#485 母娘の戦い、そして二つの涙。
■メリークリスマス! 今年最後のイセスマ更新。これから年賀状を書きます。おそらく元旦には届きませぬ…。
「それまで! 勝者、ダンクス殿!」
圧倒的なパワーで対戦相手を場外へと吹っ飛ばした虎の獣人選手が、高々と拳を上げる。同時に観客席から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いた。
「さすが獣人の素早さと膂力は侮れないわね。あいつはいいとこまでいくと思う」
エルナの隣に座るエルゼが品定めをするかのようにそんなことをつぶやく。そんなもんですかね。
僕らはエルナが元いた観客席に戻って来ていた。グラーツさんがVIP席でご覧になったら、と勧めてくれたのだが、あのままエルナがいなくなったらリンネが心配するので遠慮させてもらった。
僕らの姿をリンネに見られるわけにはいかないので、【ミラージュ】でエルナ以外は姿を変えている。
「リンネとリンゼの試合は何番めじゃ?」
「確か次の次だよ。しかし、本当に大丈夫かなぁ……。リンネも心配だけど、リンゼも心配だ……」
僕が小さなため息をつくと、エルゼが呆れたような視線を向けてきた。
「なによ、オロオロしちゃってみっともない。あの子だってあんたの嫁よ? 半端な修業はしてないわ。単に火力だけなら私たちの中で一番だと思うわよ?」
「ルールでその火力を封じられてるから心配してるんじゃないか……。いや、リンネにぶっ放されても困るんだけど……」
間の席に座るエルナの頭越しにエルゼとそんなことを話していると、歓声と共に次の試合が始まった。
竜人族の槍使いと、犬の獣人族の剣士だな。この次の試合か……。頼むからどっちも怪我しないでくれよ。
目の前で繰り広げられている試合にまったく集中できず、僕はキリキリと痛み始めた胃を押さえた。
◇ ◇ ◇
「あ、エルナお姉ちゃんが戻ってる。……隣の人たちは誰だろ?」
姉の姿を確認して安堵すると同時に、リンネに小さな疑問が浮かぶ。
すぐ上の姉であるエルナはどちらかというと人見知りである。赤の他人となど、そうそう打ち解けるはずがないのだが。
もしかして絡まれてるのでは、とも思ったが、時折り見える姉の笑顔から、そうではないと感じ取る。まるで家族のように笑い合うその姿に、ちょっとだけリンネは寂しさを感じた。
控え室の窓から覗くリンネの背後にリンリン……リンゼが静かに立つ。
「あの子がお姉ちゃん?」
「うん……。エルナお姉ちゃん。お姉ちゃんがあんなに楽しそうに他の人と話すなんて珍しいなあ」
事実を知らないリンネだけが不思議そうな顔で首を傾げていた。本当は家族であるから、普通に話していても不思議なことは何もないのだが。
「それまで! 勝者、リューゲル殿!」
審判員の声が響き渡る。どうやら試合が決まったらしい。失礼な話だがまったく見ていなかった。勝ったのは竜人族の槍使いのようだ。
『続きまして、第五試合を行います。推薦枠から流れの魔法使い、リンリン殿! 対するは今大会出場者最年少、リンネ殿!』
紹介アナウンスが流れ、リンゼとリンネが控え室前の廊下から会場へと足を踏み入れる。観客席から拍手と歓声の雨が二人へと降り注いだ。
「勝負だよ、リンリンお姉ちゃん! ぜったいにあたしが勝つからね!」
「勝負、だね。私も負けないよ?」
お互いに視線を合わせ、武闘場の左右へと分かれていく。正面から対峙し、間にいた審判員が武闘場から下りていった。
「双方、用意はよろしいか?」
「いいよっ!」
「いつでも」
リンネがガンガンと無骨なガントレットを打ち鳴らし、リンゼは後ろ腰に差していた星型の頭杖をした短杖を手に取って構える。
「では、始め!」
