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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
492/637

#492 五人目、そして母娘対決。




「面白かったんだよ!」

「ええ。なかなか迫力がありましたわ」

「君ら、すごいね……」


 はしゃぐフレイとクーンを、どんよりとした目で見ながらエンデがつぶやく。

 僕もぐったりとして立ち上がる気力もない。あれ、おかしいな。ジェットコースターってこんなに疲れる乗り物だったっけか……。まだ足元が揺れてる気がする。

 僕とエンデだけじゃなく、先発組のルーとヒルダもぐったりとしていた。八重や桜、リーンにリセは平気のようだ。人によるのだろうか……。


「んもー、お父さんはだらしがないなー」

「うぐっ!? いや、アリス、これはね……」


 エンデが娘に会心の一撃をいただいている。それを見て、僕は密かに姿勢を正し、平然としたフリをした。二の舞は御免である。


「お父さん、大丈夫……?」


 エルナが心配して僕を気遣ってくれる。ううっ、うちの娘は優しいなぁ……。


「なんかあたし、すごく怖くなったんだけど……」


 逆に母親のエルゼは、これから同じ体験をする自分の身を案じている。大丈夫、大丈夫、すぐに慣れるさ……。

 後発組の【リンネ・リンゼ】、【エルナ・エルゼ】、【アリス・メル】、【ネイ・スゥ】、【ユミナ】を乗せた魔導列車が、スーッとホームを出ていく。

 さて、何人ぐったり仲間が増えるかな?

 駅舎の中のテーブルに腰掛けて、【ストレージ】からお茶を取り出す。駅舎の中は魔法の制限がかけられてないらしい。

 他のみんなの分も用意して一息つくと、やっと気持ちが落ち着いてきた。

 先程とはうって変わり、お茶を手にしてまったりとしていると、不意にシェスカの横にあるモノリスが青く点滅し始めた。なんだなんだ?


「御心配ナク。博士かラのコールでス」


 シェスカがモノリスに手を触れると、空中に博士の画像が浮かび上がった。


『やあ、親子水入らずのところすまないね。そちらに繋がらないとボクの方に城から連絡がきたものだから』


 連絡が? みんなのスマホは外界とは通信阻害されているかもしれないが、僕のは……あ、電源切ったんだっけ。さっき神様に叱られたから。それでか。


『城の方にパナシェスの王子様が来ているらしいよ。来て早々、転移の代償でグッスリらしいけど』


 いや、来てすぐ寝るって。何しに来たんだよ、あいつ……。まあブラウの能力で転移して来たんじゃ、仕方ないのかもしれないが。


『問題は王子様の方じゃなくてね。公王陛下に会わせてくれという、小さな同行者がいるんだ。君の親戚と言っているけど、どうも話からするとルー君の娘らしいよ』

「え?」


 博士の画面を見ていたルーが目をぱちくりとさせて、小さく声を漏らす。一拍置いて、首をこちらへとゆっくり回し、僕を見てから再び画面へと戻して、お茶を一口飲んだ。


「えええええっ!? わっ、わたくしの娘が!?」


 ガターンッ! と、派手に椅子を後ろに倒しながらルーが立ち上がる。遅っ。

 ルーの反応に驚いて、娘が来たという衝撃が僕の中に引っ込んでしまった。まあ、五人目だしね。


「しかしなんだってロベール王子と?」

『出現したのがパナシェス王国だったらしいよ。その足で王子を捕まえて、即、転移してきたらしい』


 なんとまあ。行動力ありすぎだろ、うちの娘さん……。ロベール王子に悪いことしたなあ。後で謝っておこう。


「アーシアらしいんだよ。あの子、目的のためなら手段を選ばないところがあるから。真っ直ぐ過ぎなんだよ」

「まあまあ。それも特定の状況だけなんですし。害はないでしょう。迷惑はかけてますけれど」


 フレイとクーンが呆れたような諦めたような声を漏らした。桜がその二人に質問を投げかける。


「アーシアって子は何番めの子?」

「五番目ですわ。エルナの上になります」


 八雲、フレイ、クーン、四人目、アーシア、エルナ、リンネ、八人目、九人目という順番か。


「私の子のヨシノは何番目?」

「ヨシノはクーンちゃんの下なんだよ。……あ、桜お母様、誘導尋問だよ!」

 

 桜の言葉にフレイが釣られて情報を漏らす。それくらいはいいだろ。ヨシノは四番目か。するとユミナとスゥの子が下から二人となる。まあ、スゥの場合は歳のこともあるし、遅くなると思ってたけど……。

 そんなことを考えていた僕の襟首をふんづかまえて、ルーがぐいっと手元へ引き寄せる。ぐえ!


