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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
491/637

#491 迷路脱出、そしてジェットコースター。

■『異世界はスマートフォンとともに。』16巻、通常版・特装版、本日発売です。ドラマCD付き特装版では再びアニメのキャストが勢揃い。ほのぼのとした楽しい話になってます。よろしくお願い致します。(^ ^)





「あー! お父様なんだよ!」

「エルナお姉ちゃんもいる!」


 声のした方向へ顔を向けると、向こうから猛然とダッシュしてくる猫耳と狼耳二人の姿が見えた。そしてその勢いのまま、二人とも大地を蹴って、僕へとダイブする。ちょっ!?


「ぐふうっ!?」


 上半身に衝撃を受けつつも、なんとか倒れないように堪える。いま腰がグキっていった! グキって!


「フレイお姉様にリンネ……。お父様に飛びつくのはおやめなさいな。お母様たちに叱られますよ?」

「えぇー? つまんないのー」

「むう。それは困るんだよ。お母様のお説教は長いんだよ……」


 クーンがたしなめると、しぶしぶと二人は離れてくれた。腰……痛っ……。【キュアヒール】……。

 腰の痛みを回復魔法で治す。パワーありすぎだろ……。

 狼耳のリンネが辺りをキョロキョロと見回す。


「おかーさんたちは?」

「いや、リンゼたちとは合流してないよ」

「なんだぁ」


 あれっ、お父さんだけじゃ不満ですか? ちょっとサミシイ……。


「奇しくも娘が全員揃ったわけですね。嬉しいですか、お父様?」

「いや、嬉しいけど……。果たして偶然かね……」


 クーンがニマニマとした顔で擦り寄ってくるが、これを偶然と片付けていいものかどうか。

 なにせあのバカメイドプロデュースだ。これさえも仕込みであると疑ってかかった方がいい。


「娘全員を集めて、僕のみっともないところを見せつけてやろうという企みでは……」

「なんでそんな考えになるんですか……」


 ジト目のクーンと、苦笑いをしているエルナ。あれっ、呆れられてる!? はっ、すでに僕はヤツの策略にハマっているのか!?


「妄想逞しいのはおよろしいですけど、先に進みましょう。お母様たちに会えるかもしれませんし」


 クーンが先頭になり、みんなもぞろぞろとついていく。確かに考えていても仕方がない。先に進もう。

 フレイとリンネが来た方向とは別の方向へ僕らは進む。

 あっちに行ったり、こっちに行ったり、途中のトラップをいくつかくぐり抜け、ウロウロとしながらもなんとか進んでいった。けっこうしんどい……。そろそろゴール近くだと思うんだが……。


「あっ、ユミナおかーさんたちだ!」


 角を曲がったリンネが叫ぶ。

 見るとまっすぐな直線の道の先に、迷路の出口があった。その光景にホッと安堵の息が漏れる。

 ユミナにルー、八重、それにメルとリセの、参加しなかった面々がテーブルの席に着き、優雅にお茶を飲んでいる姿が見えた。くそっ、僕も不参加にすりゃよかった……。

 なにはともあれ、やれやれ、やっとゴールか。これで嫌がらせのトラップも……ゴール? ゴール前?


「一番乗りー!」


 リンネが走り出す。っ、ちょっと待った!

 僕は全速力で駆け出し、リンネよりも前に出る。別に娘を差し置いて一番にゴールしようとしたわけじゃない。さすがにそんな大人気ないことするかい。

 じゃあ何故かって? ゴール前にトラップを仕掛けるのはこいつらの常套手段だからだよ!

 ゴール手前に踏み出した僕の足が、地面にズボッとめり込む。……ほらな?


「おとーさん!?」


 バキバキッ! と、なにかが折れる音がして、僕は地面の下へと落下すると同時に粉まみれになる。けふっ……。おのれ、手の込んだことを……!

