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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
486/637

#486 父の立場、そして黄金の薬。


■だいぶ過ぎましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。






「あ、おとーさんだ」


 あれっ、想像してたのより反応が軽いな……。リンゼとは涙の再会だったのに。

 リンネは僕を見るなり、こちらへと駆け寄ってきた。そして僕とエルゼ、桜とスゥの周りをくるくると回り、じろじろと遠慮ない視線を向けてくる。


「な、なにかな……?」

「うーん、スゥお母様以外はあんまり変わらないかなぁ。みんな少しだけ若いけど。つまんない」

「つまんないって……」

「あまり年をとってないってこと? これって喜んでいいのかしらね……」


 顔を見合わせる僕らをよそに、リンネはちょっと不機嫌にぷぅ、と頬を膨らませる。いったいどんな姿を想像してたんだ、君は。


「リンネ! わ、わらわは変わったのじゃな!? 未来のわらわは大人かや!?」

「え? 大人だけど……」


 リンネの言葉にスゥが食い付く。いや、そりゃ未来なんだから大人になってるだろ。子供産んでるんだし。


「ということはつまり、未来のわらわはボンッ、キュッ、ボンッということじゃな!?」

「……あー、そう、かな。うん、そうかも……」

「そうか!」


 気を使った! いま絶対この子、気を使ったよ! ゆっくりとスゥから視線を逸らすリンネの頭を僕はそっと撫でてあげた。君はいい子だ……。間違いない。


「にしても、あたしを見てみんなもっと驚くかと思ったのになぁ」

「いや、先にエルナと会ったし、君らを含めてもう四人目だからね。城にクーンとフレイがいるよ。城下にはアリスも来てる」

「あ、フレイおねーちゃんとクーンおねーちゃんは来てるんだ。アリスも? アーシアおねーちゃんが来てないのは意外だけど」


 アーシア……。ルーの娘だっけか。そんなにポンポン来られても、お父さんも大変なんですが。

 引きつった笑いを浮かべていると、ぐうぅぅぅ……とリンネのお腹が鳴った。


「おかーさん、お腹減った……」

「え? ああ、リンネはお昼まだだったの? えっと……なにか食べたいものある?」

「おかーさんの作ったロールキャベツが食べたい! おっきいの!」


 地球へ行った時、ルーは本屋にあった世界中の料理本を買いまくった。おかげで大抵のものはブリュンヒルドでは食べれるようになりつつある。これも彼女のたゆまぬ努力の賜物であるが、リンゼもよくその手伝いをしてるので、ある程度のものは作れるのだ。