「今はそれより、アーシアですわ! 冬夜様、すぐに戻りましょう! 迎えに行ってあげなければ!」

「あー、ああ。そ、そうね、そうですね。ハイ。僕もそう思います……」


 あまりの迫力に思わず敬語になる。気持ちはわかるけれども、落ち着いてほしい。

 そんな様子を見たクーンが小さなため息をついて、僕らに話しかける。


「とりあえずお父様とルーお母様で迎えに行ってくださいな。みんなには私から説明しておきますので」

「頼みました! シェスカさん、二人帰還で!」

「ちょっ……!」

「了解しましタ。二人転送しまス」


 そんないきなり!? 僕が何かいう前に、一瞬でルーと僕はバビロンの『庭園』へと戻ってきていた。


「さあ、冬夜様、お城へ早く!」

「わかった、わかったから!」


 ぐいぐいと腕を引っ張るルーにちょっと落ち着くように諭して、【テレポート】で城へと転移する。

 城のリビングへと転移すると、ソファーに腰掛けている花恋姉さんと、七歳か八歳くらいの一人の女の子が目に飛び込んできた。どうやらロベール王子は寝室へ直行させられたようだな。

 転移してきた僕らに気付き、少女はその目をこちらへと向ける。母親譲りの綺麗な翡翠のような瞳。

 わずかに緑がかった髪を揺らして、少女が立ち上がった。

 彼女には見覚えがある。バビロン博士の持っていた『未来視の宝玉』で、一瞬だけ映った子だ。(八巻・幕間劇にて)あの時より少し成長しているけど。宝玉に映った厨房にいた彼女は、やっぱりルーの娘だったのか。

 彼女へ向けて、ルーが足を一歩踏み出す。


「あなたがアーシア……ですか?」

「はい!」


 満面の笑みを浮かべてアーシアがこちらへ向けて駆けてくる。ルーもその両手を広げ、娘を迎え入れようと……したのだが、アーシアはその横を走り抜け、ジャンプして僕へと抱きついた。


「やっと会えましたわ、お父様!」

「……あれえ?」


 腕を広げたまま、ゆっくりと首をこちらへと向けるルー。目が点になっている。いや、たぶん僕もだが。


「未来のお父様も素敵ですけれど、少し若い過去のお父様も素敵ですわ!」

「は、ははは……それは、ありがとう?」


 ぎゅーっ、と抱きついてくるアーシアにどんな反応をしたらいいかわからず、とりあえず同じように抱きしめ返す。嬉しいんだけど、こういう反応は慣れてないっていうか。


「ちょっ、アーシア!? お母さんは!?」

「お母様もお元気そうでなによりですわ」


 僕から離れたアーシアが、母親であるルーに対してカーテシーで挨拶をする。ずいぶんと大人びた対応だけど、僕の時と反応が違いすぎない?


「アーちゃんは冬夜君大好きっ子なのよ。あ、ルーちゃんのことも大好きなのよ?」


 少し乾いたような笑いを浮かべつつ、花恋姉さんが教えてくれる。……え、ファザコンってこと? 嬉しいような、将来が心配なような。


「娘が父親を慕うのは当然ですわ。わたくし、いつかお父様のような旦那様を射止めるために、日々自分を磨く努力をしていますのよ!」


 アーシアが胸を張ってそう答えているが、お父さんすっごくビミョー。アーシアはずいぶんとマセたお嬢様のようだ。


「旦那様って……! まだあなたには早くないですか!?」

「甘いですわ、お母様。今のうちから動いておかないと、幸せな結婚生活は送れませんのよ」


 ちっちっち、とアーシアが指を振りながら舌を鳴らす。どうでもいいけど、君ら嫁入りの話をお父さんの目の前でしないでくれないかな? 出会ったばかりだとはいえ、地味に効くからさ……。


「ま、まあ、自己研鑽に励むのはいいことですわ。さすが我が娘。そこはよくわかっていますね」

「ええ、お母様。わたくし、料理の腕も一流ですことよ? この時代のお母様より上かもしれませんわね」

「ほう……」


 キラン、とルーの目が細められた。あれ、なんか剣呑な雰囲気……。


「それは面白いですわ。ならばその一流という腕前、見せてもらいましょうか?」

「もちろん。お母様仕込みの腕前、ご覧になるとよろしくてよ?」

「「ふふふ」」


 ちょい待ち、ちょい待ち。なんで対決的な流れになってんの!? ルーも子供の言うことにムキになることないでしょうが!