 下にはクッションが敷き詰められていたので怪我はない。深さもそれほどではないようだ。


「お、お父さん、大丈夫!?」

「あー……これくらい大丈夫、大丈夫。慣れてるからね……」


 心配そうに覗き込んでくるエルナに手を上げて答える。ぺっぺっ。口の中まで入ってる。小麦粉か? これ。

 なんとか地上に這い上がり、粉をはたき落とす。リンネたちもパンパンと僕の服を叩いてくれているが、もうちょい手加減してくれると嬉しい。痛いです。


「お父様も一緒にゴールするんだよ!」


 そんなフレイの声で娘四人に手を引かれ、僕らが同時にゴールすると、待ち受けていたユミナたちに拍手で迎えられた。嬉しいやら照れ臭いやら……。


「おめデとウございまス。皆様が一番乗りでございまス」

「あ、そうなんだ。みんなまだなのか」

「はイ。皆様手こずっテおられまスようデ」


 シェスカがゴール真横にあった、大型映像盤(モニター)を指し示した。

 そこには何やら積み木のようなものを慎重に積み重ねているエルゼとリンゼの姿が映っていた。あ、積み木が崩れた。エルゼが頭を抱えている。

 かと思えば、地面に置かれた丸い輪っかをリズムよく飛び跳ねているスゥと桜の姿も映っている。なるほど、ここで迷路内のみんなの姿が見えるのか。

 ……ちょっと待て、ということは。


「あの……ひょっとして僕らのこともずっと観てた……?」


 ユミナたちがあからさまに視線を逸らした。観てたのか……。僕はがっくりと肩を落とす。娘だけじゃなく、奥さんにまで醜態を晒されるとか、どんな罰ゲームだよ。


「あ、あの、その、う、歌は素晴らしかったと思いますわよ!」


 あわあわとルーが叫ぶ。うん、妙なフォローはいいから……。これ以上僕のHPを削らないで……。

 やはり不参加にしとくべきだった。シェスカプロデュースな時点でわかるだろ、自分。何度騙されてるんだよ。


「あっ、出口だよ、お父さん! お母さんたちがいる! みんなも!」


 ゴールの向こうにアリスとエンデ、それにネイの姿が見えた。この組み合わせ……やはり何かしらの操作があったと確信する。

 アリスがこちらへと駆けてくる。あれ? いつの間にか落とし穴が消えてら。いや、消えたんじゃないのか? 元に戻った?


「アリス、そこでジャンプよ!」

「えっ!? ……と、えいっ!」


 突然かけられた母親メルの声に、兎耳のアリスは素直に従って、ゴール手前でぴょーん、とジャンプし、無事にゴールした。

 なんで? とわけがわからず首をひねるアリスをメルが抱きしめ、リセが頭を撫でる。


「やれやれ、やっと着いた……っ、うわぁぁぁぁ!?」

「エンデミュオン!?」


 あ、エンデが落ちた。ネイはギリギリのところで踏みとどまり、落ちたエンデをびっくりした目で見ている。やめろシェスカ、小さくガッツポーズをするんじゃない。


「…………」


 やがて粉まみれのエンデが無言で穴から這い出してきた。パンパンと服をはたきながら、同じように粉まみれの僕に目を止めると、ふっ、とシニカルに笑う。同類相憐れむってか。悔しいが僕もちょっとそんな気になっている。気持ちはわかるけど、娘が無事だったんだから喜ぶことにしようよ。

 その後スゥと桜、エルゼとリンゼ、ヒルダとリーンが無事にゴールした。ちゃんと落とし穴は回避させたぞ。


「思ったより大変でしたね……」

「迷路自体はいいけどトラップは要らないな。ウチに造るときは無くそう」


 いささか憔悴したヒルダに答えながら、僕はそう決意する。親子でも楽しめるものを! ブリュンヒルドの遊園地はそれをコンセプトにしよう。


「次はドコがご希望デ?」

「次はジェットコースターがいいんだよ! ここにはないの?」

「じぇっとこーすたー……? ソレはどのよウな施設デ?」


 元気よく答えたフレイにシェスカが首を傾げる。エンデ、メル、リセ、ネイのフレイズ組はキョトンとしていたが、僕らはそれがどういうものか知っている。

 子供たちは未来で乗ったことがあるのだろう。平然としていた。

 スゥ、桜、八重、ルーなどは少しワクワクしているように見える。映画で観たとき、乗りたいとか言ってたもんな。

 不安そうなのはヒルダ、エルゼ、ユミナ。子供たちと同じく平然としていたのはリーンと、意外にもリンゼだった。

 考えてみれば、リンゼの専用機ヘルムヴィーゲは空中戦を得意とする機体だ。変形して飛行形態になった時の動きはジェットコースターの比ではないのだろう。慣れてるってことかね。


「ジェットコースターってのはねー、レールの上を走りながら、ぐるんぐるん回ったり落ちたり、飛んだりするドキドキハラハラな乗り物のことなんだよ!」


 ちょっと待って、フレイ。『飛んだり』ってのはどういう……!? なに造った!? 未来の僕!