ダッ! と開始の合図と共にリンネがリンゼとの距離を詰める。魔法使いに対しての基本的な対処法。それすなわち、魔法を撃たれる前に近づいて攻撃するという、シンプルな戦法である。
「悪いけどすぐに終わりにするよっ!」
駆け寄るリンネに対して、リンゼはステップを踏むように後方へと下がった。
「【光よ放て、眩き閃光、フラッシュ】」
「あうっ!?」
リンゼの持つ短杖から突然放たれた閃光に、リンネが目を腕で庇いつつ怯む。光を直視してしまったリンネはその場から動けない。
思ったよりも詠唱が速かった。直接攻撃の魔法はないからと突っ込んだリンネだったが、まさか視力を奪われるとは。
「むうぅっ!? 目潰しなんて卑怯よ、お姉ちゃん!」
叫びながら、自分の周りに【シールド】を展開する。少しずつだが視力は戻りつつある。今は耐えるしかない。
「魔法使いに真っ向勝負なんてしちゃダメだよ。相手はいろんな搦め手を持ってるかもしれないんだから」
「からめて? からめてってなに? もぉぉ、わかんないこと言ってー!」
視界が元に戻ってリンネが拳を構えたとき、目の前には誰もいなかった。慌てて反転し振り向く。が、またしてもそこには誰もいない。
「え?」
ならば上! と、見上げるもそこにも誰もいない。
「消えた……あ、【インビジブル】だ! 姿を消しちゃうやつ!」
「正解」
背後に【シールド】を展開しつつ、気配を探る。声がした方向と、風の流れを察知すればだいたいの場所がわかる……はず、とリンネは神経を集中した。
が、そこへ審判員から横槍が入る。
「し、しばしお待ちを! リンリン殿、その姿を消す魔法は場外に落ちても我々には判断がつかぬ故、禁止にさせていただきたい!」
「あ、そうですね。はい、わかりました」
「ふわっ!?」
スゥッ、とリンゼがリンネの真横に姿を現し、びっくりしたリンネが慌てて離れる。いつの間に!?
「くっ!」
気を取り直し、現れたリンゼへ向けて飛び蹴りを放つリンネ。リンゼの腹へと蹴りが決まった、と思った瞬間、その身体にヒビが入る。
「えっ!?」
ヒビの入ったリンゼがパキリと砕け散る。それは薄いガラスのように粉々に砕けて地面に落ちた。
「か、鏡?」
「こっちだよ」
振り向くと遠くにいたリンゼが短杖を振り下ろすところだった。先端にある星の形をした物が、まるで手裏剣のように回転しながらカーブを描きつつ、こちらへと飛んでくる。
厚みのあるディフォルメされた星が、流星のごとくリンネへと襲いかかった。
「うわっ!?」
リンネはそれをしゃがんで躱す。ブーメランのように弧を描いて、星は再びリンゼの持つ杖へとドッキングした。
「なにそれ!? そんなの使っていいの!?」
「刃物じゃないし、魔法攻撃じゃないからね。鎖の長いフレイルみたいなものだよ」
そう言って再び短杖を振り下ろすリンゼ。杖頭にあった星が再びリンネめがけて飛んでいく。
スピード自体はそこまで速くはない。避け続ける方法もあったが、リンネの考えは違った。何度も避けるのは時間の無駄である。であるならば。
「ふん・さいッ!」
迫り来る星めがけてリンネは右拳を叩きつける。父親のくれたこのガントレットに砕けぬものはない。加えてインパクトの瞬間に【グラビティ】を発動させて破壊力を跳ね上げる。見事、星は砕け散り、粉々に粉砕された。
「どーだ!」
ふふん、と鼻息荒く、リンネが胸を張る。そんな姿もリンゼには可愛く映り、自然と笑みが浮かんでしまった。
それを余裕の笑みと取ったのか、リンネの表情はたちまち不機嫌なものとへ変化する。
「馬鹿にしてーっ! これならどーだ!」