「ロールキャベツは時間がかかるから帰ってからにしよう。とりあえずほら、これでも食べなさい」


 僕は【ストレージ】から大きなおにぎりを取り出してリンネに手渡した。


「わ! おとーさん、ありがとう! いただきまーす!」


 元気にばくっ、と大きな口を開けておにぎりを頬張るリンネ。美味そうに食べるなあ。

 もぐもぐと咀嚼するリンネの頰についたご飯粒を、リンゼが取ってあげている。……なんだろう、和む。

 見た目はミニリンゼだから、こうしていると姉妹にしか見えないけど。


「王様、とりあえず帰る。みんなも待ってるし」

「おっと、そうだね」


 桜に促され、僕はブリュンヒルドへと【ゲート】を開いた。獣王陛下やグラーツさんには後でお詫びのメールを送っとこう。


「じゃあみんなで帰ろうか。クーンやフレイもきっと待ってる────」

「あ、おとーさん。あたしたちのスマホ、ガウの大河に落ちちゃったの。……拾ってきてくれる?」

「あ、うん……。いいけど……」

「ありがとう! おかーさん、行こっ!」


 リンゼの手を引き、リンネが【ゲート】をくぐる。苦笑しながらエルゼ、エルナ母娘もそれに続き、スゥ、桜も去っていった。


「いやまあ……。回収しようとは思ってたから、別にいいんだけどね……」


 僕は改めてガウの大河へ繋がる【ゲート】を開き直した。





 川底からやっと見つけた二つのスマホを持って城へと戻ると、新たにやってきた娘二人はお互いの母の膝の上で小さな寝息を立てていた。


「二人とも寝ちゃった?」

「はい。疲れてたんでしょうね……」

「そりゃそうよ。二、三日とはいえ、ずっと子供二人だけだったんですもの。不安だったに違いないわ」


 ロールキャベツを食べたであろうテーブルを挟んだ、それぞれ違うロングソファの上で、同じように眠るエルナとリンネ。膝の上で眠る娘たちの髪を優しくエルゼとリンゼが撫でている。

 エルナとリンネはちゃんと財布を持っていたらしく、普通に宿屋に泊まったんだそうだ。正確にはリンネは持ってなくて、エルナが持っていたのだが。まあ、大きなトラブルもなかったようでよかったよ。


「不思議よね……。まだ生んでもいない子供とこうしているなんて。見た目だけじゃなく、この子が自分の娘だって心からそう思えるの」

「うん……。とっても大切な……宝物だね、お姉ちゃん」


 ふふっと顔を見合わせて微笑む母親二人。


「さて、このままじゃ風邪ひくかもしれないから二人ともベッドへ運ぼう。【レビテーション】っと」


 ふわっと、一メートルほどの高さに浮かんだエルナとリンネを寝室の方へと運ぶ。子供二人ならベッド一つでも大丈夫だろ。


「冬夜さん、そっちの寝室じゃなくて、こっちに運んでもらえませんか? その、私たちも一緒に寝たいので……」


 え? ああ、じゃあそうするか……。そっちの方はかなり大きなベッドだし、四人で並んで寝ても大丈夫だろう。母娘で川の字になって……いや四人だから川にならんか。

 連結してある大きなベッドにエルナとリンネを横たえる。二人も寝間着に着替えてこのまま寝るらしい。


「じゃあおやすみ」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」


 嬉しそうに微笑む二人に就寝の挨拶をして寝室を出る。そういや僕って、まだ子供たちと一緒に寝たことないなあ。そんなことを思いつつ、バタンと扉を閉めた。



          ◇ ◇ ◇



「リンネ!」

「アリス!」


 ダダダッ、と駆け寄ったと思ったらいきなり拳の応酬が始まった。二人とも笑いながらやってるんで、再会を喜び、楽しんでいるんだと思うんだが、なんとも心臓に悪い。君ら城門前で何やってんのさ。門番の騎士の皆さんが呆れてるぞ……。


「ちょ、冬夜!? 君んとこの子供、どういう教育してんの!?」

「お前にだけは言われたくないぞ。似たようなもんだろ……」


 僕に絡んできたエンデがおろおろとする横で、静かに娘を見守るアリスの母親三人。


「あらあら、楽しそうね」

「ふむ。アリスとだいたい同じくらいの強さだな。アリスの方が可愛いが」

「激しく同意」

 