「乗り物……。ナルほど、緊張、恐怖、不安などを楽しむタメの施設なのでスね。では【風】エリアへ向かいましょウ」


 あるのか、ジェットコースター。五千年前の古代人もスリルを楽しむ人種がいたんだなぁ。

 ……というか、この施設自体が博士たちの実験場みたいなものだから、あって当然とも言えるが……。

 再びシェスカがモノリスに手をかざすと、さっきと同じように『トリリトン』が起動する。

 子供たちが楽しげに転移門に飛び込み、僕らもその後に続く。まばゆい光彩陸離の渦を抜けると、なんとも言えない光景が広がっていた。

 最初に思いついた言葉は西部劇。その景色は荒野と言って差し支えない、赤茶けた岩場が広がる場所だった。まさに西部劇の世界だ。木造の駅のような建物が目の前にあるし。まあ、それ以外の建物はないんだが……。

 遠くにサボテンも見える。サボテン……だよな? なんか普通のサボテンより凶悪そうな針が見えるが気のせいだろう。


「ココは魔導列車に乗り、いろンな景色を見て回る施設でス。設定を色々と変えレば、フレイお嬢様の言う『じぇっとこーすたー』と同じよウな体験がデきるかト」


 魔導列車? 古代魔法王国時代には、魔導列車がいたるところを走っていたらしいけど、こんなところでも使っているのか。すると、この建物はやはり駅舎か?

 魔法王国フェルゼンでも遺跡から魔導列車が発掘されて研究され、ウチのエーテルリキッドと魔力バッテリーにより、五千年ぶりに開発された新たな魔導列車が近々お披露目予定だったりするけどな。

 駅舎の中に入ると、そこには僕の知る魔導列車とはかなり違う、こじんまりとした魔導列車が並んでいた。確かにこれはジェットコースターと言っても差し支えないのかもしれない。

 大きさとしては軽自動車くらいだ。ただ、ジェットコースターと違って簡易的な屋根がある。左右に二人乗りのものが、五つ連結していた。十人乗りか。二回に分けて乗ることになるな。

 レール……らしきものはあるけど、レールというかプレートだな、こりゃ。プレート状のレールの上を走る……地球にあったおもちゃの列車に近い。……プラスチック製じゃないよな?

 しかしこのレール、よく見ると数メートル先で途切れている。未完成の施設なのか?


「いえ、アレは列車が進むにつれテ後方のレールパネルが前方へ転移し、接続することで連続して走ることができる仕組みになっテいルのでございまス」

「転移式オートレールですわね。話には聞いたことがありますけど、ここで見ることができるとは思いませんでしたわ!」


 シェスカの説明に目をキラキラさせて食いついたのは魔工学大好きっ子のクーンだ。どうやら僕の造った未来のジェットコースターはコレとは違うらしい。


「それで、まず誰と誰が乗るんでござるか?」

「うーん……。とりあえずヒルダ、リーン、エルゼ、リンゼは子供たちと一緒に乗ってほしいかな。残りの席や順番はじゃんけんとかでいいだろ」


 せっかくなんだし、隣にお母さんがいた方が怖くないだろ。お母さんの方が怖がるかもしれないけど……。

 それを聞いたエンデが隣のアリスに声をかける。


「じゃあ、アリスは僕と乗ろうか?」

「え? ボク、お母さんと乗るけど?」


 エンデが娘にフラれて膝からくずおれる。すぐさま誰がアリスの隣に乗るか、メル、ネイ、リセの三人によるじゃんけんが始まった。フレイズ組もじゃんけん知ってたんだな……。ブリュンヒルドでは子供たちも普通にやってるし、おかしくはないか。


