我人を救けないと。


「【光よ来たれ、平等なる癒し、エリアヒール】」


 ターゲットロックされた人たち全体に回復魔法を発動する。幸いなことに死者はいなかった。先ほどまで重体だった者が、ぽかんとした表情で自分の身体をたしかめながら立ち上がる。


「こ、こりゃあ……回復魔法か? あんたとんでもねぇな……」


 魔法を目の当たりにしたマリオのおっさんやリップルさんまでもぽかんとしているのに苦笑しつつ、近くにいたガンディリスの騎士と思われる青年に話しかけた。


「いったいここでなにがあったんです?」

「え? あ、ああ……突然、変な集団に襲われたんだ。細い四つ腕のゴレムを何十体も引き連れた、おかしな仮面を被ったやつに」

「おかしな仮面?」

「顔というか頭全部を覆う鉄仮面のような仮面だ。カラスみたいな嘴があった……」


 カラスのような仮面? 地球で言うところのペストマスクのようなものだろうか。確かにおかしな奴だな。

 よく見ると大破したゴレムの残骸には、おそらくガンディリスの騎士ゴレムと思われる機体の他に、細い手足で、四本腕のゴレムの残骸も転がっている。

 頭は丸く、マントのようなものを羽織っている。まるでカカシみたいだな。


「それでその集団はどこに?」

「たぶん遺跡の中へ……」

「狙いはクロム・ランシェスの船か……! くそっ、どこから漏れた!?」


 マリオのおっさんが転がっていた木箱を叩く。『王冠』製作者の残した遺産とも言える船だ。よその国からしたら喉から手が出そうなほど魅力的な物だろう。ただの盗賊団とも考えられるが、どこかの国の部隊である可能性は高い。


「だけど船には鍵がかかってるんでしょう? 『王冠』がなくては入れないのではなくて?」

「お母様、なにも馬鹿正直に正面から入る必要はないのですわ。多少破損してもいいのなら、強引に外壁を破壊して内部に入るという方法もあります」


 リーンの疑問にクーンが答える。確かにありと言えばありかもしれないが、それって墓泥棒のやり口だよな。この状況から見て同じような輩かもしれないけど。

 仮にも『王冠』の製作者が、そんな簡単に破られるセキュリティを作るわけはない、と思いたい。


「あの船を破壊するだと!? 冗談じゃない! 失われた技術が詰まった宝箱だぞ! おい、お前ら! 追いかけるぞ!」


 マリオのおっさんの声に『探索技師団シーカーズ』のみならず、ガンディリスの騎士たちも拳を上げる。大丈夫かね? 騎士ゴレムたちは壊れたままだけど。


「ふむ。船が多少破損する程度なら許容できるが、中に記録されているデータを消されたりでもしたら大損失だ。ここはボクたちも行った方がいいと思うけど」

「だよなぁ」


 博士の言う通り、一度荒らされたら二度と戻らないものもある。さすがにそんな暴挙は止めたいところだ。

 遺跡に突入するマリオのおっさんたちに、僕たちもついていくことにした。この遺跡は地下七階まであり、問題の船は最下層の船渠ドックにあるらしい。かなり入り組んだ構造になっているらしく、リップルさんが地図を広げだした。

 

「ここからここ……。そしてこっちから降りた方が速いね。向こうさんが迷子になってりゃいいんだが」


 広げられた地図を見てみると、地下鉄構内のように張り巡らされた通路が複雑な形を描いている。確かにこれは迷子になりそうだ。


『マスター、進言許可ヲ』

「え? どうしました、アルブス?」


 ユミナがアルブスに声をかける。するとアルブスはリップルさんから地図を受け取り、一階のある場所を指し示した。ん? そこにはなにもないけど……。


『コノ場所ニ昇降機エレベーターアリ。最下層ヘ直通』

「えっ!? なんで知ってるんですか!?」

「コノ施設はクロム・ランシェスノ秘密基地アジト。我モ来タコトガアル』


 なるほど。ここがクロム・ランシェスの作ったものなら『王冠』であるアルブスが知っていてもおかしくはない。

 だったらなんで今まで、この船がある場所を教えてくれなかったんだろう?


製作者ハイマスター権限ニヨリ基地の場所ハ秘匿サレテイル。他ノ『王冠』モ同様ナリ』

「そういうことか。しかしクロム・ランシェスってやつは、なんとも秘密主義なんだな」

「優れた技術を持つ者は、得てして時の権力者や同業者に狙われるものさ。隠れたくなるのもわかるよ。ボクがバビロンを造ったようにね」


 博士が同意するかのように深く頷く。そんなもんですかね。確かバビロン博士も、どっかの国王にバビロンとシェスカたちバビロンナンバーズをよこせとか言われたんだっけ。五千年前に。