ダン、ダン、ダンッ! と、リンネがなにもない空中を跳ね上がるように三段ジャンプではるか上空へと飛び上がる。【シールド】を足場にした多段ジャンプだ。リンゼの頭上、かなりの高度でリンネがくるんと身体を一回転させる。
「りゅうせいきゃくーっ!」
靴底にミスリル板が仕込まれた靴が加重され、流星のようにリンゼへ向けて落ちてくる。本来ならこの勢いで蹴りつけると、下手すれば大怪我になるかもしれない。
しかしリンネはこの武闘場を冬夜が手がけたことを知っている。ブリュンヒルドの訓練場と同じく、人の生命を守ることに特化された武闘場だ。どれくらいのダメージまで無効化できるかは予想がつく。
それに対人戦においての手加減については、師であり母親の一人でもあるエルゼから徹底的に仕込まれていた。このくらいならたとえ怪我をしても回復できるはずだ。
そう思っていたリンネだったが、蹴りをくらわせたとき、リンゼの姿が粉々に砕け散ったのを見て、またしても騙されたことを知った。
先ほども今も魔法の詠唱はなかった。無属性魔法なのか? と武闘場に着地したリンネが振り返ると、リンゼの傍らに小さな半透明の人物がいることに気がついた。
大きさは三十センチほど。銀色のドレスのようなものをまとい、長い銀髪をなびかせている少女だ。
「精霊……! そうかっ! さっきのも今のも精霊魔法だ!」
『当たりですわ。もうちょっと注意深く観察すればわかったはずですよ。不利な時ほど冷静になりませんと』
リンゼの横にいる精霊がくすくすと笑う。リンネがいた時代ならともかく、この時代では精霊魔法を使う者はほとんどいない。実際、ミスミドの王都に来るまで誰一人として精霊魔法を使っている者はいなかった。だから注意を怠ってしまった。
実母であるリンゼ、義母であるリーン、桜、ユミナ、スゥなども精霊魔法が使える。滅多に使うことはないが。
リンネ自身、親のこともあって精霊なら何度も見たことがあるが、あの精霊は見たことがない。こちらの言葉を話しているし、おそらく中級精霊だとリンネは判断した。
「この子は鏡の精霊。『ミロワール』だよ」
『ミロワールですわ。よしなに』
人形のような少女がカーテシーでリンネへ向けて挨拶をする。
リンゼがこの精霊魔法を使ったのは、中級精霊ならば正体もバレないだろうとエルナからお墨付きをもらったからだ。エルナの話によると、未来のリンゼが精霊魔法を使う時はほとんど上級精霊だったという。
まあ現在のリンゼでは、まだ上級精霊を完全には扱えないので、必然的にこうなったのであるが。
「鏡の精霊……。さっきからそれで偽物を作ってたんだ!」
「そう。よーく見ればすぐにわかったはずだよ?」
ハッとする。確か控え室で初めて会った時、彼女の胸にあった星型のバッジは左だった。しかし目の前で微笑む彼女の胸には右にバッジがある。
「……ッ! これも偽物……ッ!」
振り向くとそこに今度は左胸にバッジがあるリンゼとミロワールが立っていた。背後のリンゼが静かに砕け散る。
『まあ、さすがに気付きますわよね』
「むうぅ〜! 精霊使いなら精霊使いって言ってよねー!」
「最初から手の内を全部明かすのは馬鹿のやること、だよ? リンネちゃんもまだ隠している力があるよね?」
「むうぅ……! こうなったら……『形状変化・機甲』!」
唸っていたリンネのガントレットが、ガシャッ! と変形し、一回り大きくなって展開する。ガントレット全体に魔法紋様が浮かび上がり、両肘のあたりからジェットノズルのようなものが左右二本ずつ、計四本伸びていた。
「そんなに見たいんなら見せてあげるよ! 後悔したって知らないんだから!」
リンネの身体から立ち昇る揺らめく『闘気』が、彼女の魔力と一体化していく。強化されていくその姿をリンゼは静かに眺めていた。
「闘気法……!」