「審査員はお父様で。どちらが作ったかわからない状態で審査していただき、好みの方を決めていただく、という勝負では?」

「いいでしょう。作る料理は自由? それとも指定で?」


 なんか話がズンドコ進んでいるんだが。お父さんの意思は無視ですか? いや、断れないのはわかっているんですけれどもね。一応、確認は取って欲しかったなーって……。


「同じ系統のものを作った方が判断がしやすいかと。そうですね……『ワショク』ではいかがですか、お母様?」

「『和食』ですか。いいのですか? 冬夜様の故郷の料理、わたくしは現地で本場の味を食べているのですよ?」


 いやいや、ルーさん。本場の味って……あれファミレスの料理だからね? あれを本場の味と言われると……いや、ある意味正しいのか? 和食は和食だしなぁ。

 和食の定義って幅広いらしいし。トンカツや牛丼だって和食とも言えるしな。『和風』と付けば和食なんだろうか。和風ハンバーグって和食? 日本人の好みに合ってたら和食なのかね。まあ、そこまで細かくこだわらなくてもいいけどさ。


「問題ありませんわ。わたくしの『ワショク』だって未来あちらのお父様に太鼓判を押されていますもの。絶対に負けませんわ」

「「ふふふふふふふふ」」


 怖っ。なんか二人とも笑みを浮かべて睨み合ってますけど。

 しかしそっくりだな……。やっぱり母娘おやこってことなのかねえ……。



          ◇ ◇ ◇



「それで料理対決ですか……」

「わからんうちになんかそういうことになった……」


 呆れたような困ったような微妙な顔でユミナがため息を漏らす。

 目の前には大きなテーブルを挟んで、左右の奥にそれぞれキッチンがある。

 ここは【箱庭】遊園地にある【火】エリアの食堂である。アーシアを連れて戻ってきた僕らから事情を聞いたシェスカが案内してくれた。

 どのみち昼食は取ろうと思っていたから渡りに船ではあったのだけれど……。

 中央のテーブルには【ストレージ】から取り出した、様々な食材が山と積まれている。二人はここから自由に食材を使って料理を作るわけだ。

 すでに両サイドのキッチンにはルーとアーシアが陣取り、その手伝いとして、ルーの方にはリンゼとスゥ、アーシアの方には子供達全員が入っている。


「それにしても本当にルーさんそっくりですね」

「ああ、物怖じしないところとか、自信たっぷりなところとか……」

「それもそうなんですけど……これと決めたら真っ直ぐ突き進む意志の強さが特に。間違いなくレグルス帝国の帝室の血だなと」


 確かに。レグルスの皇帝陛下もあんな感じだ。血は争えないってやつなのかな。


「まあ、美味しい料理が出てくるのは大歓迎ですけど……冬夜さん、ちゃんと判定できるんですか?」

「どっちが美味いかじゃなく、単に自分の好みの差だったら判定できると思うけど……。どっちが勝っても負けても問題があるような……」


 そんな選択を迫られるのって厳しくない? うぐぐ、キリキリと胃が痛くなってきた……甲乙付けがたし、引き分け! じゃダメかねえ。

 普通に考えればルーの勝ちな気もする。ルーは今では僕らの毎日三回の食事のうち、最低でも一食を作っている。

 日によって、朝食だったり夕食だったりはするが、みんなの好みを知り尽くしているのだ。当然、僕の好みも。

 娘可愛さに贔屓するわけにもいかないし……というか、どっちが作ったのかわからなきゃ贔屓しようもない。


「どうしたもんかなあ……」


 僕はキリキリと再び痛む胃を押さえながら、ひたすら料理の完成を待つ。



          ◇ ◇ ◇



 一方そのころ、アーシア陣営では。



「まったく……来て早々ルーお母様とぶつかるなんてアーちゃんは相変わらずなんだよ」


 食材を吟味するアーシアの背後から、フレイが呆れたような声を漏らす。この妹は父親を好きすぎて、母親であるルーにライバル心を持っていると思われがちだが、実際は大好きな母親に認められたい気持ちの裏返しなのだとこの姉は知っていた。めんどくさい性格なのである。