 おいこら、ちょっと待て。うちの子の方が可愛いに決まってるだろう。その目は節穴か。ちょっと文句を言ってやろうかとしたところでエンデが絡んできた。


「だ、大丈夫だよね!? 怪我したりしないよね?」

「大丈夫だって。したとしてもちゃんと治すから。未来じゃ日常茶飯事だったらしいぞ。ああやって二人で訓練するのは。な、エルナ?」


 アリスと会わせるため一緒に連れてきたエルナに視線を向ける。


「うん。二人ともおんなじような戦闘スタイルだから……いつもああして勝負してたよ。そしてエンデおじさんもいつもそうしておろおろしてた」

「エンデおじさん……」


 おじさんという言葉に少なからずショックを受けたのか、エンデの動きが止まる。背後では、ぷっ、とメルたち三人が吹き出しそうな笑いを堪えていた。

 友達のお父さんなんだから、おじさん呼びは間違いないよなぁ。……アリスは僕のことを一応『陛下』と呼んでくれるから助かった。

 一人胸を撫で下ろしていると、僕の袖ををくいっと引くエルナと目が合う。


「お父さん、そろそろ止めた方がいいと思うよ。あの二人どっちも負けを認めないからいつまでも続くよ?」

「おっと、そうか。【氷よ囲め、大いなる氷柱ひょうちゅう、アイスピラー】」

「わっ!?」

「ひゃっ!?」


 リンネとアリスの周囲に氷の柱が次々と地面から伸びて二人を取り囲む。動きを封じられた二人は拳でもって砕こうとするが、砕いた端からまた氷の柱が伸びてくるので、やがて諦めたように声を上げた。


「おとーさーん! これじゃまー!」

「そこまでにしとけ。城下を見に行くんだろう? 遊ぶ時間がなくなるぞ?」

「そだった……」


 わかってくれたようで助かるよ。【アイスピラー】の魔法を解除する。

 それと同時に城の方からエルゼとリンゼがやってきた。


「お母さん」

「おかーさーん!」


 エルナとリンネがそれぞれの母親の元へと駆けていく。


「すみません、お待たせして」

「ごめんごめん、ちょっと遅れたわね」


 娘たちと手を繋ぎながら、アリスやメルたちに謝る二人。今日はみんなでお出かけすることになっている。と、いっても、僕とエンデはお留守番だが。

 なんでも母親同士で話し合うことがたくさんあるんだとか。親父は親父同士で話し合えってことなんでしょうか?