闘気法。己の魔力を身体の一部に融合させ、特性を変化させ、身体能力を跳ね上げる戦闘技術。東方大陸では一部の竜人族などに伝わる奥義である。
エンデの娘であるアリス、そしてリンネは、共にエルゼの弟子であるという。そのアリスが闘気法の派生である『発勁』を使えるのだ。同じ兄弟……いや、姉妹弟子であるリンネが使えないはずはなかった。
「哈ッ!」
「わっ!?」
ドンッ! とリンネの掌底から放たれた気の塊がリンゼを襲う。
横っ飛びで躱したリンゼの真横を気の塊が通り過ぎ、武闘場の魔力障壁に当たって霧散する。
「まだまだだよっ!」
「ちょ、多い多い! 多いよぉ!?」
野球ボール大の気弾を連続で放つリンネ。さすがにこれはリンゼも閉口した。これほど連続で放たれては躱すのが精一杯だ。魔法で防御壁を展開しようにもその暇がない。
「み、ミロちゃん、お願い!」
『わかりましたわ、マスター』
ミロワールがついっと腕を振ると、複数の鏡がリンネを取り囲むようにぐるっと出現した。合わせ鏡の中に映る無数の自分の姿にリンネは少し動きを鈍らせたが、すぐに放つ気弾を鏡へと向けた。
「全部割ってやるーっ!」
鏡自体は薄く脆い。気弾が当たるとあっさりと破壊され、キラキラとした破片となって床へと落ちる。リンゼから標的が外れたのはわずかな間だったが、充分な時間を稼げた。
「【雨よ降れ、清らかなる恵み、ヘヴンリーレイン】」
「え?」
リンネが間の抜けた声を漏らした。次の瞬間、武闘場にだけ激しい雨が降り始める。審判員はこれは攻撃魔法に当たるのではないかと思ったが、【ウォーターボール】など水球をぶつけるような魔法ではないし、攻撃しているようには見えないため、とりあえずスルーした。
実際、降っていた雨はすぐさまやんでしまった。武闘場には雨に降られて濡れ鼠になった二人がいる。
「うーっ! この服、お母さんに作ってもらったお気に入りなのに……! もう許さな、うきゃっ!?」
すてーんっ! と、リンネが足を滑らせてその場に尻餅をつく。足とお尻に冷たさを感じ、下を見るとまるでスケートリンクのように武闘場が一面、凍りついていた。
そして目の前を見上げたリンネはそこに二人目の精霊がいることに気付いた。
鏡の精霊よりも少し大人びた容姿を持つ、半透明で翡翠の燐光を纏う少女の精霊を。
「切り札は最後まで取っておかないとね。エアちゃん、お願い」
『はいはーい。エアリアル、いっきまーす!』
軽い返事とともに、リンネの正面から不思議な力が迫ってきた。
まるで空気を膨らませた風船のように、弾力のある『見えない何か』にぐいぐいとリンネが押されていく。
「な、なにこれ!? このっ……!」
それを打ち破ろうとリンネは渾身の右ストレートを『見えない何か』へ向けて突き出す。しかし、それがまずかった。
『見えない何か』は破壊されることなく、受け止め切ったリンネの力をそのままクッションのように跳ね返す。反動でリンネが氷の上を後方へと勢いよく滑っていった。
「マズっ……! ぐっ、【グラビっ……】!」
リンネは加重魔法で自らの体重を増加させ、勢いを殺そうとする。しかしながら、自分の放った拳の威力はかなりのもので、その勢いはなかなか止まる事がなかった。
不意にドンッ! という音がして、気がつくとリンネは武道場の外に立っていた。自分の重さに少し足が地面にめり込んでいる。間に合わなかった。リンネは場外に落ちたのだ。
「あ……」
「じ、場外! 勝者、リンリン殿!」
審判員の声に、客席から歓声と拍手が降り注ぐ。ふぅ、と小さく息を吐くリンリンことリンゼに審判員が近づいていく。
「り、リンリン殿。念のために聞きますが、今のは攻撃魔法ではないのですね?」