「よし、じゃあ僕らも順番を決めるか。勝った順から乗っていこう」


 ……できれば様子を見たいから、後発の方がいいんだけど。ヤバそうだったら辞退すればいいし。

 よし、負けよう。じゃんけんに弱いと定評のある僕だ。この面子なら大丈夫だろ。



          ◇ ◇ ◇



 ……と、まあ、そんなわけでなんとか乗る順番が決まったわけなんだけれども。

 結局僕は十番目になり、ギリギリで先行組に入ってしまった。くっ……あと一回負けてれば……。

 最後列である。まあ、それはいいんだ、それは。


「なんでお前が隣なんだよ……」

「九番目と十番目なんだから仕方ないだろ!」


 隣に座るエンデが吠える。ま、そりゃそうなんだが……。

 先行組は【ヒルダ・フレイ】、【八重・桜】、【ルー・リセ】、【リーン・クーン】、【エンデ、僕】の十人だ。

 というか、ユミナがぶっちぎりで負けたけど、アレって絶対未来予知してわざと負けたよね……。いつもは強すぎるのにさ。


「ねえ、冬夜。この座席、ベルトとかなにもないけど本当に大丈夫なの?」

「それは僕も気になってた……」


 普通、こういうジェットコースターって安全のために身体を固定する器具があるんじゃないの? いや、これはジェットコースターじゃないから当てはまんないのかもしれないけれども。

 一応座席の前には掴まる手摺のようなものはあるけど、これだけだと心許ないんですが。


「大丈夫でス。走り出せば床と座席から重力魔法が働き、身体が固定されまスのデ。例えレールから弾き出されルことがあっテも、ソコから離れるコトはありませン。ご安心を」

「あっ、すごい不安になった」


 なんだよ、弾き出されるって。あくまで例えだよな?


「ちなみにこれってどういうところを走るんだ?」

「さア? その時でマチマチですのデ。ご希望通り、緊張、恐怖、不安をめいいっパイ楽しめるよウに設定しテおきまス」


 そう言ってシェスカは駅のホームにあったタッチパネルのようなものをピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピピピピ! と連打する。

 押し過ぎぃ! なんかわからんけど押し過ぎじゃないのか!? MAXなの!?


「ソレではお気をつけテ」

「ちょっと待て!? なにか気をつけることが!?」


 シェスカの不穏な言葉を問い質すこともできずに、列車は無情にもスーッと音もなく走り出す。

 後ろを振り向くと、列車が通り過ぎたレールのパネルがパッ、パッ、と消えていた。前方へと転移しているのだろう。いったいこの列車はどこへ向かうというのか。


「と、冬夜! なんか登り始めたよ!?」


 エンデの声に前を向くと、列車がゆったりと角度を上げて空へと登り始めていた。

 

「どうやって浮いてるのかしら……? 空間固定の刻印魔法?」


 僕の前の席にいるクーンは、下のレールをのぞき込みながらぶつぶつと考え混んでいた。冷静過ぎない? と、思ってたらその隣に座るリーンも平然と景色を眺めていた。母娘揃って肝が据わっている……。

 けっこうな高さにまで登ってきた。『箱庭』が遠くまで見渡せる。あ、あそこって一番最初にいったスライム牧場かな。


「ちょっ、どこまで登るの、これ!?」


 隣のエンデが不安そうな顔を見せる。……ああ、ジェットコースターならこれが定番だと思ってたけど、どんなものかわからないまま、ずっとただ登ってたらこんな反応になるのか。

 とはいえ、この魔導列車も厳密にはジェットコースターではない。地球でのジェットコースターと一緒に考えるのは危険かもしれない、なあっ!?

 ゆっくりと登っていた魔導列車が先頭から落下する。ちょっ、直角落下ぁ!?


「ぐ……!」


 すざまじい風圧を感じる。普段から【フライ】で飛んでいる僕は高さなどには慣れているが、飛ぶ際の風圧は魔力障壁で防いでいるため、これにはちょっとビビった。

 魔導列車は地面ギリギリのところで再び浮き上がり、今度はそのまま急上昇する。急上昇……するどころかそのまま天地がひっくり返った。大きく一回転だ。


「うおわぁああぁぁぁ!?」


 隣のエンデが青い顔をして悲鳴を上げている。お前……アリスと一緒に乗らなくてよかったと思うぞ。きっと幻滅される。いや、幻滅されるほど威厳があるのか怪しいが……。僕もだけど。

 魔導列車はそのまま二回、三回とループを繰り返し、再び急上昇をし始める。かなりの高さまで上がると、そこから今度はスパイラル状態で急降下だ。

 これはキツい。遠心力による身体への負担がかなりくる……! こんなの【フライ】で味わうことはないからさ……。うおう!?