「アーシアお姉ちゃん、勝てるかな?」

「どうだろ? 未来のルーお母さんには勝ったことないはずだけど」

「美味しい料理が食べられるならボクはどっちが勝ってもいいけどなー」

「うるさいですわよ、お子様たち!」


 人参を握りしめて、があっ! と、アーシアが吠える。エルナ、リンネ、アリスは三人して首をすくめ、『自分だってお子様じゃん』と小さな声で憎まれ口を叩いた。


「だけど本当に勝てるの? あなたが勝ち目もなく勝負を挑むとは思えないけれど。過去のルーお母様とはいえ、腕前は相当なものよ?」


 壁に寄りかかって腕組みをしていたクーンが疑問を口にすると、今度は大根を握りしめてニヤリとアーシアが姉の方に振り向いた。


「ふっふっふ。クーンお姉様。昔、わたくしがお父様に出した料理で絶賛された料理を覚えてますか?」

「え? ……ああ、そんなこともあったわね。ルーお母様でさえまだ作ったことのないお父様の故郷の料理で、美味しいとお父様がすごく喜んだ…………あなた、まさか」


 ハッ、と何かに気付き、クーンが壁から身を起こす。フレイも、あ、と小さく声を漏らした。


「そう。()()()()()。つまり、まだお母様が作ったことがなく、お父様が長年食べてない好みの料理! 負けるはずがありませんわ!」


 大根を剣のように天にかざすアーシア。完全に自分に酔っていた。この子は少し自己陶酔の気がある。


「「「ずっる〜……」」」

「うるさいですわよ、お子様たち!」


 妹二人とアリスから非難を浴びて、再びアーシアが吠える。

 それに対して姉であるフレイは少し眉根を寄せて、妹に忠告する。


「卑怯……とまではいわないけど、そんな勝ち方でアーシアは納得できるの? 後で後悔するならやらない方がいいんだよ?」

「お父様の故郷にはこのような言葉があるそうです。『獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす』。わたくしもありとあらゆる手を使って勝利をもぎ取りますわ!」

「いや、それ、いろいろと違うような気がするんだよ……」


 自分の母親を兎扱いはどうなんだとフレイは思ったが、こうなるともう妹は止まらないことを知っていた。いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐな子なのである。


「でもさ、歴史が変わったりしない? アーちゃんが未来で絶賛される料理が過去で絶賛されたら、二度目はなくなるんじゃないの? それも時の精霊が修正してくれるのかな?」


 アリスが首を傾げている。隣にいたエルナとリンネも、うーん、と考えるように首をひねった。もっともリンネは考えるフリだったが。


「問題ありませんわね。もし被害を被るとしたらそれは未来のわたくし、つまり今のわたくしですわ! それでお母様に勝てるのなら、涙を飲みましょう!」


 たとえ未来が変わったとしても、時間軸が違うのであれば、被害を被る未来のアーシアはここにいるアーシアとは違うのでは……と、クーンは思ったが口には出さなかった。説明が面倒なので。

 結果がどうなろうと、時江おばあちゃんがうまいことやってしまうのであろう。時空神の名は伊達ではない。


「ともかくこれでお父様の心を鷲掴みにしますわ! エルナ、手伝ってくださいな!」

「え、う、うん。わかったよ」


 アーシアに次いでこの中で料理ができるのはエルナである。小さいながらも見よう見まねで一通りの料理はできるのだ。もちろん母親のエルゼのように、なぜか作る料理、作る料理が激辛になることもない。

 逆に言うと、他の娘たちはまるで料理はダメであった。アーシアとエルナの他は、長姉である八雲が少しできるだけだ。つまり現状、助手になり得るのはエルナしかいないのである。

 アーシアは後ろ腰から抜いた包丁をまな板の上に乗せた肉へと振り下ろす。


「この勝負、いただきですわ!」





 





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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