「あ、はい。どちらかというと防御魔法、です。柔らかい空気の壁で身を守り、衝撃を跳ね返す魔法です」
「なるほど……。リンネ殿は自分の力で弾き飛ばされたわけですな? 申し訳ない、不確かな要素はこちらも確認しなければならないので」
判定に問題無し、と審判員が合図を送る。改めて場内アナウンスがリンリンの勝利を告げた。
足下に視線を落とし、呆然と立ち竦むリンネの方へとリンゼは向かう。
負けたことがそんなにショックだったのだろうか。なにか変なトラウマにでもなったかと、内心リンゼは焦っていた。
「り、リンネちゃ……」
「風の精霊……」
「え?」
ぼそりと呟いたリンネが困惑したような目でリンゼの方を見やる。
「思い出した。リンリンお姉ちゃんの隣にいるその子、風の精霊だ……」
『へえ。あたしのことを知ってるの?』
面白そうに薄緑の衣をまとった半透明の少女が尋ねると、リンネは素直にこくんと頷く。
「風の精霊、エアリアル。精霊の中でも一番偉い、大精霊の一人。でも風の精霊は……! あ、でもこの時代では違うのかな……」
ぶつぶつとなにかを呟きなから、パニックになりつつあるリンネを見て、リンゼがふっと微笑む。切り札であった風の精霊だが、彼女を召喚すれば正体がバレるかもしれないとは思っていた。エルナの話だと、未来でもリンゼは風の精霊を使役しているらしいから。
リンゼの魔法適性は火、水、光である。風は含まれていない。
精霊は魔法と密接な関係にあり、適性がある属性の方が扱いやすい。しかし、リンゼは風の精霊と契約することを望んだ。
通常なら上位精霊である風の精霊が人間と契約することなどありえない。しかし、リンゼは冬夜の妻であり眷属である。エアリアルからすれば、精霊王たる絶対的主君の妻であるわけで。拒否することはできなかった。決してパワハラではない。
リンネのこの様子だと、母親の使役していた精霊が、過去、別の誰かに使役されていたと誤解している。
悩み続けるリンネを前に、リンゼはポケットから自分が付けているバッジと同じものを取り出した。
「リンネちゃん……。いえ、リンネ。あなたは強い。でももっと強い人はたくさんいます。あなたの家族だけが強いわけではありません」
「……うん……。ごめんなさい……」
消えそうな声でリンネが謝罪する。控え室でのことを反省しているようだった。実際に負けたのだからリンネにはなにも言い返せない。
「────と、言っても私もあなたの家族なので……。まったく説得力がないですけど、ね」
「……え?」
顔を上げたリンネの胸にお揃いのバッジを付ける。このバッジは付けた者同士には幻影の効果を発揮しない。つまり今現在、リンネの目にはリンゼそのままの姿が見えているはずだ。
リンネの目が見開く。
「お、かあ、さん……?」
「あはは……。やっぱりなんか変な感じです。生まれてもいない娘にお母さんって呼ばれるのって……わっ!?」
リンネが弾かれたように地面を蹴り、リンゼに向けて飛びつく。ぎゅううっ、と力を込めて自分の母親である少女にしがみついた。
「お母さんっ……! おかあさんだぁ……! あたしの……おっ、おかっ、お母さん、おかぁさんだ……おかぁーさぁん……っ! うっ、うう、うう〜……うわぁぁぁぁぁぁん!」
リンゼに抱きついたまま大号泣するリンネ。リンゼも未来から来た娘を優しく抱きしめる。
姉と同じく強気な子だ。きっと今の今までずっと泣きたいのを我慢していたのだろう。涙腺が決壊したように泣きじゃくる娘の涙を、全て受け止めてやりたいとリンゼは心から思った。
「やっと、会えた……! 寂しかったよぅ……!」
「うん……うん……。ごめんね……」
時を超えて出会った親娘は、濡れた身体を温め合うかのようにいつまでも抱き合っていた。