 再び地面スレスレで今度は水平に走り出したと思ったら、いつの間にか水場の上を波飛沫を立てて走っていた。どこ走ってんの!?

 そこを抜けたと思ったら、前に連なっていた列車が一台ずつ左右に分離していく。あれ!?

 前にいたリーンとクーンの列車もいなくなり、気がつけば僕とエンデが乗った列車だけが森の中を疾走していた。


「ちょっ、冬夜! これ、どうなってるのさ!?」

「知らないよ!」


 なんで男二人でジェットコースターに乗り続けなきゃならんのだ。こっちが聞きたい。他のみんなは大丈夫だろうか。


「うわっ!? 前っ!」


 いきなりのエンデの声に正面を向くと、僕らの乗る列車が大きな木に向けて一直線に走っていた。ちょっ、ぶつかる!?

 巨木にぶつかる寸前、スレスレで列車がそれを回避し、僕らはホッと胸を撫で下ろした……のも束の間、列車はそれからも木へ衝突ギリギリの回避を何回も繰り返す。にゃろう! わざとか!

 超スピードで木々をかいくぐり、列車は森の中を走り抜けていく。けっこう怖いな!


「冬夜、あれ!」

「え?」


 エンデの示す先を見ると、岩場のところにぽっかりと空いた穴が。


「洞窟だね……。僕、嫌な予感がするんだけど」

「奇遇だな。僕もだ」


 僕らの期待を裏切ることなく、列車は洞窟の中へと突入する。やっぱりぃ!?

 薄暗い中、なにかが飛んでる音がする。ひい、なんか顔に当たった!? くそう、これはもうジェットコースターじゃないだろ!?


「「うぎゃああああぁぁぁ!!」」


 悲鳴を上げる僕らを乗せて、列車は洞窟の中を猛然と駆け抜けていった。



          ◇ ◇ ◇



 一方そのころ……。



「やっと見つけましたわ。あなた、パナシェスの国王陛……いえ、今はまだ王子ですわね。ともかく、あなたにひとつお願いがあるのですけれど」

「んん? はて、君とはどこかで会ったかな? なんとなく見覚えのある気はするんだが。ブラウ、覚えているかい?」


 カボチャパンツの王子様こと、パナシェス王国の王子ロベールが隣に立つ青の王冠、ディストーション・ブラウに尋ねるが、小さな青きゴレムはその首を横に振る。

 ここはパナシェス王国の王都パナシェリア。いつものように城下を見回っていたロベールは不意に小さな少女に声をかけられた。

 年の頃は七つか八つ。緑がかった銀色の髪はショートカットにされているが、襟足だけは腰まで長い。少しつり目気味の目はエメラルドのような翠眼で、意志の強さを表していた。着ている服は見たこともないどこか上品な物であったが、なぜか腰の後ろに差した二振りの包丁がそれを打ち消している。

 どこかで見た記憶はあるのだが……と、ロベールは首をひねる。この子本人ではなく、似た人物を知っているような、そんな感覚に戸惑いを覚えた。


「わたくしを空間転移でブリュンヒルドへ連れて行っていただきたいのです。お礼はおと……公王陛下が致しますので」

「ブリュンヒルドへ? 君は冬夜君の……いや、王妃殿下の知り合いかい?」


 ロベールはやっとモヤモヤした感覚が晴れた気がした。そうだ、彼女はブリュンヒルド王妃の一人によく似ているのだ。確かあの方は帝国の……。


「そんなところです。……まったく、出現先がパナシェスの王都で助かりましたわ。どうして誰も電話に出ないのかしら……」


 ぶつぶつと少女はなにやらつぶやいている。ロベールはよくわからないが、この子に悪意はなさそうだと判断した。


「それで小さなレディ。君の名前は?」

「これは失礼を。わたくしはアーシア。アーシア・ブリュンヒルドですわ。パナシェスの王子様」


 ロベールへ向けて、少女は小さくカーテシーで気品ある挨拶を交わした。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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