「夕方までには帰るから。よろしくね」

「じゃあ、冬夜さん。行ってきますね」

「行ってきます。お父さん」

「おとーさん、じゃあねー!」

「行きましょう、アリス」

「うん! ボクねぇ、パフェ食べたい!」

「エンデミュオン、夕飯はカラエにしてくれ」

「カツカラエ……。いやドラゴンカレエで」


 女三人寄ればかしましいと言うが、子供含めて八人もいるとものすごい。まあ、常日頃からそれは身をもって知っているわけですが。


「「いってらっしゃーい……」」


 城門前でエンデと一緒にみんなを送り出す。みんなが見えなくなったところで、どちらともなくため息をついた。


「なんというか……お母さんに比べて、お父さんって軽く扱われてないかな?」

「いやまあ、そんな気もするが……。娘だし、仕方ないんじゃないか? 嫌われてないだけマシかと思うけど」


 二人してなんともやるせない気持ちになるが、まあ、そういうものだと納得するしかない。結局のところ、父親は母親には敵わないのだろう。


「さて、家に帰ってカラエの仕込みをしないと……」

「お前、所帯染みてきたなぁ……」


 結婚するんだからおかしくはないのかもしれないが、それって奥さんの方かと思ってた。


「冬夜、竜肉持ってたら売ってよ。わざわざ狩りに行きたくないし」

「いや、あるけどさ。なんでお前、持ってないの? けっこう竜退治してるだろ?」


 こいつはこれでも僕と同じ金ランクの冒険者だ。普通の竜とかじゃなく、亜竜といわれる地竜や飛竜などの指名依頼なら何度か受けているはずだけど。


「ハハハ。うちに持って帰った竜肉なんて残っているわけがないじゃないか。その日のうちに無くなるよ」

「ああ、そういう……」


 乾いた笑いを漏らしながらエンデが遠くを見やる。あの三人、八重よりも食うからなあ……。こいつんちのエンゲル係数って、とんでもないんじゃなかろうか。

 なんか切なくなってきたので格安で竜肉を譲ってやった。

 エンデはカラエの食材を探しに城下へ行ってしまったので、僕は僕で王様のお仕事をすることにした。

 昨日は午後の仕事を放り出してミスミドへ行ってしまったからなぁ……。高坂さんに少しお説教された。

 子供たちが寝た後でよかったよ。父親の威厳がなくなるところだった。そんなものあるかどうかわからないが。

 子供たちが来てから、変な姿を見せるわけにはいかないと自分なりに気を使っている。一応、王様でお父さんだからね。未来の僕もそんなことで苦労しているのだろうか……。



          ◇ ◇ ◇



 そんなことがあってから三日後。


「アイゼンガルドが?」

「はい。かなり荒れています。やはり魔工王という柱が無くなったことが大きいかと」


 諜報部隊の長である椿さんから執務室でそんな報告を受ける。

 あの国は良くも悪くも魔工王というワンマン国王によって成り立っていた国だ。まあ、本人に国のためなどという殊勝な気持ちがあったかは怪しいが、その技術力によって国が潤っていたのは事実だ。

 その国の頭脳ともいうべき王が倒れた時、アイゼンガルドには後継者がいなかった。いや、あのサイボーグジジイはずっと生き続ける気だったのだろうから後継者なんぞ作るわけがないよな。

 アイゼンガルドは世界が融合したときに落ちた流星雨の影響で大陸から切り離された。地続きであったガルディオ帝国、ラーゼ武王国とも海を挟んだ別の大陸となってしまった。

 幸か不幸か、他国からの侵略などを考慮しなくてもよくなったからか、ユーロンの時と同じくアイゼンガルドはいくつかの勢力に分裂した。ユーロンの時と違うのは、誰も魔工王の後釜を狙わなかったということだ。

 国を統一せんと皇帝の座を争ったユーロンとは違って、アイゼンガルドは平和裏にそれぞれいくつかの都市国家として成立しつつあったのだが、ユラが黄金の巨木を出現させ、アイゼンガルドの住民を変異種化させ始めた。

 巨木を僕らが消滅させたことで事態は収束したが、変異種化を多く出したアイゼンガルドの北方域は荒れに荒れたらしい。


「そんな中で精霊の集まる聖樹の麓には、新たな町ができつつあるそうです。変異種化……地元では『金花病』と呼ばれておりますが、それにかからずに済むということで……」


 『金花病』? ああ、巨木変異種の胞子を受けた人間が死に、変異種化すると頭に黄金の花が咲いたからか。

 確かにあの聖樹には神魔毒を含め、その他浄化の力はあるが……邪神が倒れた今、もうその心配はないから意味はないんだけどね。


「これに乗じて、金花病にかからずに済むと言われる薬が南方域で出回っているようです。なんでも聖樹の枝をすり潰したもので、定期的に飲めば浄化の作用があるとか」

「聖樹をすり潰した? あ、そりゃ詐欺だ。あそこに住む精霊たちがそんなこと許すわけがないよ」


 なんだろう、災害後には得てしてこういう詐欺が出る気がする。人の不安につけ込んで金儲けをしようとする輩が多いんだろうな。

 もう二度ど変異種化は起きないので、薬が偽物だとバレにくい状況なのか?


「アイゼンガルドの南方域に『精霊の守る聖樹を傷つけることは誰にもできない』と情報を流しておいて下さい。その薬は詐欺だと。誰も買わなくなれば収まるでしょ」

「わかりました」


 ユーロンやサンドラの時みたいに、僕に恨みを持った連中が暗躍しているわけでもないみたいだ。

 まあアイゼンガルドの場合は、魔工王の恐怖政治とも言える独裁的な国家経営のくびきから外れ、大陸中が迷走していて、それどころじゃないってとこだろうが。

 当たり前だが、以前より治安は乱れ、盗賊、野盗のたぐいが多くなっているらしい。そりゃ詐欺も横行するか。

 報告を終えた椿さんが執務室を出ていったあと、誰かか扉をノックする音がした。


「はい、どうぞー」


 書類から目を離し、扉に目をやると、もじもじとして扉の隙間から顔を覗かせているエルナがいた。


「あの、お父さん、ちょっといいですか?」

「いいよ。どうした?」


 おずおずとエルナは執務室へと入ってくる。この子は母親であるエルゼと違って、少し引っ込み思案なところがある。そこらへんはリンゼと似ているんだよな。姿はミニエルゼなんだけれど。


