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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
484/637

#484 エルナ、そしてリンネ。





 泣き続けるエルナをなんとか落ち着かせるため、僕らは一旦武術大会会場外に出ていた。

 設置されたたくさんの屋台にあるベンチに座り、これまでの状況を少しずつエルナから聞き出していく。


「え、ガウの大河に!?」

「うん……。わたしたちはミスミドにある橋の上に出たんだけど、その橋が腐ってたのか、突然崩れたの。そのままリンネと落ちて……」

「けっ、怪我は!? 大丈夫だったの!?」


 エルナの隣にいたエルゼが心配そうに声を荒げる。それを見てエルナは困ったような笑いを浮かべた。


「うん、それは大丈夫。川にはギリギリ落ちなかったから。だけど、二人とも手に持っていたスマホを川の中に落としちゃったの。それでどこにも連絡できなくて……」


 あー……それでか。

 博士の造った量産型のスマホには盗まれたり失くしたりしても大丈夫なように、【アポーツ】や【テレポート】が付与されている。

 しかしそれを使ってスマホを回収できるのは僕だけなので、二人にはどうしようもなかったのだろう。


「なんとかブリュンヒルドと連絡を取らないと、って思ってたら武術大会の話を聞いて。きっと獣王陛下も出てくるだろうから、そこから連絡してもらおうって考えたの……」

「えらいっ! よく頑張ったわね! さすがあたしの娘だわ!」


 むぎゅっ、と隣のエルナを抱きしめて、頬擦りをするエルゼ。エルナの方は恥ずかしそうに赤くなっている。

 なるほど。これだけ母親であるエルゼとリンゼにそっくりなんだ。この子たちを獣王陛下が見たら、かならず僕のところへ連絡が来る。黙っていても今日明日には連絡が来たわけか。

 しかし困ったな。量産型のスマホにはシリアルナンバーが打たれていて、その番号をたよりに回収するのだけれど、さすがに未来で造られたスマホのナンバーまでは知らない。持っていた本人も知らないだろうし。

 面倒だけど、後で【サーチ】を使って回収するか。

 そんなことを考えていた僕の前で、エルゼとは反対側の席に座ったスゥが質問を投げかけていた。


「エルナとリンネはいくつなのじゃ?」

「えと、わたしたちはどっちも七歳だよ。わたしの方がひと月だけ早く生まれたからお姉さんなの」


 聞くとエルナは六女、リンネは七女らしい。クーンが三女だから、間に二人いるわけか。そしてリンネの下にさらに二人。

 ユミナかルー、スゥか桜、誰との子供かはわからないが。

 スゥと桜が自分の子供たちのことを聞き出そうとしていたが、エルナは『えと、あの、その……』と言葉を濁して話そうとはしなかった。どうやら時江おばあちゃんにあまり話すなと含まされているようだ。

 困った娘を見たエルゼが二人の質問をシャットアウトする。渋々二人は諦めたようで、質問攻めから解放されたエルナがホッとしていた。

 と同時に、どこからか、くうぅぅ……と可愛らしい音が聞こえてきた。

 見るとエルナがお腹を押さえて赤くなっている。


「あ、あの、まだご飯食べてなかったから……」

「そういえばわらわたちも昼食の途中だったのう。ここで軽く食べていくか。店主! その焼き鳥を三本ずつ、人数分じゃ!」

「あいよ!」


 スゥが屋台の店主に注文を入れた。【ストレージ】の中に食べ物はいくらでも入っているのだが、食べ物の屋台ひしめくここでそれを取り出して食べるのはさすがにはばかられる。

 ま、せっかくのお祭りだし、どうせなら食べないと損か。すぐに運ばれてきた焼き鳥を一本取って、僕の隣に座っていたリンゼにも手渡す。


「ほら、リンゼも」

「あ、はい……」


 微笑みながらそれを受け取るリンゼ。出場しているリンネが心配なのか、ちょっとだけ元気のない笑顔だった。その瞳は抱き合っているエルゼとエルナに向けられている。


「心配ない。あれだけの腕前ならそんじょそこらの奴には負けない。さすがリンゼの娘」

「ありがとう、桜ちゃん」


 励ますような桜の言葉にリンゼが微笑みを浮かべた。っていうか、あの子、金・銀ランクの強さを持っているんだよな……。あの様子だと予選は軽々と突破しそうだし、下手すりゃ優勝しちゃうんじゃ……それはちょっとマズくないかな?