「とにかくその場所へ急ごう」


 僕達はアルブスの示した場所へと向かう。そこは一見、ただの壁としか見えない場所であった。

 小さく偽装された魔石に魔力を流すと、音もなく壁が二つに割れて、ポッカリと箱状の空間が姿を現した。

 さすがに全員乗り込むのは難しいので、まずは僕らとマリオのおっさん、リップルさん、ガンディリスの騎士数名だけが乗り込み、一気に最下層へと向かうことにした。

 扉が閉まり、箱が下降する。なにもないんだけど思わず扉の上の方に視線を向けてしまうのは、地球でのエレベーターを知っている弊害かね。

 チンッ、と金属が響くような音がして、扉が開く。すると、薄暗い通路の数メートル先にいた細い四本腕のゴレム数体が、ぐりんとこちらへとその目を向けた。


「あ、あいつらです! 我々を襲ったのは!」


 一緒にエレベーターに乗っていたガンディリスの騎士が叫ぶ。


『ギ! ギ、ギ!』


 猿のごとくピョンピョンと飛び跳ねながら四腕ゴレムが襲いかかってくる。僕は腰からブリュンヒルドを抜き、躊躇いなくそのゴレムの胸目掛けてぶっ放した。

 銃声と轟音が響き、四腕ゴレムの胸に風穴が開く。銃弾に付与された【スパイラルランス】の効果だ。


「野郎ども、遠慮はいらねえ! ぶっ壊せ!」

「おお!」


 マリオのおっさんの声に、『探索技師団シーカーズ』の面々がエレベーターから飛び出す。彼らは技術者であると同時に探索者でもある。荒事には慣れっこなのだろう。スパナやハンマーを振り回し、四腕ゴレムたちに向かっていく。

 負けじとガンディリスの騎士たちも前に出る。


『ギギッ!』


 たちまち乱戦になり、僕はブリュンヒルドをガンモードからブレードモードへと切り替えた。間違えて味方を撃ってしまったり、こう狭いと跳弾が怖い。

 そんな僕とは正反対に、クーンが袖から取り出し、構えた魔法銃スペルキャスターから稲妻が飛び出す。いいな、それ。僕も作ろうかな。


「ぐはっ!」

「うぐっ……!」


 四腕ゴレムに何人か吹っ飛ばされる。こいつ、細身のくせしてパワーがあるな。


「めんどくさいな。【スリップ】」

『ギッ!?』


 四腕ゴレムたちが通路の上に転倒する。そいつらを『探索技師団シーカーズ』のおっさんたちが大きなハンマーで一斉に殴りつけると、襲いかかってきたゴレムたちはやがて機能を停止した。


「こいつらどこの製品だ? 古代機体レガシィじゃねぇようだが」

「ボディはアイゼンガルドのに近いな」

「でもよ、腕部や脚部はガルディオのあたりで見たことがあるぜ」


 『探索技師団シーカーズ』のおっさんたちは、動きを止めた四腕ゴレムを小突き回しながら、各々の意見を飛ばしている。そういうの後にしてくれないかなあ。


『コノ先右。約百メートル先ノ階段ヲ下レバ、船渠ドックニ着ク』

「わかった。行こう」


 一部のおっさんたちを置いて僕らはアルブスの言葉に従い、先を急ぐ。

 角を右に曲がり、小さなランプのみが灯る、薄暗く長い通路を直進、そこにあった階段を下ると、地底湖のような場所の近くにその船はあった。

 近くで見るとかなりデカいな。見た目は船というより宇宙船のようだ。帆とかないし、船体の左右にエンジンのようななにかが取り付けられているし。


「ひょっとしてこれって飛ぶのか?」

『否。「方舟アーク」ハ飛ベヌ。潜水ナラ可能』


 そっちかよ。潜水艦なのか。そう言われるとそんなフォルムにも見えてくるな。だとしてもデカすぎるけど。


「ふん、招かざる客が来たか。ガンディリスもなかなかにしつこいな」


 『方舟アーク』の姿に呆然としていた僕らへと声がかかる。

 視線を戻すと僕らの正面、『方舟アーク』への道を阻むかのように一人の人物が立っていた。

 黒く丸いサングラスのようなゴーグルに、鉄鋲で打たれたカラスのような金属のペストマスク。フードの付いた黒いコートを被り、左の腰にはスプレー缶のようなものがジャラジャラと、右の腰にはメタリックレッドの細剣レイピアを差していた。

 背中には変なランドセルのようなものを背負い、なにやらダイヤルの付いたベルトをしている。

 一見レトロチックなスチームパンクのコスプレ野郎にしか見えないが、なにか……妙な気配を感じた。

 僕はペストマスク野郎を誰何する。


「お前は遺跡目当ての盗賊か? それともどこかの国の諜報員か?」

「どちらでもない。あえていうなら『邪神の使徒』だ」

「……なんだと?」


 眉を顰めた僕を無視し、ペストマスクの男は腰から外したスプレー缶のようなものをこちらへと投げつけた。

 一瞬にしてそこから吹き出した毒々しい色の煙が辺りに広がる。まずい! 毒ガスか!?


「【プリズン】!」


 とっさに【プリズン】を展開し、みんなを毒ガスから結界で守る。毒々しい緑色の煙があっという間に視界を奪い、ペストマスクの男が見えなくなっていく。


「じゃあな」


 ペストマスクの男が背負ったランドセルから翼のようなものが飛び出し、まるでロケットかジェット機のように空に飛び上がった。なんだありゃあ……!

 ペストマスクの男は地底湖の上を飛んでいき、『方舟アーク』の甲板へと降り立つ。そこで視界が完全にふさがれて、なにも見えなくなった。くそっ!


「【風よ渦巻け、嵐の旋風、サイクロンストーム】!」


 リーンの放った竜巻が周囲の毒ガスを吹き飛ばす。それを吹き出していたスプレー缶も一緒に吹き飛び、地底湖へと落ちた。

 視界が回復した僕たちの目に映ったのは、静かに水をたたえる地底湖だけだった。

 一瞬にして、僕らの目の前から忽然と『方舟アーク』が消えてしまったのである。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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