「その、こないだの武術大会でリンゼお母様が使っていた武器なんだけど、その、あれ、私も欲しくて……」

「武器? ああ、あの杖か」


 リンゼとリンネが対戦した時、リンゼに渡した星の短杖だ。あれが欲しいのか。


「魔法の効かない魔物相手だと、私なにもできなくなっちゃうから……。でも、前に出て戦うのはちょっと怖いし……。あれなら大丈夫かな、って」


 なるほど。だけどあれだとリンゼが使うぶんにはいいけど、エルナにはちょっと大きすぎるかな。

 ふむ、ここはお父さんがひとつ新しい杖をプレゼントしようかね。


「よし、じゃあエルナ用に新しいのを作ろう。どんなデザインがいい?」

「あ、ありがとう、お父さん!」


 ぱああっ、と笑顔になるエルナ。かわうい。うちの娘たちは天使か。親バカにもなるわ。ならん方がどうかしてるわ。

 【ストレージ】からエルナ用の杖を作るための素材を取り出す。

 僕らはあれこれと相談しながら製作作業に入り、しばらく父娘おやこ水入らずの時を過ごした。



          ◇ ◇ ◇



「このクソガキ! 邪魔するんじゃねえ!」


 チンピラが持ったナイフが少女へと迫る。紙一重でそれを躱した少女は、伸びてきたチンピラの手をめて捻り、腕一本で相手を地面へと叩きつけた。


「ぐえっ!?」


 少女は凛とした佇まいで手をはたく。臙脂えんじ色の袴に藤色の小紋、編み上げのブーツといった、地球でいうところの大正女学生風の少女だが、腰には物騒な大小の業物わざものが添えられている。

 髪は腰まで長く、前髪は眉の上で綺麗に切り揃えられていた。黒い瞳に黒い髪。ここ、アイゼンガルドではほぼ見ない色である。


「これに懲りて詐欺紛いの商売はやめるでござ……やめなさい。人の不安につけ込んでお金を儲けるなど、最低の行為です」

「ぐっ……!」


 起き上がった男はよろめきながら後ずさり、脱兎のごとく逃げ出した。チンピラ特有の捨て台詞も忘れない。


「お、覚えてやがれ!」

「あいにくと覚える気はないです」


 無様に逃げていく男を一瞥しつつ、少女は地面に散らばった薬包をひとつ摘み上げる。先程の男がさばいていた偽薬だ。


「聖樹の枝をすり潰した薬など……少し考えればわかりそうなものですが。いや、この時代ではまだ、聖樹のことがそこまで知られていないのかもしれませんね」


 少女はふと、薬包を開封してみた。薬包紙の中には薬と思われる粉が入っていたが、それを見た少女の眉間が僅かに寄せられる。


「黄金の薬……?」


 薬包紙の中には砂金、いや金粉のような、黄金に輝く粉が、ティースプーン一杯分ほど入っていた。

 確かに聖樹の枝をすり潰したものだ、と言われれば信じてしまいそうなありがたい雰囲気がある。

 だが少女はその粉の輝きに不穏さを感じた。直感、と言ってもいい。その薬に怪しさを感じたのである。


「父上ならすぐに分析できるんでしょうけど」

 

 分析魔法アナライズを持つ父親のことを思い出しながら、少女は薬包紙を元に戻し、落ちたものも拾い集めて懐へと入れる。


「少し調べてみるでござ……コホン、みましょうか」


 油断すると素の口調になるのを抑えつつ、少女は逃げた先ほどの男を追い始めた。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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