「というか、目的は達しているわけだし、リンネには棄権してもらったらどうだろう?」

「えと、お父さん……それ、難しいと思う」


 エルナがおずおずと話しかけてきた。……なんかエルゼと比べて僕とは距離を感じるんだが。き、嫌われているわけじゃないよね……? さっき号泣してしまったから、恥ずかしがっているだけだと信じたい。


「リンネはこういう試合とか大好きだから。負けたならまだしも、途中でやめるのはすごく嫌がると思う。最悪、泣いちゃう。負けてもちょっと泣いちゃうと思うけど……」


 子供か。子供だった。

 クーンとかフレイとかが大人びているから気にならなかったけど、リンネは子供っぽい子供のようだ。


「うーん……。この大会は一応、ミスミド主催だからねえ。しかも記念すべき第一回大会。他国の一般人ならまだしも、王家関係者が出場するってのはあまりよくない気がするんだよね……」


 まあ『娘です』とは言う気はないけど、ここまでエルゼとリンゼにそっくりだと、絶対に関係者だと思われるよな。娘だろうが親戚だろうが、結局マズいってのは変わらない。

 本戦で負けてくれるなら問題はないけど、あの強さだと決勝どころかあっさり優勝しちゃいそうでなあ……。

 むぐぐ、複雑な気持ちだ。父親としては勝ち抜いて優勝してほしいとも思うが、国王という立場からすると、それはちょっと困るぞ、と。

 たぶんミスミドとしては自国の人に優勝してほしいと思ってるだろうしさ。その方が盛り上がるし。


「というか、リンネのあのパワーってなんなの? やっぱり無属性魔法?」

「あ、うん。そうだよ。【グラビティ】」


 エルゼの質問に素直に答えるエルナ。あー……。それでか。納得。

 僕もよくやるやつだ。敵に当たるインパクトの瞬間に武器を加重して重くしてるんだな。リンネの場合、僕のスマホみたいに遠隔操作で重くはできないから、触れているガントレットを重くして威力を上げているんだろう。


「試合で魔法を使ってもいいのかの?」

「直接相手を攻撃するような魔法や回復系の魔法じゃなければ大丈夫なんだって。さっき【テールウインド】を使っている人もいたよ?」


 スゥの疑問にエルナが答える。【テールウインド】……追い風を起こし、自身のスピードを上げる風魔法か。僕はあまり使わないけど。【アクセル】とか【ブースト】とかあるしね。

 桜が同じようにエルナに質問する。


「リンネの空中を跳ねるやつも魔法?」

「あれは【シールド】を足場にして跳んでるの。目に見えないから空中を飛び跳ねているように見えるけど……」


 【シールド】か! なるほど、そういう使い方があったか……。【シールド】はすぐ消えるけど、それでも一、二秒は持つ。足場にして空中を駆けるには充分だ。……今度やってみよ。

 というか、なにげに【グラビティ】と【シールド】の無属性二つ持ちですか……。

 とか思ってたらエルナはそれ以上だった。なんでも【マルチプル】、【リカバリー】、そして【ブースト】を使えるんだそうだ。自分と同じ無属性魔法を使えると知ったエルゼの喜びようったら。

 クーンの【プログラム】といい、エルナの【ブースト】といい……ああ、桜の娘だというヨシノも【テレポート】を使えるとなれば、これはやっぱり無属性魔法が遺伝してるとしか思えない。いや、他の娘たちの無属性魔法も遺伝してるっちゃ遺伝してるんだが……僕から。


「で、リンネのこと、どうしようか?」

「有無を言わさず【テレポート】で連れて帰る」

「いや、それもどうだろう……」


 桜の身も蓋もない提案に僕は難色を示す。そのあとギャン泣きされてもさあ……。


「負けりゃ納得して帰るんでしょ? 獣王陛下に頼んで強い人をさっさと当ててもらったら?」

「うーん……。さっきの試合を見た限りだと、よほど強い人じゃないと……」

「じゃあ【ミラージュ】で別人に化けて、あたしが戦おうか? アリスと同じくリンネも私の弟子みたいなものらしいし」


 エルゼがとんでもない提案をしてくるが、それもアリなのか……? 獣王陛下か宰相のグラーツさんにならねじ込んでもらえるとは思うけど……。


「いや、リンネがエルゼの弟子なら戦い方とかでバレる可能性がある。やるなら僕が……」

「私がやります」

「え?」


 隣の席で小さく手を挙げたリンゼにみんながキョトンとしていた。


「お姉ちゃんたちを見ていたら、私も娘と遊んでみたくなりました」


 いや、遊びって。にっこり笑ってそんな風に言われても、つまるところ、どつき合いですよ? 娘との初めての触れ合いがそれってどうなの?


「しかしリンゼは魔法使いであろ? 攻撃魔法を使わないで戦えるのかや?」

「相手を痛めつけるわけじゃなく、試合というルール上ならどうとでもなるよ。そういった訓練もちゃんとしてきたから」


 確かにリンゼはみんなと比べると目立つ強さはないが、弱いというわけではない。正直言って、そこらの冒険者では太刀打ちできないレベルの強さは持っている。なにせバビロンの【図書館】にあった古代魔法や合成魔法、精霊魔法までも習得しているのだ。

 さらに世界神様から贈られた結婚指輪の力もあるしな。


「ねえ、エルナ。リンネはちょっと調子に乗りやすいところがあるでしょう? この大会も『楽勝、楽勝!』とか言ってなかった?」

「う、うん。すごい、どうしてわかるの?」

「ふふ。わかるよ。私も子供の頃、よく身近で聞いたから」

「り、リンゼッ!? こ、子供の前、子供の前だから!」


 リンゼの発言に焦ったように声を荒げるエルゼ。察した僕らは生温かい目で彼女に視線を送る。言ってたのね……。


「娘がどれだけ成長しているのか、確認するのも母の務め、かと。いいですか、冬夜さん?」

「いや、リンゼがそういうなら構わないけどさ……」


 まさかリンゼに限ってリンネをボコボコにするなんてことはないだろうけど。ヒルダとフレイが試合をした時みたいに、怪我をさせることなく負けを認めさせればいいんだろうが……場外負けもあるから、できないことはないか。

 うむむむむ、と悩んでいた僕の懐にあったスマホに着信が入る。あれ? ミスミドの宰相、グラーツさんからだ。


「はい、もしもし」

『ああ、ブリュンヒルド公王陛下。もしかしてミスミドへいらっしゃってますか?』

「あ、はい。よくわかりましたね?」

『ははは。特別観覧席から公王陛下たちのお姿が見えましたので。よろしければこちらへおいでになりませんか?』


 確かグラーツさんのいるところは一部高い所に造られているVIP席。よくあそこから僕らが見えたなあ。ああ、グラーツさんは鳥の獣人だし、目がいいのかね。

 せっかく誘われたのだから行ってみるか。このことを相談してみよう。



          ◇ ◇ ◇



「あれえ? エルナお姉ちゃんがいない……。お花摘みかなぁ?」


 控え室の窓から会場の方を覗くリンネ。先ほどまでそこにいた同い年の姉がいない。何かあったのだろうかと少しだけ不安になる。スマホがないと本当に不便だ。

 控え室には勝ち抜いた出場者がそれぞれ身体を休めたり、ストレッチをしたり、瞑想したりと、試合に向けて各々の方法で集中していた。

 勝ち抜いたのはリンネを含めて十二人である。そのうち二人は怪我をしたので、今は医務室に行っていた。

 回復魔法とて万能ではない。怪我の具合が酷ければ出場を辞退ということもありうるのだ。失った血は戻らないし、体力までは回復しないのだから。

 辞退する者が出れば不戦勝となって勝ち上がれる者が出るわけで。リンネは気にしてもいないが、この中の大半は怪我した出場者の辞退を願っているようだった。

 ここにはいないが、勝ち抜いた十二人に加え、さらに推薦枠として四人の出場者がいる。つまりこれから計十六人で優勝を争うわけだが、推薦枠にはなんとこの国の王、獣王ジャムカ・ブラウ・ミスミドがいた。

 国王の目に止まれば仕官も夢ではない。出場者がライバルの辞退を願うのも無理はなかった。

 やがてガチャッと控え室の扉が開き、三人の人物が入ってくる。一人は試合を進行する獣人の審判員。もう一人は医務室へ行っていた出場者の青年。そして残りの一人は他の出場者が見たことのない人物だった。


「予選突破者のベイル殿が棄権されたため、新たに推薦枠として一名追加することになりました。こちらのリンリン殿が参加されます」

「リンリン、です。よ、よろしくお願いします……」

 

 リンリンと紹介された人物は小さな声で挨拶をするとぺこりとお辞儀をしてみせた。どうやら不戦勝枠はなくなったようだ。

 歳は十六、七くらいで、金髪を三つ編みにした少女である。腰には星型の杖頭がついた短杖を持ち、左胸にも黄色い星型バッジが輝いていた。鎧は装備しておらず、黒いゴシック調の上着とティアードスカート、足は黒のニーソックスで固めている。

 一目で魔法使いタイプとわかる少女である。この武術大会では直接的な魔法攻撃は禁止されているため、魔法使いの参加は珍しいが、全くゼロというわけではない。事実ここにいる予選突破した者の中にも、魔法を使う者も何人かいるのだから。


「ではリンリン殿、推薦枠の控え室へ」

「あっ、私、こっちでいい、です。向こうは緊張してしまいますから」

「……? そうですか。まあ、構いませんが」


 審判員の青年は少しだけ奇妙に思ったが、向こうには獣王陛下がいる。緊張してしまい、実力を出せないのを危惧したのだろうと考え直した。

 宰相であるグラーツ様からの推薦であるから実力は確かなのだろうが、魔法使いがこの大会を勝ち抜くのは難しいだろう。せめて気負ずに戦えるように、控え室くらいは自由にしても構わないと彼は判断した。


「では出場者の方々はもうしばらくお待ちください」


 そう言って審判員の青年は控え室を出て行った。リンリンと名乗った少女に皆の注目が集まるが、その後の反応は様々だった。魔法使いと判断したからか興味をなくす者、逆に警戒し睨みつけてくる者、気にはしているが視線を逸らす者、など。

 その中で一人の少女だけが睨むでもなく、首を傾げながらリンリンをじ────っ……と、見つめていた。リンネである。


「な、なにかな?」

「んむー……? えと、お姉ちゃん、あたしとどっかで会ったことある?」

「えっ!? は、初めてだと思うけど!?」

「そお……? じゃあ気のせいかー。まあいいや。こっち座ったら?」


 リンネがパンパンと座っている長椅子の隣を叩く。おずおずとリンリンがそこに座ると、隣のリンネがにぱっ、と笑って手を差し出してきた。


「あたし、もちづ……あっ、えっと、リンネっていうの! よろしくね、お姉ちゃん!」

「……よろしく、リンネちゃん」


 微笑んで差し出された手を何気なく握るリンリンであったが、その心の内では心臓が跳ね上がり、叫びそうになるのを必死で堪えていた。



          ◇ ◇ ◇



 《ふ、ふわあぁ! 可愛い! リンネ可愛い! この子が私と冬夜さんの……! だ、抱き締めたらダメかなぁ……! む、娘がぁ────! 可愛すぎる件について────!》

 リンリン、こと、変身バッジで姿を変えたリンゼは、心の中で崖の上から絶叫していた。やっと会えた自分の娘にテンションマックスである。

 ちょっと前まで姉に持っていた羨ましい気持ちが見事に吹っ飛んだ。これはたまらぬ。可愛さは正義だ。


「お姉ちゃんは魔法使い?」

「う、うん、そうだよ。変かな?」

「ううん! あたしのお母さんも魔法使いなんだ。だから魔法使いの強さは知ってるよ。でも勝つのはあたしだからね!」

「そ、そっかぁ……」


 ふふん、と強気にそう発言する姿も可愛い。思わず表情が緩みそうになるのを必死に堪えるリンゼであった。


「リンネちゃんのお母さんも魔法使いなんだね」

「うん! お母さんはねぇ、すごいんだよ! 魔法もできるし、お洋服も作れるし、お料理もできるの! いろんなことができるんだから!」


 リンネが自分のことのように一生懸命話すのを、リンゼは目を細めて聞いていた。話の流れで聞いてみたかったことを口にする。


「り、リンネちゃんはお母さんのこと好き?」

「たまに怒ると怖いけど……大好き。いつも寝るときにいろんなお話してくれるの。……もう少ししたら会えるんだ。エルナお姉ちゃんと一緒に会いに行くの。そしたら……」


 最後の方は小さく、寂しそうな声であった。そんなリンネをリンゼがぎゅっと抱き締める。


「お姉ちゃん……?」


 不思議そうな顔でリンゼを見上げるリンネ。ハッとなったリンゼがリンネを解放する。無意識に抱き締めてしまった。変に思われてしまったに違いない。なんとかごまかさなくては、と、リンゼがあわあわと言い訳を口走る。


「ご、ごめんね! そ、その、い、妹に似てたから、つい……!」


 我ながら苦しい言い訳だなぁ、と考えつつも、なんとかその場を取り繕う。


「お姉ちゃんにも妹がいるの? あたしにも一人いるよ。弟も」


 にこっと笑ってそう答えたリンネに、どうやらごまかせたか、と胸を撫で下ろすリンゼ。

 この際だからとリンゼがその妹と弟のことを聞き出そうとした時、再びガチャリと控え室の扉が開き、先程の審判員とミスミドの兵士が二人入ってきた。


「お待たせ致しました。対戦表が決まりましたのでよろしくお願い致します。時間になりましたらお呼び致しますので、それまではここで待機を」


 二人の兵士が壁に持ってきた対戦表を貼り付ける。出場者たちはその前に立ち、自分の対戦相手と勝ち抜けばその後に対戦することになるかもしれない者たちを確認した。


「あ! あたしの相手、お姉ちゃんだ!」

「そうみたいだね」


 こうなるようにミスミドの宰相であるグラーツに頼んでおいたので、リンゼに驚きはない。もちろんリンゼが勝っても怪我をしたとかなにかしら理由をつけて辞退することになっている。そのためにも娘には負けられないのだが。


「勝負だね! お姉ちゃんは魔法使いだから、少し手加減しようか?」

「……リンネちゃん、お姉ちゃんはたぶんリンネちゃんのお母さんと同じくらい強いから、余裕みせていると足を掬われるよ?」


 どこかまだ相手を軽く見ているリンネを注意するつもりでそう言ったのだが、彼女は『むうう〜』と目に見えて不機嫌になっていた。プライドを傷付けてしまったか、と少し焦るリンゼ。


「……嘘だもん。お母さんと同じくらい強い人なんてウチの家族以外いないもん! お姉ちゃんなんかあたしが簡単にやっつけちゃうんだから!」


 え、そっち? と、リンゼの目が点になる。これほど慕われて母親としては嬉しくもあるが、やはり相手をどこか下に見ているところがあるようだ。でもまあ、子供なのだからそれは仕方のないことか、とリンゼは微笑む。自分の姉もそういうタイプだった。懐かしくなってふふっ、と含み笑いが漏れる。

 リンネは、ぷいっ、とリンゼから顔を背け、腕を組み、だんまりと口を真一文字に結んでしまった。ひょっとしたら家族を馬鹿にされたように感じたのかもしれない。

 しかし、そのふくれた態度でさえもリンゼは愛しく思える。間違いなくこの子は自分の子だと思える、不思議な気持ちであった。


「じゃあ勝負だね」

「負けないもん!」


 母と娘はそれぞれの思いを胸に、視線を交わし合った。










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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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